70 人生は自分で決めるもの
コドクが作った町は、ユーナが危惧した通り、この世界では異彩なものとなった。
町を囲む壁は、全てが錆びない頑丈ななんらかの金属であり、所々にある監視塔には、巨大なクロスボウが付いていた。ちなみに自動照準機能付き、魔力を矢にできる機能の付いた神宝である。贅沢すぎる。
町に入る為の門は無く、壁の数か所に付いている転移装置(神宝)が門の代わりとなっている有様。コドク曰く、「この町に悪意がある者は入れない」ようになっているらしい。なんて贅沢で素敵な防犯システムであろうか。
町の中には、魔力を使って明かりを灯す街頭が一定間隔に置いてあり、夜になると自動で点灯する仕組みになっていた。ちなみに、何故かこれも神宝である。何故、コドクは街頭なんかを神宝にしたのであろうか。いや、きっと面倒だったからに違いない。
その他にも、町の下のある地脈を整備し、地脈から漏れる豊かな魔力を溶け込ませた噴水(これも神宝)など、至る所に神宝が設置されていた。この町では、恐るべき事に、神宝の無駄使いと言っていいほどに神宝が使われていた。
コドクにとっては、気軽に作れるものなのだろうが、この世界の人々にとっては大変貴重な物である。彼は自重というものを知らないらしかった。
さて、こんな町の設備を半ヶ月程度で作ってしまったコドクだが、とある問題に対面する事となった。
宗教の問題である。
奴隷だったり、貧民であったりしたとはいえ、その人々は宗教国家の人民だ。だから、皆は当たり前のように神を求めたのである。
そこで、意見が二分したのだ。
一つは、元々信仰していた、ユアー神を信仰しようとする人々。
そしてもう一つは、神のような力で町を作り上げ、実際にそこに存在するコドクを神として信仰しようとする人々であった。
対立し、議論に熱を上げ、あわや暴動が起きそうになった時、ユーナに引きずられるようにして来たコドクが、呆れたような声でこう言った。
「別に、どっちでもいいだろう。好きな神を信仰すればいいし、どっちかじゃなければいけないなんて事は無いんだからさ。
ただし、一言言わせてもらえば、もう信仰に則った町の治め方はやめろよ?じゃないと、ルリィドユアー国と同じ末路を辿る事になるだろうからな。」
コドクのその言葉に、人々は「確かにそうだ」と矛を収め、そして困惑した表情でこう言った。
ならば、この町は、どうやって治めていけばよいのだろう?と。
コドクは、その問いにこう答えた。
「それは、プルプルにでも聞け。」
丸投げである。これをコドクはしれっと言ったのだ。すがすがしい程に、完全な丸投げである。
だが、それも仕方がない。コドクは、人からも嫌われていた為、人を統率した経験もなければ、国の治め方なんて知る筈もなかったからである。世界に嫌われていたが故の悲劇であった。
そんなコドクに、こんな事を聞いてくる人がいた。
「あ、あの、夜空の神様。あなたは、宗教が嫌いなのですか?」
おどおどとした様子で、そう聞いてきた女性に、コドクは首を傾げた。
「ん?別に、嫌いって訳ではないけど……」
「ですが、その……あまり、気が乗らないご様子ですし……」
不安そうに、胸の前で手を合わせながらそう言う女性に、コドクは苦笑した。
「あー、うん。そうだね。
これは、俺の自論なんだけど……宗教っていうのはね、のめり込んではいけないものだと俺は思っているんだ。
神様だって、万能じゃない。それに、神様自身が何かをしてくれる訳ではないだろう?」
コドクのその言葉に、女性は何か言いたげな表情になった。
ちなみに、コドクは町のあちらこちらに神宝を設置するという、暴挙にも似た事をやらかしている。
だが、そんな自分がやらかした事に気が付いていないコドクは、そのまま言葉を続けていく。
「だから、宗教には、必ず人の意思が入り込む。善意も、悪意もね。
厄介なのは、そこに悪意が入った場合だ。
宗教に縋り付く人は、何かしら救いを求めている、心の弱った人だ。そこに、人の悪意が入りこめば……まぁ、察しは付くよな。
要は、俺が言いたいのは、自分の人生を他人任せにするなって事なんだよ。
宗教は、ちょっとした心の拠り所、迷った時の指標程度で十分なんだと思う。傾倒する程に入れ込んで、他人に迷惑をかけるようになってしまっては、それは信者というより、迷惑な団体に過ぎないからな。
やっぱり、自分の人生は、自分で決めるものなんだよ。全てを神様に委ねて、手に入る幸せなんて、紛い物にしか過ぎないのだから。」
そう淡々と語るコドクの影に、女性は、どこか寂しげな表情を見た気がした。
「と言っても、俺も自分の意思で生きてきたか、って問われたら、是とは言えないだろうけどな。
結局、世界の悪意に屈して、俺は全てを諦めたのだから……。」
コドクの目に、苦笑にも似た、悲しみの色が宿った。
女性は、思わず、こんな問いを口にしていた。
「では……もし、迷いに迷い、自分ではどうにもできなくなってしまったら……どうすれば良いのでしょうか?」
女性のその言葉に、コドクは目を細めた。
「自分で考えろ……って、言いたい所だけどね。それこそ、誰かの力を借りればいいんじゃないか?
色んな人の意見を聞いて、考えて……そして、選べばいいと思うよ。それでもどうしようもなければ、逃げるというのも一つの手段だろうしね。」
コドクはそう言うと、溜息を吐き、「慣れない事はするものじゃないな……」と、まだ何かを言いたげな女性を置いて、その場で丸まって眠り始めたのだった。




