56 自重しない者
三人称視点スタート。
ジルナは、核の魔石を変えてコドクへと戻ると、お守り(神宝)をシャウランへ差し出した。
「優しいお前への、せめてものお礼だ。受け取ってくれ。」
「え、いいの?」
明らかに高価そうなお守り(神宝です)に、シャウランは戸惑ったようにコドクを見上げた。
遠慮するシャウランに、コドクは頷いた。
「ああ。むしろ、俺には、これくらいの事しかできないからな。代わりに、全力で魔術と願いを込めたが。」
「いつも手加減して結果を出すあなたの全力って、それだけで凄いと思うわよ?
ねぇ、「これくらい」の範囲じゃないと私は思うのだけれど?ねぇ?」
何を謙遜しているんだ、とばかりにジト目でコドクを見るユーナ。勿論、「これくらい」の範囲では収まっていないし、そもそも、お守りの範囲にも収まっているかすらも分からない。
シャウランが、「いいの?」と確認するように、上目づかいでカナンを見た。
カナンは、そのかわいらしさに相好を崩しかけながらも、笑顔で頷いた。
シャウランは、それを確認すると、コドクからそのお守りを受け取り、首に掛けた。
シャウランがはにかみながら、お守りを撫でると、カナンが相好を崩した。
「シャウラン、似合ってる。」
「ありがとう、カナンおねえ……わぷっ」
遂に耐えきれなくなったカナンが、シャウランを抱きしめた。
そこそこある胸に埋められ、顔を真っ赤にして慌てるシャウランに、抱きしめたまま、シャウランにすりすりするカナン。
そんな様子の二人を見て、コドクとユーナは、思わず互いに顔を見合わせ、苦笑をこぼしたのであった。
シャウランを十分に堪能し、カナンが満足したのを見計らって、コドクが口を開いた。
「で、だ。話は戻るけど、そういった諸々の事情があるから、お前達を連れて行きたくないんだよ。
ただ、だからといって、強引にお前達を止めるつもりはない。俺は、ちょっと派手にやらかすつもりだから、巻き込まれない所にいてくれれば、特に問題は無いしな。」
コドクの言葉に、ユーナが呆れたように溜息を吐いた。
「派手にやらかす、って……あなたが言うと、とても不安になるんだけど。で、何をやらかすつもりなのよ、コドク?」
「とりあえず、首都に捕らわれている大量の精霊全部を、一気に解放しようと思う。」
さらっと言ったコドクの言葉に、ユーナの目が険しくなった。
「精霊が、首都に捕らわれているって……どういう事!?」
食ってかかるユーナに、コドクが若干のけぞりながら、言葉を返した。
「ルリィドユアー国は、施設や設備に使う魔力を、シズクや、捕えた精霊達から搾り取って補っているみたいなんだよ。影鼠達が集めた情報もそうだったし、多分間違いないと思う。
しかも、その施設や設備を使えるのは、金持ちやら貴族、神官のみらしくって、貧富の差が激しいみたいだ。当然、路地裏なんかには孤児が溢れているらしいし、酷い扱いを受けている奴隷もかなりいるらしい。」
コドクがそう言うと、今度はカナンが反応し、鋭い目をコドクに向けた。
「孤児?」
コドクが、「あ、しまった!」という顔をしたが、もう遅い。
カナンとユーナが、互いに目を合わせると、深く頷き合った。
コドクは、それを見て、諦めたように溜息を吐くと、シャウランへと目を向けた。
「お前は、どうする?」
子供だし、足手まといだと置いていかれるのでは、と不安になっていたシャウランは、コドクの目を見て、ちょっと驚いた。
それは、悪い意味で、大人から子供へと向ける、格下を見るような目ではなく、同格の者を見るような、ちゃんとシャウランそのものを見ているという目であったからだ。
シャウランは、ちゃんと自分の意見を聞いてくれるのだ、という事に感謝しながら頷いた。
「僕も行く!」
「そうか。……さっき言った通り、お前が聞きたくもないものを聞くはめになるかもしれないぞ。それでも、いいのか?」
「うん。その、足手まといかも、しれないけど……おいてけぼりは嫌だもん。」
小さな手をぎゅっと握りながら、上目づかいで見上げるシャウランに、コドクは「分かった」と頷いた。
「星花!」
「いかがいたしましたか、ご主人様?」
コドクが星花を呼ぶと、即座にコドクの影から星花が出てきた。
コドクは、星花の服のポケットから、自分の鱗がはみ出して見えているのを見なかった事にしながら、星花へと声をかけた。
「カナンがついているから大丈夫だろうけど、万が一、何かあるかもしれないから、シャウランの傍にいてやってくれないか?」
「……影鼠達で、十分だと思いますが?」
コドクの言葉に、無表情で返す星花。
コドクは、珍しく不満そうな星花のその反応に、意外そうに片方しかない目を細めると、ずいっと星花に顔を寄せた。
「星花。」
「な、なんでしょうか、ご主人様。」
コドクに至近距離から優しい目を向けられて、顔を赤らめる星花に、コドクは諭すように話し始めた。
「確かに、影鼠でもその役目は果たせるだろう。だけど、俺の眷属の中で、一番実力があり、かつ一番信頼できるのは、お前だけなんだよ、星花。」
「わ、私が、一番……」
「そう。ああ、でも、無理強いはしないよ。嫌だっていうのなら、影鼠にたの」
「や、やります!いえ、私がやらせていただきます!」
コドクがそう言おうとすると、星花は頬を赤く染めながら、張り切った様子でそう叫んだ。
コドクが、その勢いにちょっと引いていると、星花は顔を赤らめ、頬に手を添えながら呟いた。
「うふふ……ご主人様の、一番……」
遂に、腰をくねくねし出した星花に、コドクは、自分がまた何かをやらかした事を悟り、「まあ、星花のやる気も出たし、これで良かったんだ」と自分に言い訳をしながら、星花からそっと目を逸らしたのであった。




