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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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19/60

領主の決断

戦闘は終わりましたが、事件の全貌はまだ見えてきません。

仲間たちが持ち帰った情報をもとに、少しずつ物語が大きく動き始めます。

お楽しみいただけましたら幸いです。

 一行は応接室へ案内された。

 扉が開く。

 部屋の奥にはエルディオン・フォン・ヴァルクレインが静かに腰掛けていた。

 全員が一礼する。

「堅苦しい挨拶はいい」

 低く落ち着いた声が響く。

 エルディオンはローガンとガレスを順に見つめた。

「ローガンまで同行しているということは、やはりただ事ではないな」

 ローガンは静かに頷く。

「はい」

「本日は、辺境伯閣下にも共有すべき案件と判断いたしました」

「聞こう」

 短い言葉だった。

 だが、その一言には領主としての威厳があった。

 ガレスが一歩前へ出る。

「今回の依頼は、北部森林で発生した魔物異常の調査でした」

 淡々と語り始める。

 異常な魔物。

 異種族調査隊との遭遇。

 共闘。

 森の奥で発見した黒ローブたち。

 儀式。

 戦闘。

 特殊魔石。

 捕らえた男の自害。

 そして最後に残した言葉。

「……『神の御心のままに』」

 部屋が静まり返る。

 エルディオンは指を組み、しばらく考え込んでいた。

「なるほど」

 静かに呟く。

「魔物異常そのものは現象に過ぎなかったということか」

「その裏で誰かが糸を引いている」

「その可能性が高いと思われます」

 ローガンが答える。

 エルディオンはゆっくり立ち上がった。

「さらに」

「異種族領でも同様の現象が起きているということだな」

 視線をグランたちへ向ける。

 グランが力強く頷く。

「はい」

「ドワーフ領でも確認しています」

 リシェルも続く。

「エルフ族でも同じです」

 カイン。

「獣人族も例外ではない」

 セレスも静かに口を開く。

「そして、あの特殊魔石には……」

 一瞬だけ言葉を止める。

「命を材料として造られたという伝承があります」

 エルディオンの表情が初めて大きく変わった。

「……命だと?」

 部屋に重苦しい空気が流れる。

 やがてエルディオンは窓の外へ目を向けた。

「北方全域で同時多発」

「異種族を含めた被害」

「未知の組織」

「特殊魔石」

 一つ一つ整理するように呟く。

 そして静かに結論を口にした。

「これは辺境伯領だけの問題ではない」

「中央へ報告せねばなるまい」

 ローガンも深く頷いた。

「私も同意見です」

 エルディオンは再び一同を見渡した。

「だが、その前に」

「我々自身が把握できる情報は集めなければならん」

 その瞳には、領地を預かる者としての強い決意が宿っていた。

 部屋に静かな沈黙が流れた。

 エルディオンは窓の外へ視線を向けたまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「北方だけでこれほどの異変が同時に起きている……」

