78 魔界の子猫
連続投稿、二話目。
宙に真っ暗な穴を開け、その穴に入ろうとするコドクに、人々の内の一人が、慌てて声をかけた。
「あ、あの!夜空の神様、いったいどちらへ!?」
思わず立ち上がって、そう言うその人に、コドクは振り返りもせずに答えた。
「お掃除と選定しに、魔界に行ってくる。まぁ、そんなに時間はかからないだろうから。」
そう言うなり、コドクは真っ暗な穴の中へ消えてしまった。
宙に空いた穴も閉じ、その場に沈黙が降りる。
その時、誰かが呟いた。
「あれ?ユーナ様は?」
「……あ。」
魔界は、その名に相応しい、魔境のような世界であった。
一言で言うなら、それは混沌。
豪雨が降っている所もあれば、吹雪が舞っている所もある。
木が鬱蒼と生い茂っている所、マグマが流れている所、砂漠になっている所……
秩序などはまったく存在しておらず、魔力が荒れた、今にも崩壊しそうな世界。
それらを眼下に収め、コドクは、空中を飛びながら目を細めた。
「なるほどな。これがあるから、どこかの誰かさんは、俺をここに呼び寄せたかった訳か。」
「な、何が「なるほどな」よ!なんで私まで連れて来るのよー!?」
コドクの毛にしがみつきながらそう叫ぶユーナに、しっかりとコドクに巻き付いているシズクが、不思議そうに首を傾げた。
「ユーナ、あなたには翼があるのです。」
「あ、そうだったわね。
って、違うわっ!!飛べないからじゃなくて、なんで私を巻き込んだのか、って聞いているのよ!!」
「うーん、ついで、なのです?」
「ついでで、こんな世界に連れてくるな!!」
わーきゃー騒ぐ二人に、コドクは内心で苦笑しながら、比較的、天気と地形が落ち着いている所を探し出す。
丁度、平原のような所を見つけ、コドクはそこに降り立った。
「さて、と。神の思惑通りになるのは癪だけど、やらない訳にはいかないからな。
……ん?」
辺りを見回しながら言ったコドクの視界に、魔物の姿が映った。
それは、茶色の子猫のような魔物だった。魔物と言っても、生まれたてか、弱い魔物なのだろう。魔力もあまり持っていなかった為、視界に入るまで、コドクも分からなかったようだった。
その子猫が、驚いたように目を見開き、こちらを凝視している。
それが、自分ではない誰かを見ていると気付き、コドクがその視線の先を辿ると、そこには、不機嫌そうな顔をしているユーナがいた。
「……?何よ?」
コドクの視線に、眉をひそめるユーナ。コドクが口を開こうとした時、その猫がみゃあみゃあ鳴きながら、ユーナに飛び付いた。
「きゃっ!
え、何?猫?って、なんで泣いてるのよ!?」
涙をぽろぽろ零しながらユーナにしがみ付く子猫に、ユーナが困惑したように子猫を抱え直す。
そんな様子のユーナに、シズクが目を細め、口元をニヤリと歪めて言った。
「動物虐待なのですか、ユーナ?」
「してないわよ!?」
「酷いのです、ユーナ。いくらまな板だからって、動物に当たる事はないのです……」
「言葉を変えても意味は同じでしょうが!!その事いつまで引っ張るつもりよ!?
だ・か・ら!私は、成長途中なの!」
青筋を浮かべるユーナを、どこか微笑ましい目で見つめる子猫。
その子猫をじっと見つめていたコドクが、納得したように頷いた。
「おい、ユーナ。胸なんかより」
「なんかって何よ、なんかって!!」
「いや、だからな。この猫」
「ええ、どうせ私は絶壁よ!!この通り、胸なんか無いわよ!!」
「話を聞け、話を。」
血涙でも流しそうな顔で絶叫するユーナに、コドクは困ったように笑いながら、ユーナの頭の上に、ぽんと、伸ばした尾羽を乗せた。
「その猫なんだがな。どうも、転生者らしいぞ?」
「なんで男共は、胸ばかり……え?て、転生者なの?じゃあ、つまり……」
唖然とした表情で、子猫を見下ろすユーナに、子猫は必死に何かを訴えるかのように、前足でユーナの胸をペチペチ叩きながら鳴いた。
それを見たシズクが、優しげに微笑んだ。
「ほら、この子も言っているのです。「胸無いよ!」って。」
「あ゛あ゛!?」
途端、青筋を浮かべるユーナに、子猫は必死に首を横に振る。
それらを見ながら、コドクはのんびりと呟いた。
「君達、楽しそうだね。
ま、それならそれで、人型にした方が早いだろう。その方が、ユーナも、この猫が誰だか分かるだろうしな。」
「……いや。なんとなくだけど……分かるわ。」
子猫を見つめながらそう言うユーナに、コドクは瞬きした。
「分かるのか?」
「ええ。多分だけど……呼幸、でしょう?」
ユーナのその言葉に、子猫の目が大きく見開いた。
ユーナは、微笑みながら、子猫を撫でた。
「だって、目が呼幸そっくりなんだもの。」
段々、目が潤んでくる子猫を見ながら、コドクは頷いた。
「なるほど。親友か。なら、こっちの方がいいかな。」
そう言ってコドクが何処からともなく取り出したのは、金色の魔石だった。
それを見たユーナが、眉をひそめた。
「ねえ?私の間違いじゃなければ、それ、私の中にある魔石にそっくりじゃないかしら?」
「そっくりっていうか、ほぼ同じだよ。これは、俺が作った、ユーナの魔石の予備だし。」
「予備!?いつの間に……」
呆れたように溜息を吐くユーナ。
コドクは、そんなユーナに構わず、魔石に爪を立て、魔石を割った。
そして、割れた魔石の小さな欠片を、ピンッと爪で飛ばす。
その小さな欠片はまっすぐに子猫の方へと飛んでいき、まるで溶けるように子猫の中へと入ってしまった。
余りの事に呆然とする子猫に、コドクは爪をかざした。
コドクは、子猫の魂と、二つの魔石に意識を集中させる。
魂を基に身体を構築し、魔石を融合させ、身体の情報を魔石に刻み込む。
それだけの事を、瞬きする間にコドクは済ませると、途端に、子猫の身体が変化し始めた。




