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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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109/116

捕虜が語る真実

今回は、捕らえた黒ローブへの尋問が始まります。

襲撃を指示したのは誰なのか。そして、黒魔石にはどんな秘密が隠されているのか。

少しずつ明らかになる真相を、ぜひお楽しみください。

 魔獣の襲撃が終わった防衛線には、勝利の歓声が響いていた。

 兵士たちが互いの無事を確かめ、冒険者たちは武器を収めながら安堵の息を吐く。

 負傷者の手当ても始まり、街の人々からは感謝の声が上がっていた。

 防衛線は守られた。

 だが、その喧騒から少し離れた場所では、アルたちが捕らえた黒ローブの男を囲んでいた。

 男の両手は拘束され、武器もすでに取り上げられている。

「……まずは、こいつの扱いを決めないとね」

 イザベラが男を見ながら言った。

「今回の襲撃を指揮していたのは、こいつで間違いないと思う」

 アルは、布に包んだ黒い石の破片へ視線を落とした。

「魔獣の動きが変わったのは、こいつが持っていた黒魔石を切った直後だった。偶然とは考えにくい」

「私も、石の反応と魔獣の動きには関係があったと思うわ」

 フィオナが頷く。

「ただ、どういう仕組みで魔獣に影響を与えていたのかは、まだ分からないのよね」

「だからこそ、詳しく調べる必要がある」

 アルは黒魔石の破片を見つめた。

 生命力を奪い、その力を蓄える石。

 以前から分かっていた性質に加え、魔獣の群れを統率するような働きまであるのだとすれば、研究する価値は大きい。 しかし、今は石の仕組みを解明するより先に、襲撃の背景を調べなければならなかった。

「この男から話を聞きたいところだけど……」

 イザベラが小さく息を吐いた。

「私たちは、王都での連絡役と情報収集を続けなければならない。ここで長時間、尋問に付きっきりになるわけにはいかないわ」

 フィオナも困ったように眉を寄せた。

「それなら、ひとまず私たちで身柄を預かって、ガレスに引き取ってもらうのはどうかな」

 アルが提案した。

「ガレスたちなら、ヴァルクレイン領で落ち着いて尋問できる。それに、黒魔石の調査も一緒にお願いできると思う」

「そうね。それがよさそうだわ」

 イザベラは頷いた。

「まずはガレスに連絡しましょう」

 彼女は荷物から小さな筒を取り出した。

 中には、連絡用の文書を収められる仕組みが備わっている。

 イザベラは今回の襲撃で捕らえた黒ローブの身柄を一時的に預かること、そして黒魔石の破片も確保していることを簡潔に書き記した。

 さらに、捕虜が襲撃の指揮を担っていた可能性が高く、詳しい尋問と石の調査を依頼したい旨を添える。

 書き終えると、彼女はメッセンジャーホークを呼び寄せた。

 腕に止まった鳥の脚へ文書を固定する。

「ガレスのところまで、お願いね」

 ホークは短く鳴き、翼を広げた。

 空へ舞い上がった姿が遠ざかっていくのを見届けてから、イザベラは捕虜へ視線を戻した。

「返事が来るまでは、こちらで身柄を預かるわ」

「逃げられないよう、見張りは必要だね」

 アルが言うと、フィオナも頷いた。

「ええ。尋問は引き渡してからでも出来るわ。それまでは、余計なことをさせないようにしないとね」

 黒ローブの男は、三人の会話を黙って聞いていた。

 その表情からは、何を考えているのか読み取れない。

 アルは男を見つめた。

 今回の襲撃について、まだ分からないことは多い。

 だが、ようやく手に入れた確かな手掛かりだ。

 ここで失うわけにはいかなかった。

     

