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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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精霊と魔力

第57話「精霊と魔力」です。

今回は、アルが精霊と魔力の関係について、一つの仮説を立てるお話です。

これまで魔法を「現象」として研究してきたアル。

しかし、精霊は炎や風といった現象そのものではありません。

では、精霊は何に反応しているのか。

アルは研究者らしく、その答えを探り始めます。

そして、精霊王が示した森の奥には何が待っているのか。

どうぞお楽しみください。


 森の奥から吹いてきた風が、アルの頬を撫でた。

 それは、先ほどまでの風とは少し違っていた。

 冷たくもない。

 強くもない。

 ただ、不思議なほど静かだった。

「……精霊王が、俺を見ている」

 アルは森の奥を見つめたまま呟いた。

「はい」

 セレフィアも同じ方向を見ている。

「私が感じる限りでは、間違いありません」

「でも……姿は見えないんだよね?」

「ええ」

「声も?」

「まだ、直接聞こえたわけではありません」

 アルは少し考えた。

 精霊。

 精霊石。

 そして、精霊王。

 今まで自分が研究してきた魔法とは、根本から違う存在だ。

 炎なら燃焼。

 風なら空気の移動。

 水なら物質としての水。

 雷なら電気現象。

 魔法を現象として捉えれば、ある程度までは理解できる。

 だが。

 精霊は、その現象そのものではない。

 それなのに、現象へ干渉する。

 そして今。

 その精霊の頂点に立つ存在が、自分へ興味を示している。

(どういう仕組みなんだろう)

 アルの目が輝く。

「セレフィアさん」

「はい」

「精霊王って、どんな存在なの?」

 セレフィアはすぐには答えなかった。

 少しだけ考えた後、ゆっくりと口を開く。

「私にも、すべてを理解しているわけではありません」

「ただ、精霊王は精霊たちの意思が集まる場所に近い存在だと考えられています」

「意思が集まる?」

「はい」

 セレフィアは森を見渡した。

「精霊は、それぞれが独立した存在でありながら、完全に孤立しているわけではありません」

「森の中で風が吹き、水が流れ、木々が育つ」

「そうした自然の変化の中で、精霊たちの意思もまた繋がっています」

「その繋がりの中心にいるのが、精霊王です」

 アルは腕を組んだ。

「じゃあ、精霊王は一人の精霊というより……」

 言葉を探す。

「精霊全体をまとめるような存在?」

「近いと思います」

「なるほど……」

 アルは考え込む。

 これまでの情報を頭の中で整理する。

 黒魔石。

 汚染された精霊石。

 黒ローブ。

 そして、精霊たちの異変。

 偶然とは考えにくい。

 だが、まだ分からないことが多すぎる。

「セレフィアさん」

「はい」

「精霊王は、黒魔石について何か知ってる?」

 セレフィアの表情が変わった。

「……分かりません」

「でも、聞いてみることはできる?」

「それも、簡単ではありません」

「どうして?」

「精霊王は、私たちの言葉をそのまま使って話す存在ではないからです」

 アルは首を傾げた。

「じゃあ、どうやって意思を確認するの?」

「感じ取るのです」

 セレフィアは胸元へ手を添える。

「喜び」

「悲しみ」

「怒り」

「恐れ」

「そうした感情や、自然の変化として伝わってきます」

「だから、精霊王が何を伝えようとしているのかを読み取る必要があります」

 アルは目を細めた。

「……翻訳みたいなもの?」

「そうですね」

「面白い」

 また、その言葉が口から漏れた。

 エルシアが小さく笑う。

「アル、また研究者の顔になってるよ」

「だって、未知のものだから」

「そう言うと思った」

 イザベラも苦笑する。

「本当に懲りないわね」

「懲りる理由がないよ」

 アルは胸を張った。

 だが。

 その時だった。

 セレフィアが突然、目を閉じた。

「……」

「セレフィアさん?」

 返事はない。

 森の音だけが聞こえる。

 葉が揺れる。

 鳥が鳴く。

 遠くで水が流れている。

 それだけだった。

 しかし。

 次の瞬間。

 アルの周囲を、淡い光のようなものが一つ通り過ぎたように感じた。

「……!」

 アルは反射的に振り返る。

 何もない。

 けれど。

 今度は確かに感じた。

 何かがいる。

 それも。

 先ほどより、ずっと近い。

「……セレフィアさん」

「はい」

「今、何かいた?」

 セレフィアは目を開いた。

「感じましたか?」

「うん」

「どんな感じでした?」

 アルは少し考えた。

「……俺を見てた」

 セレフィアの目が僅かに見開かれる。

「そうですか」

「何か変だった?」

「いいえ」

 セレフィアは静かに微笑んだ。

「むしろ、重要な変化かもしれません」

「どういうこと?」

「精霊が、アル様へ近づいてきたということです」

 アルは周囲を見る。

 やはり何も見えない。

 それでも。

 今度は、確かに分かる。

 そこに何かがいる。

「……精霊って、本当に不思議だね」

「はい」

「俺の魔力に反応してるっていうのも気になる」

 アルは自分の手を見つめた。

 膨大な魔力。

 すべての属性を扱える魔力。

 そして。

 最近になって分かり始めた、魔法を「現象」ではなく「感覚」から作るという考え方。

(もしかしたら……)

