エルフの里へ
今回は、獣人族の里を出発し、アルたちはエルフの里へ向かう旅に出ます。
黒ローブ、黒魔石、そして黒く汚染された精霊石。
獣人族の里で見つかった新たな手掛かりを追うため、アルたちはさらに北へ進むことになります。
そして今回からは、エルシアも旅の仲間として同行します。
彼女にとって初めて見る外の世界が、どのようなものになるのか。
新たな土地、新たな出会い、そして新たな未知へ。
よろしければ、今回も楽しんでいただけると嬉しいです。
翌朝。
獣人族の里は、いつもより早くから慌ただしい空気に包まれていた。
エルフの里へ向かう準備が進められている。
アズールの五人。
異種族調査隊の四人。
そして、エルシア。
今回の旅は、昨日までの遠征とは目的が違う。
黒ローブ。
黒魔石。
そして――黒く汚染された精霊石。
それらの謎を追うための旅だった。
「準備はできたか?」
宿舎の前でガレスが全員を見渡す。
「問題ない」
ドノヴァンが答える。
フィオナとレオンも頷いた。
グランは背負った荷物を確認し、リシェルとカインも準備を終えている。
アルも腰にドルガンから託された刀を差し、背負い袋を確認した。
「俺も大丈夫」
その隣では、エルシアが静かに立っていた。
獣人族の里を出るのは、彼女にとって特別な意味を持つ。
初めて見る外の世界。
そして、アルとの鍛錬。
さらに、自分自身の目標を見つめ直す旅でもある。
「エルシア」
アルが声を掛ける。
「準備できた?」
「うん」
エルシアは笑った。
「アルも忘れ物はない?」
「大丈夫」
「本当に?」
「……たぶん」
「ふふ」
二人のやり取りを見て、イザベラが小さく笑う。
「アルの場合、荷物より研究したいものを忘れていそうね」
「そんなことないよ」
「どうだか」
和やかな空気が流れる。
その時――。
「そろそろ時間だな」
ガレスが空を見上げた。
そして、口元へ指を当てる。
ピィィィ――!
鋭い指笛が、朝の里に響き渡った。
しばらくすると、遠くの空から大きな翼を羽ばたかせる音が聞こえてきた。
「……あ」
アルが空を見上げる。
二羽の大きな灰色の鳥が、こちらへ向かってくる。
鋭い嘴。
黄金色の瞳。
そして、人の腕ほどもある翼。
「メッセンジャーホーク」
アルが呟いた。
旅に出る際、ローガンから渡された伝令用の魔物だった。
メッセンジャーホークは大きく旋回すると、ガレスの右腕と左肩へと静かに降り立った。
「覚えていたか」
ガレスが笑う。
「もちろん」
アルは嬉しそうに答えた。
ドノヴァンが二羽のメッセンジャーホークの脚へ、小さく折り畳んだ書状を取り付ける。
「こいつは領主様へ」
続いて、もう一通。
「こちらはドワーフ族へ」
書状には、今回分かっている事実だけを記してある。
黒ローブの目撃。
黒魔石に関する情報。
そして、汚染された精霊石を発見したこと。
確定していないことについては、推測としても書かない。
「頼んだぞ」
ガレスが腕を上げる。
二羽のメッセンジャーホークは大きく翼を広げ――。
一気に空へ舞い上がった。
灰色の身体が朝の空を駆け、やがて二つの方向へ分かれていく。
一羽は領主のもとへ。
もう一羽はドワーフ族のもとへ。
アルはその姿を見上げながら、感心したように呟いた。
「便利だね」
「だから昔から使われているのよ」
イザベラが答える。
「遠く離れた相手にも、すぐに情報を届けられる」
「なるほど」
アルは頷いた。
その時だった。
「アル」
背後から声がした。
振り返る。
そこにはフェンリルが立っていた。
いつもの穏やかな表情。
その隣には、数人の獣人族が控えている。
「フェンリル様」
アルが頭を下げる。
「エルシアを見送ろうと思ってな」
フェンリルはそう言って、娘へ視線を向けた。
「エルシア」
「はい」
「外の世界は広い」
「はい」
「楽しいこともあるだろう」
「けれど、危険もある」
エルシアは真っ直ぐに母を見つめる。
「分かっています」
「そうか」
フェンリルは小さく頷いた。
「ならば、私から言うことは一つだけだ」
少しだけ間を置く。
「よく見て、よく学べ」
「そして――自分の目で確かめなさい」
「はい」
エルシアは深く頭を下げた。
「行ってきます。母上」
「ああ」
フェンリルは優しく微笑む。
「行っておいで」
エルシアが顔を上げる。
二人は短く見つめ合った。
それだけで十分だった。
フェンリルはアルへ視線を移す。
「アル」
「はい」
「エルシアを頼む」
「もちろん」
アルは力強く頷いた。
フェンリルは満足そうに笑った。
ガレスが周囲を見渡す。
「では、そろそろ出発する」
全員が頷く。
エルシアはもう一度だけ振り返った。
「……行ってきます」
フェンリルは静かに手を上げる。
「ああ」
「気をつけてな」
エルシアも小さく手を振った。
「はい!」
そして一行は、獣人族の里を出た。
門を抜ける。
朝日に照らされた道を、北へ向かって歩いていく。
やがて、里の姿が木々の向こうへ消えていった。
「……少し寂しい?」
アルが隣を歩くエルシアに尋ねる。
「ううん」
エルシアは前を向いたまま答えた。
「今は楽しみの方が大きいかな」
「そっか」
「うん」
エルシアは笑う。
「だって、ここから先は私も知らない世界だから」
アルも笑った。
「僕も」
二人の視線の先には、北へ続く道が伸びている。
目指すは、エルフの里。
そこには、精霊石についての知識がある。
そして――。
黒ローブたちが何をしようとしているのか。
その手掛かりも、きっとある。
アルは歩きながら、あの割れた石を思い出していた。
黒く染まった部分。
あれは何を意味するのか。
多くの謎を胸に抱えながら、アルたちは北へ向かって歩き続けた。
48話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回、アルたちは獣人族の里を離れ、いよいよエルフの里へ向かうことになりました。
エルシアにとっては、初めて見る外の世界への旅。
アルにとっても、精霊石や黒魔石、黒ローブの謎を追うための新たな旅となります。
これまでとは少し違った文化や種族との出会いを通して、この世界についてさらに掘り下げていく予定です。
そして、エルフの里では精霊石についても少しずつ明らかになっていきます。
次回から始まる新たな旅も、ぜひ楽しんでいただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