 同じ頃。

 王都の一室では、ルシウス王が報告を受けていた。

 その場には、教皇アルベリク十三世の姿もあった。

「……失敗した、というのか」

 ルシウスの声は低かった。

「申し訳ございません。魔獣の群れは防衛線を突破できず、指揮を担っていた者たちも、多くが戦闘の中で命を落としたものと思われます」

 報告者は深く頭を下げる。

「さらに、現場で使用していた黒魔石の反応が途絶えました。破壊された可能性が高いと考えております」

「可能性、か」

 ルシウスは椅子の肘掛けを指先で叩いた。

「確証はないのだな?」

「はい。現地の状況を詳しく調べる必要がございます」

「それと……」

 報告者は一瞬、言葉をためらった。

「指揮を執っていた者のうち、一人の所在が分かっておりません。戦闘後の確認でも、遺体は見つかりませんでした」

 ルシウスの指が止まった。

「捕らえられた可能性がある、と?」

「現時点では、否定できません」

 部屋に沈黙が落ちた。

 教皇は目を伏せたまま、静かに問いかける。

「その者が所持していた黒魔石は、どうなったのです?」

「破壊されたものと考えられますが、破片の所在は確認できておりません。現場から回収できなかったものと思われます」

 教皇の表情から、穏やかな笑みが消えた。

「……そうですか」

 声は静かだった。

 しかし、その言葉には明らかな重みがあった。

 黒魔石の破壊。

 指揮を担っていた者の所在不明。

 そして、回収できなかった石。

 どれも見過ごせる問題ではない。

「情報が少なすぎるな」

 ルシウスが言った。

「誰が戦場にいたのか。誰が石を破壊したのか。捕らえられた者がいるのか。すべて調べ直せ」

「はっ」

「ただし、動きは慎重にしろ。余計な噂を広めるな」

 報告者が退出すると、部屋には二人だけが残った。

 ルシウスは教皇へ視線を向ける。

「……捕虜がいるとすれば、厄介ですな」

「ええ」

 教皇はゆっくりと頷いた。

「彼らがどこまで知っているのか。それが問題です」

「情報がどこまで辿られるかですな」

「その先のこちらの意図を、知られては困りますからね」

 教皇は窓の外へ目を向けた。

「今回の件は、徹底的に調べなければなりません」

 ルシウスは答えなかった。

 ただ、二人の間には、先ほどまでとは違う緊張が漂っていた。

 失敗そのものも問題だった。

 だが、それ以上に。

 自分たちの知らないところで、計画の一部が失われている。

 その事実が、二人の心を重くしていた。

     

 その後、イザベラのもとへガレスから返事が届いた。

 捕虜と黒魔石の破片を引き受け、ヴァルクレイン領で詳しい尋問と調査を進めるという。

 数日後、ガレスの手配した者たちが現地へ到着した。

 捕虜は厳重な監視のもとで引き渡され、黒魔石の破片も確かな証拠として一緒に託された。

「こいつが何を知っているのか、できる限り聞き出してみる」

 ガレスはアルたちにそう告げた。

「黒魔石についても、分かったことがあれば連絡する」

「お願いします」

 アルは頷いた。

「命令を出した人物だけじゃなく、黒魔石の仕組みについても知りたいんです」

「分かっている。任せておけ」

 こうして捕虜と黒魔石は、ヴァルクレイン領へ運ばれることになった。

     

