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55 厄除けの神宝

三人称視点スタート。

 急に自分の話題になり、戸惑うシャウランに、代わりにカナンがコドクに問いかけた。


「どういう意味?」

「今までの様子と、軽く魂を見てみた感じから言って、シャウランは、妖怪の覚みたいな能力があるんだよ。」

「………ようかい?さとり?」


 頭の上に「?」を浮かべたような顔で、首を傾げるカナンに、コドクが「あ……」と苦笑した。


「妖怪っていうのは、俺の前世の頃の国の、魔物みたいなものだよ。で、覚は、人の心を読む妖怪。

 シャウランは、人の思いや、意思を声として聞き取れるみたいだ。もしかしたら、それ以上のものも聞こえるかも知れないけどね。」


 コドクのその言葉に、カナンは顔を輝かせた。


「つまり、シャウランは凄いって事でしょう?」


 そう言ってシャウランの頭を撫でるカナンに、コドクは、その目にふっと暗い影を落とした。

 その様子をいち早く察したユーナが、コドクに呟いた。


「……デメリットも、あるって事なのね。」

「……ああ。良い事も確かにあるだろうけど、悪い事もあるだろうね。」


 コドクはそう言うと、自分を不安気に見上げているシャウランに、そのシャウランの頭と同じ高さまで頭を下げ、シャウランの目と、コドクの片目しか無い目を、しっかりと合わせた。


「シャウラン。お前のその耳は、お前の世界を広げ、人生の役に立ってくれる事だろう。だが、その力は、きっとお前の聞きたくない事まで聞かせてしまう筈だ。

 俺もそうだった。俺の、様々な『悪』を知覚する才能は、確かに役に立ったよ。世界に嫌われていたのに、何十年も生きてこられたのは、この力があってこそだったからな。

 だけど、それ以上に、この力は、俺に見たくないものを見せ、知りたくもなかった事を知るはめになった。幼い頃から、俺はこの世の『悪』という『悪』を見ながら生きてきたんだ。

 絶望しかなかったよ。そのうち、絶望すら感じなくなった。」


 淡々と語るコドクに、シャウランは、不安で胸がいっぱいになった。

 そんなシャウランを見たコドクの目に、不意に強い光が浮かんだ。


「シャウラン。お前は、俺みたいに、自分の力なんかに振り回されるなよ。呑まれるのも駄目だ。

 だからといって、不安に思う事はない。お前の力は、お前のものなんだからな。何か、悩みや心配な事があったら、カナンやユーナ、もしくは俺でもいい。すぐに相談しろ。

 お前は一人じゃないんだ。きっと、これから、自分の力の事で、悩む時がくるだろうが、それを一人で解決する必要はないんだ。だから、一人で抱え込むなよ。」


 どこか、必死さを滲ませて、まくしたてるようにそう言うコドクに、シャウランは、コドクが自分で経験した苦しみを、シャウランに味わないように忠告してくれているのだ、という事に気が付いた。

 それと同時に、シャウランは、コドクの事を、かわいそうに思った。

 詳しい事は知らないけれど、人間の勝手のせいで両親を失うという不幸を味わったシャウランには、コドクに、どこか共感めいたものを感じていた。

 それ程までに、コドクの「絶望すら感じなくなった」という言葉には、不幸という言葉では生ぬるい程の、悲壮感な悲鳴が含まれていたのだ。シャウランは、それを、自分の持つ耳で聞き取ってしまっていた。

 だから、シャウランは分かってしまったのだ。コドクが、自分以上に、不幸な目に合ってきた、という事が。



 コドクが、目を見開いた。

 シャウランが、「良い子、良い子」と言いながら、精いっぱいに背伸びしてコドクの頭を撫でていたからだ。

 シャウランの突然の行動に、驚くカナンとユーナ。

 だが、コドクには、その二人の様子に気が付かなかった。コドクの目には、自分の悲しみを堪え、他人を思いやる、優しい子供のシャウランしか、映らなかった。

 不意に、コドクが目を細めた。その片目にか無い目尻には、涙が浮かんでいた。


「お前、は……なんて、優しい子なんだろうな。

 お前だって、悲しいだろうに。愛しい者を失って、寂しいだろうに。それなのに、お前は、俺を思いやってくれるのか。

 俺なんかを思いやって、涙を飲んで、慰めようとしてくれているのか。」


 コドクの僅かに擦れたその言葉に、シャウランは、淡く微笑んだ。


「僕は、大丈夫だよ。もう、沢山泣いたし、独りぼっちじゃないもん。カナンお姉ちゃんに、ユーナお姉ちゃんに、コドクお兄ちゃんがいる。だから、僕は寂しくないよ。」


 シャウランがそう言うと、コドクは不意に核の魔石を変え、神の姿―――ジルナへと姿を変えた。

 ジルナは、自分の鱗と羽根を数枚毟り取ると、地の魔術で金属を出しながら、羽根と鱗を組み合わせていく。

 その手に出来たのは、銀色のチェーンと黒い鱗と羽根が組み合わさって出来た、首飾りであった。首飾りの中央には、カットされた大きいダイヤモンドが付いている。

 ジルナの大きい手のひらと比べるとかわいいくらいに小さい首飾りに、ジルナは願いを籠めるように、呟いた。


「自分の不幸を飲み込み、他人を思いやる心を持つ優しい子に、どうか、幸せな人生を。これ以上、この子に不幸が訪れない事を…。

 この俺の身体の一部よ、我が願いを果たせ。様々な『悪』がこの子に近付けぬように、そして傷付けぬように、この子を守れ。」


 この時、この場にいる誰もが気が付かなかったが、ジルナの最後の言葉をもって、ここに最強のお守りができた。

 ジルナの言葉は、神の願いとなり、首飾りを、ありとあらゆる不幸から身を守る効果を持つ神宝にしてしまっていたのだが、神宝を詳しく知る者がいないこの場では、それに気が付く者がいなかったのだ。

 神宝となったお守りが、ジルナの願いに応えるように……そう、まるで目を光らせるかのように、淡く光った。

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