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転生研究者の異世界魔法論 ――魔法を科学したら最強になった件――  作者: 夜透


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101/119

信心深き訪問者

第101話「信心深き訪問者」をお届けします。

人質として王都での生活を始めたアル。

表向きは新たな暮らしに馴染みながら、街の様子や人々の反応を慎重に観察していきます。

そして、次に足を運んだのは星環教の大聖堂。

教えを学ぶ一人の青年として、アルは教会との接点を築き始めます。

今回も楽しんでいただけましたら幸いです。


 王都の大聖堂は、朝の光を受けて白く輝いていた。

 高くそびえる尖塔。

 壁面を飾る精緻な彫刻。

 正面の大扉には、星を輪のように連ねた紋章が刻まれている。

 星環教。

 この国で最も大きな影響力を持つ宗教組織の総本山だった。

「……立派な建物だね」

 アルは大聖堂を見上げながら呟いた。

「王都の人々にとって、ここは特別な場所なんだろうね」

 隣に立つエルシアが答える。

「祈りを捧げるだけじゃなく、困ったときに相談に来る人もいるみたい」

「なるほど……」

 アルは頷いた。

 建築様式も気になるが、今はそれ以上に、この建物が人々にどのような影響を与えているのかが知りたかった。

 そして、自分がこれから何を調べるべきなのか。

 その答えの一端が、ここにあるかもしれない。

「行こうか」

「うん」

 二人は大聖堂の大扉をくぐった。

 内部には、すでに多くの人々が集まっていた。

 長椅子に腰掛け、静かに祈りを捧げる者。

 神官の話に耳を傾ける者。

 家族と一緒に訪れたらしい子供たち。

 人々の表情はさまざまだった。

 穏やかな顔もあれば、何かにすがるような切実な顔もある。

 アルは周囲を見渡しながら、祭壇へ向かった。

 やがて、一人の神官が二人に気づいて近づいてくる。

「おや、初めてお見かけする方ですね」

「はい。アルフレッド・フォン・ヴァルクレインと申します」

 アルは丁寧に頭を下げた。

「王都で生活することになりまして、こちらの教義について学びたいと思い、参りました」

「ヴァルクレイン……」

 神官の表情がわずかに変わる。

 辺境伯家の名を知っているのだろう。

 だが、それ以上を尋ねることはなかった。

「ようこそお越しくださいました。星環教は、いつでも学ぶ意志のある方を歓迎いたします」

「ありがとうございます。ぜひ、いろいろと教えていただければと思います」

 アルは柔らかく微笑んだ。

 従順で、礼儀正しく、教えを素直に受け入れる青年。

 今の自分には、そう見られることが都合よかった。

 神官は満足そうに頷くと、星環教の基本的な教えについて説明を始めた。

 世界は星々の導きによって秩序を保ち、人々は祈りと善行を通じて、その秩序に従って生きるべきだという。

 アルは途中で口を挟むことなく、最後まで話を聞いた。

「……よく分かりました。ありがとうございます」

「熱心に聞いてくださいますね」

「知らないことを学ぶのは好きなんです」

 アルは正直に答えた。

 もっとも、知りたいと思っているのは教義だけではない。

 神官たちが何を重視し、どのような言葉を繰り返し、何を当然のこととして語るのか。

 そこにも、調べる価値があった。

「また、礼拝にもいらしてください」

「はい。ぜひ」

 アルはもう一度頭を下げた。

 大聖堂を出ると、エルシアが小さく息を吐いた。

「ずいぶん素直だったね」

「そう見えた?」

「うん。教えを聞いているときも、ずっと真剣だったし」

「話を聞くのは本当だよ」

 アルは苦笑する。

「ただ、聞いたことを全部そのまま信じるかどうかは別だけど」

 エルシアは少しだけ目を細めた。

「……アルらしいね」

「まずは知ることから始めないと」

 アルは大聖堂を振り返った。

「判断するのは、それからだよ」

     

 王家から貸与された屋敷は、王都の中心部から少し離れた、比較的静かな区画にあった。

 貴族の住まいとしては小ぶりだが、庭と数部屋を備えた石造りの建物だ。

 最低限の家具も用意されており、二人が暮らすには十分だった。

 ただし、アルは到着したときから一つの疑問を抱いていた。

 ここは生活のために与えられた屋敷なのか。

 それとも、監視しやすい場所に置かれた住まいなのか。

 もちろん、今の段階では判断できない。

 だからこそ、確かめる必要がある。

「まずは周囲を覚えよう」

 翌日、アルはエルシアとともに屋敷を出た。

 表向きの目的は、王都の見学だ。

 人質として暮らす以上、街の様子を知っておくのは自然なことだった。

 市場を歩き、商店を覗き、広場を通り抜ける。

 アルは珍しい品物を見つけるたびに足を止めた。

 それは演技だけではない。

 異なる地域の品物が集まる王都には、研究者として興味を引かれるものも多かった。

 しかし、視線は商品だけに向けられているわけではなかった。

 通りの両端に立つ衛兵。

 交差点を巡回する兵士。

 人通りの多い場所と、少ない路地。

 王城へ続く道に設けられた警備の位置。

 歩きながら、少しずつ頭の中に地図を作っていく。

 時折、立ち止まって店先の商品を眺めるふりをしながら、後方の様子も確認した。

 同じ人物が何度も視界に入っていないか。

 自分たちの進路に合わせて動く者はいないか。

 今のところ、明確に尾行されていると判断できる兆候はなかった。

 だが、それだけで監視されていないとは言い切れない。

「……まだ分からない、か」

「何が?」

 エルシアが尋ねる。

「ううん。もう少し歩いてみよう」

 アルは笑って答えた。

 疑っていることを、むやみに口にする必要はない。

 今は観察を続けるだけだ。

 やがて二人は、市場の外れにある小さな食堂へ入った。

 昼時を過ぎていたが、店内には何人かの客が残っている。

 アルたちは食事を注文し、自然に周囲の会話へ耳を傾けた。

「……前の陛下の頃は、こんな騒ぎにはならなかったんだがな」

 近くの席で、年配の男が呟いた。

「声が大きいぞ」

 向かいの男が周囲を気にする。

「分かってる。だが、これからどうなるのか……」

「今は余計なことを言わない方がいい。家族まで巻き込まれたら困るだろう」

 会話はそこで途切れた。

 別の席からも、新しい王の話題が聞こえてくる。

 期待を語る声は少ない。

 代わりに、先行きを心配する声や、話題そのものを避けようとする態度が目についた。

 もちろん、これだけで王都の住民全員が新王を歓迎していないとは言えない。

 それでも。

「……不安に思っている人は、少なくないみたいだね」

 エルシアが小声で言った。

「うん。ただ、まだ一部の声だから」

 アルは慎重に答える。

「別の場所でも確かめたい」

 情報は、一つの会話だけでは判断できない。

 場所を変え、相手を変え、何度か確かめる。

 それから初めて、傾向が見えてくる。

 アルは食事を終えると、店を出る前にもう一度、店内を見渡した。

 人々は普段どおりに食事をし、仕事の話をし、家族の話をしている。

 王都の日常は、表面上は続いていた。

 だが、その下には小さな不安が積み重なっている。

 それが、今の王都の姿なのかもしれなかった。

     

第101話を読んでいただき、ありがとうございました。

王都での生活を始めたアルは、街の様子を探りながら、教会との関係も少しずつ築き始めました。

表向きの姿勢と、本来の目的。

その二つを使い分けながら、アルは真実へ近づいていきます。

次回もよろしくお願いいたします。


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