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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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14/60

共闘

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は、アルたちが初めて他種族の冒険者と出会い、異変の広がりが少しずつ見えてくる回です。

よろしければ最後までお楽しみください。

 ガレスは木陰から戦場を見据えたまま、静かに大剣の柄へ手を添えた。

 視線の先では、四人の冒険者たちが必死に魔物の群れを食い止めている。

 巨大な戦斧を振るう、筋骨隆々としたドワーフの戦士。

 長い銀髪を揺らしながら正確に矢を放つエルフの女性。

 狼耳を揺らし、双剣を手に縦横無尽に駆ける獣人の青年。

 黒い角を持つ若い魔人族の女性が、後方から魔法を放っていた。

 しかし、その奮戦も限界が近い。

 オークが前へ出れば、その隙間を縫うようにゴブリンが飛び込む。

 数だけではない。

 互いを補うような連携。

 本来なら決してあり得ない異種族の魔物による統率された動きが、四人をじわじわと追い詰めていた。

 アルは思わず拳を握る。

(助けないと……)

 だが、今回の依頼は調査だ。

 ガレスが何度も念を押した。

 原因を持ち帰ること。

 それが最優先。

 重苦しい沈黙が流れた。

 それぞれが状況を見極めていた。

 やがて。

「……もたねぇな」

 ガレスが小さく息を吐いた。

 次の瞬間には、迷いは消えていた。

「援護するぞ」

 短く告げる。

 それだけで十分だった。

 ドノヴァンが無言で巨大な盾を構える。

 レオンはすでに弓へ矢をつがえていた。

 イザベラも静かに杖を握り直す。

 フィオナは治癒魔法の準備を始めている。

 誰一人として異論はなかった。

 アズール・イージスは、こういう時に迷わない。

 ガレスが全員へ視線を送る。

「作戦はいつも通りだ」

 低い声が森へ溶ける。

「俺とドノヴァンが正面から突っ込む」

「レオン、援護」

「了解」

「イザベラ」

「後方から魔法支援」

「任せて」

「フィオナ」

「回復は任せる」

「分かりました」

 最後にガレスの目がアルへ向いた。

「アル」

「はい!」

「前へ出るな」

 真っ直ぐな視線だった。

「打ち漏らしだけを片付けろ」

「無理はするなよ」

 アルは一瞬だけ頷きを返す。

「了解!」

 今はパーティーの一員として動く。

 それが一番重要だった。

 ガレスがゆっくりと大剣を抜く。

 陽光を浴びた刃が鈍く光った。

「行くぞ」

 その一言と同時に、大地を蹴った。

 爆発したような踏み込みだった。

「うおおおおおっ!!」

 雄叫びが森を揺らす。

 巨大な身体とは思えない速度で戦場へ飛び込むと、大剣が横薙ぎに振り抜かれた。

 轟音。

 先頭にいたオークが二体まとめて吹き飛ぶ。

 突然の乱入に魔物たちの視線が一斉にガレスへ向いた。

 そこへ。

 ドォン!!

 ドノヴァンが盾ごと体当たりを叩き込む。

 巨体同士が激突し、オークが大きく体勢を崩した。

 その隙を逃さない。

 ヒュンッ!

 一本の矢が風を裂く。

 レオンの矢だった。

 正確無比な一射が後方のゴブリンの眉間を射抜く。

 さらに二射、三射。

 放たれるたびにゴブリンが倒れていく。

 混成群の隊列が目に見えて乱れ始めた。

 その瞬間だった。

「──《ライトニング・ランス》。」

 イザベラの詠唱が静かに響く。

 紫電が一直線に走り、群れの中央を貫いた。

 雷撃を受けたオークが悲鳴を上げながら倒れ込む。

 さらに周囲のゴブリンたちも感電し、動きが止まる。

 わずか数秒。

 それだけで戦況は完全に変わった。

 四人を包囲していた魔物たちは、逆にアズール・イージスへ意識を奪われる。

「今だ!」

 ガレスの怒号が響く。

 包囲されていた四人も、その好機を逃さなかった。

 ドワーフの戦斧が唸りを上げる。

 エルフの矢が正確に急所を射抜く。

 獣人が一気に包囲網を突破し、魔人族が放った火球がゴブリンの群れを吹き飛ばした。

 アルはその様子を見ながら、小さく息を吸う。

(すごい……)

