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63 家族の間に遠慮はいらない

 プルプルとの相談に区切りが付いたので、俺は、さっきからずっと俺の隣にいたシャウランに声をかけた。


「どうした、シャウラン?」

「え?あ、ううん。なんでもない、よ。」


 誤魔化すようにそう言うシャウランだが、その顔は、どこか寂しげだった。

 俺は、ぐっとシャウランに顔を近づけ、目を合わせながら言った。


「嘘吐け。この俺でも分かるくらい、寂しそうにしているだろうに。」

「う……」


 俺がそう言うと、シャウランは、ちらっと横を見た。

 その目線を追ってみると、そこには、子供達と笑顔で、俺の羽根を敷いて寝る準備をするカナンの姿が。


「…?

 何を遠慮しているんだ?行きたいなら、行けばいいだろう。カナンは、お前を拒絶したりなんかしないぞ?」

「えぅ、そ、そう、だけど……でも、今、カナンお姉ちゃんを必要としているのは、僕よりも、あの子達だから……」


 そう言って、遠慮するように、もじもじするシャウラン。

 そんなシャウランに、さっきから黙って話を聞いていたプルプルが近寄り、身体を伸ばしてシャウランの頭を撫でた。


「君は、優しい子なんだねー。えらいえらい。

 でもね、こういう時は、遠慮する必要は無いんだよー?」

「そうそう。優しいのはいいけど、それで自分が不利益を被る事は無いんだぞ?」


 プルプルに頭を撫でられ、びっくりした表情をして目を開いたシャウランだが、俺達の言葉を聞くと、「でも…」と渋った。

 まったく。周りの『声』が聞こえるから、余計にそう思ってしまうんだろう。

 だけどな、シャウラン。


「遠慮する必要は無いよ、シャウラン。だって、俺達は。

 家族、だろ?」


 俺のその言葉に、目を見開き、その目に涙を湛え始めるシャウラン。


 そう。俺達は、もう『家族』なのだ。

 ちょっと離れた所で、何やら星花と話し合っているユーナも、子供達に囲まれて笑顔を浮かべるカナンも、カナンが俺から離れた途端、俺の身体に巻き付いて爆睡しているシズクも。

 皆、血の繋がりも無いし、体形(からだかたち)すら違うけれど、それでも俺達は家族だ。


 だから、シャウラン。

 遠慮なんて、するな。

 カナンやユーナが俺に遠慮しなかったように、お前もまた、好きに甘えればいい。俺達はそれを責めやしないし、例え誰かが何かを言おうと、俺が黙らせてやる。


 そんな、俺の心の声を聞いたのか、シャウランは、目から涙をこぼしながら、笑顔で頷いた。

 ……まぁ、例えシャウランが遠慮しようがしまいが、結果は変わらんだろうが。

 そう思って、カナンの方を見ると、カナンは何かを探すように辺りを見渡し―――

 シャウランを見つけると、優しい笑顔で、「おいで」と言いながら、手招きした。


「ほら。行っておいで、シャウラン。」


 躊躇する素振りを見せるシャウランの背を、伸ばした尾羽でそっと押すと、シャウランは涙を拭ってから、笑顔で駆けていった。

 シャウランが駆けていく途中、俺とカナンの目が、ふと合った。

 すると、カナンは口パクで、「ありがとう」と言ったのが、俺の目に映った。


 ―――どういたしまして。


 嬉しそうに花を揺らすプルプルと一緒に、俺は、カナンに跳びついたシャウランを見送った。



 そこには、俺には無かった、温かい親子の在り方があった。

 胸から、温かい気持ちが溢れてくる。

 その感情には、不思議と、嫉妬などの気持ちは無くて。

 只々、良かった、という、ほっとした気持ちがあった。

 この時。初めて、俺は自分の異常性に感謝したのだった。


 永遠に続く幸せなんてものが無い事は、嫌という程分かっているけれど。

 それでも、願うくらいだったら、いいよな。


 この二人の幸せが、永遠に続きますように…………。












 見た事があるような、無いような……そんな、目の前に広がる不思議な光景に、私は首を傾げた。


 ここは……どこ?


 頭上には、まったく星のない夜空と、大きな蒼い月が浮かび、下を見ると、灰色の地面が地平線まで続いている。

 よく地面を見ると、中が透けて、赤い石や金色の石が見えた。


「私は、確か……ジルナに抱きついて、それで……あ、ジルナ!」


 思わず呟いた自分の言葉で、傍にいる筈のジルナの姿がない事に、私は気が付いた。

 だけれども、何故か、私は、ジルナはここにいるという事が分かっていた。

 でも、なんで?ジルナの姿は、ここにはいないのに……

 私は、ジルナがここにいるという確証が欲しくて、何処へともなく駆けだした(・・・・・)


 不安にはならないけれど、それでも、私は、ジルナの姿をこの目に映したい。

 そう思いながら走っていると、目の前に、ぼんやりと浮かび上がるように、灰色の四角い建物が現れた。

 真っ暗で、先が見えない入り口が、ぽっかりと口を空けて私を待っている。


 ……この先に、ジルナがいる。


 その予感のままに、私はその入り口へと飛び込んだ。



 真っ暗な通路を抜けた先は、沢山の本が置いてある、図書館のような場所だった。

 本棚の上には、鎖で吊り下げられた紙があり、それぞれに、『***の記憶』『蠱毒の死闘』『コドクの日々』なんて事が書かれている。


 ここは、ジルナの、記憶がある場所なの……?


 ジルナの記憶。私の知らないジルナの過去。


 知りたい。


 そう思ったら、私は無意識に、『***の記憶』という本棚の元へと足を運んでいた。

 そこにある本は、所々ボロボロで、背表紙には、見た事もない文字で、『幼少の頃の思い出』とか、『美輝と***』とか、そういう事が書かれていた。

 なんで、見た事もない文字なのに読めるの、とか思ったけど、それよりも気になる事があった。


 ミキって、誰!?ジルナとどんな関係なの!?


「恋人とかだったら、許さないのです……!」


 私は、勢いよく『美輝と***』という本を本棚から抜き取り、表紙も見ずに本を捲って読み始めた。

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