森に残る異変
第59話「森に残る異変」をお届けします。
森の奥へ進むアルたちは、少しずつ変化していく森の様子に気づき始めます。
精霊たちが恐れる場所で、アルが見つけたものとは――。
今回も楽しんでいただけましたら嬉しいです。
森の奥へ進むにつれて、周囲の景色は少しずつ変化していった。
木々はさらに太くなり、枝葉は頭上を覆うように広がっている。
人の気配は、もうほとんどない。
聞こえるのは、葉の擦れる音。
遠くを流れる水の音。
そして時折、どこからともなく聞こえてくる鳥の声だけだった。
アルは歩きながら、周囲を観察していた。
植物。
地形。
空気の流れ。
魔力の濃度。
どれも、里の周辺とは少し違う。
「……魔力が濃くなってる」
「分かりますか?」
セレフィアが尋ねる。
「うん」
アルは頷いた。
「森の奥へ進むほど、周囲の魔力が少しずつ増えてる」
「その通りです」
セレフィアは微笑んだ。
「この辺りは、人の手がほとんど入っていません」
「そのため、自然の魔力が強く残っています」
「自然の魔力……」
アルは周囲を見渡した。
木々。
草花。
水。
土。
それぞれが持つ魔力が、森全体を満たしているように感じられる。
しかし。
「……待って」
アルが足を止めた。
全員が立ち止まる。
「どうしました?」
セレフィアが振り返る。
「この先……何か変だ」
「変?」
「うん」
アルは目を閉じた。
先ほどまで感じていた精霊たちの気配。
その多くが、今は少し遠ざかっている。
まるで。
何かを避けているようだった。
「精霊が……少ない」
セレフィアの表情が変わる。
「少ない?」
「さっきまでは、もっとたくさん感じた」
「でも、この先は……」
アルは森の奥を見る。
「何かを避けてる感じがする」
セレフィアは黙って目を閉じた。
しばらくして。
「……確かに」
「精霊たちが、この先へ近づこうとしていません」
「やっぱり」
イザベラが周囲を見渡す。
「危険なの?」
「分かりません」
セレフィアは答えた。
「ですが、慎重に進みましょう」
一行は再び歩き始めた。
今度は、先ほどよりもゆっくりと。
数分ほど進んだところで。
アルは、足元に違和感を覚えた。
「……ここ」
地面にしゃがみ込む。
そこには、小さな草花が生えていた。
しかし。
周囲の植物とは明らかに違う。
葉の先端が黒ずんでいる。
茎も弱々しく、土そのものが少しだけ変色していた。
「セレフィアさん」
「はい」
「この植物……病気?」
セレフィアが近づく。
そして、植物へ手を伸ばしかけて。
止めた。
「触らない方がいいでしょう」
「危険?」
「念のためです」
アルは鑑定眼を使った。
半透明の文字が視界に浮かぶ。
『名称:枯死寸前の草花』
『状態:異常』
『魔力反応:微弱な異常反応』
アルは眉を寄せた。
(……魔力反応に異常がある)
セレフィアの表情が険しくなる。
「この辺りから、少しずつ森の状態がおかしくなっています」
「いつから?」
「分かりません」
「ですが……以前は、このような場所ではありませんでした」
アルは立ち上がった。
周囲を見渡す。
よく見ると。
少し離れた場所にも、同じような植物がある。
さらに奥にも。
黒ずんだ葉。
弱った草。
そして。
「……広がってる」
アルが呟いた。
「何が?」
エルシアが尋ねる。
「この異常」
アルは地面を指差した。
「森の中に、少しずつ増えてる」
セレフィアの顔から笑みが消えた。
「……そんな」
彼女は周囲を見渡す。
「以前、この場所には異常などありませんでした」
「じゃあ、最近起きた?」
「おそらく」
アルは考え込む。
汚染された精霊石。
黒魔石。
そして、森の異常。
まだ直接的な証拠はない。
しかし。
「……何かが、この森に影響を与えてる」
アルは静かに言った。
「そう考えるのが自然だと思う」
セレフィアは答えなかった。
その時。
森の奥から、ざわりと音がした。
風はない。
それなのに、木々が一斉に揺れた。
「……!」
セレフィアが振り返る。
「精霊?」
アルが尋ねる。
「はい」
セレフィアが目を閉じる。
「ですが……」
その表情が強張った。
「怖がっています」
「怖がってる?」
「この森の異常を……」
セレフィアは言葉を止めた。
「精霊たちは、何かを伝えようとしているようです」
アルは周囲を見渡した。
何も見えない。
それでも。
先ほどまでとは違う。
複数の気配が、自分の周囲を取り囲んでいる。
「……何か言ってる?」
「声としては聞こえません」
「でも……」
セレフィアが胸元へ手を当てる。
「強い警告のように感じます」
アルは森の奥を見る。
そこには、薄暗い木々が続いているだけだった。
だが。
その奥から。
何かがこちらを見ている。
そんな感覚があった。
「……セレフィアさん」
「はい」
「もっと奥へ行こう」
「アル様……」
「危険なのは分かってる」
アルは真剣な表情で続ける。
「でも、この異常が何なのか確認したい」
「それに」
アルは黒ずんだ植物を見る。
「ここで何が起きているのか分からないまま戻るわけにはいかない」
セレフィアはしばらくアルを見つめた。
やがて。
「……分かりました」
「ですが、私から離れないでください」
「うん」
アルは頷いた。
一行は、再び森の奥へ進んだ。
その先には。
さらに黒く染まった植物が増えていた。
そして。
木々の間に、小さな岩場が見えてくる。
アルはそこで足を止めた。
「……あれ」
岩の根元。
土の中に。
何かが埋まっている。
アルは目を細めた。
鑑定眼を使う。
半透明の文字が浮かび上がる。
『名称:不明な魔力残留物』
『状態:微弱な魔力反応』
『属性:判定不能』
「……これ、何だ?」
アルが手を伸ばしかける。
「待ってください!」
セレフィアが声を上げた。
その瞬間。
森全体に、強い風が吹き抜けた。
木々が大きく揺れる。
葉が一斉に舞い上がる。
そして。
アルは周囲に、何らかの気配のようなものを感じた。
一つ。
二つ。
三つ。
次々と増えていく。
セレフィアが息を呑んだ。
「……精霊たちが」
「こんなに……」
姿は見えない。
それでも。
今まで以上にはっきりと感じる。
精霊たちは。
この場所を恐れている。
そして。
同時に。
アルへ何かを伝えようとしている。
「……ここに、何かある」
アルは静かに呟いた。
森の奥から。
再び風が吹いた。
今度は。
まるでアルを促すように。
――その先へ進め。
そんな意思を感じた。
アルは拳を握った。
未知は、すぐ目の前にある。
そして。
その未知の中に。
黒魔石と汚染された精霊石へ繋がる、新たな手掛かりが眠っていた。
第59話を読んでいただき、ありがとうございました。
森の奥へ進むにつれて、少しずつ見えてきた異変。
アルにとっては未知の現象ですが、ここからさらに謎が深まっていきます。
この先、黒魔石や精霊石、そして精霊たちの異変がどのようにつながっていくのか。
引き続き、アルたちの物語を楽しんでいただければ嬉しいです。
次回もよろしくお願いいたします。




