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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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15/60

遭遇

いつもお読みいただきありがとうございます。

第15話をお届けします。

調査隊が森の異変を追う中で、これまで断片的だった謎が少しずつ形になり始めます。

そして物語は、いよいよ大きく動き出します。 

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

 翌朝。

 森には朝靄が立ち込め、木々の隙間から差し込む陽光が白い霧を淡く照らしていた。

 二つのパーティーは簡単な朝食を済ませると、静かに出発の準備を整える。

 ガレスが全員を見渡した。

「隊列は昨日決めた通りだ」

 全員が頷く。

 先頭はレオン。

 その後ろにガレス。

 中央にはアル、イザベラ、フィオナ。

 左右をグラン、リシェル、カイン、セレスが固め、最後尾をドノヴァンが警戒する。

 昨日まで露骨に敵意を向けていたカインも、今日は無言のまま隊列へ加わっていた。

 互いに信頼したわけではない。

 それでも目的は一つ。

 森で起きている異変の正体を突き止めることだった。

「出発するぞ」

 ガレスの号令とともに、一行は森の奥へ歩き始めた。

 森は静かだった。

 昨日まで耳にしていた鳥のさえずりは聞こえず、風に揺れる枝葉の音だけが小さく響いている。

 アルは周囲を見渡しながら歩く。

(静かすぎる……)

 森なら小動物の気配くらいはあって当然だ。

 しかし、感じられるのは人の足音だけ。

 まるで森そのものが息を潜めているようだった。

 その違和感は皆も感じているらしい。

 レオンが足を止め、しゃがみ込んだ。

「……足跡だ」

 全員が集まる。

 湿った地面には複数人が歩いた跡が残されていた。

 三人分。

 靴底の形も昨日リシェルたちが目撃した黒ローブと一致する。

「昨日見た奴らか」

 ガレスが低く呟く。

 レオンは地面へ触れながら頷いた。

「新しい。半日も経っていない」

 アルも足跡を観察した。

 歩幅は一定。

 乱れもない。

 誰かに追われた様子はなく、目的地へ向かって迷いなく歩いている。

(痕跡を隠そうとしていない……)

 むしろ見つけられることを気にも留めていないようだった。

「追えるか?」

 ガレスが尋ねる。

 レオンは小さく笑う。

「問題ない」

「ここまで堂々と残してくれるならな」

 その返答にリシェルが静かに口を開いた。

「誘われている可能性もあります」

 カインが腕を組む。

「罠か」

「十分あり得る」

 少しだけ沈黙が流れる。

 やがてガレスは静かに頷いた。

「だからと言って見逃す理由にもならねぇ」

「警戒は最大」

「少しでも異変を感じたらすぐ知らせろ」

「了解」

 一行は再び歩き始めた。

 足跡は森のさらに深部へ続いている。

 十分ほど進んだ頃だった。

 先頭のレオンが右手を上げる。

 全員がその場で停止した。

「……これを見ろ」

 小さく呼ばれ、全員が近寄る。

 そこには昨日倒したばかりと思われるオークの死骸が横たわっていた。

 さらに少し離れた場所にはゴブリン。

 その奥にはウルフ。

 昨日の戦場から続くように魔物の死体が点々と転がっている。

「昨日の群れか」

 グランが眉をひそめる。

 ガレスも慎重に周囲を見回した。

「こんな場所まで引きずられてきたのか?」

 アルはしゃがみ込み、オークの亡骸を観察する。

 外傷は昨日の戦いで負ったものと一致している。

 だが、それとは別の違和感があった。

(……色がおかしい)

 本来ならまだ新しい死体だ。

 それなのに皮膚は異様に乾き、血色が完全に失われている。

 まるで何日も放置され、全身から水分を抜き取られたかのようだった。

 さらに周囲の地面には、大量の血が飛び散った跡が残されている。

 しかし、その血は戦闘による飛散ではない。

(誰かが意図的に……?)

