遭遇
いつもお読みいただきありがとうございます。
第15話をお届けします。
調査隊が森の異変を追う中で、これまで断片的だった謎が少しずつ形になり始めます。
そして物語は、いよいよ大きく動き出します。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
翌朝。
森には朝靄が立ち込め、木々の隙間から差し込む陽光が白い霧を淡く照らしていた。
二つのパーティーは簡単な朝食を済ませると、静かに出発の準備を整える。
ガレスが全員を見渡した。
「隊列は昨日決めた通りだ」
全員が頷く。
先頭はレオン。
その後ろにガレス。
中央にはアル、イザベラ、フィオナ。
左右をグラン、リシェル、カイン、セレスが固め、最後尾をドノヴァンが警戒する。
昨日まで露骨に敵意を向けていたカインも、今日は無言のまま隊列へ加わっていた。
互いに信頼したわけではない。
それでも目的は一つ。
森で起きている異変の正体を突き止めることだった。
「出発するぞ」
ガレスの号令とともに、一行は森の奥へ歩き始めた。
森は静かだった。
昨日まで耳にしていた鳥のさえずりは聞こえず、風に揺れる枝葉の音だけが小さく響いている。
アルは周囲を見渡しながら歩く。
(静かすぎる……)
森なら小動物の気配くらいはあって当然だ。
しかし、感じられるのは人の足音だけ。
まるで森そのものが息を潜めているようだった。
その違和感は皆も感じているらしい。
レオンが足を止め、しゃがみ込んだ。
「……足跡だ」
全員が集まる。
湿った地面には複数人が歩いた跡が残されていた。
三人分。
靴底の形も昨日リシェルたちが目撃した黒ローブと一致する。
「昨日見た奴らか」
ガレスが低く呟く。
レオンは地面へ触れながら頷いた。
「新しい。半日も経っていない」
アルも足跡を観察した。
歩幅は一定。
乱れもない。
誰かに追われた様子はなく、目的地へ向かって迷いなく歩いている。
(痕跡を隠そうとしていない……)
むしろ見つけられることを気にも留めていないようだった。
「追えるか?」
ガレスが尋ねる。
レオンは小さく笑う。
「問題ない」
「ここまで堂々と残してくれるならな」
その返答にリシェルが静かに口を開いた。
「誘われている可能性もあります」
カインが腕を組む。
「罠か」
「十分あり得る」
少しだけ沈黙が流れる。
やがてガレスは静かに頷いた。
「だからと言って見逃す理由にもならねぇ」
「警戒は最大」
「少しでも異変を感じたらすぐ知らせろ」
「了解」
一行は再び歩き始めた。
足跡は森のさらに深部へ続いている。
十分ほど進んだ頃だった。
先頭のレオンが右手を上げる。
全員がその場で停止した。
「……これを見ろ」
小さく呼ばれ、全員が近寄る。
そこには昨日倒したばかりと思われるオークの死骸が横たわっていた。
さらに少し離れた場所にはゴブリン。
その奥にはウルフ。
昨日の戦場から続くように魔物の死体が点々と転がっている。
「昨日の群れか」
グランが眉をひそめる。
ガレスも慎重に周囲を見回した。
「こんな場所まで引きずられてきたのか?」
アルはしゃがみ込み、オークの亡骸を観察する。
外傷は昨日の戦いで負ったものと一致している。
だが、それとは別の違和感があった。
(……色がおかしい)
本来ならまだ新しい死体だ。
それなのに皮膚は異様に乾き、血色が完全に失われている。
まるで何日も放置され、全身から水分を抜き取られたかのようだった。
さらに周囲の地面には、大量の血が飛び散った跡が残されている。
しかし、その血は戦闘による飛散ではない。
(誰かが意図的に……?)
