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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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18/62

報告

今回は、森での出来事をギルドへ報告する回となります。

戦いは終わりましたが、事件の全容はまだ見えません。

少しずつ明らかになる謎と、それぞれの思惑を楽しんでいただけたら嬉しいです。

それでは、本編をお楽しみください。

 ギルド二階の会議室、一階の喧騒は嘘のように遠ざかった。

 部屋にはギルドマスター・ローガンを中心に、アズール・イージスの面々、そして異種族調査隊のグラン、リシェル、カイン、セレスが並んでいる。

 ローガンは全員の表情を一人ずつ見回した。

 普段なら冗談の一つでも飛ばす男だったが、今は違う。

 誰一人として笑っていなかった。

「人為的とはどういうことだ?」

 低く呟き、腕を組む。

「魔物を人が操ってるとでもいうのか?」

「そんなこと聞いたこともないぞ」

「詳しく聞かせろ」

 ガレスは静かに頷いた。

「最初は縄張り争いか、繁殖期による暴走かとも考えたが……」

「現地へ着いてすぐ、その考えは間違いだと分かった」

 ローガンは黙って耳を傾ける。

「通常じゃあり得ねぇが、種の違う魔物が一緒になって暴れていた」

「しかも連携まで取ってやがった」

 ローガンの眉がわずかに動く。

「連携?」

「ああ」

「偶然とは思えねぇ」

「誰かが意図的に誘導してるとしか考えられねぇ」

 その言葉に、部屋の空気が重くなる。

 ローガンは静かに顎へ手を当てた。

「それで?」

「森の奥で、こいつらと遭遇した」

 ガレスがグランたちへ視線を向ける。

「彼らも各種族から派遣された調査隊だった」

 ローガンは驚いたように目を細める。

「あんたたちも動いていたのか」

 今度はグランが口を開いた。

「俺たちドワーフの領域でも異常は起きていた」

「魔物が突然凶暴化し、縄張りを無視して暴れ始めた」

 続いてリシェルが静かに言葉を継ぐ。

「エルフの森でも同じです」

「精霊たちが怯え、森全体が落ち着きを失っていました」

 カインも腕を組んだまま短く言う。

「獣人族領でも似た報告が上がっている」

 ローガンは息を吐いた。

「つまり……」

「人族だけの問題じゃねぇってことか」

「ああ」

 ガレスは頷く。

「だから共闘することになった」

「原因を探るためにな」

 ローガンはゆっくりと椅子へ深く腰掛ける。

 予想以上に話が大きい。

 領地一つでは済まない。

 そんな予感が胸をよぎる。

「……それで、原因は見つかったのか」

 部屋が静まり返った。

 ガレスは僅かに視線を伏せる。

「見つけた」

「だが、それは魔物じゃなかった」

 ローガンの表情が険しくなる。

 ガレスは静かに続けた。

「黒いローブを纏った三人組だ」

 人じゃなく魔物が原因だと思っていたローガンは、思わず目を見開いた。

 その一言で、会議室の空気がさらに張り詰める。

 ローガンは腕を組んだまま静かに言った。

「黒いローブ?」

 ガレスは頷く。

「あいつらは森の奥で魔法陣を展開していた」

「周囲には干からびた魔物の死骸が大量に転がっていた」

 ローガンの眉間に皺が寄る。

「干からびた……?」

「ああ」

「血も魔力も根こそぎ抜き取られたような有様だった」

 グランも静かに続ける。

「俺たちも最初は魔物同士の争いかと思った」

「だが違った」

「明らかに何者かが儀式のようなものを行っていた」

 ローガンの表情が険しくなる。

「儀式だと……」

 ガレスは頷いた。

「こちらに気付いた途端、奴らは魔物をけしかけてきた」

 その言葉に、ローガンは小さく舌打ちする。

「そいつらは魔物を思い通りに動かせるのか」

