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1章12話『ホォ、プル』

暖かい部屋の中、冷たくピリッとした風が吹く。

それと共に、物凄い眼差しと弾けるような緊張感が襲って来る。




何だかんだ色々あったが、結局夜ご飯も無事食べ終わり、カケルの作った『お楽しみ』をカケル達皆でやっていた。



「右と左、どっちを選びますか?」


ルミは両手で2枚のカードを持ち、カケルに冷たく重い視線をあてる。


椅子に座っているのに変に力が入って足が疲れる。やっぱルミの威圧は半端ねー。



と、まービビるのはこれくらいにしておいて、

どっちに俺の狙っている♠の1が眠っているのかなー。



「カケル君、早くどちらかを引いてください。」


「んー、ちょっと待ってよー。」



いやーどっちだろ。 俺的には右な予感がするんだけどなー。


カケルはマジルの持っている右側のカードの上に手を置く。



あ、いや待てよ、何か左な気がしてきた。


カケルは右側のカードから左側のカードの上に置く手を変えた。



ん? ちょっとさっきと反応が違う。 何かちょっと緊張しているのか? 顔が少し震えている気が……

もう1回右行こう。


カケルは右に手を寄せる。



……ホォ



あ! 今『ホォ』ってなった。確実に『ホォ』ってなった。

てことは、右側がジョーカーで左が♠の1なのか?

ふふ、ちょっともう1回左行こ。


カケルは左側に手を寄せる。



プルプル



あ、『プルプル』してるー。 これ絶対右側がジョーカーだ。


やべ、ちょっと面白いなー。 もうちょっと遊ぼー。



左、右、左、右


ホォ、プル、ホォ、プル



やべ、爆笑。


これずっとやってたいけど そろそろ止めないとルミに怒られちゃなー。 仕方がない。



「ルミ、意外と楽しめたぞ。」



そういいカケルは右側のカードを引い……けない?



「お、おいルミ。これはいったいどういうつもりだ?」



「い、いえ。カケル君の場合、こちらのカードではなく 左側のカードを引いた方が良いかと。」



強くカードを引っ張るが取れない。


く、くそ。取れない。だがルミがこんなに引かれたがっていないということは必ずこっちが♠の1だ。 何としてでも引いてやる。



「な、なぁールミ。そろそろ離してくれないか? 気遣いは嬉しいけど、俺は左側より確実に右側の方が良いと思っているかさ。」



「嫌です。カケル君から見て左側のカードの方がカケル君にはお似合いだと思いますけど。」



どうしても素直に渡そうとは思わないみたいだな。


さて、どうしたものか。このままでは物凄い時間と労力を無駄に使ってしまう。 こうなったらこちらが譲って左を引くしかないのか?

あー、仕方がない。ここは俺が1歩下がるしかないか。



カケルはため息をこぼし、右側のカードを諦めたかのように左側のカードを掴む。



「カ、カケル君。」


マジルはカケルの行動に少し戸惑った。


これまで何分も張り合っていた相手に自ら勝ちを譲る。 それはカケル君の優しさなのだろうか。


いや、きっと呆れたんだ。私が全然カードを渡そうとしないから。


皆そうだ。確かに私が少し悪いのかもしれない。どんどん離れていく。私から……

でも、それは別に悪気がある訳では無い。ちょっと楽しくなってしまったから……


ううん、違う。自分からだ、離れていくのは。

怖いのかもしれない、 周りと親しくするのが。



『もうあんな思いはしたくない』そんな気持ちが自分と周りに壁をはってしまっている。


また離れていく。いなくなる。



そんな迷いごとをしているマジルの手が緩んだ。




「ふ、」


カケルはこの時を待っていたかの様にニヤける。



「え?」


勝ちを譲る者がどうしてこんなにニヤけているの?


マジルの思考が一瞬止まる。



カケルはその一瞬を見逃さなかった。


瞬間、左側に置いてあった手を右側に移し、瞬時に引き抜く。


ルミも一瞬の出来事で何が起きたのか分からなかった。分かっているのは持っているカードが1枚あるだけ。



「あ……」



ルミはやっと自分の状況を理解した。持っているカードが1枚。それもジョーカー。

つまり、この勝負においてルミは……



「ルミ、俺の勝ちだ!」


カケルは物凄い勝ち誇った笑を浮かべ、カードを捨てる。



ま、負けたの? 私、負けたの? でも何で? カケル君は……




「わー、ルミこれで5連敗じゃーん。ルミこの『トランプ』っていうの本当に弱いねー。」


「ふふふ、マジル、人や妖には得意不得意がありますから。 マジルだってお料理出来ても、お掃除は苦手でしょう?」


マジルとセリナは少しニヤけながら話している。



「ルーミさん。5回負けたから、お約束の罰ゲームだぞー。まさか忘れてないよなー?」



カケルは少し暗くなっているルミに明るく話す。が、ルミは黙りこくっている。



「お、おいルミ。どうした? そんなに罰ゲーム嫌なのか?」



カケルは別に悪い事をした訳では無いが、何だか罪悪感に浸ってしまった。



「カケル君は、私の事を呆れないのですか?」



ルミは真っ直ぐカケルの瞳を見る。 その目は、ほんの少し、いつもよりも光を反射させていた。


セリナからルミの過去を聞いたカケルは少しルミの気持ちをさっした。 おそらく、このリスチニア帝国に逃げてからも大変な事が沢山あったのだろう。

別にカードゲームでズルすることがそんなは、そんなに重い罪でもないのに、それを罪と思ってしまう程の何かが……



「呆れないよ。それに呆れる事でもないだろ。まー結局は俺が勝った訳だし、それに ちょっとゲームでズルした事ぐらい、誰にでもある経験じゃないのか?」



呆れていない。本当にそうなのかな? 言葉で言っていても心では…… いや、あの目は呆れていない。私を笑ってもいない。私見ている。真っ直ぐ私の目を……




この人には、何だか負けたくない。




「カケル君がどうしても勝ちたいと、手段も選ばずゲームをしていたので、もう1度勝負してあげましょう。」



「それ、ズルしたルミが言うか? まー受けて立つけど。

あ、でも罰ゲーム先だからなー。」

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