↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/61

冒険者登録

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は、アルが十五歳となり、新たな一歩を踏み出すお話です。

これまで積み重ねてきた鍛錬と研究が、少しずつ形になっていきます。

ぜひ最後までお楽しみください。

 兄弟の秘密の約束の日から数年。 

 アルは15歳になっていた。

 毎日の日課の鍛錬に余念がない。


 朝の庭には、乾いた剣撃の音だけが響いていた。

 金属が風を裂く。

 踏み込み。

 回転。

 そして、打ち込み。

「っ……!」

 アルは呼吸を整えながら剣を引いた。

 額には汗が浮かび、首筋を伝って落ちる。

 上がった息を整える。

 だが動きは止めない。

 次の一手へ繋ぐために、身体をもう一度動かす。

「そろそろ休憩にいたしませんか?」

 リリアの声が庭に落ちた。

 タオルが差し出される。

「リリア、ありがとう」

 アルはそれを受け取り、顔を拭った。

「今日はいつもより長く鍛錬なさってましたね」

「少し試したいことがあって」

「無理はなさらないでください」

 リリアは静かに微笑む。

 その視線には、ただの使用人以上の理解があった。

 アルが何か“普通ではない努力”をしていることを、彼女は知っている。

 だが口には出さない。

 それがこの屋敷の暗黙の均衡だった。

 