 アルの中に、一つの仮説が浮かぶ。

(精霊は、魔法そのものに反応しているんじゃない)

(魔力に込められた「イメージ」に反応しているんじゃないか?)

 まだ確証はない。

 だが。

 試してみる価値はある。

「セレフィアさん」

「はい」

「もう一度、炎を使ってもいい?」

「もちろんです」

 アルは右手を前へ伸ばした。

 魔力を集める。

 炎を思い浮かべる。

 赤い光。

 揺らめく熱。

 薪が燃える音。

 その感覚を、一つずつ魔力へ重ねていく。

 掌の前に、小さな炎が生まれた。

 ゆらゆらと揺れる炎。

 アルはその炎を見つめる。

 そして。

「……熱だけ」

 炎を消した。

 代わりに、掌の前の空気が僅かに揺らいだ。

 セレフィアが息を呑む。

「……」

「どう?」

 アルが尋ねる。

 セレフィアは目を閉じた。

「……います」

「精霊?」

「はい」

「どんな感じ?」

「……先ほどより、強く反応しています」

 アルは目を見開いた。

「炎じゃなくても?」

「はい」

 セレフィアは静かに頷いた。

「むしろ……」

 一瞬、言葉を止める。

「今の方が、精霊があなたへ近づいています」

 アルは驚いた。

 そして。

 胸の奥から、強い興奮が込み上げてくる。

 これは偶然なのか。

 それとも。

 魔法の本質に関わる何かなのか。

 まだ分からない。

 だからこそ。

「もっと試してみたい」

 アルは笑った。

「火だけじゃない」

「風も、水も、土も、雷も」

「それぞれで試してみよう」

 セレフィアも微笑む。

「ええ」

 だが、その時。

 森の奥から、突然強い風が吹いた。

 木々が大きく揺れる。

 枝葉がざわめく。

 アルは目を細めた。

 風は、ほんの数秒で止んだ。

 静寂が戻る。

「……今のは?」

 アルが尋ねる。

 セレフィアは答えなかった。

 ただ。

 森の奥を見つめている。

「セレフィアさん?」

「……精霊王です」

「え?」

「今の風は、私たちへの返事かもしれません」

 アルは森を見つめた。

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 それでも。

 なぜか、胸の奥に一つの感覚が浮かんだ。

 ――来い。

 そんな言葉のようなものだった。

「……呼ばれてる?」

 アルが呟く。

 セレフィアは驚いたようにアルを見る。

「……今、何と?」

「いや……」

 アルは自分でも確信が持てない。

 ただ。

 森の奥に、未知がある。

 そして。

 その未知が、自分を呼んでいる。

「行ってみたい」

 アルは静かに言った。

 セレフィアはしばらくアルを見つめた。

 やがて。

「分かりました」

「ですが、森の奥へ入る前に、準備が必要です」

「危険なの?」

「分かりません」

 セレフィアは森の奥を見る。

「だからこそ、慎重に進む必要があります」

 アルは頷いた。

「分かった」

 研究には観察が必要だ。

 そして。

 未知へ踏み込むなら、準備も必要になる。

 アルは森の奥を見つめた。

 黒魔石。

 汚染された精霊石。

 黒ローブ。

 そして、精霊王。

 それぞれの点は、まだ一本の線にはなっていない。

 だが。

 その線が繋がる場所が、この森の奥にあるのかもしれない。

 アルは静かに拳を握った。

 未知を理解するために。

 そして。

 この世界で起きていることの真相へ近づくために。

 次の研究が、始まろうとしていた。


第57話「精霊と魔力」を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、アルが精霊と魔力の関係について新たな仮説を立てました。

魔法そのものではなく、魔力に込められた「イメージ」に精霊が反応しているのではないか。

まだ確かなことは分かりません。

だからこそ、アルにとっては研究する価値があります。

そして次回からは、精霊たちが恐れる森の奥へ。

黒魔石や汚染された精霊石との繋がりも含め、少しずつその謎へ近づいていきます。

ここからの展開も楽しんでいただけましたら嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします。


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