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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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消えた黒ローブ

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回はドワーフ領を離れた一行が、再び異常な魔物の群れと遭遇します。

そして、ドルガンから託された片刃の剣が、ついに実戦でその力を見せます。

少しずつ広がる世界の謎とともに、お楽しみいただければ幸いです。

 ドワーフ領を出発してから三日。

 一行は北方街道を東へ進んでいた。

 岩山は少しずつ姿を変え、切り立った岩壁は緩やかな丘陵へと移り変わっていく。

 遠くには深い森林が広がり、その向こうには獣人族の国があるとグランは話していた。

「あと二日ほどで国境だ」

 地図を見ながらガレスが言う。

「予定通りだな」

 レオンも周囲を警戒しながら頷いた。

 アルは腰へ下げた片刃の剣へそっと手を添える。

 ドルガンから託された剣。

 まだ一度も抜いてはいない。

 戦うためというより、失いたくないという思いの方が強かった。

 だからこそ、できれば最後まで抜かずに済ませたいとも思っていた。

(異界の民……)

(結局、何も分からなかった)

 旅は再び始まった。

 それでも頭の片隅から、その言葉が消えることはない。

 考えても答えは出ない。

 だから今は前を向くしかなかった。

 その時だった。

 レオンが足を止める。

「止まれ」

 一瞬で空気が張り詰めた。

 全員が武器へ手を掛ける。

 レオンは周囲へ鋭い視線を巡らせる。

「……囲まれてる」

 低い声が森へ響いた。

 次の瞬間だった。

 ガサッ!!

 左右だけではない。

 前方、後方、木々の上。

 あちこちの茂みが一斉に揺れ始める。

 飛び出してきたのはゴブリン。

 一体、二体――いや、十体近い。

 さらに巨大なオークが五体。

 その後方からは牙を剥いたグレイウルフが十頭近く姿を現した。

 獰猛な唸り声が森を震わせる。

 ガレスが眉をひそめた。

「数が多い……!」

 イザベラも杖を構える。

「また混成……!」

 本来なら同じ場所へ現れることなどない魔物たち。

 それが一つの群れとしてこちらを包囲している。

 やはり異常だった。

 ガレスが叫ぶ。

「陣形を崩すな!」

「周囲を警戒しろ!」

「黒ローブがいる可能性がある!」

「了解!」

 返事と同時に魔物たちが雪崩のように襲い掛かってきた。

 レオンが木々を蹴って一気に前へ出る。

「各自迎撃!」

 ガレスが続いて飛び出す。

 一閃。

 先頭のゴブリンが首を飛ばされる。

 グランも雄叫びを上げた。

「どけぇぇっ!!」

 巨大な戦斧が唸りを上げる。

 真正面から突進してきたオークがまとめて吹き飛んだ。

 イザベラの雷撃が森を走る。

「ライトニング!」

 轟音とともに雷が炸裂し、後方のウルフ数頭が地面へ転がる。

 アルも静かに息を吐く。

(……使わせてもらいます)

 腰へ手を伸ばす。

 ドルガンから託された片刃の剣。

 静かに柄を握る。

 キィン――。

 鞘から抜き放たれた刀身は、朝日に照らされ白銀に輝いた。

 細身の刀身。

 緩やかな反り。

 刃には波打つような模様が静かに浮かんでいる。

 グランが横目でその姿を見る。

「ようやく抜いたか」

 次の瞬間。

 四体のゴブリンが一斉に飛び掛かってきた。

 アルは反射的に魔力を流す。

「ブースト!」

 風魔法をその身へ纏う。

 身体がふっと軽くなる。

 一瞬でゴブリンとの間合いを詰めた。

 刹那の瞬間……

 アルは踏み込んだ足を始点に大きく薙ぎ払う様に刀を振りぬく。

 一閃。

 ズッ――。

 ほとんど抵抗がなかった。

 三体のゴブリンが同時に両断される。

 そのまま返す刃で最後の一体も斬り伏せた。

 アル自身が目を見開く。

(なっ……!)

