↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/61

創造への一歩

今回はフェンリルとの対話の続きです。

異界の民の存在、そしてアルが抱えてきた「魔法とは何か」という疑問に、一つの答えが示されます。

物語の大きな転機となる一話になっていますので、ぜひ最後までお楽しみください。

 フェンリルの答えを聞いてアルの心は軽かった。

 まるで長年抱いていた仮説が、一つ証明されたことを確認できたような気分だった

 アルは少しだけ肩の力を抜く。

 そして、ふと思い出したように口を開いた。

「……実は」

「ドワーフ領で、不思議な話を聞きました」

「ほう?」

「『異界の民』という存在です」

 フェンリルの瞳が静かに細められる。

「ドルガンという方から聞きました」

「昔、この世界には異界から来た者がいたと」

「その人が残した知識を基に、ドワーフたちは今も技術を受け継いでいる、と」

「この頂いた刀もその方が打った物です」

 アルは一度言葉を区切る。

 胸の奥で整理していた考えを、ゆっくりと言葉へ変えていく。

「最初は半信半疑でした」

「でも……」

「その話を聞いた時、思ったんです。」

 フェンリルは黙って耳を傾けている。

「この世界へ来たのは、自分だけじゃないんじゃないか、と。」

 アルはゆっくりと腰へ手を添えた。

 そこにあるのは、ドルガンから託された片刃の剣。

「この刀も、その一つです」

「私のいた世界では、この形の武器を――」

 一度だけ、その名を確かめるように口にする。

「日本刀と呼んでいました」

 その瞬間。

 フェンリルは静かに目を閉じた。

「……やはり、そうか」

 その一言に、アルの鼓動が高鳴る。

「ご存じなんですね」

「うむ」

 フェンリルはゆっくりと頷いた。

「この世界では珍しい形状の武器」

「しかし我は、その名も、その姿も知っておる」

 静かな声が部屋へ響く。

「遥か昔」

「異界より現れた者の中に、その武器の制作者がおった」

 アルは思わず身を乗り出した。

「やっぱり……!」

 フェンリルは続ける。

「転移した者だったのか」

「転生した者だったのか」

「それは我にも分からぬ」

「ただ、異界より現れた者がいたことだけは確かだ」

 アルは言葉を失う。

 今まで仮説でしかなかったものが、一つずつ現実へ変わっていく。

「しかも、一人ではない」

 フェンリルの言葉に、アルは顔を上げた。

「え……?」

「異界の民は、おそらく何人か存在した」

「時代も違えば、訪れた理由も違ったのであろう」

「その中の一人が、この刀という武器を伝えた」

 アルは思わず腰の刀へ目を向けた。

 ドルガンから託された刀。

 異世界の鍛冶師が、日本刀という概念だけを頼りに再現した一本。

「では……」

「本物は……?」

 フェンリルは穏やかに微笑んだ。

「どこかに眠っておるだろう」

「異界の民、その本人が打った真の刀が」

 その言葉だけで、アルの胸は熱くなった。

 どこかにある。

 自分の世界から来た誰かが、この世界へ遺した証。

 まだ見ぬ一本の日本刀。

 その存在を想像しただけで、胸が高鳴る。

 そして――

 フェンリルは静かにアルを見据えた。

「其方は、一人ではない」

 その短い一言が、アルの胸へ深く染み込んだ。

 転生してから今日まで。

 誰にも話せず。

 誰にも理解されず。

 ずっと胸の奥へしまい込んできた孤独。

 自分だけが異物なのではないか。

 そんな不安を抱えながら歩いてきた。

 だが今、その孤独が少しだけ薄れていく。

 アルは自然と笑みを浮かべていた。

「……ありがとうございます」

 その言葉には、自然と感謝が滲んでいた。

 フェンリルは小さく頷く。

 フェンリルの紺碧の瞳が、静かにアルを見据える。

 しばらく沈黙が流れた。

 フェンリルは静かにアルを見つめる。

「……其方が話してくれたこと」

「実に興味深い」

 アルは小さく頭を下げた。

「ありがとうございます。」

「ですが、一つ聞きたいことがあります」

 フェンリルは頷く。

「申してみよ」

 アルは少し考えてから口を開いた。

「俺は……五属性の魔法が使えます」

 フェンリルの表情は変わらない。

 だが、その瞳だけが静かに細められた。

「火」そう言って掌に小さい炎を灯す。

「水」これもまた掌に水滴を作り出す。

「風」小さい竜巻のような風を起こす。

「雷」最小出力で得意の雷を人差し指と親指の間に起こす。

