故郷で交わす決意
今回は、久しぶりにヴァルクレイン領へ戻ったアルが、レオナルトやガレスと直接話し合います。
王都で得た情報を共有し、これから何をすべきかを考えるアルたち。
それぞれの立場で動き始めた仲間たちの決意を、ぜひ見届けてください。
王都の屋敷。
アルは机に広げた書類へ目を落としていた。
教会の動き。
各地で増えている魔獣の襲撃。
黒ローブたちの目撃情報。
そして、王宮と教会の関係。
集めた情報を整理しても、決定的な証拠には届かない。
「……やっぱり、ここから先は難しいか」
小さく息を吐く。
レオナルトやガレスとは、伝令の鳥を通じて情報を交換している。
だが、文字だけでは伝えきれないこともある。
それに、今後の方針を決めるなら、一度直接顔を合わせた方がいい。
「一度、領地へ戻りたいな」
アルの呟きに、隣にいたエルシアが顔を向けた。
「ヴァルクレイン領へ?」
「うん。兄さんたちと直接話したい」
「でも、今のアルは自由に動ける立場じゃないよね」
「分かってる」
アルは窓の外へ目を向けた。
王都での生活は、一見すれば不自由ではない。
必要なものは与えられ、外出も一定の範囲なら認められている。
しかし、それは自由を許されているという意味ではなかった。
アルは王にとって、ヴァルクレイン家を縛るための存在でもある。
勝手に領地へ戻ることなど、認められるはずがない。
「それでも、交渉する価値はあると思う」
「どうやって?」
「名目を用意する」
アルは書類をまとめた。
「王都での生活にも慣れてきたし、今後の活動について領地側と相談したい。そういう理由なら、完全に拒否するのも難しいんじゃないかな」
「でも、許可が出ても監視は付くと思う」
「だろうね」
アルは苦笑した。
「むしろ、監視を付けることを条件に許可するんじゃないかな」
エルシアは少し考えた後、頷いた。
「それでも、会いに行けるなら意味はあるね」
「うん。直接話せるだけでも違う」
数日後。
アルは王宮へ出向き、領地への一時帰還を願い出た。
対応したのは、王宮の役人だった。
「ヴァルクレイン領への帰還、ですか」
「はい。領地の状況について確認したいことがあります。兄とも、今後の活動について相談したいと思ています」
「現在の陛下の方針では、王都を離れることは推奨されておりません」
「承知しています。ただ、領地との連携が必要な案件もあります。短期間で構いません」
役人は書類に目を落とした。
しばらくして、別室へ確認に向かう。
戻ってきたのは、それから少し後だった。
「陛下より、条件付きで許可が下りました」
「条件、ですか?」
「王宮から護衛を同行させること。滞在期間は短期間とし、行動予定については事前に報告すること」
やはり、という思いがアルの胸に浮かぶ。
護衛という名目だが、実際には監視役だろう。
「分かりました。その条件で構いません」
「では、出発の日程を調整いたします」
アルは礼を述べ、王宮を後にした。
完全な自由ではない。
それでも、領地へ戻る道は開けた。
「許可が出たね」
屋敷へ戻ると、エルシアが尋ねた。
「うん。ただし、護衛付き」
「監視役も兼ねているんだろうね」
「間違いないと思う」
アルは肩をすくめた。
「でも、今回はそれでいい」
「会いたい人たちがいるからね」
出発から数日後。
アルたちは、ようやくヴァルクレイン領へ戻ってきた。
見慣れた街道。
遠くに見える山々。
領地へ近づくにつれ、胸の奥に懐かしさが込み上げてくる。
ただ、今回は以前のように気楽な帰郷ではない。
王宮から同行した護衛たちは、道中も一定の距離を保ちながらアルたちを見ていた。
屋敷へ到着すると、レオナルトが出迎えた。
「アル!」
「兄さん」
二人は短く言葉を交わし、互いの無事を確かめる。
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「兄さんも。領地の方はどう?」
「話したいことは山ほどある。まずは中へ入ろう」
その場には、ガレスも待っていた。
「アル、久しぶりだな!」
「ガレスも。久しぶり!」
「元気だったか? 向こうの暮らしはどうだ?」
「うん。快適だよ。不自由なく過ごせてる」
そう答えながら、アルは目で合図し、王宮から同行してきた護衛たちへ視線を向けた。
「それは何よりだ」
ガレスもアルの視線を追い、事情を察したように小さく頷いた。
レオナルトは、アルたちを屋敷の一室へ案内した。
王宮の護衛も同行しようとしたが、レオナルトが静かに口を開く。
「ここから先は領内の機密に関わる話もある。護衛の方々には別室を用意してあるので、そちらで待機していただきたい」
「しかし、我々にはアル様の行動を確認する任務が」
「もちろん、屋敷の外へ出る際には報告する。だが、領内の者との打ち合わせまで立ち会う必要はないはずだ」
レオナルトの言葉に、護衛たちは互いに視線を交わした。
やがて、代表者が一礼する。
「承知しました。ただし、長時間の離席はご遠慮ください」
「分かった」
護衛たちは部屋を出ていった。
扉が閉まると、ようやく一同の表情が緩んだ。
「さて」
レオナルトが椅子に腰を下ろす。
「まずは、王都で分かったことを聞かせてくれ」
「うん」
