未知への新たな旅立ち
今回は、黒ローブと黒く染まった精霊石について、フェンリルへ報告する回となります。
黒魔石と精霊石。
そして、過去に語られた不老不死の話。
少しずつ繋がり始めた謎を追うため、アルたちはいよいよエルフの里へ向かうことになります。
そして、エルシアも新たな旅に同行することに。
次回からは、これまでとはまた違った世界がアルたちを待っています。
よろしければ、今回も楽しんでいただけると嬉しいです。
獣人族の里へ戻った一行は、その足でフェンリルのもとへ向かった。
夜の里には、昼間とは違う緊張が漂っている。
黒ローブ。
そして――黒く染まった、割れた精霊石。
その二つが頭から離れない。
アルは黙ったまま歩いていた。
隣を歩くリシェルも、いつになく口数が少ない。
やがて、一行はフェンリルのいる部屋へ通された。
「戻ったか」
フェンリルが顔を上げる。
その視線が、一人ずつを捉えていく。
「何があった」
カインが一歩前へ出た。
「ご報告いたします」
そして、北方の森で確認した黒ローブの集団について話し始めた。
斥候からの報告。
黒衣の集団を発見したこと。
それを追跡したこと。
しかし、途中で見失ったこと。
そして――。
「その後、周囲を捜索していたところ、妙な石を発見しました」
カインがリシェルを見る。
リシェルは小さく頷いた。
「これです」
リシェルが持ち帰った石を取り出す。
それは、割れた石の欠片だった。
全体の形は分からない。
表面には細かな亀裂が走り、その一部だけが黒く染まっている。
フェンリルの目が細くなった。
「……これは」
リシェルが静かに口を開いた。
「精霊石です」
だが――。
リシェルの表情は明らかに変わっている。
「間違いないのか?」
フェンリルが尋ねる。
「はい」
リシェルは石を見つめたまま答えた。
「ただ……こんな状態の精霊石は見たことがありません」
リシェルの指が、黒く染まった部分を示す。
「ここです」
「一部だけ、何かに汚染されています」
部屋の空気が重くなる。
アルは石を見つめた。
(汚染……)
黒魔石。
これまで追ってきた、生命力を奪うという謎の石。
そして今回見つかった、黒く汚染された精霊石。
アルの頭の中で、二つの存在が初めて同じ場所に並んだ。
「黒魔石との関係は?」
イザベラが尋ねる。
リシェルはすぐには答えなかった。
「……分かりません」
「ただ」
リシェルは石を握りしめる。
「無関係とは思えません」
その言葉に、全員が黙った。
黒魔石は生命力を奪う。
精霊石は、精霊と深い関わりを持つ石。
では――。
「黒ローブたちは、この石で何をしているのでしょう」
フィオナが呟く。
「精霊石を使って、何かをしようとしている?」
ドノヴァンも続ける。
「それに、わざわざ森の中で実験していたってことか?」
「実験……」
アルがその言葉を繰り返す。
割れた精霊石。
部分的な汚染。
追跡中に見つかった痕跡。
そして黒魔石。
もし、これが一つにつながっているのなら。
「まだ、完成していないのかもしれません」
アルの言葉に、全員が視線を向けた。
「どういうことだ?」
ガレスが尋ねる。
「石が割れている」
アルは精霊石の欠片を見る。
「それに、汚染も一部分だけです」
「何かを施した結果、石が耐えられなかった可能性があります」
アルの言葉に、リシェルが息を呑む。
「つまり……」
「黒ローブたちは、精霊石を使って何かを試している……」
アルは続ける。
「でも、まだ成功していない……と感じる」
フェンリルはしばらく黙っていた。
やがて、静かに口を開く。
「……以前、我は話したな」
「不老不死を求めた者たちの話を」
アルは頷く。
フェンリルが過去に語った、遠い昔の話。
人の命を超えようとした者たち。
その研究が何をもたらしたのか。
まだ、すべては分かっていない。
「黒魔石」
フェンリルが呟く。
「そして、精霊石」
「二つを用いて何かを成そうとしているのか……」
その表情が険しくなる。
「それを確かめねばならぬ」
フェンリルは立ち上がった。
「エルフの里へ向かえ」
「エルフの里へ?」
ガレスが聞き返す。
「精霊石について最も詳しいのは、エルフ族だ」
フェンリルの視線がリシェルへ向く。
「今回の石についても、あちらで調べる必要がある」
リシェルが頷く。
「私も、そう思います」
フェンリルは一同を見渡した。
「急ぎ、エルフの里へ向かうのだ」
「はい!」
ガレスたちが返事をする。
その時だった。
「待ってください」
静かな声が響いた。
全員が振り返る。
そこに立っていたのは、エルシアだった。
「私も同行させてください」
フェンリルが目を細める。
「エルシア」
「はい」
エルシアは一歩前へ出た。
「アルの鍛錬を、まだ終えていません」
アルが驚いてエルシアを見る。
「それに……」
エルシアは少しだけ迷った。
しかし、やがてまっすぐにフェンリルを見る。
「私自身も、もっと外の世界を見てみたいです」
「母上が見てきた世界を」
フェンリルは黙って娘を見つめた。
「そして、いつか……」
エルシアは拳を胸の前で握る。
「私も母上のようになりたい」
その言葉に、フェンリルの表情がわずかに和らいだ。
「……そうか」
「はい」
「アルの鍛錬だけが理由ではないのだな」
「はい」
エルシアは頷いた。
「アルと一緒に学びたい」
「私も、この世界をもっと知りたい」
しばしの沈黙。
やがてフェンリルは静かに笑った。
「よい」
「母の許しがあるなら、好きなだけ世界を見てくるがいい」
「ありがとうございます!」
エルシアの顔に笑みが浮かぶ。
アルも思わず笑った。
しかし、その胸の奥では別の思いが生まれていた。
黒魔石。
精霊石。
そして、黒ローブ。
何かがつながっている。
だが、まだ答えは見えない。
だからこそ――。
アルは、静かに拳を握った。
「エルフの里……」
そこにはきっと、自分の知らないものがある。
精霊石とは何なのか。
黒ローブたちは何をしようとしているのか。
そして、黒魔石との関係は何なのか。
その答えを求めて。
アルたちは、エルフの里へ向かうことになった。
新たな土地。
新たな種族。
そして――。
新たな未知が、彼らを待っていた。
47話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、これまで追ってきた黒ローブ、黒魔石、そして精霊石についてフェンリルへ報告する回でした。
まだ分からないことばかりですが、アルたちは謎を追うため、いよいよエルフの里へ向かいます。
エルフの里では、精霊石について新たな情報が明らかになっていく予定です。
そして、アルにとっても新たな出会いと未知が待っています。
ここから物語の舞台も大きく変わっていきますので、ぜひ次回も読んでいただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




