1章7話 『疑いの恐怖』
「違う違う。もっと流れるようなイメージで。ほら、もっかいやってみて。」
カケルは言われるままに行動した。
そしてカケルはここ数ヶ月の中で1番と言えるくらい集中する。
力が流れる様に……
自分の魂から心臓へ、そして腕。手の指、そして棒へ……
決して力まず、自然に流れる水のように、優しく一定に……
『キューイン』
とても小さく 透明な棒が音をあげて 黒に変色した。
「……え?」
カケルは素直に驚いた。
もし……さっきマジルが言ったことが本当なら カケル自身が『千年に一度』の逸材、 『ブラックソウラー』って訳だ。
だがそんなに都合良く世界が出来ているわけがない。
だいたい、こういう うまい話のほとんどが、
実は黒色が普通でしたー。ちょっと期待した?
みたいな感じだろう。
やっぱりここは確実に対応できる答え方をした方がいいだろう。 たとえ黒色が凄かったとしても 普通だったとしても。
「ははは、やっぱり意外と黒とか普通なんじゃね? 黒が100人に1人で 白が千年に1人みたいな?」
カケルはここでとぼける選択肢を選んだ。
そう、ここでなににでも対応できる選択肢それが『とぼける』なのだ。
「……やっぱりね、」
そういいマジルはカケルの持っていた透明な棒を取り、ポケットにしまう。
なぜだろう……安牌な選択肢を選んだ筈なのに。選んだ気がしたのに、マジルの顔はどんどん険しくなる。
「決して さっき私が言ったことは間違えでも嘘でもないよ。 だから、君は正真正銘 千年に1人の逸材『ブラックソウラー』ってわけ。」
「まぁー ルミに心臓刺されて生きてるって聞いたときから少し予想はしてたんだけど……」
今まで隠していた殺意をマジルは剥き出しにする。
ルミとは違う。ルミは一瞬の隙も逃さないような鋭い殺意。
だがマジルのは余裕というのだろうか、何をしてきても全てを跳ね返してくる様な……全ての反抗を無に返す威圧感。
小柄だけれど、なによりも大きく堂々と立っている大木の様な……
マジルはカケルに近ずいていき、耳元まで顔を寄せて囁いた。
「一応聞かせてもらうよ。 キミはこの国を滅ぼそうとしているのかな?」
「え?」
この様な展開をカケルは少し予想していた。
先程の殺気を覚えてしまっては 何にでも対応できる解答、そんな曖昧でほとんどノーリスクな解答など、言い訳にすらならない事を認めざるをえなかった。
だがせめて この国と敵対していない という事を分かってもらわないと……
「もう1度問うよ。 キミはこの国を滅ぼそうとしているのかな?」
「ま、まさか そんな事あるはずがない」
この状況
何を言えばいい? なんて答えればいい?
最高な答えなんてないこの問題。そんなものに どう立ち向かっていけばいい?
もはや自分が千年に1人の逸材なんてことはどうでもよかった。 ただ、この状況から どうクリアに導くのか。どう正解を探し出すのか。そんな事しか考えられない。
もちろんカケルは国を滅ぼす気などないのに……
「うん。私もそうであって欲しいと思ってる。
でも、キミがこの国ではなく 他の国の手先だったとしたら……そのときは『命』ないと思ってね。」
「いや、でも本当に違う。この国を滅ぼそうとなんて決して思ってない。」
ただただ、今はマジルから離れたかった。 この威圧から解放されたくて、逃げたくて……
「口ならいくらでも嘘を言える。 キミが本当にどこかの国の手先かどうかは 私達が決めるから。」
マジルはカケルから離れてドアの前に立つ。だが威圧感は変わらない。
「……ついてきて。」
そういいマジルは部屋を出た。
再び城の中を歩き回る。
だがさっきとは違う。まるで来た道をなぞる様にマジルは進んでいく。 なのに時は止まっているようだ。 景色もろくに変わらず、足音だけ響く長く広い廊下。そんな中いったい何処に向おうとしているのか……
「あのー、何処に行くのでしょうか?」
カケルはあのマジルの言葉、威圧で 自分が殺されてしまう と恐怖におちいっていた。
「そんなに心配しないで、まだ殺したりしないから。」
「まだ って……それっていつか俺を殺すってこと?」
「それはキミ次第だよ。キミがこの国に害がないって分かったら殺さないし、害があったら殺すだけ。」
害がなかったら殺さない。その一言に自分の命が掛かっている。
では害があったら本当に殺されてしまうのだろうか?
「それと、何処に行くかって聞いたね。 それはセリナ達のところだよ。」
「行って何をするの?」
「キミが本当にこの国に害がないかジャッジする。 もうそろそろ戻って来る頃だと思うから。
だから黙って付いてきて。」
マジルがどんなやり方で判断するのか分からない。でも、もしその方法が何らかの問題があり、間違った答えがでてしまったら? 害があると判断されたら本当に殺されてしまうのだろうか?
そしてセリナ達がいる部屋の前につく。
時が止まっていたかのように長かったのに、ついてしまうとあっという間だ。
ここで決まってしまうのかもしれない。『自分の死に場所』ってやつが……
「じゃぁ入るよ。」
マジルはドアを開けて部屋へ入った。