アルは思わず眉をひそめた。
研究者としての直感が警鐘を鳴らす。
これは自然に起きた現象ではない。
誰かが死骸を利用した痕跡だ。
「イザベラ」
ガレスが小声で呼ぶ。
「何か分かるか?」
「断定はできないけど……」
イザベラは視線を死骸から離さず答えた。
「誰かがこの死骸に手を加えているわ」
「血液だけを抜き取ったような状態ね」
その言葉に全員の表情が険しくなる。
フィオナが口元を押さえた。
「そんなこと……。」
アルはゆっくり立ち上がる。
血痕はさらに奥へと続いていた。
いや。
正確には、死骸が運ばれた跡とでもいうべきか。
引きずった痕跡が一直線に森の奥へ伸びている。
レオンは頷いた。
「まだ続いている」
「追うぞ」
全員が息を潜めながら進み始めた。
数分後。
先頭のレオンが突然しゃがみ込み、拳を握る。
停止の合図だった。
全員が木陰へ身を隠す。
アルも静かに幹の陰から前方を覗く。
そこには小さな広場があった。
広場の中央には昨日倒したと思われるオークやゴブリンの死骸が山のように積み重ねられている。
その周囲に立つ三人の黒いローブ。
深く被ったフードの奥は見えない。
三人は死骸へ手をかざし、低く聞き取れない言葉を紡いでいた。
すると。
赤黒い光が死骸からゆっくりと立ち昇り、三人の足元に描かれた魔法陣へ吸い込まれていく。
オークの身体がみるみる干からびていく。
続いてゴブリンも。
まるで生命そのものを搾り取られているかのようだった。
アルは思わず息を呑む。
(……魔力を抽出している? いや、違う)
(これは魔力だけじゃない。何か別の"生命由来の力"まで取り出している……?)
その異様な光景に、誰一人として言葉を発することができなかった。
積み上げられた魔物の亡骸は急速に干からびていく。
ゴブリン。
オーク。
ほかの魔獣も。
昨日まで確かに生きていた魔物たちが、まるで長い年月を経たミイラのような姿へ変わっていく。
誰も声を発しなかった。
異様という言葉だけでは足りない。
目の前で起きている現象は、常識そのものを否定していた。
アルは目を凝らす。
(魔法陣の中心に何かある……)
三人の黒ローブは死骸から立ち昇る赤黒い光を、一点へ集めている。
だが、その中心は黒い霧のような魔力に覆われ、中に何があるのかまでは見えなかった。
(魔法陣が集めているのは魔力だけじゃない)
(血液……生命力……あるいは、その両方)
断定はできない。
だが、目の前で起きている現象は、アルが知るどの魔法とも一致しなかった。
隣でイザベラが小さく息を呑む。
「あれは……何をしているの?」
誰も答えられない。
その時だった。
黒ローブの一人が、ゆっくりと顔を上げた。
フードの奥は見えない。
それでも。
こちらを見た。
アルは背筋に冷たいものが走る。
(気付かれた)
次の瞬間。
三人が同時にこちらへ向き直る。
そして、ゆっくりと口元だけを歪めた。
笑っている。
そうとしか思えなかった。
「……見つかった!」
レオンが低く叫ぶ。
ガレスも即座に立ち上がった。
「捕らえるぞ!」
しかし。
三人は慌てる様子すら見せない。
魔法陣の中央へ手をかざすと、赤黒い光が一瞬だけ強く輝いた。
バチッ――。
空気が震える。
次の瞬間には、三人は森の奥へ向かって一斉に駆け出していた。
「逃がすな!」
ガレスの号令で全員が飛び出す。
先頭を走るのはレオンだった。
枝葉をかき分けながら、黒ローブを見失わないよう森を駆ける。
アルも必死に後を追った。
黒ローブたちは異様な速度で森を駆け抜けていく。
枝を避ける動きに一切の無駄がない。
まるで、この森の地形を知り尽くしているかのようだった。
「レオン!」
「見えている!」
短く返事が返る。
その距離、およそ五十メートル。
決して追えない距離ではない。
レオンは走りながら弓を引き絞る。
「止まれ!」
放たれた矢が一直線に黒ローブへ迫る。
しかし。
黒ローブの周囲へ黒い膜が広がった。
ガンッ!
