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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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魔法検証

第六話をお読みいただきありがとうございます。

今回は、アルが本格的に「魔法とは何か」を考え始める、物語の大きな転換点となるエピソードです。

前世で培った研究者としての思考と、この世界の常識が少しずつ交わり始めます。

どうぞ最後までお楽しみください。

 前世の記憶が戻って一年ほど、ヴァルクレイン辺境伯家での生活にもすっかり慣れていた。

 剣術鍛錬と貴族としての学習。

 アズール・イージスの面々が辺境伯家に来る時は、必ず冒険譚を聞いた。

 そして夜。

 誰にも知られていない時間、アルフレッドだけの時間。

 さあ、研究の時間だ。

 知りたい、解明したいという欲求は転生しても変わらない。

 むしろ以前より強くなっている気さえした。

 この世界には魔法が、魔力が、魔道具がある。

 そして誰もその原理を説明できていない。

 だからこそ面白い。


 アルは自室の机に向かっていた。

 机の上には紙が何枚も広げられている。

 そこには彼なりの考察がびっしりと書き込まれていた。

「魔法陣……」

 羽根ペンを回しながら呟く。

 あの複雑な図形と奇妙な文字。

 未だ意味は分からない。

 だが一つだけ分かることがある。

「絶対に意味がある」

 意味のない線をあれほど正確に描く必要はない。

 つまり何らかの役割を担っているはずだ。

 前世なら何に近いだろうか。

 回路図か。

 設計図か。

 あるいはプログラムコードのようなものなのかもしれない。

 まだ断定はできない。

 だが、何かを制御するための仕組みである可能性は高い。

「じゃあ詠唱は?」

 これも分からない。

 ただ、魔法陣を動かすための認証や起動命令のような役割なら辻褄は合う。

 もちろん、それも現時点では仮説に過ぎない。

 問題はその先だった。

「じゃあ火は、どうやって生まれるんだ?」

 燃焼に必要な要素。

 可燃物。

 酸素。

 そして点火源となる熱。

 アルは窓の外を見る。

 夜空には二つの月。

 静かな夜だった。

 彼は机の引き出しから小さな魔石を取り出した。

 魔道灯の交換用として保管されていた、劣化寸前の魔石だ。

 もちろん勝手に持ち出したわけではない。

 セバスから不要品として譲ってもらったものだった。

「鑑定」

【魔石】

高密度魔素結晶

残存魔力:微量

 何度見ても同じ結果だった。

 だが、その表示には気になる言葉がある。

 ――残存魔力

「残っている……ということは、使えば減る」

 つまり魔石は魔力を蓄える器なのだろう。

 前世で言えば、電池や蓄電池に近い存在かもしれない。

 だが、それも完全には一致しない。

 魔力そのものが何なのかは、まだ分かっていない。

「少なくとも、エネルギーのような何か……なのかな」

 アルはそう書き留める。

 断定はしない。

 研究者にとって、仮説と事実は明確に分けるべきものだからだ。

 だとすると。

 アルの思考は一つの仮説へ辿り着く。

「魔法は現象そのものじゃない」

 魔法は手段。

 結果ではない。

 火を出す魔法とは、火という現象を再現しているだけではないか。

 風も。

 水も。

 雷も。

 自然現象を人為的に再現しているだけなのではないか。

 もちろん、まだ証拠はない。

 だが試してみる価値は十分にある。


 アルは部屋の中央へ移動した。

 深呼吸する。

 前世で実験前に必ず行っていた癖だった。

「まずは熱……」

 掌へ意識を集中させる。

 空気を圧縮する。

 断熱圧縮。

 ディーゼルエンジンの発火原理を思い浮かべる。

 空気が集まる感覚。

 圧縮。

 さらに圧縮。

 もっと――。

 しかし。

「……駄目か」

 何も起こらない。

 もう一度。

 集中する。

 今度は掌がほんのり温かくなる。

「熱……?」

 だが、それだけだった。

 火にはならない。

 熱量が足りないのか。

 圧縮が甘いのか。

