反撃の胎動
今回は、アルから届いた証言を受け、レオナルトとガレスが反ルシウス勢力の組織化に動き始めます。
各地の貴族や異種族との連携を模索する一方、王都では教会とルシウスの思惑も動いていました。
少しずつ、対立の構図が見え始めます。
王都の屋敷。
アルは机の上に置かれた一枚の報告書を見つめていた。
先王レオポルドの最期を目撃したという、元王宮職員の証言。
そこには、ルシウスが自ら剣を振るったことが記されている。
「……これで、少なくとも先王陛下の件は一歩進んだね」
隣に立つエルシアが頷く。
「レオナルト様にも伝えるんだよね?」
「うん。直接伝えたいところだけど、今は屋敷を離れるわけにはいかないから」
アルは窓の外へ目を向けた。
王都にいる間、自分はルシウスの監視下にある。
不用意に動けば、ヴァルクレイン領にまで影響が及ぶ可能性がある。
「これを持っていってもらおう」
アルは報告書を封筒へ入れた。
そして、メッセンジャーホークを呼び寄せる。
「レオナルト兄さんに届けて。大切な証言だから、確実にね」
鷹は短く鳴くと、窓から空へ飛び立った。
「これで、兄さんたちも動きやすくなるはず」
「でも、証言だけでは教会とルシウスの関係までは証明できないよね」
「そうだね」
アルは頷く。
「先王陛下に剣を振るったのがルシウス本人だという証言は得られた。でも、教会がクーデターにどこまで関わっていたのかは、まだ分からない」
黒ローブたちの存在。
黒魔石の研究。
そして、王宮で起きたクーデター。
それぞれの情報は少しずつ繋がり始めている。
だが、決定的な証拠はまだない。
「だから、今は情報を集めるしかない」
アルは報告書の控えを手元に残した。
「兄さんたちにも、無理はしないように伝えておこう」
ヴァルクレイン領。
領主館の一室では、レオナルトが届いたばかりの報告書を読み終えていた。
向かいにはガレスが座っている。
「……間違いないようだな」
レオナルトが静かに口を開いた。
「証言した人物は、当時の王宮に勤めていた者だ。先王陛下が連れ出された後、ルシウス自身が剣を振るうところを目撃したと」
「はい。アルの報告にも、証言した人物が実際に見たことだけを話しているとあります」
ガレスは丁寧に答えた。
「これで、ルシウスが先王陛下に剣を振るったという証言を得られました」
「そうだな。証言者の身の安全も確保しなければならない」
レオナルトは報告書を机に置いた。
「それに、今の王都でこの情報を公にすれば、証言者だけでなく、アルにも危険が及ぶかもしれない」
「はい。まずは、こちらで準備を進めるべきかと存じます」
ガレスの言葉に、レオナルトは頷いた。
「反ルシウス勢力の形成だな」
「はい。ただし、急いで人数を集めるのは危険です。誰が味方で、誰が中立で、誰がルシウス側なのか。そこを見極める必要があります」
「分かっている」
レオナルトは地図を広げた。
王国各地には、先王レオポルドの治世を支持していた貴族が多く残っている。
表立って動くことはできなくても、現在の政権に不満を抱く者は少なくない。
一方で、ルシウスの即位によって地位や利益を得た者もいる。
教会との結びつきを強め、現政権を支持する者もいるだろう。
「まずは、信頼できる貴族から接触しよう」
「それと、冒険者ギルドの情報網も使えます」
ガレスが続ける。
「黒ローブの目撃情報や、黒魔石に関する情報を集めます。行方不明者や魔物の襲撃についても、各地のギルドに確認を取ります」
「そうだな。頼んだ」
「了解しました」
レオナルトは地図の北側へ視線を移した。
「それから、各種族との連携も必要だな」
「魔人族領の件もあります。獣人族やエルフ、ドワーフたちも、今回の一連の事件を警戒しているはずです」
「彼らが現政権をどう見ているのか、直接話を聞く必要がある」
レオナルトは少し考えた。
「ただ、全員が同じ考えとは限らない。協力を求めるにしても、それぞれの事情を尊重しなければならないな」
「はい。無理に一つにまとめようとすれば、かえって反発を招くでしょう」
ガレスは静かに頷いた。
彼らが目指すのは、単にルシウスを倒すことではない。
現在の政権によって失われた秩序を取り戻し、囚われているセドリックを再び王位へ戻すこと。
そのためには、人族だけでなく、各種族の協力も欠かせない。
「まずは、情報を共有できる相手を増やそう」
レオナルトが言った。
「敵か味方かを急いで決めるのではなく、話し合える関係を作るところから始める」
「承知しました。私の方でも、信頼できる冒険者たちに声をかけてみます」
「頼りにしている、ガレス」
「お任せください」
二人は改めて地図へ目を向けた。
まだ、組織と呼べるほどのものではない。
協力を約束した者も、ほんの一握りだ。
それでも。
各地に散らばっていた小さな動きが、少しずつ一つの方向へ向かい始めていた。
同じ頃。
王都の大聖堂、その奥にある一室。
そこには、教皇アルベリク十三世と国王ルシウスがいた。
「黒魔石の生産効率が、さらに向上したそうですね」
教皇が穏やかに尋ねる。
「はい。以前よりも安定して生成できるようになりました」
ルシウスは答えた。
「これなら、計画を早めることも可能でしょう」
「よろしい」
教皇は満足そうに目を細めた。
「人族だけではありません。魔人族も、獣人族も、エルフも……教会に従わぬ者は、等しく材料となります」
ルシウスは一瞬だけ表情を動かした。
「各地の反対勢力を排除しながら、黒魔石を増やすということですか」
「そうです。異なる種族も、異なる思想も、いずれは一つにまとまるべきなのです。教会に従う者が大陸の大多数を占めれば、誰も我らに逆らえなくなるでしょう」
教皇の声は静かだった。
「この大陸のすべてを、神の教えのもとに」
ルシウスは返事をしなかった。
ただ、教皇の言葉の奥にある野心を探るように、その顔を見つめていた。
やがて教皇は、手元に置かれた神の石へ視線を落とす。
「準備が整い次第、次の段階へ進みましょう」
その石の奥で、黒い光がかすかに揺れた。
今回は、アルから届いた証言を受け、レオナルトとガレスが反ルシウス勢力の組織化に動き始めます。
各地の貴族や異種族との連携を模索する一方、王都では教会とルシウスの思惑も動いていました。
少しずつ、対立の構図が見え始めます。
後書き
第114話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、レオナルトとガレスが反ルシウス勢力の組織化に向けて動き始めるお話でした。
まだ小さな動きですが、各地の人々や異種族との協力が、これからの大きな流れにつながっていきます。
一方で、教会とルシウスも新たな計画を進めているようです。
それぞれの思惑が交錯する中、物語は次の段階へ進んでいきます。
今後ともよろしくお願いいたします。