「ああ」

「だから、俺たちも応戦するしかなかった」

 ガレスは一度だけアルへ視線を向ける。

 アルは黙って俯いていた。

「敵は三人」

「連携も見事だった」

「正直、俺たちだけなら苦戦していたと思う」

 ローガンは少し意外そうな顔をする。

「お前がそこまで言う相手か」

「それだけ強かった」

 ガレスは迷いなく答えた。

「統率も動きも、まるで訓練された兵士みてぇだった」

 リシェルも静かに補足する。

「撤退の判断も早く、互いを守る動きにも無駄がありませんでした」

「一朝一夕で身につくものではありません」

「組織……か」

 ローガンが低く呟く。

 部屋の空気はさらに重くなる。

 やがてガレスは静かに息を吐いた。

「結果として戦いには勝った」

「三人のうち二人は戦死」

「一人だけ生き残った」

 ローガンが身を乗り出す。

「捕らえたのか」

「ああ」

「フィオナが治癒して、尋問できる状態までは戻した」

 フィオナが苦い表情で頷く。

「命だけは繋ぎ止められたと思ったんです」

 言葉を詰まらせる。

 ローガンは察したように静かに促す。

「続けろ」

「突然笑ったんです」

 応接室が静まり返る。

「そして懐から小瓶を取り出して……」

「迷うことなく飲み干しました」

「毒か」

「はい」

「すぐに解毒も治癒も重ねました」

「でも……」

 フィオナは悔しそうに拳を握る。

「効きませんでした」

 ローガンの目が鋭くなる。

「普通の毒じゃねぇな」

「私も初めて見ました」

「命そのものを削り取るような感じでした」

 部屋の誰も言葉を発しない。

 静寂の中、ガレスが低く口を開いた。

「死ぬ直前」

「あいつはこう言った」

 ガレスは当時を思い返すように目を閉じる。

「――神の御心のままに」

 その一言が応接室へ重く落ちた。

 ローガンは何も言わない。

 腕を組んだまま、長い沈黙を続ける。

 やがて静かに呟いた。

「宗教……か?」

 するとセレスがゆっくり首を横へ振った。

「おそらくは……」

「命令を絶対視している者の目でした」

 カインも短く頷く。

「捕まるくらいなら死を選ぶ」

「普通の盗賊連中にできる事じゃない」

 ローガンはゆっくり息を吐く。

「何者なんだ……」

「かなり根が深そうだな」

 ガレスは静かに頷いた。

「そして」

「もっと厄介な物も見つかった」

 そう言うと、机の上へ一つの革袋を置く。

 部屋にいる全員の視線が、その袋へ集まった。

 ガレスは机の上へ置いた革袋を静かに開いた。

 中から現れたのは、拳ほどの大きさを持つ黒く濁った魔石。

 部屋の灯りを受けても鈍く光るだけで、美しい輝きは一切ない。

 むしろ見つめているだけで胸の奥がざわつくような、不気味な存在感を放っていた。

 ローガンはゆっくりと手を伸ばす。

「これが……」

 慎重に持ち上げる。

 ずしりとした重み。

 普通の魔石と変わらないはずなのに、どこか嫌な感触が手へ伝わってきた。

「妙だな……」

 魔力を流し込んでみる。

 しかし反応はない。

 魔道具へ使われる通常の魔石とは明らかに違っていた。

「こんな魔石は見たことがねぇ」

 静かな一言だった。

 だが、その場にいた誰もが同じ気持ちだった。

「俺たちも初めて見た」

 グランが腕を組む。

「ドワーフの里にもこんな物は存在しない」

 リシェルも続く。

「エルフ族にも記録はありません」

「精霊石とも全く違います」

 カインは短く言った。

「獣人族でも見たことはない」

 ただ一人。

 セレスだけは魔石を見つめ続けていた。

 ローガンが視線を向ける。

「何か知っているのか」

 セレスは少しだけ迷うように唇を噛む。

「知っている……というより」

「昔、文献で読んだことがある」

 一同の視線が集まる。

「命を材料にして造る魔石がある、と」

 部屋の空気が一瞬で凍り付いた。

「……何だと?」