矢は弾かれ、木へ突き刺さる。
「障壁!」
イザベラが叫ぶ。
黒ローブは一度も振り返らない。
攻撃されることを最初から予測していたかのようだった。
「距離を詰める!」
ガレスが速度を上げる。
あと少し。
そう思った瞬間だった。
黒ローブたちが大きく跳躍する。
木々の向こうへ姿が消えた。
「見失うな!」
レオンも飛び込む。
全員が後に続いた。
だが。
そこに黒ローブの姿はなかった。
「……消えた?」
グランが目を見開く。
レオンは周囲を何度も見回した。
「いや……確かにここへ来た」
足跡は途中まで続いている。
しかし、その先がない。
まるで空気へ溶けたように、痕跡が途絶えていた。
アルは周囲を見渡す。
(転移……?)
すぐにその考えを打ち消す。
そんな魔法は、この世界では聞いたことがない。
ならば。
「どこかに隠れている……?」
小さく呟く。
その時だった。
カインが前方を指差した。
「あそこだ」
木々の切れ目。
そこだけ不自然に開けた空間が見える。
人の手で作られたような、円形の広場。
ガレスは剣の柄を握り直した。
「全員、警戒しろ」
ゆっくりと足を踏み入れる。
空気が変わった。
肌にまとわりつくような、不快な魔力。
アルは思わず息を呑む。
広場の中央。
そこには先ほどの場所よりも遥かに巨大な魔法陣が刻まれていた。
赤黒い紋様が幾重にも重なり合い、複雑な文字が円を描いている。
そして、その周囲には。
無数の魔物の亡骸。
オーク。
ゴブリン。
ウルフ。
ホーンラビット。
昨日倒したものだけではない。
さらに以前に命を落としたと思われる魔物まで集められている。
どの死骸も、例外なく干からびていた。
まるで身体の中身だけを根こそぎ奪われたように。
「これは……」
フィオナが青ざめる。
アルは一体のゴブリンへ近付き、しゃがみ込んだ。
鑑定眼は使わない。
まずは自分の目で確かめる。
皮膚は乾燥し、筋肉は痩せ細っている。
だが腐敗臭はほとんどない。
そして何より。
(血液が完全に失われている)
昨日倒した死骸とは思えない。
まるで何年も前の亡骸を見ているようだった。
さらにアルの視線は魔法陣の中央へ向く。
そこには深く抉られたような窪みだけが残されていた。
何かを置いていた跡。
そして、それはすでに持ち去られている。
(ここで何かを作っていた……)
その確信だけが、静かに胸の中で形になり始めていた。
その場に漂う禍々しい魔力を前に、誰も言葉を失っていた。
アルは魔法陣を見つめたまま、小さく息を吐く。
(これは儀式の跡だ)
(何を作ったのかは分からない。でも、この魔法陣は"何か"を生み出すために使われた)
その時だった。
レオンの表情が変わる。
鋭い視線が森の上空へ向く。
長年培われた経験が危険を告げていた。
「――伏せろッ!!」
怒号が森へ響いた。
直後。
ゴォォォッ!!
木々の上から、黒い魔力弾が雨のように降り注ぐ。
「障壁展開!」
ドノヴァンが盾を地面へ叩き付けた。
淡い黄金色の魔法陣が盾の前へ展開される。
次々と黒い魔力弾が障壁へ激突した。
轟音。
爆風。
衝撃で土が巻き上がる。
障壁全体へ無数の亀裂が走った。
「ちっ……!」
ドノヴァンが歯を食いしばる。
「威力が高ぇ!」
しかし攻撃は止まらない。
第二波。
第三波。
まるで一斉射撃だった。
「散開!」
ガレスの指示で全員が左右へ飛び退く。
次の瞬間。
先ほどまで立っていた場所が爆炎に包まれた。
土煙が一気に視界を覆う。
アルは木陰へ身を滑り込ませながら周囲を見渡した。
(姿が見えない……)
魔法だけが飛んでくる。
術者の位置が分からない。
その不気味さが一層緊張感を高めていた。
「レオン!」
「左上!」
レオンは叫ぶと同時に矢を放つ。
その矢には淡い風属性魔法が宿っていた。
ヒュォンッ!
