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65 孤独の生まれた意味

 シズクの決意表明に、ジルナは泣き笑いのような表情を見せると、不意にシズクを抱きしめた。


「ありがとう、シズク。本当に、俺は幸せ者だよ。まさか、俺の全てを受け入れて、理解してくれる存在がいたなんてね。

 だから、俺も誓う。いずれ、この役目が終わったら、俺の全てをお前にやる。」


 ジルナはシズクを離すと、笑顔でシズクの目を見つめた。


「ああ、初めてかもしれない。こんなにも、生まれて良かったと思ったのは。

 今まで、俺はただ生きる事を義務だと思って生きていた。

 生き物は、生を選べない。姿形、場所、環境……生まれ落ちるそれを、生き物は選ぶ事ができない。

 人は、生きる事に、意味を求めたり、権利や価値を付けたりしたがる。でもさ、だったら俺はなんなのかって。世界から嫌われ、生まれた意味もなければ、生きる権利もない、価値もない。……何もしていないのにな。

 だけど、俺は生まれた。だから、生きる事そのものに、意味も権利も価値も、何もないと俺は思っていたんだ。あるのは、ただの義務。生き物が最低限守るべきだけの、ただの義務だと。じゃなかったら、俺は生まれていない筈だからね。

 そんな俺だけれど、やっぱり意味はあったのかもしれないな。少なくとも、俺は、生まれ変わったこの人生を、特にこの瞬間を、幸せだと思っているから。」


 ジルナの蒼い瞳から、涙が頬を伝った。


「でも、本当にいいのか?お前の人生だぞ?こんな俺なんかに、全てを賭けてしまっていいのか?」

「むぅ、「俺なんか」じゃないのです。ジルナだからなのです。私がそうしたいから、そうするのです。

 ジルナは、もっと幸せになるべきなのです。」


 シズクは不満気にそう言うと、更に言い募ろうとして……ジルナの後ろを見て、固まった。

 いつの間にか、魔物の死骸だったものが立ち上がり、じっとこちらを見ていた。

 その目には、敵意といったものはなく、寄り添うジルナとシズクを優しい目で見ていた。

 魔物達は、シズクを見やり、最後にジルナを見ると、ほっとしたような感情を目に浮かべ、何処へともなく消えていった。

 それを見たシズクが、ジルナを見ながら呟いた。


「さっきのは、いったいなんなのです……?」

「あれは、俺があの蠱毒の中で喰った魔物達だ。なんで、ずっとここにいるのかと思っていたけど……

 そうか。お前達も、俺の事を……」


 ジルナは魔物達が去っていった方を見ると、顔を伏せた。


「俺なんかの為に……ごめん。

 いや、違うか。そうじゃないよな。」


 ジルナは顔をあげると、穏やかな笑みをその顔に浮かべた。


「ありがとう、皆。」


 そう言ったジルナの目には、傷付いた時に見せる、儚さのような弱さはなく、生きる者の強い光が込められていた。

 それを間近で直視したシズクが、思わず赤面し、ジルナの胸元に顔を埋めたが、ジルナは笑ってシズクを抱き寄せたのだった。





 時は戻り、コドクがカナンに布団代わりの羽根を渡した頃。

 広場の端にある、地面から突き出た岩に、ユーナはとまり、人々をぼーっと見ていた。

 何かを思い出しているような、そんな遠い目をしているユーナに、影から現れた星花が言葉をかけた。


「いかがいたしましたか、ユーナ様。」

「……ああ、星花ね。

 別に、なんでもないわ……」


 そう言うユーナの顔を、星花が覗き込み、星花は首を横に振った。


「なんでもない、という顔ではありませんよ、ユーナ様。

 まるで、一人になった時、たまに寂しそうな表情を見せるご主人様のような顔です。」

「ちょっと待ちなさい。まず、なんで鳥の顔を見て表情が分かるの?あと、なんで一人になった時のコドクの顔を知っているの?そして、あいつは一人になった時、そんな表情をしているの!?」


 目を見開きながら、まくしたてるように言うユーナに、星花は微笑んだ。


「私は、ご主人様の眷属ですよ?例えそのお顔が鳥のものであっても、私には分かります。

 ご主人様は特に、あの鳥の姿を気に入っておられます。なので、ユーナ様の顔も分かるのです。」

「……コドクが一人になった時のは?」

「……。」


 星花は、微笑んだまま目を逸らした。

 そんな星花に、ユーナがジト目を向けた。


「あなた、暇があれば、ずっとコドクの影の中にいるでしょう。」

「当たり前です。私は、ご主人様の眷属ですよ?できれば、ずっとご主人様の……

 こほん。とにかく、私はご主人様の傍にいる事が使命なのです。ご主人様の体調を確かめる為に、ご主人様の匂いを嗅ぐのも仕方がない事なのですよ!」


 拳を握りしめ、息を荒げながら目を輝かせながら力説する星花に、ユーナは、あきれ果てたように溜息を吐いた。


「……はぁ、この、変態ストーカーが……」


 そう言うユーナの顔を、不意に星花がじっと見つめる。

 その目線に、ユーナが居心地悪そうに身じろぎした。


「な、何よ。変態なのも、ストーカーなのも本当の事でしょう!?」

「変態とは人聞きが悪いですね。これは、溢れ出た私の忠誠心です。

 それよりもユーナ様、そのすとーかーというものについてなのですが……」


 星花は、目を細めた。


「その言葉、この世界の言葉ではありませんよね?

 ユーナ様がご主人様にいつも言っている『ロリコン』や、先程の『ストーカー』。

 ご主人様もそうですが、ユーナ様もそういう言葉をお使いになられています。

 以前、ご主人様に伺った事があるのですが……それらは、ご主人様の前世の世界の言葉、『外来語』や『英語』なるものとおっしゃっておりました。

 ユーナ様。

 あなたも、ご主人様と同じ、転生者なのではありませんか?」


 星花が、静かに言ったその言葉に、ユーナは目を見開いた。

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