「偶然ではあるまい」

 その一言に、誰も異論を唱えなかった。

 魔物の暴走。

 黒ローブ。

 特殊魔石。

 どれ一つとして偶然で片付けられるものではない。

 やがてエルディオンは振り返る。

 その表情は、一人の父ではなく、この地を預かる領主のものだった。

「グラン殿」

「リシェル殿」

「カイン殿」

「セレス殿」

 四人は姿勢を正す。

「此度は偶然とはいえ、共に戦っていただいたこと、辺境伯として礼を申し上げる」

 そう言って深々と頭を下げた。

 その姿にグランたちは目を見開く。

「閣下!」

 ローガンが慌てて声を上げる。

「お立場が……」

 エルディオンは静かに首を横へ振った。

「よい」

「今回の件は、もはや人族だけの問題ではない」

「この北方に暮らすすべての者に関わる問題だ」

 その言葉に、リシェルは静かに微笑んだ。

「エルフ族も同じ考えです」

「森を守る者として、異変を見過ごすことはできません」

 グランも大きく頷く。

「ドワーフも同じだ。」

「敵が共通なら、争ってる場合じゃねぇ」

 カインは腕を組んだまま、小さく息を吐く。

「獣人族も協力は惜しまない」

「族長が納得すれば、だが」

 その言葉にエルディオンは静かに頷いた。

「十分だ。」

「だからこそ、正式に協力をお願いしたい」

 全員が耳を傾ける。

「私は各種族の長へ親書を書く」

 ローガンが目を細めた。

「親書……ですか」

「ああ」

 エルディオンは即答する。

「辺境伯として、この北方で起きている異変を正式に共有する」

「そして、この事件の解決に向け協力を要請したい」

 ガレスが口を開く。

「確かに、それが一番早ぇ」

「情報は多い方がいい」

「うむ」

 エルディオンは執事のセバスティアンへ視線を向ける。

「セバス」

「至急、準備を」

「承知いたしました」

 セバスティアンは一礼すると静かに部屋を後にした。

 エルディオンは再びガレスたちへ向き直る。

「そして」

「アズール・イージスへ、新たな依頼を正式に発令する」

 ガレスたちの表情が引き締まる。

「内容は二つ」

「第一に、この特殊魔石を各種族へ持参し、情報を集めること」

「第二に、各族長へ私の親書を届け、今回の件について協力を仰ぐこと」

 ローガンも大きく頷いた。

「ギルドとしても異論ありません」

「正式依頼として受理しましょう」

 ガレスは静かに胸へ拳を当てた。

「承知しました」

「責任を持って届けます」

 グランが苦笑する。

「結局、俺たちも帰る方向は同じってわけか」

「そのようですね」

 リシェルも穏やかに笑う。

 重苦しい空気が、ほんの少しだけ和らいだ。

 その言葉に部屋の空気が少しだけ和らぐ。

 エルディオンは満足そうに頷いた。

「諸君らの協力に感謝する。」

 そして、少しだけ表情を柔らかくした。

「今日は身体を休めて頂こう」

「ガレス達もまずはご苦労だった。今夜はしっかり休んでくれ」

「帰って早々申し訳ないが明日の朝、急ぎ出立してくれ」

 その一言にガレスも深く頷いた。

「了解しました」

「では今夜のうちに装備を整えます」

 ローガンも続ける。

「ギルドでも必要な物資を準備しておこう」

 エルディオンは再びセバスティアンへ視線を向けた。

「すまん」

「グラン殿たちには客人として部屋を用意させる」

「今夜はこちらで休んでいただく」

「かたじけない」

「お言葉に甘えさせていただこう」

 グランが礼を言うと

「ここに泊まるのか?」

 カインは領主邸に泊まることに抵抗があるようだった。

「こういう時はご厚意に甘えさせてもらうもんだ」

「わかったよ」

 カインも渋々了承した。 

「アズールも今日は解散だ。」

「各自、武具の整備と旅支度を済ませ、明朝ギルド前へ集合してくれ。」

「了解!」

 ガレスたちの声が重なった。

 こうして会議は終了した。

 新たな依頼。

 新たな旅。

 そして、この北方に潜む未知の脅威。

 すべては、明日の朝から再び動き出す。


 しかし。

 アルだけは黙ったままだった。

 机の上へ置かれた革袋。

 その中に眠る特殊魔石を見つめる。

(あれは……。)

(本当に命を材料にしているのか。)

 鑑定で見た文字が脳裏から離れない。

 血液。

 肉体組織。

 多種族由来。

 どれも理解したくない情報だった。

 もし本当に、人を材料として造られた魔石なのだとしたら。

 この事件は、単なる魔物異常などではない。

 もっと根深く、もっとおぞましい何かが、この北方で動き始めている。

 アルは誰にも気付かれないよう、小さく拳を握り締めた。

 研究者として。

 そして、この世界に生きる一人として。

 自分も、この謎から目を背けることはできないのだと。


 その夜 

 アルは食堂に向かうと、夕食の準備はすでに整っていた。

「アル、おかえり。」

 母は穏やかな笑みを浮かべる。

「大変だったそうね」

 アルは小さく笑って頷いた。

「うん」

「少しね」

 父は席に着きながら言った。

「ガレスから内々に詳しい話を先ほど聞いた」

「よく仲間を守った」

 その一言だけだった。

 だが、それだけで十分だった。

「おかわりいかがですか?」

 リリアもどこか嬉しそうにアルの世話をする。

 家族と囲む温かな食卓。

 湯気の立つ料理。

 穏やかな会話。

 戦場とはまるで別世界だった。

 だからこそ、その温かさが胸に染みる。


 その夜。

 夕食を終えたアルは、自室で窓を開けた。

 夜風が静かに頬を撫でる。

 空を見上げると、無数の星が瞬いていた。

 ふと、今日の戦いが脳裏によみがえる。

 雷鳴。

 閃光。

 そして。

 黒ローブが倒れる瞬間。

(……俺が)

 自分の魔法で、人を殺した。

 守るためだった。

 仲間を救うためだった。

 それでも。

 胸の奥に残る重さは消えない。

 前世では研究室で理論を積み上げてきた。

 だが、この世界では。

 知識が、人を救う力にも、人を殺める力にもなる。

 その現実を、今日初めて理解した。

 拳を静かに握る。

(……二度と)

(力を、間違った使い方はしない)

 そう心に誓う。

 そしてもう一つ。

 あの特殊魔石。

 あれが何なのか。

 黒ローブたちは何者なのか。

 その答えを必ず突き止める。

 アルは静かに窓を閉めた。

 明日、新たな旅が始まる。

 まだ誰も知らない真実を追うために。


第18話をお読みいただき、ありがとうございました。

今回は派手な戦闘ではなく、事件の整理と今後へ向けた準備が中心となる回でした。

黒ローブたちの存在、特殊な魔石、そして各種族へ広がる異変。

少しずつですが、この世界の裏側が姿を現し始めています。

次回からは、新たな依頼を受けたアズール一行が各種族の領地へ向かいます。

世界観もさらに広がっていきますので、楽しんでいただければ嬉しいです。

面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次回もよろしくお願いいたします。

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