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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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16/63

覚醒

いつもお読みいただきありがとうございます。

前話では、森で謎の黒ローブたちと遭遇したアルたち。

そして今回、アルは仲間を守るため、自らの力を解放することになります。

ぜひ最後までお楽しみください。

 森全体がざわめく。

 枝葉が揺れ。

 大気そのものが震え始める。

 アル自身も驚いていた。

(制御しろ)

(暴走させるな)

 魔力が暴走すれば、敵だけでは済まない。

 仲間まで巻き込んでしまう。

 だが、それ以上に強かったのは――。

(守る)

 その一心だった。

 フィオナへ向けられた黒い魔法陣。

 放たれようとしている一撃。

 間に合わない。

 考えるよりも先に身体が動いた。

 アルは静かに右手を前へ突き出した。

 胸の奥から溢れ出した膨大な魔力が腕を駆け抜け、指先へ集中していく。

 大気が震える。

 木の葉が舞い上がり、地面の砂が小さく跳ねる。

 イザベラは、その魔力量に息を呑んだ。

「アル……?」

 魔力量が規格外なのは知っていた。

 それでも。

 今、目の前にあるそれは別物だった。

(考えろ)

(魔法は現象だ)

 前世で幾度となく検証してきた思考。

 魔法もまた現象を再現する技術。

 ならば必要なのは、起こしたい現象を明確に思い描くこと。

 今、この場で必要なのは攻撃ではない。

 まず守ること。

(地面を隆起させる)

(圧縮し、壁として固定する)

 イメージが完成した瞬間、魔力が一気に形を成した。

「――《グラウンドウォール》!」

 轟音が森を揺らした。

 ゴゴゴゴゴッ!!

 フィオナの目前で大地が激しく隆起する。

 圧縮された岩盤が幾重にも重なり、厚い岩壁となって一瞬で立ちはだかった。

 直後。

 黒ローブの魔法が炸裂する。

 ドォォォン!!

 黒い魔力弾が岩壁へ激突し、爆炎が巻き起こる。

 衝撃で無数の岩片が飛び散った。

 しかし。

 壁は砕けない。

 大きくひび割れながらも、その奥にいるフィオナへ一撃たりとも届かなかった。

「何……?」

 フィオナが呆然と呟く。

「アルが……?」

 ガレスも目を見開く。

 だがアルは止まらない。

 膨大な魔力がなおも身体の中を巡り続けている。

(まだ収まらない……)

(なら、流れを作る)

 魔力は止めるものではない。

 制御し、放出する。

 川の流れを堰き止めれば決壊するように、魔力も出口を作らなければ暴走する。

 アルは右手を黒ローブへ向けた。

(水を圧縮する)

(ライフルの弾丸のように)

(高圧の水流を一点へ収束させる)

「――《ウォーターバレット》!」

 バシュッ!

 空気を裂く鋭い音。

 圧縮された水弾が一直線に放たれる。

 その速度は、以前アズールの仲間たちへ披露した《バレット》とは比べ物にならなかった。

 魔力量が桁違いだった。

「なっ……!」

 レオンが思わず声を漏らす。

 黒ローブも反応する。

 身体を大きく捻り、紙一重で回避した。

 だが完全には避け切れない。

 水弾が肩口を掠める。

 バシュッ!

 ローブが裂け、鮮血が飛び散った。

「……!」

 黒ローブが初めて苦悶の声を漏らす。

 水弾は勢いを失わない。

 そのまま背後の巨木へ直撃した。

 ドゴォォン!!

 爆発にも似た轟音。

 直径数メートルはある大木の幹が深々と抉れ、木片が四方へ飛び散る。

 衝撃で木全体が大きく軋み、周囲の枝葉が激しく揺れた。

「嘘だろ……」

 グランが息を呑む。

「水魔法で……あの威力……」

 イザベラも驚きを隠せなかった。

 アルが初めて見せた水魔法とは、明らかに違う。

 威力は数段階跳ね上がっている。

(魔法そのものを……成長させている。)

 教師として、その事実が信じられなかった。

 一方、黒ローブたちは一瞬で判断を下す。

 三人は散開した。

 互いの死角を補うように距離を取り、三方向からアルを包囲する。

 その動きは一切の無駄がない。

 まるで一つの生き物のような連携だった。

「囲まれる!」

 レオンが鋭く叫ぶ。

 三人の黒ローブが同時に地面を蹴る。

 三方向から寸分違わぬ速度で迫ってきた。

 アルは静かに目を細める。

(連携……)

(三位一体か。)

 敵は一人ではない。

 ならば、狙うべきは個ではなく――連携そのもの。

 アルの瞳が静かに細められた。

(ならば――)

(まとめて連携を崩す)

 アルは地面へ掌を向ける。

「――《バースト》!」

 ドォォォォン!!