(なんだ!この切れ味!)

 切った感触がほとんどない。

 刃が滑るように肉を裂いていく。

 まるで刀身そのものが、肉を裂くように滑っていく。

 しかし考える暇はない。

 巨大なオークが雄叫びを上げて突進してくる。

 分厚い脂肪と筋肉。

 普通の剣なら深くは入らない。

 アルは静かに刀身へ魔力を流した。

「エンチャント・ライトニング」

 バチバチッ――。

 青白い雷が刀身全体を駆け巡る。

 空気が焦げる臭いが漂った。

 オークが大木のような腕を振り下ろす。

 アルは一歩踏み込み、袈裟斬りを放った。

 ズバァッ!!

 雷をまとった刀身は分厚い脂肪をものともせず肩口から腰まで一直線に斬り裂く。

 同時に雷撃が傷口から体内へ流れ込んだ。

 バチバチバチッ!!

 オークの身体が激しく痙攣する。

 口から白煙が漏れ、焼けた肉の匂いが立ち込めた。

 巨体は絶叫する暇もなく崩れ落ちる。

 アルは思わず刀身を見つめた。

(魔力が逃げない……)

(剣全体へ均一に伝わってる)

(これほど魔法との相性がいいのか……!)

 イザベラも驚いたように目を見開いていた。

「今の……なに?」

 だが、その時だった。

 ガウゥッ!!

 十頭近いグレイウルフが一斉に飛び掛かってきた。

 考える時間はない。

 アルは反射的に風魔法を刀身へまとわせる。

 緑色の風が刃を包み込む。

「カマイタチ!」

 ブォンッ!!

 横薙ぎ。

 鋭い風圧が刀身から放たれる。

 先頭の四頭が一瞬で両断された。

 返す刃。

 さらに三頭。

 風をまとった刃は抵抗なく身体を切り裂いていく。

 残るウルフたちも勢いを失い、その隙をレオンとグランが仕留めた。

 森は再び静けさを取り戻す。

 グランが目を丸くする。

「おいおい……」

「あの剣……」

 レオンも静かに頷く。

「恐ろしい切れ味だな」

 ガレスもアルの刀身へ視線を向けた。

(ドルガンの未完成品……)

(あれで未完成だというのか)

 アルは静かに刃を見下ろす。

 血はほとんど付着していない。

 刃こぼれもない。

 美しい輝きは、戦う前と何一つ変わらなかった。

(切れ味だけじゃない)

(魔法との親和性が異常に高い)

 ガレスが剣を払い、森の奥へ視線を向ける。

「……黒ローブは?」

 誰も答えない。

 レオンは気配を探るように目を閉じた。

「気配はない」

 イザベラも周囲を見回す。

「でも、この魔物たちの動きは普通じゃない……」

 アルは静かに刀を鞘へ納めた。

 混成の魔物。

 黒ローブはいない。

 それでも異常だけは確かに存在する。

(操っている者がいない……?)

(いや……)

(見えないだけなのか……)

 新たな疑問だけを残し、森には再び静寂が戻っていた。


 全員が森の奥を見つめている。

 アルも周囲へ《鑑定》を向けた。

 木々の間。

 岩陰。

 枝の上。

 魔力反応を探る。

 だが――。

「……いない」

 思わず口にする。

 ガレスも同じ結論へ至ったようだった。

 グランが辺りを見回す。

「逃げた様子もねぇ」

「最初から姿が無かった」

 レオンが倒れた魔物を調べる。

「操られていた痕跡はある」

「だが指揮していた奴が見当たらない」

 イザベラが小さく息を吐く。

「どういうことなの……」

 アルは倒れたオークを見下ろいた。

 魔力の流れは、以前遭遇した魔物たちと酷似している。

 間違いない。

 何らかの力で狂暴化させられている。

 だが。

(今回は誰もいなかった)

