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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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獣王の問い

獣王フェンリルとの話し合いは終わりを迎えます。

しかし、その場で思いもよらぬ人物が呼び止められることになります。

物語が大きく動き始める一話です。

どうぞお楽しみください。

 フェンリルは全員を見渡し、ゆっくりと口を開いた。

「そして、ここからが我の気掛かりだ。」

 その一言で、部屋の空気は再び引き締まった。

 フェンリルはゆっくりと円卓へ視線を落とした。

「我が気掛かりなのは、今回の異変が、その呪いの石と酷似していることだ」

 ガレスが静かに問い掛ける。

「混成の魔物……でしょうか」

「うむ」

 フェンリルは頷く。

「古い伝承には、呪いの石が周囲へ災いを招いたという話がいくつも残されておる」

「森の獣が突如として凶暴化した」

「理由もなく村が襲われた」

「そうした厄災の陰には、必ず呪いの石の存在が囁かれていた」

 部屋が静まり返る。

 アルも思わず身を乗り出していた。

 これまで遭遇した二度の襲撃。

 そのどちらも、通常ではあり得ない混成の群れだった。

 まるで、その伝承をなぞるように。

 フェンリルは続ける。

「命を喰らい、多くの怨念を宿した石だ」

「そこへ封じられた呪いや怨念が、生きる者へ何らかの影響を及ぼしたとしても、不思議ではない」

 セレスが小さく呟く。

「だから……魔物が凶暴化した可能性がある、と」

「可能性の話だ」

 フェンリルは静かに訂正した。

「伝承だけでは断言はできぬ」

「だが、今の話と符合する点は多い」

 ガレスも腕を組みながら考え込む。

「しかし、一つ腑に落ちないことがあります」

「黒ローブです」

「もし呪いの石だけが原因なら、魔物は暴走するだけではありませんか」

「統率されたような動きにはならない」

「その通りだ」

 フェンリルは静かに頷いた。

「そこが最も不可解なのだ」

 部屋に重苦しい沈黙が流れる。

 フェンリルは静かに続けた。

「我が知る限り、魔物を自在に操ったという事実はない」

「呪いの石は災厄を招く存在ではあっても、誰かの意思に従う道具ではなかった」

 一拍置く。

「つまり」

 その一言だけで全員の視線が集まる。

「黒い魔石が呪いの石であるならば、かつてとは異なる性質、能力を持っている可能性がある」

 アルは思わず息を呑む。

「異なる……」

「あるいは」

 フェンリルの紺碧の瞳が静かに細められる。

「誰かが、新たな使い方を見出した」

「あるいは、人為的に能力を加えた」

 その言葉に、全員の脳裏へ同じ存在が浮かぶ。

 黒いローブ。

 正体不明の集団。

 特殊な魔石。

 ガレスが低く呟く。

「黒ローブ……」

「可能性は高い」

 フェンリルは静かに答えた。

「奴らが呪いの石を操る術を持っているのなら」

「魔物を意のままに動かすことも、不可能ではあるまい」

 イザベラの表情が曇る。

「そんなものが北方に広がったら……」

「被害は一国では済まぬ」

 フェンリルの声には、長き時代を見守ってきた者ならではの重みがあった。

 ガルドも深く頷く。

「獣人族としても、斥候を各地へ放とう」

「これまで以上に周辺の警戒を強める」

「黒ローブの足取りも追わせます」

 ガレスも頷き返した。

「辺境伯領でも引き続き調査を続けます」

「ドワーフ族とも情報網ができました」

「何か判明すれば、すぐに共有しましょう」

「うむ」

 フェンリルは静かに微笑んだ。

「それでよい」

「今は一つでも多く情報を集めることが肝要だ」

「焦って動けば、敵の思う壺となろう」

 その言葉に、一同は静かに頷いた。

 方針は決まった。

 北方諸族は互いに情報を共有し、この異変の調査と警戒を続ける。

 今できることは、それしかない。

 ガレスが立ち上がる。

「貴重なお話をありがとうございました」

「今後とも、よろしくお願いいたします」

 フェンリルは穏やかに頷いた。


「……さて」

 その一言で、部屋の空気がわずかに変わる。

 フェンリルの視線が、一人へ向けられた。