 それとも考え方そのものが間違っているのか。

 アルは机へ戻り、仮説を書き直す。

『熱は発生した可能性あり』

『しかし燃焼には至らず』

『条件不足』

 考察する。

 そして再び試す。

 何度目だったか分からない。

 掌へ集まる空気。

 圧縮。

 熱。

 そして今度は、指先へ意識を向けた。

 指先のわずかな皮脂。

 極少量の可燃物。

 そこへ十分な熱を与えるイメージ。

 パチン。

 指を鳴らした瞬間。

 小さな火花が散る。

 続いて。

 ぽっと、小さな炎が掌の上へ灯った。

「……できた」

 アルは思わず息を呑んだ。

 炎は数秒ほど揺らめき、静かに消える。

 魔法陣も。

 詠唱も。

 使っていない。

 だが、アルは首を横に振った。

「いや……まだ分からない」

 偶然かもしれない。

 再現性を確認しなければならない。

 何より、なぜ魔力でこの現象が起きたのかは説明できない。

 燃焼現象を再現できた可能性はある。

 しかし、それだけだ。

 研究は、ここから始まる。


 その夜から、アルの実験は本格的に始まった。

 風。

 水。

 土。

 雷。

 一つひとつ仮説を立て、検証を繰り返す。

 風は圧力差による空気の移動。

 そう考えて試したが、最初は何も起こらなかった。

 何度も条件を変え、魔力の流れを意識し続けた末。

 机の上の紙が、ふわりと揺れた。

「できた……!」

 わずかな風。

 だが確かな前進だった。

 水はさらに難しかった。

 空気中の水蒸気を集めようとしても、何も起きない。

 数日かけて試行錯誤を重ね、ようやく掌へ一滴の雫が浮かぶ。

「おお……」

 たった一滴。

 それでも研究成果としては十分だった。

 土は鉱物構造を意識しても失敗ばかりだった。

 ある日、小石の角がわずかに変形した時には思わず拳を握った。

「よし!」

 雷は比較的早かった。

 静電気と放電現象。

 前世の知識が最も活きた分野だったからだ。

 指先から小さな火花が散る。

 まだ本当に小さな放電。

 それでも、他の現象より再現しやすい感覚があった。


 実験を続ける中で、一つ気付いたことがある。

 どれだけ魔法を試しても、魔力が尽きる気配がない。

 創造主の言葉を思い出す。

『君には規格外の魔力量を付与してあげよう』

 そして鑑定結果。

『魔力:測定不能』

「普通の魔術師なら……」

 アルは小さく呟く。

「この試行錯誤だけで魔力切れになるのかもしれないな」

 自分は違う。

 だから何度でも失敗できる。

 何十回でも。

 何百回でも。

 失敗を恐れず検証を続けられる。

 それが最大の強みだった。

 成功したのは魔力量のおかげではない。

 考察し。

 仮説を立て。

 失敗し。

 修正し。

 再び試す。

 その積み重ねが結果へ繋がっている。

 そして規格外の魔力量は、その研究を何度でも繰り返せる環境を与えてくれているだけなのだ。

 前世では得られなかった理想の研究環境。

 誰にも止められない。

 予算申請も。

 会議も。

 研究テーマを否定されることもない。

 やりたい研究を、ただ続けられる。

 アルフレッド・フォン・ヴァルクレインは、この環境に強い満足感を覚えていた。

 健康な身体。

 自由な時間。

 そして未知の世界。

 楽しもう、この世界を。

 まだ何も分かっていない。

 だからこそ面白い。

 そう思いながら、アルの夜は静かに更けていった。


第六話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今回のテーマは「仮説を立て、検証する」という研究者の基本姿勢でした。

異世界転生作品では魔法を「才能」や「感覚」で扱うことも多いですが、本作では一つひとつの現象に理由を求めながら、アルが自分なりの理論を積み上げていきます。

まだ物語の序盤ですが、この小さな発見が、後の魔法研究や世界の常識を揺るがす大きな出来事へと繋がっていきます。

少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、今後の執筆の励みになります。

次回もよろしくお願いいたします。

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