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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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15/115

遭遇

いつもお読みいただきありがとうございます。

第15話をお届けします。

調査隊が森の異変を追う中で、これまで断片的だった謎が少しずつ形になり始めます。

そして物語は、いよいよ大きく動き出します。 

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

 翌朝。

 森には朝靄が立ち込め、木々の隙間から差し込む陽光が白い霧を淡く照らしていた。

 二つのパーティーは簡単な朝食を済ませると、静かに出発の準備を整える。

 ガレスが全員を見渡した。

「隊列は昨日決めた通りだ」

 全員が頷く。

 先頭はレオン。

 その後ろにガレス。

 中央にはアル、イザベラ、フィオナ。

 左右をグラン、リシェル、カイン、セレスが固め、最後尾をドノヴァンが警戒する。

 昨日まで露骨に敵意を向けていたカインも、今日は無言のまま隊列へ加わっていた。

 互いに信頼したわけではない。

 それでも目的は一つ。

 森で起きている異変の正体を突き止めることだった。

「出発するぞ」

 ガレスの号令とともに、一行は森の奥へ歩き始めた。

 森は静かだった。

 昨日まで耳にしていた鳥のさえずりは聞こえず、風に揺れる枝葉の音だけが小さく響いている。

 アルは周囲を見渡しながら歩く。

(静かすぎる……)

 森なら小動物の気配くらいはあって当然だ。

 しかし、感じられるのは人の足音だけ。

 まるで森そのものが息を潜めているようだった。

 その違和感は皆も感じているらしい。

 レオンが足を止め、しゃがみ込んだ。

「……足跡だ」

 全員が集まる。

 湿った地面には複数人が歩いた跡が残されていた。

 三人分。

 靴底の形も昨日リシェルたちが目撃した黒ローブと一致する。

「昨日見た奴らか」

 ガレスが低く呟く。

 レオンは地面へ触れながら頷いた。

「新しい。半日も経っていない」

 アルも足跡を観察した。

 歩幅は一定。

 乱れもない。

 誰かに追われた様子はなく、目的地へ向かって迷いなく歩いている。

(痕跡を隠そうとしていない……)

 むしろ見つけられることを気にも留めていないようだった。

「追えるか?」

 ガレスが尋ねる。

 レオンは小さく笑う。

「問題ない」

「ここまで堂々と残してくれるならな」

 その返答にリシェルが静かに口を開いた。

「誘われている可能性もあります」

 カインが腕を組む。

「罠か」

「十分あり得る」

 少しだけ沈黙が流れる。

 やがてガレスは静かに頷いた。

「だからと言って見逃す理由にもならねぇ」

「警戒は最大」

「少しでも異変を感じたらすぐ知らせろ」

「了解」

 一行は再び歩き始めた。

 足跡は森のさらに深部へ続いている。

 十分ほど進んだ頃だった。

 先頭のレオンが右手を上げる。

 全員がその場で停止した。

「……これを見ろ」

 小さく呼ばれ、全員が近寄る。

 そこには昨日倒したばかりと思われるオークの死骸が横たわっていた。

 さらに少し離れた場所にはゴブリン。

 その奥にはウルフ。

 昨日の戦場から続くように魔物の死体が点々と転がっている。

「昨日の群れか」

 グランが眉をひそめる。

 ガレスも慎重に周囲を見回した。

「こんな場所まで引きずられてきたのか?」

 アルはしゃがみ込み、オークの亡骸を観察する。

 外傷は昨日の戦いで負ったものと一致している。

 だが、それとは別の違和感があった。

(……色がおかしい)

 本来ならまだ新しい死体だ。

 それなのに皮膚は異様に乾き、血色が完全に失われている。

 まるで何日も放置され、全身から水分を抜き取られたかのようだった。

 さらに周囲の地面には、大量の血が飛び散った跡が残されている。

 しかし、その血は戦闘による飛散ではない。

(誰かが意図的に……?)

