大司教との接点
第102話「大司教との接点」をお届けします。
星環教の大聖堂へ通い続けるアル。
真面目に教義を学ぶ青年として振る舞ううちに、少しずつ神官たちに顔を覚えられていきます。
そして今回、アルはついに大司教と対面することに。
教会の内側へ近づくための、小さな一歩が始まります。
今回も楽しんでいただけましたら幸いです。
それから数日、アルは王都での生活を続けた。
午前中は屋敷で過ごし、午後には街へ出る。
時には市場を訪れ、時には職人の店を覗き、時には大聖堂で礼拝に参加した。
教会へ通う頻度も、少しずつ増やしていった。
神官たちの話を聞き、教義について質問し、礼拝の準備を手伝える範囲で手伝う。
教義に異を唱えることはしない。
ただ、真面目に学びたいという姿勢を崩さなかった。
その結果、最初に話をした神官だけでなく、ほかの神官たちにも顔を覚えられるようになった。
「アルフレッド様は、ずいぶん熱心でいらっしゃいますね」
ある日の礼拝後、一人の神官が笑顔で声をかけてきた。
「まだ知らないことばかりですから」
アルは少し恥ずかしそうに答えた。
「もっと教えを深く理解したいと思っています」
「素晴らしい心がけです」
神官は満足そうに頷いた。
そのやり取りを、少し離れた場所から見ている人物がいた。
白と金を基調とした衣服。
胸元には、星環教の紋章。
ほかの神官たちが自然と道を譲る様子から、相応の地位にある人物だと分かる。
その人物はアルに一度だけ視線を向けると、何も言わずに奥へと姿を消した。
アルはその背中を見送った。
教会の中でも、立場によって行動や扱いが違う。
当然のことではあるが、実際に観察すると見えてくるものもある。
誰が誰に敬意を払うのか。
誰の言葉で人々が動くのか。
そうした関係を、少しずつ覚えていく。
そして、さらに数日が過ぎた頃。
アルは礼拝を終えて帰ろうとしたところで、一人の神官に呼び止められた。
「アルフレッド様。少し、お時間をいただけますか」
「はい。構いませんが」
「大司教様がお会いになりたいそうです」
アルは一瞬だけ目を見開いた。
だが、すぐに穏やかな表情へ戻す。
「私に、ですか?」
「ええ。こちらへどうぞ」
案内されたのは、大聖堂の奥にある静かな一室だった。
そこには、先日見かけた白と金の衣服をまとった神官が座っていた。
「よく来てくれた、アルフレッド殿」
落ち着いた声だった。
「私は、この大聖堂で大司教を務めている」
アルは深く頭を下げた。
「お目にかかれて光栄です」
「君が熱心に礼拝へ通い、教義を学んでいると聞いている」
「まだ学び始めたばかりです。皆様には、丁寧に教えていただいております」
「謙虚なことだ」
大司教は満足そうに微笑んだ。
「信仰とは、ただ祈りの言葉を口にすればよいというものではない。教えを理解し、自らの行いを正し、偉大なる導きに身を委ねることが大切なのだ」
「はい。肝に銘じます」
アルは静かに頷いた。
大司教はしばらくアルの様子を見つめていた。
「教皇猊下は、この世界を正しい道へ導くため、日々心を砕いておられる。そのお姿は、我ら信徒にとって大きな指針となるものだ」
語る声には、強い敬意が込められていた。
「教会には、教えを守り、広めるために多くの者が働いている。君のように真摯に学ぼうとする者が増えることは、喜ばしいことだ」
「ありがとうございます」
アルは丁寧に頭を下げた。
「今後も、こちらで学ばせていただければと思います」
「もちろんだ。信仰を深めたいという気持ちを大切にするとよい」
大司教は穏やかに頷いた。
「教えを学び続け、日々の行いで誠意を示していけば、君の努力を認める者も増えていくだろう」
「はい。これからも精進いたします」
アルは感激したように答えた。
もちろん、教義を深く信じているからではない。
今は、教会の中で信頼を得ることが重要だった。
まずは大司教との関係を築く。
その先に、さらに上位の者たちと接点を持つ機会が生まれるかもしれない。
焦る必要はない。
今は、少しずつ距離を縮めていくべきだ。
やがて面会を終え、アルは大聖堂を後にした。
外へ出ると、夕暮れの光が街並みを赤く染めていた。
「どうだった?」
待っていたエルシアが尋ねる。
「大司教と話ができたよ」
「大司教って、かなり偉い人なんだよね?」
「うん。少なくとも、ほかの神官たちが一目置いているのは間違いない」
アルは大聖堂を振り返った。
「教会の中で、誰がどんな役割を持っているのか。少しずつ分かってきた」
「これからも通うの?」
「うん。教義を学ぶためにも、教会のことを知るためにもね」
エルシアはアルの横顔を見つめた。
「無理はしないでね」
「分かってる」
アルは頷く。
教会に近づくほど、危険も増えるかもしれない。
だが、ここで引き返すわけにはいかなかった。
表向きは、教えを学ぶ一人の青年として。
内心では、研究者として、そして真実を探る者として。
アルは、教会の奥へ進む道を見つけ始めていた。
まずは大司教との関係を築く。
その先に枢機卿との接点が生まれ、やがて教皇へと近づく機会が得られるかもしれない。
今はまだ、その第一歩に過ぎなかった。
第102話を読んでいただき、ありがとうございました。
アルは大司教との接点を得て、星環教の内部へ少しずつ近づき始めました。
もちろん、目的は信仰を深めることだけではありません。
研究者として観察し、考え、真実へと近づいていくアルが、この先どのように教会との関係を築いていくのか。
引き続き見守っていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