 三人の中央で圧縮魔力が一気に炸裂した。

 爆風が森を揺らす。

 土砂が舞い上がり、視界が一瞬で白く染まる。

「爆発した!」

 グランが叫ぶ。

 爆風によって三人の距離を強制的に引き離した。

 三人は互いの位置を見失い、連携が一瞬だけ崩れた。

(よし!今だ!)

 アルは左手を横へ払う。

「――《ウィンド サイス》!」

 圧縮された風刃が死神の鎌のように一直線に走る。

 黒ローブたちは咄嗟に飛び退く。

 回避は成功した。

 しかし。

 ズガガガガガッ!!

 風刃は背後の巨木を次々と切断していく。

 幹が裂ける。

 枝が折れる。

 轟音とともに巨大な木々が倒れ始めた。

「何っ!」

 黒ローブの動きが初めて乱れる。

 倒木が退路を塞ぎ、三人は狭い範囲へ追い込まれた。

 アルは静かに右手を掲げる。

 掌へ莫大な魔力が集束する。

 空気が震えた。

 髪が逆立つ。

 青白い火花が幾筋も走る。

 イザベラはその魔力を感じ取った瞬間、息を呑んだ。

(雷……)

(でも違う)

(この魔力量……この制御……)

 自分が知る雷魔法とは根本から別物だった。

 アルは静かに呟く。

「――《ライトニング》!」

 その瞬間。

 空が応えた。

 轟ォォォォォォッ!!

 青白い雷柱が何本も天より降り注ぐ。

 幾筋もの雷光が森を昼間のように照らした。

 逃げ場を失った二人の黒ローブへ直撃する。

「────ッ!!」

 悲鳴すら雷鳴に呑み込まれた。

 轟音。

 閃光。

 衝撃波。

 森全体が激しく揺れる。

 二人の黒ローブはその場へ崩れ落ちた。

 もはやピクリとも動かない。

 焦げたローブから白煙だけが静かに立ち上る。

 一人だけが意識を保っていた。

「……馬鹿な」

 そう呟くと、力尽きたように膝をついた。

 右半身は焼け爛れ、煙がくすぶっている。

 ガレスが叫ぶ。

「フィオナ!息がある!」

「死なせるな!」

 フィオナはすぐに駆け寄った。

 敵とはいえ、生きている以上、情報を聞き出せる可能性がある。

 淡い緑色の治癒魔法が傷口を包み込む。

「何とかなるわ」

 ガレスが頷く。

「話を聞きたい」

 黒ローブは苦しげに咳き込んでいる。

「ごほっ……」

 レオンは弓を向けたまま警戒を続ける。

 グランは戦斧を肩へ担ぐ。

 誰一人、警戒を解かない。

 ガレスが低く問い掛ける。

「お前たちは何者だ」

「魔物を操って何を企んでいる」

 返答はない。

 俯いたまま動かない。

「ほかに仲間はいるのか」

「目的は何だ」

 なおも沈黙。

 その時だった。

 黒ローブの口元が僅かに歪む。

 笑った。

 黒ローブは懐から小さなガラス瓶を取り出すと迷いなく中身を飲み干した。

「何!?」

 フィオナが腕を掴む。

 次の瞬間。

 ビキッ。

 全身が激しく痙攣した。

 黒い血が口元から溢れ落ちる。

「毒!」

 フィオナは慌てて解毒と治癒を重ねる。

「お願い……!」

 緑の光が全身を包む。

 しかし。

「駄目……!」

「効かない!」

 男は震える唇を動かす。

「……神の……」

 掠れた声。

「御心の……」

 黒い血が滴る。

「……ままに」

 その一言を残し、男の首は静かに垂れた。

 沈黙だけが森を包み込んだ。

 ガレスが大きく息を吐いた。

「……くそ」

 大剣を肩へ担ぎながら周囲を見渡す。

「レオン」

「ああ」

 レオンは弓を構えたまま森全体へ意識を向ける。

 耳を澄まし、風の流れを感じ取り、気配を探る。

 数十秒後、小さく頷いた。

「周囲に脅威はない」

「そうか」

 ガレスはようやく剣を下ろした。

 それでも完全には警戒を解かない。

 この森で起きた出来事は、常識では説明できなかった。

 フィオナは倒れている黒ローブへ歩み寄る。

「念のため確認します」

 一人ずつ脈を診る。

 首を横へ振った。

「……こっちは即死ね」

「神の御心のままに……か」

 ガレスが低く呟く。

「一体何を信じていやがる」

 誰も答えられない。

 アルだけは、その言葉が胸に引っ掛かっていた。

(宗教……)

(いや、それだけじゃない)

(あれは命令を絶対視している人間の目だった)

