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49 必要な痛み

コドク視点スタート。

 身体が重い。

 ちょっと、無茶をしたかもしれない。

 や、やばい……カナンに怒られるっ!!

 この頃のカナン、俺に対して容赦がないんだよな。この状態で、あの戦槌で殴られるとか、軽く残機が一つ減るんだが。


 にしても、あの子……力をコントロールできていないとはいえ、さすが神なだけあって、とんでもない力を持っていた。

 いや、ただの力の塊なだけならば、例えどんな傷を負ったとしても、俺の再生能力があればすぐに癒える。

 それなのに、俺の傷の再生速度が遅いのは、あの子の振るった力が、俺の魂までをも傷付けたからだ。それ程までに、全てを憎んでいたのだ。

 いや、憎んでいた、というよりは……心から悲鳴を上げていた、と言うべきか。

 あの子は、必死に、助けを求めていた。

 その声を、心の悲鳴をきちんと受け止める為には、あの闇を、全部受け止める必要があったのだ。

 俺の本質は、闇だ。そして、あの子の本質も、闇。

 あの子の闇は、心の闇とも繋がっている。あの子の心に語りかけるには、あの子の闇を、きちんと受け止めてやらねばならない。だから、俺は、あの子の攻撃を全て受け止めたのだが……。

 神の力を侮っていた。いや、相性が良すぎた、というのもあるか。

 同じ闇だから、互いに独りの苦しみを分かっていたから……あの子の悲鳴は、俺の深い所を抉っていったのだ。


 だから、身体が重い、というよりは……心が重いのかもしれない。実際にもう、俺は、あの子を見捨てるという、その選択肢が無くなってしまっている。

 シャウランの母親……ラウランにまで優しくしてしまったのは、その影響か?俺も、甘くなったものだ。

 魂に傷が付いたせいで、魂の扱い方が分かるようになったというのも、なんだか、皮肉なものである。


 あ、そうだ。そう、そうだよ。あれは、優しさなんかじゃない。魂の扱い方を知る為、という実験の元、ラウランの夫の魂を保護したのだ。

 うん、そうしよう。あんな俺なんて、似合わない。本当、何が口止め料だよ。

 いや、なんだかもう遅い気がするが、そうって言ったらそうなのだ。あの俺は、弱った心が見せた、幻影なのだ。


 と、そんな事を思っている間にも、身体に付いた傷が全て癒えた。

 魂に付いた傷は、そう簡単には癒えないが……まぁ、これならばれないだろう。


 カナンの居場所、カナンの居場所……おお、いた。

 こうやって、上空から改めて見ると、結構大きい建物だったみたいだな。全壊してるけど。

 これは、ユーナがやったんだな……焼け焦げたようなあの魔術の跡は、ユーナのものだ。

 とりあえず俺は、クレーターができている所に降り立った。

 しばらく待っていると、肩にユーナを乗せ、シャウランを抱き抱えたカナンが、軽やかに跳ねるようにして来た。

 ああ、兎だものなぁ、と俺が思っていると、カナンは俺を見るなり、眉を吊り上げ、俺を睨み付けた。


「コドク!また、無茶した!!」


 な ぜ ば れ た


「いやいやいや、無茶なんてしてないです」

「コ・ド・ク!」

「ごめんなさい、ちょっと、ちょっとだけした、だからその戦槌振り上げないで、ごめんなさ危なっ!?」


 俺がさっきまでいた所に、カナンが氷の戦槌を片手で振り下ろす。ドオォーーンン!!という音を立て、つららを逆にしたような氷柱と共に、クレーターができた。

 あ、あぶねぇ……避けなかったら、軽く死んでいたぞ、これ……。


「ま、待て!!話せば分かる!な?」


 俺のその言葉に、何故か、ユーナが、軽く馬鹿にするような、呆れたような目を俺に向けた。

 だが、カナンは止まらない。涙を流しながら、容赦なく戦槌を俺に振り下ろす。


「痛いのは、駄目って言っているのに!!片目まで、無くなって!!」

「え、片目?

 あ、あああああ!!片目を忘れてた!いやでも、これは必要経費だったんだよ、だからうおぉっ!?」

「必要経費だとか、そんな事は知らない!

 コドク、いつも、平気で無茶する!今だって、傷だらけ!

 私がいつも心配しているのも、知らないで!!」


 カナンのその言葉に、俺の胸に、太い杭で貫かれたかのような、鋭い激痛が走った。

 ああ、そうか。例え、どんなに死に難いと説明しても、カナンは、俺の事が心配なのか……

 こつん、と。戦槌が、俺の横の地面を、軽く叩いた。

 顔を伏せて、泣きじゃくるカナンに、俺は、尾羽をそっと伸ばして、その頭を優しく撫でた。


「ごめん。本当に、ごめん。素直に言うよ。

 きっと、俺は、この先も、必要なのだと思えば、簡単にこの身を危険に晒すだろう。

 心配するな、なんて、無理な話だよな。俺だって、カナンがそうだったら、絶対に無理だ。

 だけどな。この先に、そうでもしなくちゃ救えないような、かわいそうな奴が、俺を待っているんだよ。

 お前がシャウランを放って置けなかったみたいに、俺にも、放って置けない奴ができたんだ。

 だから、ごめん。俺は、今よりも、傷だらけになるかもしれない。お前に、要らない心配をかけるかもしれない。無論、死ぬつもりなんてないけどな。」


 胸が……心が、張り裂けそうだ。酷く、じくじくと痛む。カナンに泣かれるのは、とても辛い……。

 だけども、俺がやらなくては、誰もあの子を救えないだろう。あの子を放っておいた末に、その力が暴走して、世界が滅んでしまうであろう事などはどうでもいいが、あの子の悲鳴を聞いているのは、俺は嫌だ。

 ごめん、カナン。俺の我儘のせいで、お前を苦しめる事になってしまって。

 それでも、やらなくてはいけない。これは、俺にしか、できない事なのだから……

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