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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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28/60

獣人族の国

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回から舞台は獣人族の国へ移ります。

ドワーフ領で得た情報を胸に、一行は新たな協力者を求めて北方を進みますが、そこに待っていたのは、人族に対する厳しい視線でした。

そして物語は、新たな重要人物との出会いへ――。

ぜひ最後までお楽しみください。

 混成の魔物との戦闘を終えた一行は、その後も周囲への警戒を緩めることなく北方街道を進んでいた。

 黒ローブの姿は最後まで確認できなかった。

 特殊魔石も見つからない。

 それにもかかわらず、あれほど異常な魔物たちが群れを成して襲ってきた。

 誰もが胸の奥に小さな違和感を抱えたまま歩き続けている。

「やっぱり妙だな」

 グランが腕を組みながら呟く。

「ああ」

 ガレスも険しい表情のまま頷いた。

「今までなら黒ローブの痕跡があった」

「今回はいた形跡がない」

 レオンも森へ視線を向けたまま口を開く。

「誰かが魔物を操っているのは間違いない」

「だが、その誰かが現場にいなかった」

「そんなことがあり得るのか……」

 誰にも答えは出なかった。

 アルも腰に下げた片刃の剣へそっと手を添える。

 ドルガンから託された剣。

 戦闘では驚くほどの切れ味と魔法への親和性を見せた。

 しかし今は、その剣以上に気になることがあった。

(黒ローブがいなかった)

(それなのに魔物だけが動いていた)

 前回遭遇した時とは明らかに違う。

 もし黒ローブが直接操っていなかったとしたら。

 もっと別の方法で魔物を支配しているのだろうか。

 そんな考えが頭を離れない。

 イザベラも静かに歩きながら小さく息を吐く。

「魔石も見つからなかったわね」

「うん……」

 アルは頷く。

「前回と同じなら、何かしら残っていると思ったんだけど……」

「そうね」

 イザベラも難しい表情になる。

「なにもかも、分からないことだらけだわ」

 しばらく街道を進むと、先頭を歩いていたカインが足を止めた。

「見えてきた」

 一同が前方へ目を向ける。

 広大な草原の先。

 鬱蒼とした森が地平線まで続いている。

 その森の入り口には、高く組まれた見張り台。

 さらに巨大な丸太を組み合わせて築かれた柵が森全体を囲んでいた。

 ドワーフ領とはまったく違う景色だった。

 石ではなく木。

 岩ではなく森。

 人工物と自然が一体となった国。

「あそこから先が獣人族領だ」

 カインが静かに言う。

 アルは目を凝らした。

 見張り台には数人の獣人が立っている。

 こちらへ視線を向けているのが遠目にも分かった。

 風が草原を吹き抜ける。

 どこか張り詰めた空気が漂っていた。

 アルはその空気の違いを肌で感じながら、小さく息を吸い込む。

 ドワーフの国とは、まるで別世界だった。

 巨大な木柵の前まで辿り着くと、見張り台から数人の獣人が軽やかに飛び降りてきた。

 狼族。

 豹族。

 熊族。

 種族は様々だったが、全員が武装している。

 槍や弓を手に、一行を鋭く見据えていた。

 その視線には敵意と警戒が入り混じっている。

「止まれ」

 一人の狼族が低く告げた。

 その一言で空気が張り詰める。

 カインが一歩前へ出た。

「俺だ」

「カイン・ガルムだ」

 その言葉を聞いた途端、見張りの獣人たちの表情がわずかに変わる。

「カイン殿!」

 慌てて槍を下ろした。

「ご無事でしたか!」

「ああ」

 カインは短く頷く。

「長へ報告がある」

「すぐ案内してくれ」

「はっ!」

 門がゆっくりと開いていく。

 重い丸太を組み合わせた門は、人族の街では見たことがないほど頑丈な造りだった。

 一行はそのまま獣人族領へ足を踏み入れる。

 アルは思わず辺りを見回した。

 森の中へ溶け込むように建てられた家々。

 巨大な樹木をそのまま利用した住居。

 木橋で繋がる建物。

 石造りの街並みだったドワーフ領とはまるで違う。

 自然と共に暮らす民族。

 そんな印象を受けた。

 しかし――

 その景色よりも先に気になったものがあった。

 住民たちの視線だった。

「……」

「人族だ」

「どうして人族がここへ……」

 小さな囁きが聞こえてくる。

 子どもたちは興味深そうにこちらを見ている。

 だが、大人たちの目は違った。

 鋭い。

 値踏みするような視線。

 中には露骨に眉をひそめる者までいる。

 アルはその空気を敏感に感じ取っていた。

(歓迎……されてない)

 イザベラも小さく苦笑する。

「思った以上ね」

「だね……」

 アルも小さく頷いた。

 辺境伯領では他種族との交流も珍しくない。

 ドワーフ領でも最初こそ警戒されたが、ここまで露骨ではなかった。

 だが、この国では違う。

 人族というだけで距離を置かれている。

 そんな空気が街全体に漂っていた。

 その時だった。

 一人の若い虎族が道端から吐き捨てるように言った。

「人族が何の用だ!」

 周囲の獣人たちも口には出さないものの、同じような視線を向けている。

 アルは思わず立ち止まりそうになった。

 だが、その前へカインが静かに歩み出る。

 若い虎族を真っ直ぐ見つめた。

「俺が連れてきた」

「どうしても長に報告しなきゃならん事がある」

 カインの言葉で周囲の空気が少し変わる。

 虎族は小さく舌打ちすると、それ以上は何も言わず道を空けた。

 アルはその様子を見て小さく驚く。

(カインさん……)