 アルは思わず眉をひそめた。

 研究者としての直感が警鐘を鳴らす。

 これは自然に起きた現象ではない。

 誰かが死骸を利用した痕跡だ。

「イザベラ」

 ガレスが小声で呼ぶ。

「何か分かるか?」

「断定はできないけど……」

 イザベラは視線を死骸から離さず答えた。

「誰かがこの死骸に手を加えているわ」

「血液だけを抜き取ったような状態ね」

 その言葉に全員の表情が険しくなる。

 フィオナが口元を押さえた。

「そんなこと……。」

 アルはゆっくり立ち上がる。

 血痕はさらに奥へと続いていた。

 いや。

 正確には、死骸が運ばれた跡とでもいうべきか。

 引きずった痕跡が一直線に森の奥へ伸びている。

 レオンは頷いた。

「まだ続いている」

「追うぞ」

 全員が息を潜めながら進み始めた。

 数分後。

 先頭のレオンが突然しゃがみ込み、拳を握る。

 停止の合図だった。

 全員が木陰へ身を隠す。

 アルも静かに幹の陰から前方を覗く。

 そこには小さな広場があった。

 広場の中央には昨日倒したと思われるオークやゴブリンの死骸が山のように積み重ねられている。

 その周囲に立つ三人の黒いローブ。

 深く被ったフードの奥は見えない。

 三人は死骸へ手をかざし、低く聞き取れない言葉を紡いでいた。

 すると。

 赤黒い光が死骸からゆっくりと立ち昇り、三人の足元に描かれた魔法陣へ吸い込まれていく。

 オークの身体がみるみる干からびていく。

 続いてゴブリンも。

 まるで生命そのものを搾り取られているかのようだった。

 アルは思わず息を呑む。

(……魔力を抽出している? いや、違う)

(これは魔力だけじゃない。何か別の"生命由来の力"まで取り出している……?)

 その異様な光景に、誰一人として言葉を発することができなかった。

 積み上げられた魔物の亡骸は急速に干からびていく。

 ゴブリン。

 オーク。

 ほかの魔獣も。

 昨日まで確かに生きていた魔物たちが、まるで長い年月を経たミイラのような姿へ変わっていく。

 誰も声を発しなかった。

 異様という言葉だけでは足りない。

 目の前で起きている現象は、常識そのものを否定していた。

 アルは目を凝らす。

(魔法陣の中心に何かある……)

 三人の黒ローブは死骸から立ち昇る赤黒い光を、一点へ集めている。

 だが、その中心は黒い霧のような魔力に覆われ、中に何があるのかまでは見えなかった。

(魔法陣が集めているのは魔力だけじゃない)

(血液……生命力……あるいは、その両方)

 断定はできない。

 だが、目の前で起きている現象は、アルが知るどの魔法とも一致しなかった。

 隣でイザベラが小さく息を呑む。

「あれは……何をしているの?」

 誰も答えられない。

 その時だった。

 黒ローブの一人が、ゆっくりと顔を上げた。

 フードの奥は見えない。

 それでも。

 こちらを見た。

 アルは背筋に冷たいものが走る。

(気付かれた)

 次の瞬間。

 三人が同時にこちらへ向き直る。

 そして、ゆっくりと口元だけを歪めた。

 笑っている。

 そうとしか思えなかった。

「……見つかった!」

 レオンが低く叫ぶ。

 ガレスも即座に立ち上がった。

「捕らえるぞ!」

 しかし。

 三人は慌てる様子すら見せない。

 魔法陣の中央へ手をかざすと、赤黒い光が一瞬だけ強く輝いた。

 バチッ――。

 空気が震える。

 次の瞬間には、三人は森の奥へ向かって一斉に駆け出していた。

「逃がすな!」

 ガレスの号令で全員が飛び出す。

 先頭を走るのはレオンだった。

 枝葉をかき分けながら、黒ローブを見失わないよう森を駆ける。

 アルも必死に後を追った。

 黒ローブたちは異様な速度で森を駆け抜けていく。

 枝を避ける動きに一切の無駄がない。

 まるで、この森の地形を知り尽くしているかのようだった。

「レオン!」

「見えている!」

 短く返事が返る。

 その距離、およそ五十メートル。

 決して追えない距離ではない。

 レオンは走りながら弓を引き絞る。

「止まれ!」

 放たれた矢が一直線に黒ローブへ迫る。

 しかし。

 黒ローブの周囲へ黒い膜が広がった。

 ガンッ!

