表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/141

48 傷だらけな鳥の、優しい情け

三人称視点スタート。

 シャウランは、カナンと名乗った綺麗な少女が歩み寄ってくるのを見ながら、その頭に付いているもの―――兎の耳を、じっと凝視していた。


(根元が少し赤いけど……お母さんのに、似てる……)


 シャウランがそう思っている間に、カナンはシャウランの元へと辿り着き、シャウランを閉じ込めている、その檻の錠前へと手を掛けた。


「少し、待って。この邪魔なもの、壊すから。」


 カナンはそう言うと、錠前を握りしめた。見る見るうちに錠前に罅が入り、バキッと砕けて、カナンの手からこぼれ落ちていった。

 カナンは、檻を開け、シャウランを抱き寄せた。


「ああ、こんなに怪我をして……もう、大丈夫。大丈夫だから。怖い事は、何も無いよ……」


 長いまつ毛を震わせながら、涙を流すカナン。

 殴られたせいで、熱をもったシャウランの頬の痣に、カナンのひんやりとした心地よい手が優しく触れた。

 その手が、仕草が……以前、転んで擦りむいた膝の傷を、優しく撫でたシャウランの母親と重なり、思わずシャウランは、カナンへと問いかけていた。


「お母さんは……?お父さんと、お母さんは、無事なの……?」


 シャウランの問いに、カナンの目が揺れた。

 カナンは、少しだけ、悲しむように目を伏せると、不安でいっぱいで、今にも泣きそうなシャウランの金色の目と、しっかりと目を合わせた。


「ごめんなさい。あなたの、お母さんは……救えなかった。」


 その言葉が、シャウランの耳に届き、理解した時……シャウランは、目の前が真っ暗になったような気がした。

 絶望に震えるシャウランに、カナンが、ギュウ、とシャウランを胸に抱き寄せた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……

 辛いよね、苦しいよね……独りぼっちは、寂しいよね……」


 その言葉と共に、流れ出た涙の雫が、シャウランの顔に当たり、シャウランはハッとして、カナンを見上げた。

 そこには、シャウランを思い、涙を流すカナンの顔が間近にあった。

 シャウランの胸から、痛みを伴った、抑えきれぬ悲しみが溢れ出した。

 張り裂けんばかりの声をあげて泣きながら、シャウランは、カナンに抱きついた。






 ふと気付くと、シャウランは、何もない、真っ白な空間にいた。

 いや、何もない訳では無い。そこには、雪が降っていた。

 茫然と積もる雪を見つめるシャウランに、誰かが声をかけた。


「シャウラン。」

「っ!?お母さん!」


 それは、亡くなった筈の、シャウランの母親であった。

 シャウランは、優しく微笑む母親へと飛び込むと、ギュウギュウと抱きしめた。


「お母さん、お母さん……!死んじゃったのかと思った……」


 しかし、シャウランのその言葉に、シャウランの母親は悲し気な表情を見せ、首を横に振った。


「ごめんなさい、シャウラン。私はもう、死んじゃったの。」

「え、でも……」

「今の私は、カナンちゃんの中にある、魂の欠片に過ぎないわ。

 黒き夜空の神様に、情けをかけてもらったのよ。」


 その言葉に、シャウランはある事を思いだし、思わず呟いた。


「蒼いお月さま……」

「そうね。黒き夜空の神様のおめめは、蒼い双子のお月さま。

 あらゆる悩みや、苦しみ全てを飲み込み、安らぎの眠りをもたらす、優しい闇。だけれども、あまり行き過ぎると、帰って来られなくなってしまう、恐ろしい闇……。

 私ね、その神様に、怒られちゃった。」


 シャウランを優しく撫でながら、そう言う母親に、シャウランが首を傾げた。


「なんで?お母さんは、悪くないのに……」


 口を尖らせて、不満そうにそう言う我が子に、母親は首を横に振った。


「いいえ。私は、あなたに酷い事をしてしまったの。

 黒き夜空の神様はね、あなたの事を想うのならば、何をしてでも生きて、傍にいろ、とおっしゃったの。

 あの方は、きっと、全てを失った事があったのね。

 孤独に生きる者の苦しみが、お前には分かるか、と。私に、そうおっしゃられたのよ……。」


 シャウランは、ハッとして、カナンの言った言葉を思い出した。


『ごめんなさい、ごめんなさい……

 辛いよね、苦しいよね……独りぼっちは、寂しいよね……』


 涙を流しながら、顔を悲痛そうに歪めて、そう言ったカナン。


「そうね。あの子も、そうよ。

 両親に見捨てられて、黒き夜空の神様の元へと来たの。

 カナンちゃんはね、私のお願いを叶える為に、私の全てを受け継いでくれたのよ。」


 シャウランの母親はそう言うと、シャウランを抱きしめた。


「シャウラン、私の愛しい子。あなたは、一人ではないわ。カナンちゃんが、あなたの傍にいてくれる。

 私も、あなたの事を、ここでずっと見守っているわ。」


 シャウランの視界が、どんどん白く染まっていく。

 ここにいられる時間がもう無いのだ、と悟ったシャウランが、慌てて、薄れる意識の中で叫んだ。

 伝えられたかどうか、分からぬまま、シャウランの意識は、真っ白に染まった。



 腕の中から消えてしまった温もりを、寂しそうに見つめるシャウランの母親に、雪を踏みしめながら現れたコドクが声をかけた。


「「お母さん大好き」、か。良かったな、我が子に愛されて。」

「神様……」


 振り返ったシャウランの母親だったが、コドクの姿を見て、驚愕に目を丸くした。


「神様、その傷は……!?」

「今の俺は神じゃない。カナンの契約者の、コドクだ。だから、コドクと呼べ。

 この傷は……まぁ、大丈夫だろ。」


 そう言いながら笑うコドクだが、その血塗れの姿では、笑うに笑えなかった。

 翼は、噛みちぎられたような痕と共に一部消失しているし、片足の鱗は剥げ、流血と共に赤い肉が露出している。嘴にも罅が入っており、とにかく体中傷だらけだった。

 その金色の目も一つしかなく、ある筈の片目は無くなって、血涙が流れている有様。


 これのどこが、大丈夫だという話である。

 心配そうな様子を見せるシャウランの母親に、コドクは、少し声を小さくして、呟いた。


「これ、カナンには内緒だぞ。ばれたら、絶対に怒られるからな。

 という事で、口止め料に、これを持ってきた。」


 コドクが、一歩横にずれた、その先にいたのは……


「あ、あなた……。」

「ラウラン……」


 シャウランの母親―――ラウランの、夫であった。

 コドクは、その傷で、わざわざラウランの夫の遺体の元へと行き、その魂を探し出し、霧散しかけていたその魂を魔力で保護して、ここへ持ってきたのである。

 嬉し涙を流しながら抱き合う夫婦を見て、コドクは頷くと、足を引きずりながら、静かにその場を去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