 アルは思わず眉をひそめた。

 研究者としての直感が警鐘を鳴らす。

 これは自然に起きた現象ではない。

 誰かが死骸を利用した痕跡だ。

「イザベラ」

 ガレスが小声で呼ぶ。

「何か分かるか?」

「断定はできないけど……」

 イザベラは視線を死骸から離さず答えた。

「誰かがこの死骸に手を加えているわ」

「血液だけを抜き取ったような状態ね」

 その言葉に全員の表情が険しくなる。

 フィオナが口元を押さえた。

「そんなこと……。」

 アルはゆっくり立ち上がる。

 血痕はさらに奥へと続いていた。

 いや。

 正確には、死骸が運ばれた跡とでもいうべきか。

 引きずった痕跡が一直線に森の奥へ伸びている。

 レオンは頷いた。

「まだ続いている」

「追うぞ」

 全員が息を潜めながら進み始めた。

 数分後。

 先頭のレオンが突然しゃがみ込み、拳を握る。

 停止の合図だった。

 全員が木陰へ身を隠す。

 アルも静かに幹の陰から前方を覗く。

 そこには小さな広場があった。

 広場の中央には昨日倒したと思われるオークやゴブリンの死骸が山のように積み重ねられている。

 その周囲に立つ三人の黒いローブ。

 深く被ったフードの奥は見えない。

 三人は死骸へ手をかざし、低く聞き取れない言葉を紡いでいた。

 すると。

 赤黒い光が死骸からゆっくりと立ち昇り、三人の足元に描かれた魔法陣へ吸い込まれていく。

 オークの身体がみるみる干からびていく。

 続いてゴブリンも。

 まるで生命そのものを搾り取られているかのようだった。

 アルは思わず息を呑む。

(……魔力を抽出している? いや、違う)

(これは魔力だけじゃない。何か別の"生命由来の力"まで取り出している……?)

 その異様な光景に、誰一人として言葉を発することができなかった。

 積み上げられた魔物の亡骸は急速に干からびていく。

 ゴブリン。

 オーク。

 ほかの魔獣も。

 昨日まで確かに生きていた魔物たちが、まるで長い年月を経たミイラのような姿へ変わっていく。

 誰も声を発しなかった。

 異様という言葉だけでは足りない。

 目の前で起きている現象は、常識そのものを否定していた。

 アルは目を凝らす。

(魔法陣の中心に何かある……)

 三人の黒ローブは死骸から立ち昇る赤黒い光を、一点へ集めている。

 だが、その中心は黒い霧のような魔力に覆われ、中に何があるのかまでは見えなかった。

(魔法陣が集めているのは魔力だけじゃない)

(血液……生命力……あるいは、その両方)

 断定はできない。

 だが、目の前で起きている現象は、アルが知るどの魔法とも一致しなかった。

 隣でイザベラが小さく息を呑む。

「あれは……何をしているの?」

 誰も答えられない。

 その時だった。

 黒ローブの一人が、ゆっくりと顔を上げた。

 フードの奥は見えない。

 それでも。

 こちらを見た。

 アルは背筋に冷たいものが走る。

(気付かれた)

 次の瞬間。

 三人が同時にこちらへ向き直る。

 そして、ゆっくりと口元だけを歪めた。

 笑っている。

 そうとしか思えなかった。

「……見つかった!」

 レオンが低く叫ぶ。

 ガレスも即座に立ち上がった。

「捕らえるぞ!」

 しかし。

 三人は慌てる様子すら見せない。

 魔法陣の中央へ手をかざすと、赤黒い光が一瞬だけ強く輝いた。

 バチッ――。

 空気が震える。

 次の瞬間には、三人は森の奥へ向かって一斉に駆け出していた。

「逃がすな!」

 ガレスの号令で全員が飛び出す。

 先頭を走るのはレオンだった。

 枝葉をかき分けながら、黒ローブを見失わないよう森を駆ける。

 アルも必死に後を追った。

 黒ローブたちは異様な速度で森を駆け抜けていく。

 枝を避ける動きに一切の無駄がない。

 まるで、この森の地形を知り尽くしているかのようだった。

「レオン!」

「見えている!」

 短く返事が返る。

 その距離、およそ五十メートル。

 決して追えない距離ではない。

 レオンは走りながら弓を引き絞る。

「止まれ!」

 放たれた矢が一直線に黒ローブへ迫る。

 しかし。

 黒ローブの周囲へ黒い膜が広がった。

 ガンッ!