 矢は弾かれ、木へ突き刺さる。

「障壁!」

 イザベラが叫ぶ。

 黒ローブは一度も振り返らない。

 攻撃されることを最初から予測していたかのようだった。

「距離を詰める!」

 ガレスが速度を上げる。

 あと少し。

 そう思った瞬間だった。

 黒ローブたちが大きく跳躍する。

 木々の向こうへ姿が消えた。

「見失うな!」

 レオンも飛び込む。

 全員が後に続いた。

 だが。

 そこに黒ローブの姿はなかった。

「……消えた?」

 グランが目を見開く。

 レオンは周囲を何度も見回した。

「いや……確かにここへ来た」

 足跡は途中まで続いている。

 しかし、その先がない。

 まるで空気へ溶けたように、痕跡が途絶えていた。

 アルは周囲を見渡す。

(転移……?)

 すぐにその考えを打ち消す。

 そんな魔法は、この世界では聞いたことがない。

 ならば。

「どこかに隠れている……?」

 小さく呟く。

 その時だった。

 カインが前方を指差した。

「あそこだ」

 木々の切れ目。

 そこだけ不自然に開けた空間が見える。

 人の手で作られたような、円形の広場。

 ガレスは剣の柄を握り直した。

「全員、警戒しろ」

 ゆっくりと足を踏み入れる。

 空気が変わった。

 肌にまとわりつくような、不快な魔力。

 アルは思わず息を呑む。

 広場の中央。

 そこには先ほどの場所よりも遥かに巨大な魔法陣が刻まれていた。

 赤黒い紋様が幾重にも重なり合い、複雑な文字が円を描いている。

 そして、その周囲には。

 無数の魔物の亡骸。

 オーク。

 ゴブリン。

 ウルフ。

 ホーンラビット。

 昨日倒したものだけではない。

 さらに以前に命を落としたと思われる魔物まで集められている。

 どの死骸も、例外なく干からびていた。

 まるで身体の中身だけを根こそぎ奪われたように。

「これは……」

 フィオナが青ざめる。

 アルは一体のゴブリンへ近付き、しゃがみ込んだ。

 鑑定眼は使わない。

 まずは自分の目で確かめる。

 皮膚は乾燥し、筋肉は痩せ細っている。

 だが腐敗臭はほとんどない。

 そして何より。

(血液が完全に失われている)

 昨日倒した死骸とは思えない。

 まるで何年も前の亡骸を見ているようだった。

 さらにアルの視線は魔法陣の中央へ向く。

 そこには深く抉られたような窪みだけが残されていた。

 何かを置いていた跡。

 そして、それはすでに持ち去られている。

(ここで何かを作っていた……)

 その確信だけが、静かに胸の中で形になり始めていた。

その場に漂う禍々しい魔力を前に、誰も言葉を失っていた。

 アルは魔法陣を見つめたまま、小さく息を吐く。

(これは儀式の跡だ)

(何を作ったのかは分からない。でも、この魔法陣は"何か"を生み出すために使われた)

 その時だった。

 レオンの表情が変わる。

 鋭い視線が森の上空へ向く。

 長年培われた経験が危険を告げていた。

「――伏せろッ!!」

 怒号が森へ響いた。

 直後。

 ゴォォォッ!!

 木々の上から、黒い魔力弾が雨のように降り注ぐ。

「障壁展開!」

 ドノヴァンが盾を地面へ叩き付けた。

 淡い黄金色の魔法陣が盾の前へ展開される。

 次々と黒い魔力弾が障壁へ激突した。

 轟音。

 爆風。

 衝撃で土が巻き上がる。

 障壁全体へ無数の亀裂が走った。

「ちっ……!」

 ドノヴァンが歯を食いしばる。

「威力が高ぇ!」

 しかし攻撃は止まらない。

 第二波。

 第三波。

 まるで一斉射撃だった。

「散開!」

 ガレスの指示で全員が左右へ飛び退く。

 次の瞬間。

 先ほどまで立っていた場所が爆炎に包まれた。

 土煙が一気に視界を覆う。

 アルは木陰へ身を滑り込ませながら周囲を見渡した。

(姿が見えない……)

 魔法だけが飛んでくる。

 術者の位置が分からない。

 その不気味さが一層緊張感を高めていた。

「レオン!」

「左上!」

 レオンは叫ぶと同時に矢を放つ。

 その矢には淡い風属性魔法が宿っていた。

 ヒュォンッ!

