51 血塗れの魂
三人称視点スタート。
シャウランを助けた頃には、その建物をユーナが木っ端微塵にしてしまっていた。
その為、人が集まると面倒だ、と言ったコドクが、三人を背に乗せて空を飛んだ。
空を飛んでいるその最中、いまだに片目がない状態のコドクを怪訝に思ったユーナが、コドクに問いかけた。
「ねえ、コドク。あなたその目、いったいどうしたのよ?いつもだったらすぐに治るのに、いつまで経っても治らないじゃない。」
ユーナの心配そうなその問いに、コドクは苦笑した。
「ああ、これね。うーん、どこまで説明したものか……」
「全部。じゃないと、許さない。」
悩むコドクに、カナンが頬を膨らませながら、きっぱりと言い切る。
元々、一人で無茶をして、カナンに心配をかけたコドクが悪いので、コドクも断る事ができない。自業自得である。
コドクは、目を細め、その時の事を思い出しながら、溜息を付いた。
時は、カナンがコドクの背から飛び降りた所まで遡る。
国中に広がっていた闇の中にあった目が、一斉にコドクを見つめたのを感知したコドクは、その視線の強さに、冷や汗を掻いていた。
それも、その目は、コドクが普段隠している、神の力をしっかりと見通していたのだ。
コドクは、かなり慎重だ。滅多に自分の力を見せる事はない。多くの手札を隠し、万が一に備え、膨大な種類の魔石を身に潜ませている。
その、一番強い力を持っている、青い魔石が、一目で看破されたのだ。一番に隠していた、最も見つかりにくいそれを、である。
それでも、コドクは、その目を見つめ返した。その闇の向こうにある、目の持ち主を見る為に。
すると、闇から、声が聞こえてきた。
『蒼い、お月、さま……?』
その時、コドクの目の奥に、暗い場所で蹲る、下半身が蛇のような幼い女の子が、くっきりと映りこんだ。
その女の子は、涙を流しながらも、すがるような表情で、その青い目をコドクに向けていた。
それが、その神の正体なのだと、何故かコドクには、はっきりと分かった。そして、周りを憎みながらも、必死に助けを求めている、という事も……。
その姿が、幼い頃……全てを憎んでいた頃の自分と重なって見えた時、コドクは、ハッとして目を見張った。
(あれは……昔の、俺だ。
そうだ。俺は、全てを憎みながらも、誰かが手を差し伸べてくれるのを、待っていたんだ……。)
そして、コドクには、救いの手は差し伸べられる事は無かった。そうしてコドクは絶望し、何もかも諦め、あの地獄のような人生を過ごしてきたのだ。
その時、コドクの胸の奥から、怒りにも似た何かが込み上げてきた。
(冗談じゃない。理不尽な不幸で振り回され、人生を滅茶苦茶にされるのは、俺一人で十分だ!)
コドクは、知らず知らずのうちに牙をくい縛りながらも、しっかりとその子を見つめた。
自分も闇を操って、その子の闇に干渉し、どこにいるのか、どんな状況なのかを、探っていく。
見るという事は、見られるという事。触るという事は、触られるという事。そして、干渉するという事は、干渉されるという事だ。つまり、その子に積極的に干渉しているコドクは、その子から干渉されるという事でもあった。
今まで、闇で干渉された事など、一度も無かったのだろう。その子は、恐怖を滲ませた声で叫んだ。
『やめて!』
闇で出来た牙だらけの口が、コドクの翼を食い千切った。
翼に激痛が走り、コドク思わずは顔をしかめた。落下しそうになるが、コドクは無理矢理にでも、風の魔術で空気と風を上手く操って、体を空中に保った。
食い千切られた翼から闇が侵食し、身体を腐らせるような怨念が魂にまで刻まれ、コドクは呻いた。目からは血涙が溢れだし、息が苦しくなる。それでも、コドクは、その子から目を離さなかった。
『そんな目で、私を見ないでよ!』
闇から、幾つもの刃のようなものが放たれ、コドクの体を切り裂いていった。血が噴き出し、コドクの体が血に濡れていく。
それでも、コドクは目を開き続けた。
『やめて、やめてよ……全部、殺すって決めたのに。全部壊すって、決めたのに!』
闇から太く鋭い槍が飛び出し、コドクの足を深く抉り取っていった。黒い鱗が弾け飛び、肉が血と共に飛び散り、白い骨が露わになる。
コドクの魂が、悲鳴を上げた。その子のどす黒い憎しみの裏にある、鋭い悲しみが、コドクの心を揺さぶった。それでも、コドクはその子に干渉するのをやめなかった。
コドクは、最初から、その子の攻撃も、声も、干渉も拒絶せずに、全て受け止めるつもりでいた。そうでもしなければ、その子の心に声をかける事など、到底できないであろう事を、よく知っていたからだ。
誰だって、そうだ。「あなたの味方ですよ」と言っている人が、自分の言葉も聞かない奴ならば、そんなの信用できないに決まっている。
『なんで……?なんで、避けないの?なんで、あなたは、私を受け入れようとするの?皆、私を拒絶したのに、なんで……』
泣きそうな、弱り果てた声が、こぼれ落ちる。
その時、コドクの闇が、その子を捉えた。
厳重な結界でずっと封印されていた事、この国の王都でずっと力だけを吸い取られていた事、憎しみと怨念だけで結界をボロボロにし、その穴から、ずっと自分より幸せそうな人々を見ていた事、このままではその子の力が暴走し、世界が滅びる事……
不意に、世界が一変した。辺りの光が一切無くなり、闇に包まれる。
それは、闇の世界。魂が剥き出しになる、特別な世界。
その世界にいるのは、コドクと、その子の二人のみ。
身体も魂もボロボロで、傷だらけのコドクを見たその子は、自分が何をしたのかを悟り、がたがたと震えだした。
「ち、違うの、です。私は、私は、そんなつもりは……」
「分かっているさ。全部。力が強大過ぎて、自分で制御できないのも、本当は誰も傷付けたくなんかないのに、傷付けてしまうのも。」
いつの間にか、コドクの姿が、人のようになっていた。人と言うよりは、人型の竜と言った方がしっくりくるような容姿ではあるが、コドクにしては、人に近い容姿であった。
そろそろストックがなくなってきたので、来週から一話ずつの投稿になりそうです。
趣味で書いているので、許してくださいごめんなさい。(この頃、筆が進まなくて……)