 ローガンが低く問い返す。

 セレスは小さく頷く。

「子どもの頃に読んだ、古い禁書で」

「実在しない伝承の類だと思ってた」

「でも……」

 目の前の魔石を見つめる。

「この禍々しい気配だけは、記述とよく似ているの」

 誰も口を開けなかった。

 命を材料にする。

 そんな魔石が本当に存在するのなら。

 黒ローブたちの儀式。

 干からびた魔物。

 そして森に転がっていた死骸。

 すべてが一本の線で繋がってしまう。

 ローガンは深く息を吐いた。

「……笑えねぇ話だ」

 そう呟くと魔石を革袋へ戻した。

「この件はギルドだけで抱え込める話じゃない」

 ガレスも頷く。

「ああ」

「俺もそう思う」

 ローガンは静かに立ち上がった。

「今すぐ辺境伯へ報告する」

「このまま放置すれば、領地だけの問題じゃ済まなくなる」

 誰も異論はなかった。

 ガレスたちも立ち上がる。

「全員で行こう」

 一行は会議室を後にした。

 ギルドを出ると、夕暮れの城下町は少しずつ夜の気配へ染まり始めていた。

 ローガンを先頭に歩き出す。

 その後ろをガレスたちが続く。

 さらに異種族調査隊も歩き出した。

 やがて領主邸が見えてくる。

 白い石造りの屋敷。

 辺境伯領の中心として威厳を放つ建物だった。

 門前で衛兵が敬礼する。

「アル様、お帰りなさいませ」

「アズールの皆さま、ローガン殿ご苦労様です」

 そして異種族調査隊の面々に目をやり、

 そちらの方々はお客人でいらっしゃいますか?」

 アルが答える。

「父上に至急の報告があるんだ」

「僕がみんなを案内するから先に取り次いでもらえるかな」 

 ローガンが続いて言う。

「緊急の案件だとお伝えいただきたい」

 衛兵は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに姿勢を正す。

「承知しました」

「ただちにお取次ぎいたします」

 そう言って屋敷の中へ駆け込んでいった。

 その様子を見つめていたグランが、小さくアルへ視線を向ける。

「おまえ……領主の息子なのか?」

 アルは少し困ったように笑った。

「えっと……。」

 言い淀むアルに代わって、ガレスが肩を竦める。

「言ってなかったか」

「こいつはアルフレッド・フォン・ヴァルクレイン」

「辺境伯閣下の次男坊だ」

 一瞬。

 空気が止まった。

「……は?」

 グランが固まる。

 リシェルも目を見開いた。

「え……?」

 セレスはアルと屋敷を何度も見比べる。

 カインですら珍しく驚きを隠せなかった。

「領主の……息子?」

 アルは照れ臭そうに頭を掻く。

「黙っていて、ごめんなさい」

 グランは思わず頭を抱えた。

「いやいやいや!」

「普通言うだろ!」

「領主の息子が最前線で魔物と戦うなんて聞いたことねぇぞ!」

 その言葉に場の空気が少しだけ和らぐ。

 だが、その空気も屋敷の扉がゆっくりと開くと同時に再び引き締まった。

 執事セバスティアンが一礼する。

「皆様、お待ちしておりました」

「旦那様がお会いになります」

 ローガンは静かに頷いた。

「行こう」

 領地の未来を左右する報告が、今まさに始まろうとしていた。


第18話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は戦闘後の報告が中心となりましたが、黒ローブたちの目的や特殊魔石など、新たな謎がさらに深まる回でもありました。

そして最後には、アルの正体を知ったグランたちの反応も描いています。

次回はいよいよエルディオンも交え、この異変への本格的な対応が動き始めます。

少しでも続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次回もよろしくお願いいたします。

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