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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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精霊に導かれて

第58話「精霊に導かれて」です。

今回から、アルたちは精霊たちに導かれるように森の奥へ進んでいきます。

そこには、これまで知られていなかった森の異変が待っていました。

アルたちが見つけるものとは――。

それでは、どうぞお楽しみください。


 翌朝。

 アルたちは、世界樹の根元近くに集まっていた。

 昨日までとは違い、セレフィアの表情には少しだけ緊張が浮かんでいる。

「これから森の奥へ向かいます」

 セレフィアが静かに告げた。

「ただし、どこまで進めるかは分かりません」

「精霊王がいる場所まで行くんじゃないの?」

 アルが尋ねる。

 セレフィアは首を横に振った。

「精霊王が『場所』に存在しているとは限らないのです」

「森の中にいる?」

「そう考えることもできます」

「ですが、昨日も申し上げた通り、精霊王は精霊たちの意思が集まる存在です」

 アルは少し考える。

「つまり……普通の生き物みたいに、ここにいるって言えるものじゃない?」

「はい」

「なるほど」

 アルは頷いた。

 やはり、これまで知っていた生物とは根本的に違う。

 だからこそ興味深い。

「それで、何を準備すればいいの?」

「まず、魔力を無駄に使わないことです」

「それから、森の奥では何が起こるか分かりません」

「無理に魔法を使わないこと」

「そして、何か異変を感じたら、すぐに知らせてください」

 セレフィアの言葉に、アルは頷いた。

「分かった」

「特にアル様には、一つお願いがあります」

「何?」

「精霊を感じても、追いかけないでください」

「……」

 アルが黙る。

「アル?」

「……分かった」

 返事は少し遅れた。

 エルシアが苦笑する。

「今、絶対に追いかけようとしたでしょう?」

「してないよ」

「顔に書いてあるよ」

「……研究者としては気になるけど」

「やっぱり」

 イザベラも呆れたように息を吐く。

「アル、今回は本当に危険があるかもしれないんだからね」

「分かってる」

 アルは真剣に頷いた。

「未知だからこそ、観察する」

「無茶をする必要はない」

 その言葉を聞いて、セレフィアは微笑んだ。

「それなら安心です」

 やがて、一行は森へ入った。

 昨日まで歩いていた里の周辺とは、明らかに空気が違う。

 道は次第に細くなり、人の手が入った痕跡も少なくなっていく。

 木々の間隔も次第に狭くなっていく。

 頭上を覆う枝葉の隙間から、わずかに光が差し込んでいる。

 アルは周囲を観察した。

「……森の奥になるほど、植物が増えてる」

「そうですね」

 セレフィアが答える。

「人があまり入らない場所ですから」

「でも、植物の種類も違う気がする」

「よく気づきましたね」

 アルは足元を見る。

 見たことのない形の葉。

 淡い青色の花。

 幹に絡みつく細い蔓。

 その一つ一つが、アルの好奇心を刺激する。

 しかし。

 今日は目的が違う。

 植物の観察を始めれば、きっと日が暮れてしまう。

「……今は我慢しよう」

 アルは自分に言い聞かせた。

「何を我慢してるの?」

 エルシアが笑う。

「植物を調べること」

「ふふ」

 セレフィアも小さく笑った。

 しばらく歩いたところで。

 アルの足が止まった。

「……待って」

 一行が立ち止まる。

「どうしました?」

 セレフィアが振り返る。

「今……」

 アルは目を閉じた。

 風はない。

 鳥の声も聞こえない。

 それでも。

 何かが近くにいる。

「精霊?」

 エルシアが尋ねる。

「……分からない」

 アルは周囲へ意識を集中する。

 すると。

 頬を撫でるような、ごく小さな風が吹いた。

「……右」

 アルが呟く。

「右?」

 セレフィアが確認する。

「うん」

 アルは一本の大木を見る。

「たぶん、あの辺」

 セレフィアは木を見つめた。

 そして、目を閉じる。

「……います」

「やっぱり?」

「はい」

 セレフィアは驚いたようにアルを見る。

「昨日より、精霊を感じ取るのが早くなっています」

「俺が?」

「はい」

「でも、見えないよ」

「それで十分です」

 セレフィアは穏やかに笑った。

「精霊は、姿を見ることだけが理解ではありません」

 アルは少し考えた。

「……感じることも観察の一つ?」

「ええ」

 その言葉に、アルは納得した。

 研究では、必ずしも目で見る必要はない。

 温度。

 圧力。

 音。

 電気。

 直接見ることのできないものでも、現象として捉えることはできる。

(精霊も同じなのかもしれない)

 何らかの現象を通して、その存在を推測する。

 ならば。

「試してみてもいい?」

「何をですか?」

「精霊に、魔力を少しだけ送ってみたい」

 セレフィアは少し考えた。

「……少量なら」

 アルは頷いた。

 右手を前へ伸ばす。

 炎は作らない。

 風も起こさない。

 ただ、魔力だけをゆっくりと放つ。

 その瞬間。

 周囲の空気が変わった。

 木々の葉が、一斉に揺れる。

「……!」

 アルが目を見開く。

 だが、風は吹いていない。

「今の……」

 セレフィアが呟いた。

 その声には、明らかな驚きがあった。

「精霊たちが反応しています」

「どんな反応?」

「……近づいてきています」

 アルは何も見えない空間を見つめた。

 だが。

 今までとは違う。

 何かが、自分の周囲を巡っている。

 一つではない。

 二つ。

 三つ。

 もっと多い。

 そんな感覚があった。

「……たくさんいる」

 アルが呟く。

 セレフィアが息を呑んだ。

「感じ取れるのですか?」

「うん」

「……」

 セレフィアはしばらく黙っていた。

 やがて、静かに森の奥へ視線を向ける。

「これは……」

「何?」

「精霊たちが、アル様を森の奥へ導こうとしているのかもしれません」

 アルは森の奥を見る。

 そこには、薄暗い木々しかない。

 しかし。

 その先に何かがある。

 そんな確信だけがあった。

「行こう」

 アルが言った。

「でも、慎重に」

 セレフィアが頷く。

「はい」

 一行は再び歩き始めた。

 森の奥へ。

 まだ誰も知らない場所へ。

 その背後で。

 一枚の葉が、風もないのに静かに揺れた。

 そして、その葉が落ちた先には。

 小さな黒い染みが残っていた。

 アルたちは、まだ気づいていない。

 精霊たちが導こうとしている場所が。

 ただの森の奥ではないことを。


第58話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、アルたちがついに森の奥へと足を踏み入れました。

精霊たちの反応を手掛かりに進む中で、少しずつこの森に隠された異変が見え始めています。

アルの「研究者として未知を追う姿勢」と、精霊たちの反応が、これからどのように物語へ繋がっていくのか。

次回もお楽しみいただければ嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします。


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