 これが、一流冒険者たちの連携。

 圧倒されるほど洗練されていた。

 そして、その戦場の外縁で、一体のオークがアルへ向かって咆哮を上げた。

 オークが大木ほどもある棍棒を振り上げる。

「グォォォォッ!」

 一直線にアルへ突進してきた。

 アルは一歩だけ後ろへ下がり、重心を落とす。

(前へ出ない)

 ガレスの指示を思い出す。

 自分の役目は前衛ではない。

 打ち漏らした敵を確実に処理することだ。

 アルは紙一重で身をかわした。

 地面へ棍棒が叩き付けられ、土と落ち葉が舞い上がる。

 その隙を逃さない。

 一歩踏み込み、剣を振るう。

 鋭い斬撃がオークの腕を切り裂いた。

 苦痛に顔を歪めたオークが体勢を崩す。

 そこへ二撃目。

 今度は喉元を狙う。

 刃が正確に急所を貫き、巨体がゆっくりと崩れ落ちた。

「よし……!」

 息を整える間もなく、今度は二体のゴブリンが飛び掛かってくる。

 アルは剣を横薙ぎに払った。

 一体が吹き飛び、もう一体は身を低くして懐へ潜り込もうとする。

 素早い。

 だが十五年積み重ねたガレスとの鍛錬は伊達ではなかった。

 半歩だけ身体を捻り、逆袈裟に切り上げる。

 ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく倒れた。

 一方その頃。

「押し返せ!」

 ガレスの怒声が森へ響く。

 巨大な大剣が円を描き、二体のオークをまとめて薙ぎ払う。

 その背後ではドノヴァンが盾を構え、押し寄せる魔物を一歩も前へ通さない。

 鉄壁だった。

 さらに。

 ヒュンッ。

 レオンの矢が木々の間を縫うように飛び、逃げようとしたゴブリンを射抜く。

 イザベラの雷撃も的確だった。

 前衛へ近付きすぎたオークだけを正確に撃ち抜き、ガレスたちの動きを一切邪魔しない。

 長年組んできた者だけが持つ呼吸。

 それは芸術とも呼べるほど完成されていた。

 救出される側だった四人も、その戦いぶりに目を奪われる。

「なんだ……あの連携は」

 ドワーフの青年が息を呑む。

「すごい……」

 エルフが小さく呟いた。

 魔人族も無言のまま視線を向ける。

 そして獣人の青年だけは鋭い眼差しでアズールを観察していた。

「……強い」

 それだけだった。

 戦況は完全に逆転した。

 オークは混乱し、ゴブリンは逃げ場を失う。

 統率されていたはずの混成群が、みるみる瓦解していく。

 だが。

 ガレスの表情は変わらない。

「深追いするな!」

 その一言で全員が動きを止めた。

 逃げ始めたゴブリンを追わない。

 森の奥へ踏み込まない。

 あくまで今回の目的は救出だ。

 その判断の速さも一流だった。

 やがて最後のオークが倒れる。

 静寂が森へ戻った。

 レオンは素早く周囲へ目を向ける。

 耳を澄まし、風を感じ、森全体の気配を探る。

 十数秒。

 誰も口を開かなかった。

 そして。

「……半径約二百メートルに脅威無し」

 短い報告だった。

 ガレスはすぐに頷く。

「よし!」

 そこで終わらない。

「撤退する」

 救出された四人が驚いた顔を見せる。

「撤退?」

 ガレスは迷いなく答えた。

「この森はおかしい」

「戦闘音を聞き付けて別の群れが集まって来る可能性もある」

「ここでのんびりするつもりはねえ」

 その言葉にレオンも同意する。

「当然だ」

「何かに見られている感じが消えない」

 イザベラも杖を握り直した。

「安全圏まで後退しましょう」

「手当てはそれからでも大丈夫」

 フィオナは既に救出した四人の傷を確認している。

「歩けますね?」

 ドワーフの青年が苦笑する。

「痛ぇが歩ける。」

 エルフも頷いた。