 風を纏った矢が木々を貫く。

 その瞬間。

 黒い障壁が現れ、矢を弾いた。

「いた!」

 レオンが叫ぶ。

 木の上。

 三人の黒ローブが枝へ立ち、こちらを見下ろしていた。

 その足元には、小さな黒い魔法陣。

 そこから次々と黒い魔力が生み出されている。

「イザベラ!」

「任せて!」

 イザベラが杖を掲げる。

「──《ライトニング・ランス》!」

 紫電が一直線に走る。

 雷槍は木々を裂きながら黒ローブへ迫った。

 だが。

 黒ローブは魔法陣を展開する。

 黒い障壁と雷槍が激突した。

 轟音。

 雷光が森を白く照らす。

 障壁は砕け散る。

 しかし黒ローブは既に別の枝へ飛び移っていた。

「速い!」

 グランが戦斧を握る。

「魔法だけじゃねぇ!」

 相手は常に位置を変えている。

 狙いが定まらない。

 その隙を突くように。

 ボォォッ!!

 黒い炎が地面を這った。

 蛇のようにうねりながら一行へ迫る。

「セレス!」

 カインが叫ぶ。

 セレスは即座に杖を振る。

「《フレイム・バースト》!」

 紅蓮の火球が黒炎へ衝突する。

 二つの魔法がぶつかり合い、激しい爆発を起こした。

 熱風が森を駆け抜ける。

「今だ!」

 ガレスが大剣を構える。

 黒ローブが障壁を張り直す、その一瞬。

 一直線に踏み込んだ。

 狙うのは敵ではない。

 魔法陣。

 大剣へ闘気を纏わせ、一気に振り下ろす。

 ガギィィン!!

 黒い障壁へ激突。

 魔力が火花となって飛び散る。

 障壁が大きく揺らぐ。

「レオン!」

「分かってる!」

 二本。

 三本。

 風を纏った矢が障壁の綻びへ吸い込まれる。

 黒ローブは咄嗟に後方へ跳ぶ。

 矢は木々を貫き、その背後の幹へ突き刺さった。

 アルは戦況を見つめながら拳を握る。

(強い……)

 これまで戦ってきたオークやゴブリンとは全く違う。

 連携。

 魔法。

 判断。

 全てが洗練されている。

(しかも、まだ本気じゃない)

 そう感じた瞬間だった。

 森の空気が、再び大きく震えた。

森の空気が再び震えた。

 三人の黒ローブが、まるで示し合わせたように両手を掲げる。

 足元へ幾重もの黒い魔法陣が展開された。

「来るぞ!」

 レオンの叫びと同時だった。

 無数の黒い魔力弾が空を覆う。

 一つ一つは先ほどより小さい。

 だが、その数は比較にならなかった。

「《ストーンウォール》!」

 グランが地面へ拳を叩き付ける。

 轟音とともに岩壁が隆起し、雨のように降り注ぐ魔力弾を受け止めた。

 しかし。

 ドドドドドドッ!!

 激しい爆発が連続し、岩壁が次々と砕け散る。

「押し切られる!」

 その瞬間。

「《アースシールド》!」

 ドノヴァンの盾から黄金色の光が広がる。

 砕けた岩壁の前へ半透明の障壁が重なり、残った魔力弾を受け止めた。

 衝撃で大地が震える。

 それでもドノヴァンは一歩も退かなかった。

「今だ!」

 ガレスが叫ぶ。

「レオン! イザベラ!」

「了解!」

 レオンは一息で三本の矢を放つ。

 風を纏った矢が三方向から黒ローブを狙う。

 同時に。

「──《ライトニング・ランス》!」

 イザベラの雷槍が木々を裂いた。

 雷光が枝を焼き払い、黒ローブの退路を塞ぐ。

 さすがに避け切れない。

 一人の黒ローブが障壁を展開する。

 バキィッ!!

 紫電が障壁へ直撃し、黒い魔法陣に大きな亀裂が走った。

「効いてる!」

 イザベラが叫ぶ。

 だが。

 別の黒ローブが静かに片手を掲げた。

 黒い光が障壁へ流れ込み、亀裂が瞬く間に修復されていく。

「回復した!?」

 フィオナが目を見開く。

 アルも息を呑む。

(魔法陣を補強した……)

(三人で役割を分担している)

