47 怨嗟の悲鳴
三人称視点スタート。
シャウランを追って、ルリィドユアー国に辿り着いた時、コドクは殺気にも似た何かを感じ取った。
この国で信仰されている神か、と思ったコドクだが、その殺気を辿ろうとして、困惑する事となった。
(なんだ?この国の神は、この国を滅ぼそうとしているのか?)
コドクが、困惑した理由。それは……その殺気が、この国全部に向けられたものだからだった。
殺気や、憎しみ、怨念……様々な負の感情が詰め込まれたそれが、あらゆる生き物に向けられている。
その負の感情に乗せられている魔力の質からして、神である事は間違いなかった。が、しかし、それでも、コドクは疑問に思った。
(本当に、この国で信仰されている神のものなのか、これは?
この感情は……そう、かつて俺が幼い頃、世界の全てを憎んでいた、あの感情だ。この殺気の主は、いったい何者なんだ……?)
「……?コドク?」
じっと考え込むコドクに、カナンが首を傾げた。
コドクは、物思いから、ハッと覚めると、その疑問を振り払うように頭を振った。
「いや、なんでもない。
今、俺の真下にある建物……あの中に、シャウランがいる。」
コドクのその言葉に、カナンとユーナが、その建物を見た。
すると、コドクが目を細めて言った。
「悪いが、あの建物には、二人だけで行ってくれないか?」
「え?なんでよ?」
ユーナの言葉に、コドクは、遠い、ある一点を厳しい目で見つめながら、言葉を返した。
「この国に、神がいるみたいなんだが……なんだか、様子がおかしすぎる。俺は、その神の動向を見ているから、その間にシャウランを救出してくれ。」
そう言いながら、遂に冷や汗まで掻き始めたコドクに、カナンとユーナは、ただならぬものを感じた。
二人は、目を見合わせると、同時に頷いた。
ユーナが、カナンの肩から飛び立ち、カナンがコドクの背に立つ。
カナンは、ちら、とコドクを見て、一言呟いた。
「無理は、しないで。」
そう言ってコドクの背から跳び下りるカナンに、コドクも短く呟き返した。
「ああ。」
カナンとユーナは気が付かなかったが、この時、コドクの事を、何か恐ろしいものが凝視していた。
コドクの闇と、そのものの闇が、二人を結び付けてしまったのだ。
コドクは、こっそりと溜息を吐いた。―――どうやら、救わなくてはいけない者は、シャウランだけではないらしい、と……。
父と母から引き離され、檻の中に入れられたシャウランは、これからの不安と、訳の分からぬ恐怖に、震えながら縮こまっていた。
それでも泣かないのは、泣けば殴られるからだ。だけども、泣けない理由は、それ以外にもあった。
(怖い、怖いよ……!)
シャウランは、この国に入ってから、ずっと聞こえてくる怨嗟の声に、長い兎耳をペタンと伏せて、震えていた。
『皆ずるい』『私は何もなかっタのに』『なんで私だけ』『ころス』『私は悪くない』『皆だケ幸せなんて』『酷い酷い酷い』『理不尽すぎる』『殺しテやる』『憎い』『皆も同じ目に合わせてやる』
そんな声が、暗がりから、辺りへと染み入るように聞こえてくるのだ。
こんなにも怖い声なのに、周りの人は気が付く様子もない。
シャウランは、心の中で叫んだ。
(助けてよ、お母さん……!)
その時だった。
今までずっと聞こえていた声が、ぱたりと止んだのだ。
「え……?」
思わず、シャウランは顔を上げるが、やはり何も聞こえない。
小首を傾げるシャウランに、さっきの声―――だけれども、今にも泣きそうな、震えた声が聞こえた。
『蒼い、お月、さま……?』
今までの、憎しみしか無かった言葉とは違ったその声に、シャウランが思わず目を見張った、その瞬間。
ドオオォォォオオオンンンッッ!!!
「な、なんだ!?」
「い、今の音は!?」
空気まで震えるような爆音が、シャウランのいる所まで響き渡り、途端、辺りが騒がしくなった。
爆音は止む事は無く、それどころか、どんどんシャウランのいる方へと近づいてくる。
シャウランを見張っていた人達が、震えながら、持っていた武器を構えた。
ドンッ!という音と共に、シャウランのいる部屋の壁が吹き飛んだ。
その、壁に空いた穴から出てきた者を見て、シャウランを含めた、その部屋にいた全ての人達が、その美しさに思わず見惚れた。
長い髪を揺らし、戦槌を片手に、静かに部屋に入ってきたカナン。
立ち止まり、辺りを見回したカナンのその目が、シャウランを捉えた。
カナンはにっこりと笑うと、シャウランへと話しかけた。
「あなたが、シャウラン?」
「……え?う、うん。」
顔を赤くしながらそう言うシャウランに、カナンが歩み寄った。
「そう。私は、カナン。あなたのお母さんに頼まれて、あなたを助けに来たの。」
シャウランへと歩み寄るカナンへ、見張りが、カナンを止めようと、声をかけようとしたが、それは叶わなかった。
「か……あ……」
「っ……?」
体が、喉が、まるで凍りついたように、まったく動かないのだ。
見張り達は、カナンがシャウランの元へと行くのを、止めることができなかった。
それは、カナンが新たに使えるようになった、氷の魔術。
コドクが使った、身体を操る権限を奪う魔術を参考にした、身体を凍結させる魔術であったのだ。コドクがやったように、見張り達がカナンに見惚れた瞬間に、魔力の糸で見張り達を貫いたのだ。
しかも、その魔術はコドクの操作権限を奪う魔術とは違い、身体の全ての働きが凍結してしまう為、心臓も、肺も動かない。
カナンが、シャウランの元へと辿り着いた、その時には……
惚けた表情で、ある一点を見つめる、人型の氷像が出来上がっていたのだった。