 午後は決まって魔法研究である。

「リリア。今日も裏の鍛錬場で魔法の鍛錬する。危ないから誰も近づけないよう皆に伝えておいて」

「かしこまりました」

 雷魔法は周囲に電撃を放つ魔法なので、失敗すると周りを巻き込みかねないということで、皆に警告をしているのだ。

 実際は他の属性魔法の実験もするので見られたくないというのが建前であった。

「イナズマ」

 掌を頭の上、上空にかざして振り下ろすと一筋の光の帯が標的に落ちる。

 「よし」

 今度は掌の魔力を流す量と流す圧力を高めて

「イカズチ」

 すると標的付近一帯に数本の稲光が電撃として一定の範囲に落ちた。

 「よし!」

 魔力を電気と捉えその流す量と流す圧力の相関関係で種類や出力を制御する。

 アルが立てた推論が実を結び始めていた。

「よし。次!」

 掌で魔力を練って圧縮空気を作り出し、周囲との圧力差を生み出す。

「カマイタチ」

 掌の圧縮空気を標的に野球のサイドスローのように投げつけると鋭利な刃物で切り付けられたように真っ二つになって落ちた。

「これもいいな」

 今度は両の掌を頭の上にかざしてまたも圧縮空気を作りそれを標的に投げつけるように振りかざす。

「プレス!」

 標的の周囲数メートルの空気が一瞬で圧縮され、標的そのものが上から押しつぶされるように粉々に砕けた。

「いい感じだ」

 次に試すのは少し手こずっている火魔法である。

 燃焼を一定期間維持するのが難しいな……

 瞬間的に発火させることには問題なくできていたが炎が持続しない悩みに一つの答えを見出していた。

「燃やし続けることが難しいなら……」

 掌に圧縮空気を作りそこに地面から少量の砂を入れてさらに圧力を加える。

 それを標的に投げつけて当たる瞬間に指を鳴らした。

「ボム」

 すると標的に触れるや否や爆発して粉々に粉砕した。

「やった!」

 粉塵爆発を応用したアル独自の魔法の完成である。

「水は……」

 そう言うと指をプストルの様に人差し指と中指を標的に向けその先端に大気中の水分を水滴化して

「ショット!」

 ピストルから弾丸が撃ち込まれるように木製の標的の真ん中を水滴が打ち抜いた。

「いいぞ。全部上手く行ってる!」

「最後だ」

 地面に両の掌をかざし地面に向かって魔力を練る。

「ウォール」

 そう言いながら地面の表面を掴んで剥がすかのように腕を上に引き上げると地面が一定の厚さで盛り上がり壁がアルの前面に展開された。

 「できた!」

 とうとう5属性の基本的な魔法が形になった瞬間だった。

 ここまで長かったな……。

 足掛け十年。

 でもまだ基本的な魔法だけだからな。

 もっともっと魔力制御をしっかり身につけなきゃ。

 まだまだアナログ感覚だからこれをどうにかデジタル感覚にできたらいいんだけどなぁ

 アルの魔法研究はある程度の成果が見え始めていた。

「よし!これで形になったかもしれない。いよいよかな」


 数日後の夕食時、家族皆が集まって食事をしている時だった。

 アルはおもむろに

「父上、母上、兄上、お話があります」

 突然のことに父と母は驚いたように聞き返した。

「どうした?」

 レオナルトは何となく察しがついていたようで動じることなく聞き入っていた。

「僕も15歳になりました」

「15歳になれば冒険者登録ができる年齢です」

「なので僕は冒険者になろうと思います」

 突然の冒険者宣言に両親は数秒間動きを止めた。

「アル?何を言い出すの?」

「貴方はこのヴァルクレイン家の次男なのよ?」

「どうして冒険者なの?」

 セレナは心配そうに父をチラチラ見ながら諭すように言った。

「アル。訳を言いなさい」

「どうして冒険者なんだ?」

 父、エルディオンは落ち着いた口調でアルに理由を聞いた。

「父上に兄上を支えなさいと言われてからずっと、どうしたら兄上を支えられるか考えていました」

「兄上を支えるには僕はこの世界を知らなすぎる」

「この世界は広い。その広い世界をもっと見てみたいのです」

「見聞を広め、その経験をもって兄上を支えたいのです」

 この世界を知りたい、魔法を研究したい。

 この思いもアルの本音だが見聞を広めて兄を支えたいという思いもまた偽りない気持ちだった。

 しばらくの沈黙の後、

「アルの気持ちは分かった」

「ただし!条件がある」

「18歳までにアズール・イージスに一人前の冒険者として認められること」

「それが叶えば冒険者として生きていくことを許そう」

 エルディオンは落ち着いた口調で言った。

「わかりました」

「必ずアズールの皆に認められるよう頑張ります!」

 親子のやり取りを聞き入ってた兄レオナルトがようやく口を開いた。

「アルなら心配ないよ」

「一流の冒険者になるのは分かってる」

「もしかしたら伝説級の冒険者になるかもな」

 セレナは大きくため息をついて言った。

「やっぱり男の子なのね……」

「アル、いいこと?絶対に無理をしてはいけませんよ?」

「わかった?」

「わかりました、母上」

 食事時、必ずエルディオンの傍らに控えているセバスが静かに言った。

「ではまず、冒険者登録の試験を受けませんとな」

 するとエルディオンが言う。

「セバス。アズールの皆に連絡して同行してもらうよう伝えてくれ」

「かしこまりました。旦那様」


 数日後。

 冒険者ギルド。

 石造りの建物の前に、アルとアズールの皆が立っていた。

「さあ坊ちゃん行こうか」

 ガレスのごつい手がアルの背中を押した。

 ここからは“個人”としての開始だった。

「うん!」

 扉を開ける。

 中は喧騒と熱気に満ちている。

 視線が一斉に集まる。

「おっ、領主様の次男じゃないか?」

 だがアルは気にしない。

 まっすぐ奥へ向かう。