風を纏った矢が木々を貫く。
その瞬間。
黒い障壁が現れ、矢を弾いた。
「いた!」
レオンが叫ぶ。
木の上。
三人の黒ローブが枝へ立ち、こちらを見下ろしていた。
その足元には、小さな黒い魔法陣。
そこから次々と黒い魔力が生み出されている。
「イザベラ!」
「任せて!」
イザベラが杖を掲げる。
「──《ライトニング・ランス》!」
紫電が一直線に走る。
雷槍は木々を裂きながら黒ローブへ迫った。
だが。
黒ローブは魔法陣を展開する。
黒い障壁と雷槍が激突した。
轟音。
雷光が森を白く照らす。
障壁は砕け散る。
しかし黒ローブは既に別の枝へ飛び移っていた。
「速い!」
グランが戦斧を握る。
「魔法だけじゃねぇ!」
相手は常に位置を変えている。
狙いが定まらない。
その隙を突くように。
ボォォッ!!
黒い炎が地面を這った。
蛇のようにうねりながら一行へ迫る。
「セレス!」
カインが叫ぶ。
セレスは即座に杖を振る。
「《フレイム・バースト》!」
紅蓮の火球が黒炎へ衝突する。
二つの魔法がぶつかり合い、激しい爆発を起こした。
熱風が森を駆け抜ける。
「今だ!」
ガレスが大剣を構える。
黒ローブが障壁を張り直す、その一瞬。
一直線に踏み込んだ。
狙うのは敵ではない。
魔法陣。
大剣へ闘気を纏わせ、一気に振り下ろす。
ガギィィン!!
黒い障壁へ激突。
魔力が火花となって飛び散る。
障壁が大きく揺らぐ。
「レオン!」
「分かってる!」
二本。
三本。
風を纏った矢が障壁の綻びへ吸い込まれる。
黒ローブは咄嗟に後方へ跳ぶ。
矢は木々を貫き、その背後の幹へ突き刺さった。
アルは戦況を見つめながら拳を握る。
(強い……)
これまで戦ってきたオークやゴブリンとは全く違う。
連携。
魔法。
判断。
全てが洗練されている。
(しかも、まだ本気じゃない)
そう感じた瞬間だった。
森の空気が、再び大きく震えた。
森の空気が再び震えた。
三人の黒ローブが、まるで示し合わせたように両手を掲げる。
足元へ幾重もの黒い魔法陣が展開された。
「来るぞ!」
レオンの叫びと同時だった。
無数の黒い魔力弾が空を覆う。
一つ一つは先ほどより小さい。
だが、その数は比較にならなかった。
「《ストーンウォール》!」
グランが地面へ拳を叩き付ける。
轟音とともに岩壁が隆起し、雨のように降り注ぐ魔力弾を受け止めた。
しかし。
ドドドドドドッ!!
激しい爆発が連続し、岩壁が次々と砕け散る。
「押し切られる!」
その瞬間。
「《アースシールド》!」
ドノヴァンの盾から黄金色の光が広がる。
砕けた岩壁の前へ半透明の障壁が重なり、残った魔力弾を受け止めた。
衝撃で大地が震える。
それでもドノヴァンは一歩も退かなかった。
「今だ!」
ガレスが叫ぶ。
「レオン! イザベラ!」
「了解!」
レオンは一息で三本の矢を放つ。
風を纏った矢が三方向から黒ローブを狙う。
同時に。
「──《ライトニング・ランス》!」
イザベラの雷槍が木々を裂いた。
雷光が枝を焼き払い、黒ローブの退路を塞ぐ。
さすがに避け切れない。
一人の黒ローブが障壁を展開する。
バキィッ!!