 数日後。

 ヴァルクレイン領の一室で、ガレスは黒ローブの男と向かい合っていた。

 机の上には、拘束された男の所持品と、アルから預かった黒魔石の破片が並べられている。

 尋問は、すでに何度か行われていた。

 最初、男は何も話そうとしなかった。

 命令を受けて行動しただけだ。

 自分には責任がない。

 そう繰り返すばかりだった。

 しかし、時間が経つにつれ、少しずつ態度が変わっていった。

「……今回の襲撃は、大司教の命令だった」

 男がようやく口を開いた。

 ガレスは表情を変えずに尋ねる。

「大司教が直接指示したのか?」

「……ああ。少なくとも、俺たちが受けた命令はそうだった」

「その大司教は、誰から命令を受けている?」

 男は俯いた。

「……そこまでは知らない」

「本当に?」

「俺たちが接触できる相手じゃない。大司教より上に誰かいるのは分かっていたが、名前も、立場も教えられていない」

 ガレスは男の言葉を記録するよう、傍らの者へ目配せした。

「今回の襲撃の目的は?」

「魔獣を使って街を襲わせることだ」

「それは分かっている。なぜ、そんなことをした?」

「……教会の勢力を広げるためだと聞いていた」

 男は苦しそうに顔を歪めた。

「魔獣の襲撃で人々が不安になれば、教会の救済を求める者が増える。そうすれば、教会の言葉を信じる者も増える……そういう話だった」

「人々の意識を変える、ということか」

「……ああ」

 男は小さく頷いた。

「ただ、俺は詳しい計画までは知らない。上の連中が何を考えているのか、全部教えられていたわけじゃないんだ」

「黒魔石については?」

 男の視線が、机の上の破片へ落ちた。

「魔獣を誘導し、動きを揃えるために使っていた。石が反応すると、魔獣の動きが変わる。だが……」

「だが?」

「俺たちも、仕組みを理解していたわけじゃない」

 男は首を振った。

「どうして魔獣が従うのか。石に何が起きているのか。そんなことは、上の研究者たちが調べていた」

 ガレスは黙って続きを待った。

「それに……」

 男はためらいながら口を開く。

「今になって思えば、俺たち自身も、何かおかしくなっていたのかもしれない」

「どういう意味だ?」

「教会の命令を疑う気が起きなかった。どれだけ酷いことをしても、必要なことだと思い込んでいた」

 男は自分の手を見つめた。

「捕まって、教会から離れて……黒魔石にも触れなくなってから、少しずつ考えられるようになった気がする」

「黒魔石が、人の考えにも影響していたと言いたいのか?」

「……分からない」

 男は力なく首を振った。

「命令を信じ込まされていただけなのかもしれない。教会でずっと教えられてきたから、そう思うようになっただけかもしれない」

「だが、何か違和感があった?」

「……ああ」

 男は目を伏せた。

「今までなら、こんなことを話そうとも思わなかったはずだ。仲間を裏切るなんて、考えもしなかった」

 ガレスはしばらく黙っていた。

 黒魔石が精神に何らかの作用を及ぼしていたのか。

 それとも、長い間の教育や命令によって、男の考えが偏っていただけなのか。

 今の証言だけでは、判断できない。

「……分かった」

 ガレスは静かに言った。

「お前の話は、こちらで調べる」

 男は顔を上げた。

「俺は……どうなる?」

「それは、まだ決まっていない」

 ガレスは率直に答えた。

 男は何も言わなかった。

 ただ、先ほどよりも少しだけ、張り詰めていた表情が緩んでいた。

   

 ガレスから報告が届いたのは、その翌日だった。

 アルはエルシアとともに、報告書へ目を通していた。

「……大司教の命令だったんだ」

 アルが呟く。

「そして、その上にも誰かがいる」

 エルシアが続けた。

「うん。命令系統の全体は、まだ分からない。でも、教会の内部で組織的に動いている可能性は高い」

 アルは報告書を読み直した。

 魔獣の襲撃。

 黒魔石による誘導。

 教会の勢力拡大。

 そして、人の意識にまで影響を及ぼすかもしれない現象。

「……黒魔石の性質も、調べ直す必要があるな」

「精神に作用する力があるのかな?」

「可能性はある。でも、まだ断定できない」

 アルは首を振った。

「本人の証言だけじゃ、黒魔石の影響なのか、教会で受けた教育の影響なのか区別できないからね」

「そうだね」

「だから、石そのものの調査と、他の証言を集めることが必要になる」

 アルは報告書を机へ置いた。

 黒魔石は、生命力を奪い、蓄える石。

 そして今、新たに疑われている性質がある。

 もし、人の意識にまで作用するのなら。

 それは単なる魔道具や研究材料では済まされない。

 人々の考えを変え、命令を疑うことすらできなくさせる力。

 そんなものが確立されれば、教会は武力だけに頼らず、人々を従わせることができるかもしれない。

 だが、それはまだ仮説だ。

 確かな証拠はない。

「……まずは、分かっていることを整理しよう」

 アルは新しい紙を取り出した。

「黒魔石の性質。大司教の命令系統。教会が何を目的としているのか」

 一つずつ書き出していく。

「それから……」

 アルの手が止まった。

「枢機卿より上の人物についても、調べる必要がある」

 エルシアが静かに頷く。

「教皇や、ルシウス王も?」

「うん」

 アルは答えた。

「今の段階で、二人が直接関わっていると決まったわけじゃない。でも、調べずに除外する理由もない」

 教会の上層部。

 そのさらに上にいる人物。

 そして、王都で教会と接点を持つルシウス王。

 まだ、何も確定していない。

 けれど。

 黒ローブの襲撃は、単なる魔獣の暴走ではなかった。

 その背後には、明確な命令と目的があった。

「……もっと情報が必要だ」

 アルは報告書を閉じた。

「誰が命令しているのか。何をしようとしているのか。そして、黒魔石には何ができるのか」

 研究者として。

 この世界で生きる者として。

 知らないままにはできなかった。

 次に調べるべき相手は、もう見えている。

 枢機卿。

 その上にいる者たち。

 そして、王ルシウス。

 アルたちは、教会のさらに奥に隠された真実を探るため、新たな情報収集を始めることにした。


第109話を読んでいただき、ありがとうございました。

今回は、捕らえた黒ローブの証言から、大司教の存在と、そのさらに上にいる人物の影が見えてきました。

黒魔石が人の意識にまで影響を及ぼすのか。その謎も、アルたちが解き明かすべき新たな課題となりそうです。

面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

次回もよろしくお願いいたします。


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