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74 例え許されないとしても、償うために

連続投稿、2話目。

 だが、映像はそこで終わらなかった。

 殆ど真っ暗だったが、ジルナにとって、何処かで聞いた事のある女性の声が、ルナンに語りかけていた。


『そうかい。どうりで似てると思ったよ。

 これを持っていきな。今のあんたにゃ、それが必要だろう。

 それがあんたを導いてくれる。もう、私には必要ないからね。』


 そうして手渡されたのは、一枚の真っ黒な羽根。

 そこで、映像は途切れた。



 ジルナは、思わず溜息を吐いた。


「メノゥの奴……」


 どうりで、真っ直ぐにこちらに来る筈だ…と、腕を組んでそう言うジルナ。

 映像……自分の過去を見て、俯いているルナンに、シズクが声をかけた。


「で?あなたは、どうしたいのです?

 このまま、闇の中で眠り続けるの?それとも、現実と向き合うの?」


 シズクのその問いかけに、ルナンは弱々しく微笑み、首を横に振った。


「私は、もう……疲れ、ました。

 愛する彼は、あそこには、いません。

 ですが……」

「ですが?」


 ルナンは、自分の腕を見つめた。そこには、もう、抱いていた赤子はいない。


「あの子が……私が置いて来てしまった、あの子だけが、気がかりです。

 確かに、あの子は、あの男と、私の間に生まれた子。でも、私の子であった事は、事実です。」


 悲しそうに眉を下げ、悔やむようにそう言うルナンに、ジルナは真剣な表情で言った。


「カナンの事が、知りたいか?」


 ジルナの問いかけに、ルナンは、はっと顔を上げた。

 その目には、僅かだが、光が灯っていた。


「……知りたい、です。」

「カナンが、お前も憎んでいたとしてもか?」

「はい。」


 ジルナは、目を閉じた。そして、ふっと呟いた。


「そうか。」


 開いたジルナの瞳が、蒼く光る。その目は、はっとする程に底の見えない何かを宿していた。


「ならば、見せてやろう。

 俺が見たカナンの全てを。

 カナンから語られた、お前への思いを。」


 ジルナの瞳から、カナンに関する記憶がどっとルナンに流れ込んだ。


 カナンの笑顔。カナンの苦悩。カナンの憎しみ。


 どんな経験をして、どんな出会いがあったか、その記憶が流れ込んでくる。


 ユーナとの友情、シャウランへの愛情、コドクへと向ける眼差し。



 気が付けば、ルナンは、夕日の照らす岩山の頂上にいた。

 そこには、夕日を見つめるコドクと、その背に乗って、コドクを同じく夕日を見つめるカナンとユーナがいた。

 カナンが、ぽつりと呟いた。


「なんで……お母さんは、私を置いて、逃げたのかな。」


 その寂しげな声に、ルナンの胸が、つきりと痛んだ。


「私が、あいつの血を引いていたから?望んで、生まれた子では無かったから?」


 カナンの頬に、涙が一筋流れる。ユーナが無言でカナンの頬に寄り添い、コドクはおどおどしながらも、尾羽を伸ばし、カナンの体をそっと包み込んだ。

 カナンは、キュッとコドクの尾羽を掴み、ユーナに頬を寄せ、擦れた声で、呟いた。


「ねえ、お母さん……なんで、私を、捨てたの……?」





 ルナンの視界が、真っ暗な世界へと戻ってきた。

 ルナンの前には、自分を見つめる二対の青い光が浮かんでいる。

 胸の中に激しい悔いがせり上がり、ルナンは顔を覆って崩れ落ちた。


「ごめんなさい、カナン……ごめんなさい……!」


 ルナンの覆った手のひらから、涙が零れ落ちる。

 そんなルナンに、シズクは素早く寄ると、ルナンの覆った手を跳ね除け、その顔を両手で掴んで、しっかりと目を合わせた。


「もう一度、聞きます。

 あなたは、何がしたいのです?」

「わた、しは……」


 シズクの強い瞳に見つめられ、ルナンは、顔をくしゃくしゃにした。


「私は……あの子に、謝りたい……!

 例え、父が拒んでも、精霊の民が拒絶しても、私が、あの子の傍に居てあげなければなかったのに、私は、あの子を独りにしてしまった……!

 もう、許してもらえないかもしれない。いや、許されない。

 でも、謝りたい。少しでもいいから、あの子に償いたい……!」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、そう言うルナンに、シズクとジルナは優しく微笑んだ。


「そう。なら、ここにずっと居ては、駄目なのです。」

「少しずつでいい。急がなくていいから、前を向いて、歩き続けろ。」

「あなたの心の闇は、とても深い……でも、今のあなたなら、きっとこの闇から出る事ができるのです。」


 ジルナが、ルナンの隣に目を向けた。

 ルナンが、その視線を追って、目を見開いた。

 そこにいた、ルナンの愛おしい彼は、ルナンを優しく抱きしめ、そしてルナンから離れた。

 彼と、ジルナの目が合う。ジルナは無言で頷き、彼は無言で頭を下げた。

 彼は、もう一度ルナンを見て、微笑むと、闇の奥に顔を向け、振り返る事なく歩き去っていった。

 それを見送ると、ジルナはルナンに背を向けた。


「さて、俺達は帰るとしよう。」


 歩き出すジルナの腕に、シズクが絡みつく。

 ふと、ジルナは振り返り、呆然としているルナンに笑いかけた。


「向こうで待ってるぞ。」


 ジルナは、今度こそ振り返らずに、闇の向こうへと去っていった。

 一人取り残されたルナン。だが、その顔には、もう、疲れたと言っていた時の弱々しい表情はない。

 ルナンは、その瞳に確かな決意を宿し、立ち上がった。

 闇の向こうへと、一歩、一歩と、力強く踏み出していく。


 ルナンは、自ら、闇から出るために、遥か遠くに見える、一点の光へと歩み始めた。

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