 獣人族の中でも、かなり信頼されているのだろう。

 誰も反論しない。

 再び歩き始める一行を、街の住民たちは無言で見送っていた。

 やがて街の中心部へ辿り着く。

 そこには他の建物より一回り大きな館が建っていた。

 巨木を幾重にも組み上げた壮大な建築。

 柱には獣や狼を模した精巧な彫刻が刻まれ、その威厳は遠目にも圧倒的だった。

 館の前には完全武装した護衛が並び、一行を見ると一斉に敬礼する。

「長がお待ちです」

 カインが小さく頷いた。

「案内してくれ」

 重厚な扉がゆっくりと開かれる。

 アルは静かに息を整えた。

 いよいよ、この国の長との対面だった。

 館の中へ足を踏み入れると、木の香りがふわりと鼻をくすぐった。

 高い天井を支える巨大な柱は一本の巨木をそのまま削り出したものらしく、年輪が美しい模様を描いている。

 壁には狼や熊、虎など様々な獣を象った彫刻。

 天井から吊るされた獣の角や牙は、この国が狩りと共に歩んできた歴史を物語っていた。

 案内された先は広い円形の会議室だった。

 中央には大きな木製の円卓。

 その奥に、一人の壮年の狼族が座っている。

 灰色の耳と尾を持つ、堂々とした体格の男だった。

 両脇には数人の獣人が並んでいる。

 熊族。

 虎族。

 豹族。

 いずれも一族を束ねる長なのだろう。

 その鋭い眼差しが、一行へ向けられていた。

 カインが一歩前へ出る。

「長」

「ただいま戻りました」

 壮年の狼族は静かに頷いた。

「無事で何よりだ、カイン」

 低く落ち着いた声だった。

「こちらが辺境伯領から来た者たちか」

「はい」

 カインは振り返る。

「北方で起きている異変について、共に調査している方々です」

 族長はゆっくり立ち上がった。

「私はこの国を預かる族長、ガルドだ」

 ガレスも一歩前へ出る。

「アズール・イージス所属、ガレスと申します」

「このたびはお時間をいただき、ありがとうございます」

 ガルドは静かに頷いた。

「カインから事情は聞いている」

「まずは話を聞こう」

「席に着いてくれ」

 一行は円卓へ腰を下ろした。

 アルも静かに周囲を見回す。

 この場にいる獣人たちは皆、歴戦の戦士なのだろう。

 座っているだけなのに、研ぎ澄まされた空気が漂っていた。

 ガレスが口を開く。

「まず現在確認されている異変について、ご報告します」

 部屋が静まり返る。

「北方各地で、本来なら共存しない魔物同士が群れを作って行動しています」

「私たちはすでに二度、その群れと交戦しました」

 ガルドが腕を組む。

「混成の群れか」

「そうです」

 ガレスは頷いた。

「ゴブリン、オーク、グレイウルフ」

「本来なら縄張りも生態も異なる魔物です」

「ですが、まるで統率されているかのように連携して襲撃してきました」

 族長の隣に座る虎族が眉をひそめる。

「そんな話は聞いたことがない」

「我々も同じです」

 ガレスは続けた。

「さらに最初の襲撃では、黒いローブを纏った人物を確認しています」

「その者は魔物を操り、特殊な魔石を使用していました」

 室内にざわめきが広がる。

「魔石だと?」

「魔物を操る?」

 熊族の長が低く唸る。

 ガレスは机へ布に包んだ魔石を置いた。

 ドワーフ領で調査した、特殊魔石だ。

「これが、その魔石です」

 ガルドは静かに手に取る。

 しばらく見つめたあと、小さく首を振った。

「……見たことがない」

「我らの国にも、このような鉱石は存在せん」

 アルは静かにその様子を見守っていた。

 ドワーフ族と同じ反応だった。

 やはり、この魔石はどの種族にとっても未知なのだ。

 ガレスはさらに続ける。

「ですが、三日前の襲撃では状況が変わっていました」

「混成の魔物は現れました」

「しかし黒ローブは現れず、特殊魔石も残されていませんでした」

 その言葉に、室内の空気がさらに重くなる。

「姿を見せなくなった……」

 豹族の長が静かに呟く。

「それとも、別の方法で操っているのか」

 誰にも答えはない。

 分かっているのは異変だけだった。

 ガルドは深く息を吐く。

「厄介な話だな」

「北方全体へ広がれば、我らだけでは済まん」

「だからこそ皆様へ情報共有に参りました」

 ガレスは深く頭を下げた。

「今後、互いに情報を共有しながら調査を進めたいと考えています」

 その時だった。

 不意に、部屋の外からゆっくりと足音が聞こえてきた。

 コツ……

 コツ……

 コツ……

 静かな館に、その足音だけが不思議なほど大きく響く。

 すると――

 ガルドの表情が変わった。

 カインも弾かれたように立ち上がる。

 それだけではない。

 部屋にいた獣人たち全員が、一斉に姿勢を正した。

 張り詰めた空気が、一瞬でさらに重くなる。

 アルは思わず息を呑んだ。

(……誰か来る。)

 

第28話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は獣人族の国の雰囲気や、人族に対する複雑な感情を描く回となりました。

ドワーフ領とは対照的な文化や価値観を感じていただけたなら嬉しいです。

そして次回はいよいよ、重要キャラが登場します。

北方の異変について、どのような話が語られるのか。

続きも楽しみにしていただければ幸いです。

面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次回もよろしくお願いいたします。

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