(偶然なのか……)

(それとも)

 黒ローブたちは、もう姿を見せる必要すらなくなったのか。

 そんな考えが脳裏をよぎる。

 嫌な予感だけが、静かに胸の奥で膨らんでいった。

 戦闘が終わると、一行は周囲の警戒を続けながら魔物の死骸を調べ始めた。

 ガレスは剣を納めることなく、辺りへ視線を巡らせる。

「黒ローブが残した物はないか」

「魔石も確認してくれ」

「了解」

 レオンとグランがそれぞれ倒れた魔物へ近付く。

 アルも《鑑定》を発動し、一体ずつ確認していった。

 ゴブリン。

 オーク。

 グレイウルフ。

 どの個体も魔力の流れには違和感があった。

 しかし――。

「ありません」

 アルは首を横に振った。

「特殊魔石は見当たらない……」

 セレスも静かに頷く。

「私も同じです」

「以前のような魔力反応は感じません」

 グランが腕を組む。

「妙だな」

「前はあの気味悪ぃ魔石が残ってた」

「今回は何もねぇ」

 ガレスも険しい表情を浮かべる。

「敵が回収した……とも考えたが」

 レオンが森の奥を見つめたまま答える。

「逃げた形跡がない」

「戦闘中も気配は感じなかった」

 イザベラが小さく呟く。

「じゃあ、どうして……」

 誰も答えられなかった。

 魔物は間違いなく異常だった。

 それは全員が理解している。

 にもかかわらず、黒ローブの姿は最後まで現れなかった。

 アルは静かに考える。

(魔物だけを送り込んだ?)

(それとも……)

(もう黒ローブ自身が前へ出る必要が無くなった?)

 嫌な想像ばかりが頭をよぎる。

 答えは出ない。

 ガレスが静かに口を開いた。

「ここで考えていても仕方ない」

「先へ進もう」

「獣人族にも、この件は伝えなければならない」

 一同が頷く。

 倒れた魔物をその場へ残し、一行は再び街道を歩き始めた。

 山道を抜ける風が、木々を静かに揺らす。

 戦いは終わった。

 しかし胸の中に残る不安だけは消えない。

 黒ローブたちは、どこへ消えたのか。

 特殊魔石は、なぜ残されていなかったのか。

 そして、この異変はどこまで広がっているのか。

 分からないことは、むしろ増えていた。

 歩き続けて半日ほど。

 広大な草原が視界いっぱいへ広がり始める。

 遠くには深い森。

 さらにその先には、高い見張り台らしき影が見えていた。

 カインが前方を指差す。

「あそこから先が俺たちの領域だ」

 ガレスも小さく息を吐く。

「ようやく着いたか」

 アルは広がる景色を見つめながら、小さく拳を握る。

 ドワーフ族の次は獣人族。

 北方を巡る旅は、まだ始まったばかりだった。

 その一方で。

 誰にも気付かれぬ森の奥深く。

 一本の木の陰で、小さな黒い鳥が一行を見送るように羽を震わせる。

 その赤い瞳だけが、不気味な光を宿していた。

 そして次の瞬間。

 鳥は音もなく空へ舞い上がり、北の空へと消えていった。



第27話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回はアルが初めてドルガンの片刃の剣を実戦で使用しました。

ドルガン自身は「未完成」と語っていましたが、その切れ味や魔法との相性は、アル自身も驚くほどの性能を見せています。

一方で、これまでと同じように混成の魔物が現れたにもかかわらず、黒ローブの姿は最後まで確認できませんでした。

異変は続いているのに、状況は少しずつ変化しています。その理由は何なのか――物語も少しずつ核心へ近づいていきます。

次回はいよいよ獣人族の国へ。

新たな出会いと、新たな真実が待っています。

少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次回もよろしくお願いいたします。

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