79 凹凸コンビ
驚くユーナの腕の中で、猫はどんどん大きくなっていく。
手足が伸び、髪が伸びる。どんどん形が人型になっていく。
それは、ユーナと同じ制服を着た、茶髪の女の子。
頭頂部には猫耳がピコピコと動き、尻尾がゆらりと揺れていた。
丁度、その女の子をお姫様抱っこのように抱えているユーナが、顔をつっと歪めた。
「呼幸……わた」
「結奈ちゃん!」
ユーナの言葉を遮って、呼幸がユーナの頭を抱きしめた。
呼幸の豊満な胸に、ユーナの顔がすっぽりと埋まる。
泣きながらも嬉しそうにユーナを抱きしめる呼幸と、苦しそうに呼幸の背を叩くユーナを置いて、コドクは何事も無かったかのように呟いた。
「……さて、やるか。」
「……あれ、放っておいていいのです?」
段々と、呼幸の背を叩くユーナの手が弱々しくなっていくのを、目の端に捉えながらそう言うシズクに、コドクは首を振った。
「せっかくの感動の再会なんだ、邪魔するのも野暮ってものだろう?」
そう言うコドクだが、その声は笑っていた。確信犯である。
苦笑するシズクを見遣りながら、コドクは呟いた。
「さて、ここら一帯の地脈だけど……酷いの一言だな。」
「んー……なんか、切れてるのとか、ぐちゃぐちゃのとかあるのです。」
「だな。ま、そこらへんはもういっその事、最初から地脈を作り直した方が早いだろう。」
そう言いながら、地脈に干渉し、物凄い早さで辺り一帯の地脈を作り直していくコドク。
混沌としていた気候や地形が穏やかになっていく。コドクは事もなげにそれらをやり遂げると、辺りを見回しながら呟いた。
「ま、応急処置としてはこんなものかな。後でちゃんと調整しないと、いずれこの世界は崩壊するだろうけど……あと数百年は持つだろう。」
「あれで応急処置なのですか?」
「ああ。バランスとか、そういった諸々の調整が済んでいないからな。このままだと同じ事の繰り返しだから、何千年という時をかけて少しずつ治していくしかない。
まぁ、今はやるつもりはないけど。」
そう言いながら、コドクは後ろを見遣った。
そこには、窒息しかけて目を回しているユーナと、そんなユーナを、あわあわと慌てて揺さぶっている呼幸が見える。
「……そろそろ、あっちにいくか。あの凸凹コンビ、放っておくとどこまでも行きそうだ。」
苦笑しながらそう呟くコドクに、シズクが面白そうに言った。
「凸凹コンビ……胸の事なのですね!」
輝かんばかりの笑顔でそう言うシズクに、目を回していた筈のユーナが、いきなりくわっと目を見開いて叫んだ。
「ヌレバァァァッ!!いつまで胸の事を引っ張るつもりよっ!?」
「それは……何時までもなのです!」
「笑顔で人のコンプレックスを抉る宣言をするな!いくらなんでも言っていい事と悪い事があるわよ!!」
額に青筋を浮かべ、拳を振りかざしながらシズクの方へ行こうとするユーナを、呼幸が必死に後ろから抱きついて止めていた。
……若干、ユーナの顔が悔しさに歪んでいるように見えるのは、後ろで抱きついている呼幸の、押し付けられた大きな胸のせいかもしれない。
コドクはキラキラとした笑みを浮かべているシズクを、ささっと闇を操って背に乗せると、息を荒くしているユーナの所に歩み寄った。
「落ち着けユーナ、大きくしたいならいつでもしてやるから。」
「……それ、下手したらえっちな発言になるって、分かって言ってるのかしら?」
「……?」
ユーナが口元を引きつらせながらそう言うが、コドクはまったく分かっていなさそうに首を傾げた。
実際、コドクにとっては、魔石の身体の情報を少し弄るだけで、胸を大きくする事など簡単にできる。それゆえの発言なのだが、普通の常識に疎いコドクが……女性の胸には一切興味を持っていないコドクが、胸の大きさのコンプレックスなど、理解できる筈もない。
ユーナががっくりと肩を落とす中、不思議そうに首を傾げるコドクに、呼幸が警戒した様子で問いかけた。
「あ、あの~。あなた方は?」
ユーナに隠れるようにしてそう言う呼幸に、コドクは瞬きした。
「ん?ああ、そうか。
俺は、コドク。今は精霊をやってる。俺の背に乗っているのが、ヌレバだ。
ちなみに、ユーナ……いや、お前にとっては結奈か。結奈も、一応精霊だ。」
「一応って何よ、一応って。」
眉をしかめてそう言うユーナに、コドクは苦笑しながら言った。
「いや、お前、あともう少しで神になりそうなくらいに力があるからさ。果たして精霊の範疇に入るのかな、と。」
「神になったり、精霊になったりする規格外なあなたに言われたくないわよ。」
ジト目でコドクを見るユーナ。それに対して、コドクは、「だから、今は、って言っただろう?」と、何処か楽し気に目を細めた。
そんなコドクとユーナの親しそうな様子を見た呼幸が、何処か納得がいかないような表情で、ユーナの肩をつついた。
「ん?どうしたのよ、呼幸?」
「ゆ、結奈ちゃん……どうして……?
私以外に、友達がいなかった筈なのにぃ……!」
「悪かったわね、友達いなくて!!」
ユーナは息を吐き、そっぽを向きながら呟いた。
「あいつ……コドクは、私の兄みたいなものよ。こっちの世界に転生してから、色々と世話になったの。
ああ、呼幸。あいつは一応男だけど、安心していいわ。普通の男と違って、姿も中身も規格外な化け物だから。」
そこのどこに安心する要素があるのか、と言われても仕方がないその言葉に、しかし、呼幸は目を丸くし、そしてほっとしたように息を吐いた。




