追跡
第44話「追跡」です。
北方の森で黒衣の集団を発見したアルたちは、その正体を確かめるため追跡を開始します。
そして、鍛錬で身につけ始めた魔法も、少しだけ実戦で使うことになります。
黒ローブたちは一体何者なのか。
ぜひ読んでいただければと思います。
森の中を、十人の影が駆け抜けていた。
先頭を走るガレスが、木々の隙間へ目を凝らす。
「いた!」
前方。
木々の間を、黒い影が走っている。
黒いローブ。
獣人族の斥候から報告された、謎の集団の一人だった。
「逃がすな!」
ガレスの声が響く。
ドノヴァン、フィオナ、レオンが続く。
その後ろからグラン、リシェル、カイン、セレスが追いかける。
アルも必死に足を動かしていた。
「速い……!」
視界の先にいるはずなのに、距離がなかなか縮まらない。
黒ローブの集団は、森の中を迷う様子もなく進んでいた。
まるで、あらかじめこの場所を知っているかのようだった。
「地形を把握しているのか?」
レオンが呟く。
「可能性は高いな」
グランが答える。
「普通の旅人なら、あんな速度では走れん」
リシェルも周囲を確認する。
「しかも、進む方向に迷いがありません」
「この森を何度も通っているのかもしれません」
カインが眉を寄せる。
「だったら、なおさら見失うわけにはいかないな」
前方で黒い影が木々の間を抜けた。
「右だ!」
ガレスが叫ぶ。
全員が進路を変える。
アルも続こうとした。
だが、その瞬間。
足元の土が弾け、小さな石が飛んできた。
「!」
アルは咄嗟に身体を捻る。
石が頬の横を通り過ぎ、後方の木へ突き刺さった。
「アル!」
イザベラの声。
「大丈夫!」
アルはすぐに立て直した。
前方を見る。
黒ローブの姿は、まだ見えている。
「……攻撃してきた?」
アルが呟く。
ガレスが目を細めた。
「牽制だろう」
「こちらを認識している」
つまり、ただ逃げているわけではない。
追跡されていることを理解した上で、距離を保っている。
「厄介だな」
ドノヴァンが舌打ちする。
「なら、こっちも速度を上げるぞ!」
ガレスが地面を蹴った。
その速度に合わせるように、アルも足へ魔力を集める。
風。
身体の周囲を流れる空気を意識する。
先ほどまでの鍛錬で学んだ感覚。
空気を生み出すのではない。
自分がどう動きたいのか。
その感覚を魔力へ伝える。
身体が軽くなる。
「アル、無理するな!」
ガレスの声。
「大丈夫!」
アルは答えた。
前方の黒ローブとの距離が、少しずつ縮まっていく。
「近づいてる!」
フィオナが声を上げる。
「このままなら追いつけるぞ!」
レオンも叫ぶ。
黒ローブの一人が振り返った。
その顔は、深く被ったフードに隠れている。
だが。
確かにこちらを見た。
次の瞬間。
黒ローブが右手を掲げる。
「何か来る!」
リシェルが叫ぶ。
前方の地面から、突然土煙が巻き上がった。
「くっ!」
視界が一瞬で塞がれる。
「止まるな!」
ガレスが叫ぶ。
全員が土煙を突っ切る。
だが、その先には誰もいなかった。
「……消えた?」
フィオナが周囲を見回す。
ガレスはすぐに地面を見る。
足跡が続いている。
「まだ近い!」
「右だ!」
カインが叫んだ。
木々の向こう。
一瞬だけ、黒い布が見えた。
「追うぞ!」
再び走り出す。
森の奥へ。
木々の間を抜け、斜面を駆け下りる。
そして。
森が突然開けた。
目の前には、小さな岩場が広がっている。
その向こう。
黒ローブの姿が見えた。
「いた!」
ガレスが叫ぶ。
距離は近い。
あと少し。
このままなら追いつける。
アルは黒ローブを見つめた。
何者なのか。
何のために北方へ来たのか。
そして。
なぜ、これほどまでに逃げるのか。
疑問が次々と浮かんでくる。
「止まれ!」
ガレスが叫ぶ。
黒ローブは止まらない。
むしろ速度を上げた。
「逃がすか!」
ドノヴァンが追う。
その瞬間。
黒ローブの前方に、深い谷が現れた。
「行き止まりだ!」
レオンが叫ぶ。
黒ローブの足が止まる。
ようやく追い詰めた。
ガレスが剣へ手をかける。
「囲むぞ」
十人が少しずつ距離を詰める。
黒ローブは振り返った。
フードの奥。
そこにある表情は見えない。
だが。
妙に静かだった。
追い詰められた者の焦りがない。
それが、ガレスには不気味に感じられた。
「お前たちは何者だ」
問いかける。
返事はない。
「何をこの森でしていた?」
やはり沈黙。
アルもじっと黒ローブを見つめていた。
その時だった。
黒ローブの足元に、淡い光が浮かび上がった。
「魔法陣!」
イザベラが叫ぶ。
「離れろ!」
全員が咄嗟に後退する。
光が一気に強くなる。
そして。
白い閃光が視界を覆った。
「くっ……!」
アルは腕で目を覆う。
風が巻き起こる。
土煙が舞い上がる。
何も見えない。
数秒後。
光が消えた。
風も止まる。
「……今のは?」
フィオナが呟く。
ガレスが目を開く。
岩場には、誰もいなかった。
「……消えた?」
ドノヴァンが呆然と呟く。
ガレスは周囲を見回した。
「まだ遠くには行っていないはずだ」
だが。
どこを見ても黒い影はない。
アルは地面へ視線を落とした。
そこには、黒ローブが立っていた場所の土だけが、不自然に黒く焦げていた。
「……何だったんだ」
誰も答えられなかった。
追跡は、まだ終わっていない。
だが。
獲物を追い詰めたはずの彼らの前から、黒ローブはまるで煙のように姿を消していた。
第44話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、これまで追ってきた黒ローブをついに直接追跡する回となりました。
アルも鍛錬の成果を少しずつ実戦で使い始めています。
ただ、黒ローブたちは簡単には捕まってくれません。
そして、この追跡の先でアルたちが見つけるものが、物語に新たな謎をもたらすことになります。
少しずつ広がっていく世界と謎を、楽しんでいただけましたら嬉しいです。
次回もよろしくお願いいたします。




