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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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黒衣の影

鍛錬の中で魔法への新しい向き合い方を知ったアル。

そんな中、北方の森で黒衣の集団が発見されます。

いよいよ、これまで追ってきた謎が動き始めます。

よろしければ、アルたちの新たな調査を見届けていただけると嬉しいです。

 訓練場に緊張が走った。

 フェンリルは立ち上がったまま、目の前で膝をつく斥候を見つめている。

「詳しく申せ」

「はっ」

 斥候は一度深く息を吸った。

「今朝、北方の森を巡回していた斥候隊が、黒衣を纏った集団を確認いたしました」

「人数は?」

「正確には確認できておりません」

「距離を取って監視していたため、少なくとも五人以上と思われます」

 フェンリルの眉がわずかに動く。

「何をしていた?」

「森の奥へ向かって移動していたとのことです」

「こちらへ向かっていたのか?」

「いえ」

 斥候は首を横に振った。

「獣人族の里とは反対方向へ進んでいたようです」

 アルは黙って話を聞いていた。

 黒衣の集団。

 それは以前から追っている存在だった。

 自分たちが北方へ来た目的の一つでもある。

「接触は?」

「ありません」

「こちらの存在に気づいた様子は?」

「それも確認できておりません」

 フェンリルはしばらく黙り込んだ。

 そして静かに問いかける。

「その者たちは、何かを運んでいたか?」

「……そこまでは確認できておりません」

「そうか」

 フェンリルは小さく息を吐いた。

「黒衣の集団が北方に現れた」

「それだけでも十分に警戒すべき事態だ」

 その言葉に、アルも頷いた。

 しばらくして、フェンリルは斥候へ告げる。

「ご苦労だった」

「引き続き監視を続けよ」

「決して無理をするな」

「はっ!」

 斥候が一礼し、訓練場を後にする。

 静寂が戻った。

 アルはフェンリルを見る。

「追いますか?」

「ああ」

 フェンリルは短く答えた。

「だが、慎重に行わねばならぬ」

 その時だった。

 訓練場の入口から、複数の足音が聞こえてきた。

「フェンリル様」

 ガレスだった。

 その後ろには、ドノヴァン、イザベラ、フィオナ、レオン。

 そしてグラン、リシェル、カイン、セレスの姿もある。

 全員、すでに話を聞いていたようだった。

「黒衣の集団が見つかったと聞きました」

 ガレスが口を開く。

「ああ」

 フェンリルが頷く。

「北方の森だ」

 ガレスは仲間たちへ一度視線を向ける。

 そして再びフェンリルを見る。

「ならば、俺たちが追います」

「ガレス」

 フェンリルが静かに名前を呼ぶ。

「危険だぞ」

「承知しています」

 ガレスは即答した。

「だからこそ、行かせてください」

 その隣でドノヴァンも頷く。

「ここまで来て、見つかった相手を放っておくわけにもいかねえ」

「それに、俺たちは元々そのために来たんだ」

 フィオナも続いた。

「黒ローブのことを調べるために、ここまで来たんだもの」

「見つけたのなら、確認するべきだと思うわ」

 レオンも静かに頷く。

「異変の正体を知るためにも、追跡は必要でしょう」

 最後にイザベラがアルへ視線を向ける。

「もちろん、アルを一人で残していくつもりもないわ」

「私たちが一緒に行く」

 アルは思わず目を見開いた。

「みんな……」

 その隣で、グランが腕を組む。

「俺も行くぞ」

「ドワーフとして、妙な連中が何を企んでいるのか気になるからな」

 リシェルも頷いた。

「私も」

「エルフの森に近い北方で何が起きているのか、確認しておきたいです」

 カインは静かに口を開く。

「獣人族の領域で起きていることだ」

「俺も同行する」

 そして最後にセレス。

「もちろん私も行くよ」

「異種族調査隊として、ここで待っているだけなんてできないから」

 フェンリルは全員の顔を順番に見た。

 その目に、僅かながら感心したような色が浮かぶ。

「皆、自ら望むか」

 ガレスが答える。

「はい」

「ならば止める理由はない」

 フェンリルはそう言ってから、アルを見る。

「アル」

「はい」

「其方も行くのだな?」

 アルは迷わなかった。

「はい」

「黒ローブの人たちが何をしているのか、知りたいです」

 フェンリルは小さく頷いた。

「よかろう」

「ただし、決して無理はするな」

「目的は討伐ではない」

「まずは、その者たちが何者なのかを確認することだ」

 ガレスが深く一礼する。

「承知しました」

 フェンリルはカインへ視線を向ける。

「カイン」

「はい」

「北方の地形を知る者を数名、同行させよ」

「斥候とも連携し、決して見失わぬようにせよ」

「わかりました」

 カインが頷く。

 フェンリルは最後に全員へ告げた。

「準備が整い次第、出発せよ」

「黒衣の者たちが何を目的として北へ向かったのか」

「それを確かめるのだ」

「はい!」

 全員の声が重なった。

 こうして、追跡隊の出発が決まった。

 アルは腰に差したドルガンの刀へ手を添える。

 そして、先ほどまでの鍛錬を思い出した。

 炎。

 水。

 風。

 土。

 雷。

 まだ完成には程遠い。

 それでも、昨日までの自分とは少し違う。

 魔法を使うことが、少しだけ自由になった。

(……実際に使ってみる機会が来るかもしれない)

 そんな考えが頭をよぎる。

 だが、すぐに打ち消した。

(いや)

(戦うために追うんじゃない)

 フェンリルの言葉を思い出す。

 ――目的は討伐ではない。

 まずは、知ること。

 研究者として、その言葉はアルの胸に強く響いた。

「アル」

 エルシアが声を掛ける。

「気をつけてね」

 アルは振り返った。

「うん」

「行ってくる」

 エルシアは小さく笑う。

「いってらっしゃい」

 その声を背に、アルたちは準備のため宿舎へ戻っていった。

 黒衣の集団を追うために。

 北方の森へ向けて――。

 新たな調査が始まろうとしていた。


第43話を読んでいただき、ありがとうございました。

ここから、これまで少しずつ登場してきた黒衣の集団を追う展開へ入っていきます。

アルにとっては、魔法の鍛錬だけでなく、未知の存在を調べることもまた一つの「研究」です。

黒衣の者たちは何者なのか。

そして、何を目的としているのか。

少しずつ謎を明らかにしていければと思っています。

次回もよろしくお願いいたします。

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