 一人が攻撃。

 一人が防御。

 そしてもう一人が支援。

 まるで長年組み続けたパーティーのような連携だった。

「厄介だな」

 ガレスが舌打ちする。

「一人ずつ潰さねぇと埒が明かねぇ」

 しかし黒ローブたちは距離を詰めてこない。

 常に高所を移動しながら魔法だけを撃ち込んでくる。

 その動きは実に冷静だった。

「アル!」

 ガレスが短く叫ぶ。

「援護だ!」

「はい!」

 アルはすぐに周囲へ目を向ける。

 前へ出ない。

 ガレスの指示は変わらない。

 仲間の死角。

 そこだけを警戒する。

(焦るな)

(全体を見ろ)

 そう自分へ言い聞かせる。

 その時だった。

 木々の陰から黒い光が迸る。

 一人の黒ローブがいつの間にか位置を変えていた。

「右!」

 アルが叫ぶ。

 直後。

 黒い槍が一直線にフィオナへ飛ぶ。

「っ!」

 フィオナは治癒魔法を維持しており、反応が遅れる。

 その瞬間。

「《ファイアボルト》!」

 セレスが炎の槍を放つ。

 轟音とともに二つの魔法が激突し、空中で相殺された。

「助かった……。」

 フィオナが胸を撫で下ろす。

 しかし黒ローブは止まらない。

 まるで仲間の連携を試すように、次々と死角から魔法を撃ち込んでくる。

 レオンが矢で牽制し、

 イザベラが雷で押し返し、

 セレスが炎で迎撃し、

 グランとドノヴァンが防御を固める。

 それでも戦況は膠着し始めていた。

 アルは歯を食いしばる。

(このままじゃ押し切れない……)

 黒ローブたちは決して決定打を狙わない。

 魔力を消耗させるように攻撃を散らし、一瞬の隙だけを待っている。

 まるで獲物が弱るのを待つ狩人だった。

 その嫌な予感は、次の瞬間、現実となる。

 黒ローブの一人が突然攻撃の手を止めた。

 そして、誰にも気付かれないほど静かに地面へ降り立つ。

 音もなく。

 気配すら消して。

 一直線に駆け出した。

 狙いは――最後方で治癒魔法を維持するフィオナだった。

 黒ローブは地を這う影のような速度で距離を詰める。

「フィオナ!」

 アルが叫ぶ。

 しかし、その声より速く黒い魔法陣が展開された。

 黒紫色の光が収束する。

 至近距離。

 この距離ではイザベラも雷魔法を撃てない。

「しまっ……!」

 撃てば味方を巻き込む。

 フィオナも黒ローブも、まとめて雷撃の中だ。

 動けない。

 レオンも矢を番える。

 だが間に合わない。

 ガレスは大剣を振り抜こうとするが、黒ローブとの距離が遠すぎた。

「くそっ!」

 ドノヴァンも盾を構え駆け出す。

 しかし届かない。

 誰一人として間に合わなかった。

 黒ローブの手が静かに前へ突き出される。

 黒い魔法陣が輝きを増した。

 その瞬間だった。

 アルの視界には、フィオナの姿しか映っていなかった。

(間に合わない。)

 頭では理解している。

 走っても届かない。

 剣でも届かない。

 ならば。

(守る!)

 ただ、その一心だけだった。

 胸の奥底で、膨大な魔力が激しく脈動する。

 心臓の鼓動に合わせるように。

 体内を奔流となって駆け巡る。

 空気が震えた。

 地面に散っていた木の葉がふわりと浮き上がる。

「……え?」

 フィオナが目を見開く。

 アルの足元から、淡く青白い光が溢れ始めていた。

 それは今まで誰も見たことがないほど膨大な魔力。

 イザベラが息を呑む。

「アル……?」

 ガレスも動きを止める。

「なんだ……その魔力は」

 三人の黒ローブもまた、その異変に初めて動きを止めた。

 アルは静かに右手を前へ掲げる。

 その瞳には、仲間を守るという揺るぎない決意だけが宿っていた。

 ──黒ローブとの遭遇は、彼らの運命を大きく変える始まりだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

第15話「遭遇」をお届けしました。

今回は、森で起きていた異変の正体へ一歩近づき、ついに黒ローブたちと対峙するところまでとなりました。

彼らは何者なのか。そして、魔物の亡骸を使って何を行っていたのか――。

次回はいよいよ黒ローブとの本格的な戦闘が始まります。

アルたちはこの強敵を前にどう立ち向かうのか、ぜひ楽しみにしていただければ嬉しいです。

評価やブックマーク、感想なども執筆の大きな励みになっています。

それでは、次回もよろしくお願いいたします。

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