「問題ありません」

 獣人は無言。

 魔人族の女性も黙ったままだった。

 ガレスは全員を見渡す。

「隊列を組む」

「レオン先頭」

「ドノヴァン、殿を頼む」

「アル」

「はい!」

「さっきと同じだ」

「周囲をよく見ろ」

「何かあればすぐ知らせろ」

「了解!」

 アルは剣を握り直す。


 戦いは終わった。

 だが、本当の調査はここから始まる。

 森の奥にはまだ何かが潜んでいる。

 そんな予感だけが、胸の奥で静かに膨らんでいた。

 三十分ほど歩き、比較的開けた場所へ到着する。

 レオンが周囲を一周し、小さく頷いた。

「ここなら大丈夫」

 ようやく全員が息を吐いた。

 フィオナは改めて治癒魔法を展開する。

 淡い緑色の光が傷口を包み込み、裂傷が少しずつ塞がっていく。

「助かった……」

 ドワーフの青年が静かに頭を下げた。

「礼を言う」

 ガレスは軽く手を振る。

「気にするな」

「困った時は助け合いだ」

 だが、その言葉とは対照的に、獣耳の青年は腕を組んだまま口を開かなかった。

 その視線は鋭く、どこか警戒心を隠していない。

 隣に立つ魔人族の女性も同じだった。

 視線だけがアズールを静かに観察している。

 アルはその空気を敏感に感じ取っていた。


 やがてガレスが口を開く。

「改めて自己紹介だ」

「俺はガレス」

「アズール・イージスのリーダーだ」

 一人ずつ名前を告げていく。

 ドノヴァン。

 レオン。

 フィオナ。

 イザベラ。

 そして最後に。

「新人のアル」

 アルは頭を下げた。

「アルフレッドです」

「よろしくお願いします」

 するとグランと名乗ったドワーフが笑った。

「さっきの動き」

「新人とは思えなかったぞ」

 アルは照れ笑いを浮かべる。

「皆さんに鍛えてもらってますから」

 その言葉にイザベラが少しだけ誇らしそうに笑った。

 しかし。

「……」

 カインは黙ったままだ。

 セレスも無表情だった。


 しばらく沈黙が続いたあと、エルフの女性リシェルが口を開く。

「助けていただいたことには感謝します」

「ありがとうございました」

 深々と頭を下げる。

 グランも続く。

「俺も礼を言う」

「お前たちが来なきゃ終わってた」

 しかし。

 カインだけは腕を組んだままだった。

「……」

 ガレスは何も言わない。

 代わりにリシェルが申し訳なさそうに説明する。

「カインは……」

「人族に良い思い出がないんです」

 そこで初めてカインが口を開いた。

「昔、仲間がさらわれ、奴隷商に売られた」

 低く怒りのこもった声で言った。

 短く言い切る。

 セレスも静かに頷いた。

「私たちは角があるというだけで、悪だと決めつけられる」

「人族はそういう種族よ」

 アルは黙って聞いていた。

 反論はしない。

 否定もしない。

 彼らにとって、それは実際に経験してきた現実なのだ。

 その沈黙を破ったのはグランだった。

「おい」

「今はそんな話をしてる場合じゃねぇ」

 リシェルも頷く。

「私たちには調査を成功させる義務があります」

「感情だけで動く場面ではありません」

 カインは小さく息を吐いた。

「……分かってる」


 焚き火を囲みながら情報交換が始まった。

 アズール側からは村で聞いた話を。

 多種族側からは各領域で起きている異変を伝える。

 すると驚くべき事実が判明する。

「ドワーフ領でも」

「獣人領でも」

「エルフの森でも」

「魔人族領でも」

「全部、同じ現象が起きている」

 ガレスが腕を組む。

「つまり」

「人族だけの問題じゃねぇ」

 全員が頷いた。

 アルは静かに息を呑んだ。

(村だけの異変じゃない……)