 矢は弾かれ、木へ突き刺さる。

「障壁!」

 イザベラが叫ぶ。

 黒ローブは一度も振り返らない。

 攻撃されることを最初から予測していたかのようだった。

「距離を詰める!」

 ガレスが速度を上げる。

 あと少し。

 そう思った瞬間だった。

 黒ローブたちが大きく跳躍する。

 木々の向こうへ姿が消えた。

「見失うな!」

 レオンも飛び込む。

 全員が後に続いた。

 だが。

 そこに黒ローブの姿はなかった。

「……消えた?」

 グランが目を見開く。

 レオンは周囲を何度も見回した。

「いや……確かにここへ来た」

 足跡は途中まで続いている。

 しかし、その先がない。

 まるで空気へ溶けたように、痕跡が途絶えていた。

 アルは周囲を見渡す。

(転移……?)

 すぐにその考えを打ち消す。

 そんな魔法は、この世界では聞いたことがない。

 ならば。

「どこかに隠れている……?」

 小さく呟く。

 その時だった。

 カインが前方を指差した。

「あそこだ」

 木々の切れ目。

 そこだけ不自然に開けた空間が見える。

 人の手で作られたような、円形の広場。

 ガレスは剣の柄を握り直した。

「全員、警戒しろ」

 ゆっくりと足を踏み入れる。

 空気が変わった。

 肌にまとわりつくような、不快な魔力。

 アルは思わず息を呑む。

 広場の中央。

 そこには先ほどの場所よりも遥かに巨大な魔法陣が刻まれていた。

 赤黒い紋様が幾重にも重なり合い、複雑な文字が円を描いている。

 そして、その周囲には。

 無数の魔物の亡骸。

 オーク。

 ゴブリン。

 ウルフ。

 ホーンラビット。

 昨日倒したものだけではない。

 さらに以前に命を落としたと思われる魔物まで集められている。

 どの死骸も、例外なく干からびていた。

 まるで身体の中身だけを根こそぎ奪われたように。

「これは……」

 フィオナが青ざめる。

 アルは一体のゴブリンへ近付き、しゃがみ込んだ。

 鑑定眼は使わない。

 まずは自分の目で確かめる。

 皮膚は乾燥し、筋肉は痩せ細っている。

 だが腐敗臭はほとんどない。

 そして何より。

(血液が完全に失われている)

 昨日倒した死骸とは思えない。

 まるで何年も前の亡骸を見ているようだった。

 さらにアルの視線は魔法陣の中央へ向く。

 そこには深く抉られたような窪みだけが残されていた。

 何かを置いていた跡。

 そして、それはすでに持ち去られている。

(ここで何かを作っていた……)

 その確信だけが、静かに胸の中で形になり始めていた。

その場に漂う禍々しい魔力を前に、誰も言葉を失っていた。

 アルは魔法陣を見つめたまま、小さく息を吐く。

(これは儀式の跡だ)

(何を作ったのかは分からない。でも、この魔法陣は"何か"を生み出すために使われた)

 その時だった。

 レオンの表情が変わる。

 鋭い視線が森の上空へ向く。

 長年培われた経験が危険を告げていた。

「――伏せろッ!!」

 怒号が森へ響いた。

 直後。

 ゴォォォッ!!

 木々の上から、黒い魔力弾が雨のように降り注ぐ。

「障壁展開!」

 ドノヴァンが盾を地面へ叩き付けた。

 淡い黄金色の魔法陣が盾の前へ展開される。

 次々と黒い魔力弾が障壁へ激突した。

 轟音。

 爆風。

 衝撃で土が巻き上がる。

 障壁全体へ無数の亀裂が走った。

「ちっ……!」

 ドノヴァンが歯を食いしばる。

「威力が高ぇ!」

 しかし攻撃は止まらない。

 第二波。

 第三波。

 まるで一斉射撃だった。

「散開!」

 ガレスの指示で全員が左右へ飛び退く。

 次の瞬間。

 先ほどまで立っていた場所が爆炎に包まれた。

 土煙が一気に視界を覆う。

 アルは木陰へ身を滑り込ませながら周囲を見渡した。

(姿が見えない……)

 魔法だけが飛んでくる。

 術者の位置が分からない。

 その不気味さが一層緊張感を高めていた。

「レオン!」

「左上!」

 レオンは叫ぶと同時に矢を放つ。

 その矢には淡い風属性魔法が宿っていた。

 ヒュォンッ!