「土」靴についていた砂を結晶にして見せた。

「こんな感じです」

「本来なら人は一つ、多くても二つ程度の属性しか扱えないと聞きました」

「でも俺は五つ使える」

「これも……転生したことと関係があるのでしょうか」

 フェンリルは静かに頷いた。

「恐らく、そうだろう」

 迷いのない答えだった。

 アルは思わず息を呑む。

「其方の魔力は、この世界の理から少し外れておる」

「量だけではない」

「質もまた、常の者とは異なる」

「創造主とやらが授けた力」

「そう考えれば説明はつく」

 アルは胸の奥が少し軽くなるのを感じた。

 ずっと抱いていた疑問だった。

 やはり、この力は転生と無関係ではなかった。

 だが――。

 アルはもう一つ、胸につかえていた疑問を口にした。

「それでも……」

「俺は自分の魔力を、まだうまく扱えていません」

 フェンリルは静かに耳を傾ける。

「魔法は使えます」

「でも、もっとできる気がするんです」

「魔力を制御し切れていないというか……」

「何か大事なものが欠けている」

「そんな感覚があります」

「扱う魔力量が増えれば増えるほど制御が上手く出来ないんです」

 フェンリルは少しだけ微笑んだ。

「そう感じられるだけでも十分。」

 アルは首を傾げる。

「え?」

「本当に何も分からぬ者は、自分が未熟だとすら気付けぬ」

「其方は、その先があることを知っておる」

「だから迷う」

 アルは言葉を失った。

 その通りだった。

 力不足なのではない。

 もっと先へ行ける。

 そんな確信だけが、ずっと心のどこかにあった。

 フェンリルは静かに立ち上がる。

 窓の外へ目を向けながら、小さく口を開いた。

「其方の魔法」

「見事だ」

 その一言に、アルは驚く。

「独学でそこまで辿り着いた」

「しかも、この歳で」

「並の才能では到底届かぬ」

 素直な賞賛だった。

 だが。

 フェンリルは振り返る。

「……だが」

 その一言で空気が変わる。

 アルは思わず背筋を伸ばした。

「其方は」

「知識に縛られ過ぎておる」

「……縛られている?」

 思わず聞き返す。

 フェンリルは静かに頷いた。

「其方は世界を理解しようとしておる」

「それ自体は間違いではない」

「だが」

 一拍置く。

「魔法とは」

「世界を理解する力ではない」

 静かな声だった。

 それでも、その言葉はアルの胸へ真っ直ぐ届く。

「魔法とは」

「世界へ願う力だ」

 アルは目を見開く。

「願う……」

「其方は炎を知っておる」

「火がはぜるとはどういうことか」

「熱とは何か」

「風とは何か」

「全て知識として理解しておるのだろう?」

 フェンリルはゆっくり続けた。

「しかし」

「其方は炎になろうとしておらぬ」

 その瞬間。

 アルの思考が止まった。

 フェンリルの声だけが静かに響く。

「現象を知るだけでは半分」

「魔力へ、その景色を見せてやれ」

「もっと自由で良い」

 アルは動けなかった。

(……そうか)

(俺は)

(炎を再現しようとしていた)

(炎を、創り出そうとはしていなかった)

 その瞬間だった。

 脳裏に、あの声が蘇る。

 ――想像力を大切にしなさい。

 創造主が別れ際に残した言葉。

 あの時は意味が分からなかった。

 だが今なら理解できる。

(そうか)

("創造"だったんだ)

「アル」

「其方の魔法は、まだまだ伸びる」

「知識は十分」

「あとはその知識と願いを魔力へ乗せるだけだ」

「どうじゃ?少しここで鍛錬していかぬか?」

 フェンリルからの突然の申し出だった。

「え?」

 フェンリルはアルの驚きをよそに続けた。

「私には娘がおってな」

「その娘もまた鍛錬の真っ最中でな」

「一緒にやってみぬか?」

 急展開にアルの思考は全く追い付いていなかった。

(魔法鍛錬?)

(え?娘?)

 混乱するアルにフェンリルは、ただ優しい眼差しを向けるのであった。


 

第33話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回はフェンリルとの対話を通して、アルが新たな一歩を踏み出す回となりました。

これまで「理解する」ことを追い求めてきたアルですが、「創造する」という新たな視点を得たことで、魔法との向き合い方も少しずつ変わっていきます。

次回からは新たな人物も加わり、アルの魔法鍛錬が本格的に始まります。

今後とも応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。