(世界中で同じことが起きているのか。)

 さらにリシェルが続ける。

「私たちは昨日」

「黒いローブを着た三人組を見ました」

 空気が張り詰める。

「何をしていた?」

 レオンが尋ねる。

「森の奥で何かをしていた。何かはわからないが……」

「尾行しました」

「ですが途中で……」

 グランが苦々しい顔をする。

「突然、オークとゴブリンに囲まれた」

 アルは眉をひそめた。

「偶然とは思えませんね」

 イザベラも同意する。

「私もそう思う」

 ガレスは地図を広げた。

「位置は?」

 リシェルが指差す。

「この辺り」

 アズールの調査地点と一致していた。

 全員が顔を見合わせる。


 夜も更けた頃。

 ガレスは焚き火の炎を見つめたまま腕を組んだ。

 村で聞いた異変。

 統率された魔物。

 そして黒いローブの存在。

 どれも一つの線で繋がり始めていた。

(俺たちだけじゃ、荷が重いか……)

 小さく息を吐くと、覚悟を決めるように顔を上げた。

 ガレスが静かに言った。

「提案がある」

 全員が顔を上げる。

「このまま別々に動くのは危険だ」

「敵の正体も目的も分からねぇ」

「だったら共同で調査しないか」

 沈黙。

 真っ先に反応したのはカインだった。

「断る」

 即答だった。

「人族とは組まない」

 セレスも

「私は反対です」

「人族を信用できません」

 だがグランが腕を組む。

「俺は賛成だ」

「今日助けられたのは事実だ」

「お前たちの気持ちも分かるが今は感情論で動くべきじゃない」

 リシェルも静かに頷く。

「目的は同じです」

「異変の原因を突き止めること」

「私たちは各種族の代表として派遣された身です」

「あなたも命令を受けて来たのでしょう?」

 カインは焚き火を見つめたまま何も言わない。

 長い沈黙のあと、小さく息を吐いた。

「わかった……調査だけだ」

「だが信用したわけじゃないからな!」

 ガレスは笑った。

「それで十分だ」

 アルは胸を撫で下ろした。

 完全に打ち解けたわけではない。

 それでも互いに背中を預けられる仲間が増えたことは、心強かった。

 翌朝。

 二つのパーティーは簡単な朝食を済ませる。

 レオンが森の奥を見つめる。

「まずは昨日の戦場まで戻る。そこから奥に進もう」

 ガレスが頷く。

「行くぞ」

 リシェルも弓を背負う。

 グランが戦斧を肩へ担ぎ。

 カインとセレスも無言で歩き出す。

 アルは森の奥を見つめた。

(黒いローブ……)

(あれが異変の鍵だ)

 二つのパーティーは警戒を解かぬまま、一つの隊列となって森の深部へ歩き始めた。

 森は静まり返っていた。

 だが、その静寂はどこか不自然だった。

 まるで――何者かが、彼らを待ち構えているかのように。

第14話【共闘】をお読みいただき、ありがとうございました。

今回は戦闘だけで終わらせず、「世界各地で同じ異変が起きていること」と「人族と他種族の間にある溝」を描くことを意識しました。

そしてアルたちは、立場や種族の違いを越えて共同調査を開始します。

次話からはいよいよ森の奥へ踏み込み、異変の核心へ近づいていきます。物語も少しずつ大きく動き始めますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると今後の励みになります。

それでは、また次話でお会いしましょう。

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