紫電が障壁へ直撃し、黒い魔法陣に大きな亀裂が走った。
「効いてる!」
イザベラが叫ぶ。
だが。
別の黒ローブが静かに片手を掲げた。
黒い光が障壁へ流れ込み、亀裂が瞬く間に修復されていく。
「回復した!?」
フィオナが目を見開く。
アルも息を呑む。
(魔法陣を補強した……)
(三人で役割を分担している)
一人が攻撃。
一人が防御。
そしてもう一人が支援。
まるで長年組み続けたパーティーのような連携だった。
「厄介だな」
ガレスが舌打ちする。
「一人ずつ潰さねぇと埒が明かねぇ」
しかし黒ローブたちは距離を詰めてこない。
常に高所を移動しながら魔法だけを撃ち込んでくる。
その動きは実に冷静だった。
「アル!」
ガレスが短く叫ぶ。
「援護だ!」
「はい!」
アルはすぐに周囲へ目を向ける。
前へ出ない。
ガレスの指示は変わらない。
仲間の死角。
そこだけを警戒する。
(焦るな)
(全体を見ろ)
そう自分へ言い聞かせる。
その時だった。
木々の陰から黒い光が迸る。
一人の黒ローブがいつの間にか位置を変えていた。
「右!」
アルが叫ぶ。
直後。
黒い槍が一直線にフィオナへ飛ぶ。
「っ!」
フィオナは治癒魔法を維持しており、反応が遅れる。
その瞬間。
「《ファイアボルト》!」
セレスが炎の槍を放つ。
轟音とともに二つの魔法が激突し、空中で相殺された。
「助かった……。」
フィオナが胸を撫で下ろす。
しかし黒ローブは止まらない。
まるで仲間の連携を試すように、次々と死角から魔法を撃ち込んでくる。
レオンが矢で牽制し、
イザベラが雷で押し返し、
セレスが炎で迎撃し、
グランとドノヴァンが防御を固める。
それでも戦況は膠着し始めていた。
アルは歯を食いしばる。
(このままじゃ押し切れない……)
黒ローブたちは決して決定打を狙わない。
魔力を消耗させるように攻撃を散らし、一瞬の隙だけを待っている。
まるで獲物が弱るのを待つ狩人だった。
その嫌な予感は、次の瞬間、現実となる。
黒ローブの一人が突然攻撃の手を止めた。
そして、誰にも気付かれないほど静かに地面へ降り立つ。
音もなく。
気配すら消して。
一直線に駆け出した。
狙いは――最後方で治癒魔法を維持するフィオナだった。
黒ローブは地を這う影のような速度で距離を詰める。
「フィオナ!」
アルが叫ぶ。
しかし、その声より速く黒い魔法陣が展開された。
黒紫色の光が収束する。
至近距離。
この距離ではイザベラも雷魔法を撃てない。
「しまっ……!」
撃てば味方を巻き込む。
フィオナも黒ローブも、まとめて雷撃の中だ。
動けない。
レオンも矢を番える。
だが間に合わない。
ガレスは大剣を振り抜こうとするが、黒ローブとの距離が遠すぎた。
「くそっ!」
ドノヴァンも盾を構え駆け出す。
しかし届かない。
誰一人として間に合わなかった。
黒ローブの手が静かに前へ突き出される。
黒い魔法陣が輝きを増した。
その瞬間だった。
アルの視界には、フィオナの姿しか映っていなかった。
(間に合わない。)
頭では理解している。
走っても届かない。
剣でも届かない。
ならば。
(守る!)
ただ、その一心だけだった。
胸の奥底で、膨大な魔力が激しく脈動する。
心臓の鼓動に合わせるように。
体内を奔流となって駆け巡る。
空気が震えた。
地面に散っていた木の葉がふわりと浮き上がる。
「……え?」
フィオナが目を見開く。
アルの足元から、淡く青白い光が溢れ始めていた。
それは今まで誰も見たことがないほど膨大な魔力。
イザベラが息を呑む。
「アル……?」
ガレスも動きを止める。
「なんだ……その魔力は」
三人の黒ローブもまた、その異変に初めて動きを止めた。
アルは静かに右手を前へ掲げる。
その瞳には、仲間を守るという揺るぎない決意だけが宿っていた。
──黒ローブとの遭遇は、彼らの運命を大きく変える始まりだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第15話「遭遇」をお届けしました。
今回は、森で起きていた異変の正体へ一歩近づき、ついに黒ローブたちと対峙するところまでとなりました。
彼らは何者なのか。そして、魔物の亡骸を使って何を行っていたのか――。
次回はいよいよ黒ローブとの本格的な戦闘が始まります。
アルたちはこの強敵を前にどう立ち向かうのか、ぜひ楽しみにしていただければ嬉しいです。
評価やブックマーク、感想なども執筆の大きな励みになっています。
それでは、次回もよろしくお願いいたします。