 風を纏った矢が木々を貫く。

 その瞬間。

 黒い障壁が現れ、矢を弾いた。

「いた!」

 レオンが叫ぶ。

 木の上。

 三人の黒ローブが枝へ立ち、こちらを見下ろしていた。

 その足元には、小さな黒い魔法陣。

 そこから次々と黒い魔力が生み出されている。

「イザベラ!」

「任せて!」

 イザベラが杖を掲げる。

「──《ライトニング・ランス》!」

 紫電が一直線に走る。

 雷槍は木々を裂きながら黒ローブへ迫った。

 だが。

 黒ローブは魔法陣を展開する。

 黒い障壁と雷槍が激突した。

 轟音。

 雷光が森を白く照らす。

 障壁は砕け散る。

 しかし黒ローブは既に別の枝へ飛び移っていた。

「速い!」

 グランが戦斧を握る。

「魔法だけじゃねぇ!」

 相手は常に位置を変えている。

 狙いが定まらない。

 その隙を突くように。

 ボォォッ!!

 黒い炎が地面を這った。

 蛇のようにうねりながら一行へ迫る。

「セレス!」

 カインが叫ぶ。

 セレスは即座に杖を振る。

「《フレイム・バースト》!」

 紅蓮の火球が黒炎へ衝突する。

 二つの魔法がぶつかり合い、激しい爆発を起こした。

 熱風が森を駆け抜ける。

「今だ!」

 ガレスが大剣を構える。

 黒ローブが障壁を張り直す、その一瞬。

 一直線に踏み込んだ。

 狙うのは敵ではない。

 魔法陣。

 大剣へ闘気を纏わせ、一気に振り下ろす。

 ガギィィン!!

 黒い障壁へ激突。

 魔力が火花となって飛び散る。

 障壁が大きく揺らぐ。

「レオン!」

「分かってる!」

 二本。

 三本。

 風を纏った矢が障壁の綻びへ吸い込まれる。

 黒ローブは咄嗟に後方へ跳ぶ。

 矢は木々を貫き、その背後の幹へ突き刺さった。

 アルは戦況を見つめながら拳を握る。

(強い……)

 これまで戦ってきたオークやゴブリンとは全く違う。

 連携。

 魔法。

 判断。

 全てが洗練されている。

(しかも、まだ本気じゃない)

 そう感じた瞬間だった。

 森の空気が、再び大きく震えた。

森の空気が再び震えた。

 三人の黒ローブが、まるで示し合わせたように両手を掲げる。

 足元へ幾重もの黒い魔法陣が展開された。

「来るぞ!」

 レオンの叫びと同時だった。

 無数の黒い魔力弾が空を覆う。

 一つ一つは先ほどより小さい。

 だが、その数は比較にならなかった。

「《ストーンウォール》!」

 グランが地面へ拳を叩き付ける。

 轟音とともに岩壁が隆起し、雨のように降り注ぐ魔力弾を受け止めた。

 しかし。

 ドドドドドドッ!!

 激しい爆発が連続し、岩壁が次々と砕け散る。

「押し切られる!」

 その瞬間。

「《アースシールド》!」

 ドノヴァンの盾から黄金色の光が広がる。

 砕けた岩壁の前へ半透明の障壁が重なり、残った魔力弾を受け止めた。

 衝撃で大地が震える。

 それでもドノヴァンは一歩も退かなかった。

「今だ!」

 ガレスが叫ぶ。

「レオン! イザベラ!」

「了解!」

 レオンは一息で三本の矢を放つ。

 風を纏った矢が三方向から黒ローブを狙う。

 同時に。

「──《ライトニング・ランス》!」

 イザベラの雷槍が木々を裂いた。

 雷光が枝を焼き払い、黒ローブの退路を塞ぐ。

 さすがに避け切れない。

 一人の黒ローブが障壁を展開する。

 バキィッ!!

 紫電が障壁へ直撃し、黒い魔法陣に大きな亀裂が走った。

「効いてる!」

 イザベラが叫ぶ。

 だが。

 別の黒ローブが静かに片手を掲げた。

 黒い光が障壁へ流れ込み、亀裂が瞬く間に修復されていく。

「回復した!?」

 フィオナが目を見開く。

 アルも息を呑む。

(魔法陣を補強した……)

(三人で役割を分担している)