 自分の命より優先する使命。

 前世でも宗教がらみの嫌なニュースを目にした。

 だからこそ不気味だった。

「持ち物を調べる」

 ガレスの指示で全員が動き始める。

 グランが一人目のローブを探る。

「金はほとんどねぇな」

 出てきたのは少量の保存食。

 乾燥肉。

 水筒。

 そして、小さなガラス瓶。

「こっちにもある」

 リシェルも同じ瓶を取り出す。

 ドノヴァンも頷いた。

「全員持ってる」

 三人とも同じものを持っていた。

 フィオナが瓶を受け取り、中身を慎重に確認する。

 透明な液体。

 臭いはほとんどない。

「自害した人が飲んだものと同じだと思う」

「解毒魔法が効かなかった」

「普通の毒じゃないわ」

 ガレスは表情を曇らせた。

「捕虜になることを最初から想定してやがる」

 レオンも低く呟く。

「徹底してるな」

「情報を漏らさないためなら、自分で命を絶つか」

 森に重苦しい空気が漂う。

 アルも黙ったままだった。

「おい」

 ドノヴァンが三人目のローブから何かを取り出した。

「これは何だ?」

 拳ほどの大きさ。

 黒く濁った魔石だった。

 しかし普通の魔石ではない。

 内部では黒い霧のようなものがゆっくりと渦を巻いている。

 まるで生き物のようだった。

「魔石……?」

 イザベラが首を傾げる。

「こんなの見たことない」

 グランも腕を組む。

「俺も初めて見る」

 リシェルも静かに首を横へ振った。

「エルフの里にも、このような魔石は存在しません」

 ガレスは手に取り、しげしげと見つめた。

「妙な気配がする」

「嫌な感じだ」

 その言葉に全員が頷く。

 魔石でありながら、生理的な嫌悪感を覚える。

 そんな代物だった。

 アルは誰にも気付かれないよう、小さく視線を落とす。

(――鑑定)

 半透明の文字が静かに浮かび上がった。

【名称】:特殊魔石

【状態】:著しく汚染

【解析結果】

・多種族由来の魔力反応を検出

・人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、魔人族の生体反応を確認

・血液成分反応あり

・肉体組織反応あり

・極めて高密度の魔力圧縮状態

・用途――解析不能

(…………)

 アルの呼吸が止まった。

 思考が一瞬、真っ白になる。

(多種族……?)

(血液……肉体組織……?)

 そんな反応が魔石から出るはずがない。

 魔石とは本来、魔物の体内で生成される魔力の結晶だ。

 人間の生体反応など存在するはずがない。

(まさか……)

 昨日見た光景が脳裏に蘇る。

 干からびた魔物。

 赤黒い魔法陣。

 生命を吸い上げるような儀式。

(あの儀式で作ったのか)

(いや……)

(これは魔物だけじゃない)

(人まで材料に……?)

 胃の奥が締め付けられる。

 吐き気を堪え、アルは小さく息を飲んだ。

 もし、この解析結果が正しいなら。

 これは魔石ではない。

 命そのものを材料として造られた、何か別の存在だ。

「アル?」

 イザベラが心配そうに覗き込む。

「顔色が悪いわ」

 アルは慌てて鑑定を解除した。

「……大丈夫」

 声は平静を装っていた。

 だが、自分でも少し震えていることが分かる。

 まだ確証がない。

 何より、この情報を聞けば皆が動揺する。

 今は持ち帰るべきだ。

 ガレスは革袋へ特殊魔石をしまった。

「ギルドへ持ち帰る」

「鑑定士にも見てもらう」

「何か分かるかもしれねぇ」

 誰も反対しなかった。

 ただ一人。

 セレスだけが、その革袋を見つめ続けている。

「……その魔石」

 小さく呟く。

「もしかして……」

「聞いた事がある……命を吸い上げて作る魔石があるって……」

 一同が振り返る。

「本当か?」

 ガレスが尋ねる。

 セレスは困ったように眉を寄せた。

「聞いた事があるだけ……」

「そんな話あり得ないと思っていたの……」

「でも、その魔石……」

 ガレスは静かに頷いた。

「コレがそうかも知れないってことか」

 セレスも小さく頷く。

 森を吹き抜ける風が、不気味に枝葉を揺らした。

 黒ローブたちは何者だったのか。

 あの儀式は何だったのか。

 そして、この禍々しい特殊魔石は、一体何のために造られたのか。

 その答えは、まだ誰にも分からない。

 ただ一つ確かなのは――。

 彼らが追っている事件は、単なる魔物の暴走では終わらないということだった。


 

第16話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回はアルにとって初めての本格的な実戦となりました。

これまで研究として積み重ねてきた知識が、「仲間を守りたい」という強い想いによって初めて本当の力として形になります。

一方で、黒ローブたちや特殊魔石の存在により、この事件が単なる魔物の暴走ではないことも少しずつ見え始めました。

次回からは、この事件の裏側にも迫っていきます。

引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。

もし面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると今後の執筆の励みになります。

よろしくお願いいたします。

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