 そこには、鍛え抜かれた大柄な体格で鋭い眼差しと穏やかな笑顔を併せ持つ風格ある男性が立っていた。

 ギルドマスター。ローガン・アイゼンハルト。

 アズール・イージスの活動に頻繁に同行していたアルにはなじみの顔だ。

「アル様。よくご決断なさいましたな」

 ローガンは甥っ子の重大な決断を後押しするかのように優しく言った。

「ギルマス。今日はよろしくお願いします」

「了解しました」

「本日の試験官は私が務めさせてもらいます」

 ギルド内が一気にざわめいた。

「おいおい。ギルマスがわざわざ試験官を努めるのかよ」

「こりゃ面白くなってきた」

 ざわつく周囲をよそにローガンは奥の闘技場にアルたちを案内する。


 ギルドの裏手にある実戦用の模擬闘技場。

「試験内容は単純です」

 ローガンは剣を肩に担いだ。

「私との模擬戦で一本取れたら合格です」

 暇を持て余していたギルド内の冒険者たちの野次馬が闘技場を賑やかしていた。

「まじか。ギルマスから一本取らなきゃいけねえのかよ」

「いくら神童様でもこれは難しくないか?」

「了解です」

「よろしくお願いします!」

 アルは分かっていたかのように返事をして頭を下げた。

 闘技場の中央に向かい合い、アルはゆっくりと木剣を抜く。

 構えは静か。

 無駄がない。

 「ほう……」

 ローガンがうなった。

 力みもなく自然体で、それでいて隙がない。

 ふぅ~っと息を吐いたその刹那

 アルが踏み込む。

 素早い上段からの一撃。

 ローガンは難なく受けてアルの身体ごと跳ね返す。

 体格差から見てもパワーでは勝ち目がない。

 アルは跳ね返されるのが当然とばかりに着地してすぐに次の斬撃を繰り出す。

 今度は薙ぎ払いの連撃。

 スピードでの勝負に挑んだのだ。

 すさまじい早さでの連撃に周りの野次馬たちは驚きの声を上げる。

「おお!すごい早さだ!」

 それでもローガンはすべての連撃を難なくさばいていく。

「さすがギルマス!元アダマン級は伊達じゃねえ」

 パワーでも、スピードでも叶わない

 アルは一度後退して距離を取った。

 さすがギルマス。とっておきを出さないと一本なんて取れそうにないな……。

 ローガンは不敵な笑みを浮かべて、アルの次の一手を待ち構えていた。

 アルは木剣を鞘に戻すような構えで足を前後に開き腰を落として身構えた。

 前世に見た時代劇にヒントを得た抜刀術だ。

 これでダメなら仕方ない……どうだ!

 低い構えから木剣を脇に腰に構えたまま鋭くローガンに突進した。

「早い!」

 この対戦で一番の速さだ。

「この瞬発力は!」

 実はこの突進には秘密があった。

 自身の後方に向け剣先に空気を圧縮してそれを一気に解放してカタパルトから射出されるようなスピードを得ていたのだ。

 そしてローガンの懐に届くその刹那に腰に構えた剣を抜いて下段から上段に振り上げた。

バキっ!

 ローガンは何とか腰のあたりに届きそうなアルの切っ先を、なんとか受け止めたがその威力に負け木剣は割れて破片が飛び散った。

 ローガンは一瞬驚いた表情を見せたがすぐに穏やかに言った。

「お見事!」

 野次馬たちが割れんばかりの歓声で騒ぎ立てる。

「うおーなんだ今の!」

「なんてスピードだ!俺全然見えなかったぞ」

 アルの魔法によるドーピングの剣術で何とかローガンから一本が取れたのだった。

「おみそれしました。よく鍛錬なさいましたな」

 ローガンはそう言って右手を差し出した。

「ありがとう」

「でも実際は防がれてしまった」

 苦笑いしながら、ローガンと握手をした。

 

 闘技場からギルドマスターの執務室に案内されて

「見事な剣さばきでした」

「あれなら問題ないでしょう。合格です!」

 そう言って後ろに控えていた受付嬢から何やら受け取ってアルに差し出した。

 黒光りした黒鉄のギルドカードだった。

 アルフレッド・フォン・ヴァルクレインと名が刻まれている。

「強さは申し分ないとはいえ規定ですから。フェラム(黒鉄)級からです」

「ありがとう!」

 ギルドカードを受け取ると受付嬢が前に出て説明をはじめた。

「ご存じかも知れませんが規則でもありますのでご説明を」

「一番下のランクからフェラム級、スティール級、ミスリル級、アルジェント級、オリハル級、アダマン級、となっております」

「各ランクによってギルドカードも変わります。ギルドカードは身分証でもありますので無くさないようにしてください」

「はい!ありがとうございました!」

 ガレスが遠慮なしにアルの背中を叩く

「やったな坊ちゃん!」

 これで名実ともに冒険者アルの誕生である。

「領主様から聞いてます」

「18歳になるまでにアズールから認められる必要があるとか」

「うん。じゃないと冒険者を続けられないんだ」

「それが叶えばスティール(鋼鉄)級はおろかミスリル(魔銀)級に匹敵ですな」

「頑張ってください」

「ありがとう!」

 こうして冒険者登録試験が滞りなく終了した。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ついにアルが冒険者としての第一歩を踏み出しました。

これまで屋敷や領内を中心に過ごしてきたアルですが、ここから物語は少しずつ世界へと広がっていきます。

また、アル独自の「現象を理解して魔法を組み立てる」という研究も、ようやく実践で使える段階に入ってきました。今後は研究成果が実際の冒険でどのように活かされるのかも見どころの一つです。

アズール・イージスとともに、新たな舞台へ踏み出します。

「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。

次回もよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。