 一人が攻撃。

 一人が防御。

 そしてもう一人が支援。

 まるで長年組み続けたパーティーのような連携だった。

「厄介だな」

 ガレスが舌打ちする。

「一人ずつ潰さねぇと埒が明かねぇ」

 しかし黒ローブたちは距離を詰めてこない。

 常に高所を移動しながら魔法だけを撃ち込んでくる。

 その動きは実に冷静だった。

「アル!」

 ガレスが短く叫ぶ。

「援護だ!」

「はい!」

 アルはすぐに周囲へ目を向ける。

 前へ出ない。

 ガレスの指示は変わらない。

 仲間の死角。

 そこだけを警戒する。

(焦るな)

(全体を見ろ)

 そう自分へ言い聞かせる。

 その時だった。

 木々の陰から黒い光が迸る。

 一人の黒ローブがいつの間にか位置を変えていた。

「右!」

 アルが叫ぶ。

 直後。

 黒い槍が一直線にフィオナへ飛ぶ。

「っ!」

 フィオナは治癒魔法を維持しており、反応が遅れる。

 その瞬間。

「《ファイアボルト》!」

 セレスが炎の槍を放つ。

 轟音とともに二つの魔法が激突し、空中で相殺された。

「助かった……。」

 フィオナが胸を撫で下ろす。

 しかし黒ローブは止まらない。

 まるで仲間の連携を試すように、次々と死角から魔法を撃ち込んでくる。

 レオンが矢で牽制し、

 イザベラが雷で押し返し、

 セレスが炎で迎撃し、

 グランとドノヴァンが防御を固める。

 それでも戦況は膠着し始めていた。

 アルは歯を食いしばる。

(このままじゃ押し切れない……)

 黒ローブたちは決して決定打を狙わない。

 魔力を消耗させるように攻撃を散らし、一瞬の隙だけを待っている。

 まるで獲物が弱るのを待つ狩人だった。

 その嫌な予感は、次の瞬間、現実となる。

 黒ローブの一人が突然攻撃の手を止めた。

 そして、誰にも気付かれないほど静かに地面へ降り立つ。

 音もなく。

 気配すら消して。

 一直線に駆け出した。

 狙いは――最後方で治癒魔法を維持するフィオナだった。

 黒ローブは地を這う影のような速度で距離を詰める。

「フィオナ!」

 アルが叫ぶ。

 しかし、その声より速く黒い魔法陣が展開された。

 黒紫色の光が収束する。

 至近距離。

 この距離ではイザベラも雷魔法を撃てない。

「しまっ……!」

 撃てば味方を巻き込む。

 フィオナも黒ローブも、まとめて雷撃の中だ。

 動けない。

 レオンも矢を番える。

 だが間に合わない。

 ガレスは大剣を振り抜こうとするが、黒ローブとの距離が遠すぎた。

「くそっ!」

 ドノヴァンも盾を構え駆け出す。

 しかし届かない。

 誰一人として間に合わなかった。

 黒ローブの手が静かに前へ突き出される。

 黒い魔法陣が輝きを増した。

 その瞬間だった。

 アルの視界には、フィオナの姿しか映っていなかった。

(間に合わない。)

 頭では理解している。

 走っても届かない。

 剣でも届かない。

 ならば。

(守る!)

 ただ、その一心だけだった。

 胸の奥底で、膨大な魔力が激しく脈動する。

 心臓の鼓動に合わせるように。

 体内を奔流となって駆け巡る。

 空気が震えた。

 地面に散っていた木の葉がふわりと浮き上がる。

「……え?」

 フィオナが目を見開く。

 アルの足元から、淡く青白い光が溢れ始めていた。

 それは今まで誰も見たことがないほど膨大な魔力。

 イザベラが息を呑む。

「アル……?」

 ガレスも動きを止める。

「なんだ……その魔力は」

 三人の黒ローブもまた、その異変に初めて動きを止めた。

 アルは静かに右手を前へ掲げる。

 その瞳には、仲間を守るという揺るぎない決意だけが宿っていた。

 ──黒ローブとの遭遇は、彼らの運命を大きく変える始まりだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

第15話「遭遇」をお届けしました。

今回は、森で起きていた異変の正体へ一歩近づき、ついに黒ローブたちと対峙するところまでとなりました。

彼らは何者なのか。そして、魔物の亡骸を使って何を行っていたのか――。

次回はいよいよ黒ローブとの本格的な戦闘が始まります。

アルたちはこの強敵を前にどう立ち向かうのか、ぜひ楽しみにしていただければ嬉しいです。

評価やブックマーク、感想なども執筆の大きな励みになっています。

それでは、次回もよろしくお願いいたします。

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