アルは教皇の説教、王の発言、教会での出来事を順番に説明した。
教皇が語った神の意志。
それを支持するルシウス。
そして、黒ローブたちの活動と各地で続く魔獣の襲撃。
「……やはり、教会と王は繋がっていると考えるべきか」
レオナルトが呟く。
「可能性は高いと思う。でも、まだ証拠がない」
「私たちも同じ見立てです」
ガレスが続けた。
「各地の情報を集めていますが、黒ローブの活動と王宮の動きを直接結びつけるものは、まだ見つかっていません」
「それでも、動く必要はある」
レオナルトがテーブルへ手を置く。
「このままでは、各地の被害が広がる。魔獣の襲撃を防ぎ、黒ローブの動きを監視する体制を整えたい」
「監視だけじゃなく、捕縛も必要だね」
アルが言う。
「黒ローブを捕らえられれば、情報を聞き出せる。使っている魔道具や黒魔石を押さえることができれば、さらに調べられる」
「そうだな」
ガレスが頷いた。
「俺の冒険者仲間にも、協力を頼める者がいる。各地に黒ローブの監視を行う者を置き、怪しい動きがあれば報告する。必要なら捕縛や、物資の押収も行う」
「魔獣の襲撃に備える防衛隊も必要だと思う」
アルは続けた。
「監視だけでは、襲撃が起きたときに間に合わない。街や村を守るための人員を確保して、各地で連携きるようにしたい」
「各地の領主にも協力を求める必要があるな」
レオナルトは考え込む。
「ただし、全員を一つの指揮系統にまとめるのは難しい。領地ごとに事情も違う」
「無理に統一する必要はないと思う」
アルは答えた。
「目的を共有して、情報を交換できる仕組みを作る。それぞれが守るべき場所を守り、必要なときに協力できればいい」
「それなら、他種族にも声をかけやすいでしょう」
ガレスが言った。
「獣人族やエルフ、ドワーフ、魔人族にも、同じように考えている者たちがいます。彼らにも協力を求められると思います」
レオナルトは頷いた。
「まずは信頼できる者たちからだな」
「うん」
アルも頷く。「名前を付けるなら、反王朝連合……かな」
「反王朝連合か」
レオナルトがその言葉を口にする。
「ルシウスの支配を終わらせ、正統な王位を取り戻すための組織。目的は明確にしておこう」
「ただ、今はまだ大きく動かない方がいい」
アルは念を押した。
「王宮に動きを知られれば、こちらの協力者まで危険にさらす。まずは小さく始めて、情報と証拠を集めよう」
「分かった」
レオナルトが答える。
「俺たちは連合の基盤を作る。各地の領主や冒険者、他種族との連絡網を整える」
「私は冒険者側の協力者をまとめます」
ガレスも続けた。
「監視と防衛、それぞれに動ける人員を確保しましょう」
アルは二人の顔を見た。
「お願いします」
「ただし、アル」
レオナルトが真剣な表情で言う。
「お前は王都に戻った後も、教会と王の関係を調べ続けてくれ」
「分かってる」
「危険なことはするな。今のお前は、こちらにとっても重要な存在だ」
「うん。でも、核心に迫る証拠を見つけない限り、ルシウスを追い詰めることはできない」
アルは拳を握った。
「必ず見つける。教皇と王が何をしているのか、その証拠を」
レオナルトは静かに頷いた。
「頼んだぞ」
ガレスもレオナルトへ向き直り、深く頭を下げた。
「私も、連合の立ち上げに全力を尽くします」
話し合いは、その後も続いた。
協力者の選定。
情報の伝達方法。
各地の防衛体制。
黒ローブを捕らえた際の対応。
決めるべきことは多い。
それでも、ようやく進むべき方向が見え始めていた。
夜。
話し合いを終えたアルは、屋敷の窓から外を眺めていた。
懐かしい領地の景色。
ここには、かつて家族と過ごした時間が残っている。
そして今は、兄や仲間たちがこの場所を守っている。
「アル」
エルシアが隣へ来た。
「話し合いは終わった?」
「うん。兄さんたちが連合の基盤を作ってくれることになった」
「アルは?」
「王都へ戻る」
エルシアは少しだけ表情を曇らせた。
「また、監視される生活だね」
「そうだね。でも、今はそれを利用するしかない」
アルは窓の外から視線を戻す。
「兄さんたちが各地で動いてくれる。その間に、俺は王と教皇の関係を調べる」
「一人で抱え込まないでね」
「分かってる」
アルは小さく笑った。
「今回は、みんなで進めるんだから」
反王朝連合。
それは、まだ小さな動きに過ぎない。
各地の協力者も、防衛隊も、監視隊も、これから整えていかなければならない。
だが。
これまで個別に動いていた者たちが、同じ目的のもとに集まり始めた。
王都では、アルが真実を探る。
各地では、レオナルトとガレスが仲間を集める。
そして、各地に散らばる協力者たちが、黒ローブの動きを追い始める。
ルシウスの支配を終わらせるための反撃は、静かにその形を作り始めていた。
第115話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回はアルが故郷へ一時帰還し、レオナルトやガレスと今後の方針を話し合う回でした。
少しずつ仲間たちの動きが一つにつながり、反撃への準備が始まっています。
引き続き、アルたちの物語を楽しんでいただけましたら幸いです。
ブックマークや評価なども、大きな励みになります。
今後ともよろしくお願いいたします。