 アルだった。

 紺碧の瞳が、静かにその腰元へ注がれる。

 そこには、ドルガンから託された片刃の剣が静かに下げられていた。

「アル、だったか」

 アルは思わず自分を指差した。

「え……あ、はい」

「うむ」

 フェンリルは小さく頷く。

「少し、その腰のものを見せてはくれぬか」

 アルは一瞬きょとんとしたあと、自分の腰へ手をやった。

 そこには、ドルガンから託された片刃の剣が下げられている。

「この剣……ですか?」

「そうだ」

 フェンリルの紺碧の瞳が、静かに刀へ注がれる。

 アルは鞘ごと両手で持ち、フェンリルの前へ差し出した。

 フェンリルは受け取ることなく、その姿をじっと見つめる。

 やがて、小さく微笑んだ。

「珍しいものを持っておるな」

 その一言に、アルの心臓が大きく跳ねた。

 フェンリルは静かに続ける。

「やはり……刀だな」

 アルの瞳が大きく見開かれる。

「っ!」

 思わず一歩踏み出していた。

「ご、ご存じなんですか!?」

 反射的に身を乗り出し食い気味に聞いた。

 部屋にいた全員がアルを見る。

 イザベラは咄嗟に

「アル!失礼ですよ」

 フェンリルは穏やかな表情で手を上げ

「よい」

「知りたいか」

 静かな問い掛け。

 アルは迷うことなく頷いた。

「はい!」

「ぜひ、お聞かせください」

 フェンリルは口元へ穏やかな笑みを浮かべた。

「ならば」

 一拍置く。

「其方だけ残れ」

 ガレスが僅かに眉を動かした。

「獣王様」

「アル一人で、ですか」

「案ずるな」

 フェンリルは静かに答える。

「取って食おうというわけではない」

「少し話をするだけだ」

 ガルドも静かに口を開く。

「獣王様、よろしいので?」

「人族の小童など……」

 フェンリルは笑みを浮かべながら

「心配はいらん」

「まだ若いが、逸材になるやもしれん」

「少なくとも、我はそう見ておる」

 ガレスは内心驚いていた。

 獣王フェンリルが、アルへ興味を示している――。

 ガレスは少し考えた末、小さく頷いた。

「……分かりました」

 アルへ視線を向ける。

「終わったら迎えに来る」

「うん」

 アルも頷き返した。

 やがてガレスたちは一礼し、部屋を後にする。

 ガルドも他の長たちを連れ、静かに退室した。

 重厚な扉が閉まる。

 ゴトン……

 小さな音が響き、部屋は静寂に包まれた。

 残されたのは二人だけ。

 獣王フェンリル。

 そしてアル。

 しばらく沈黙が続く。

 フェンリルは静かにアルを見つめていた。

 紺碧の瞳は、まるで何かを確かめるようだった。

 やがて、小さく息を吐く。

「さて」

 その一言で空気が変わる。

 アルは自然と背筋を伸ばした。

 フェンリルはゆっくりと口を開く。

「先ほど、其方は刀という名を聞いて驚いた」

「その反応を見て、我の考えはほぼ確信へ変わった」

 アルは息を呑む。

 フェンリルは静かに続けた。

「では、聞こう」

 一拍。

 紺碧の瞳が真っ直ぐアルを見据える。

「其方――」

「異界より来た者であろう?」

 その言葉を聞いた瞬間。

 アルの思考は、完全に止まった。

 鼓動だけが、静かな部屋に響いているようだった。

 なぜ。

 どうして。

 誰にも話していない。

 創造主と、自分だけしか知らないはずの秘密。

 それを。

 目の前の獣王は、まるで確信していたかのように口にしたのだった。

 アルは言葉を失ったまま、フェンリルを見つめ返すことしかできなかった。

 フェンリルは穏やかな笑みを浮かべたまま、静かにアルの返答を待っていた。


第31話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、これまで積み重ねてきた伏線の一つが大きく動き出しました。

フェンリルという存在は、この世界を長く見守ってきたからこそ知っていることがあります。

アルにとっても、自分自身の存在を見つめ直す大きな転機になっていきます。

次回はいよいよ、フェンリルとアルの二人きりの対話です。

少しでも続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次回もよろしくお願いいたします。

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