閑話2 成長痛
三人称視点スタート。
ある朝、コドクは、自分の背中で寝ていたカナンの様子がおかしい事に気が付いた。
顔を真っ赤にし、苦しそうに呻いているカナンに、コドクが目を見開いた。
「な、カナン!?おい、大丈夫か!?」
「う……こ、どく……?」
うっすらと目を開き、呟くカナンに、コドクは、不安のあまりにうろうろしようとして……背中にカナンがいる事を思い出し、首だけでおろおろとし始めた。
「え、ど、どうすればいいんだ、これ。
カナン、どこか痛いとか、あるか?」
「身体中、痛くて……熱い……」
カナンが、苦しげにそう言うと、コドクは挙動不審になり始めた。
すると、落ち着かないコドクのせいでユーナの目が覚め、コドクに怒鳴ろうとして……あまりのコドクの切羽詰まった様子に、ユーナは首を傾げた。
「ど、どうしたのよ、コドク。」
「どうもこうもあるか!カナンの体調がおかしいんだよ!」
「ええっ!?なんですって!?」
コドクのその言葉を聞き、ユーナがカナンの元へと飛び込んだ。
カナンの苦しそうな様子を見たユーナは、コドクに鋭い声で問いかけた。
「体温が上がっているわ……コドク、カナンの霊脈はどうなの?」
「霊脈の方の異常はない。むしろ、調子はすこぶる良い方だ。」
目を細め、カナンの霊脈を感じ取りながらそう言うコドクに、ユーナは唸った。
「うう~ん、風邪……ではないわよね?昨日も咳なんかしてなかったし……」
「ああ。リンパ腺も腫れていないし、風邪ではない筈。」
「……あなた、何時、そんな事調べたのよ……」
ユーナの、呆れ交じりのその言葉に、コドクは「見れば分かる」と言葉少なに答えた。
その時、朝食を作りに来た星花(誰も料理ができる人がいないので、星花が、謎の忠誠心で料理を覚えてきたのだ)が、三人のおかしい様子に、首を傾げた。
「いかがいたしましたか、ご主人様?」
「星花か?カナンの様子がおかしいから、今、カナンの身に何が起こっているのか、調べているんだよ。」
「カナン様が?」
心配そうにカナンを見ながらそう言うコドクに、星花は真剣な表情になった。星花は、コドクの元へと駆け寄ると、「失礼します」と言って一足跳びでカナンの隣に来て、カナンを診察し始めた。
カナンから、どこが痛いかなど、様々な事を聞き、触診したりした星花は、少し考え込むと、口を開いた。
「私は医者ではございませんので、詳しい事は分かりません。なので、推測になってしまうのですが……おそらく、これは成長痛によるものかと思われます。」
「「成長痛?」」
声をそろえてそう言うコドクとカナンに、星花は頷いた。
「はい。プルプルから聞いたのですが、人間は、成長する際に、体の節々……関節などが、痛くなるそうです。
きっと、カナン様は、それが一気に来たが為に、こうなっているのではないでしょうか?」
星花の推測に、コドクとユーナは、「ああ…」と頷いた。
「確かに、よく足首とか痛くなったっけ。でも、成長痛って、普通こんな風になるか?」
「ええ、確かにそうよね……こんな風に全身が痛くなるなんて、おかしいわ。」
星花は、ユーナのその言葉に、どこか引っかかりを覚え、軽く眉をひそめた。だが、結局どこに違和感を覚えたのかが分からず、首を振って、その違和感を振り払った。
「ユーナ様、カナン様の歳はおいくつなのですか?」
星花のその問いに、ユーナは、「ええっと……」と首を傾げた。
「確か……13、14あたりだった筈よ。」
「……カナン様は、今まで成長痛になった事がありましたか?」
星花が目を細め、そう言うと、ユーナは、ハッとして言った。
「そういえば……ずっとカナンと一緒にいたけれど、そんな事は無かったわね。それどころか、背が伸びた様子もなかったわ。」
ユーナは、翼で頭を抱えた。
「そうよ、そうじゃない!この歳で、この容姿っていう事そのものがおかしいのよ!私ったら、なんでそんな事も気が付かなかったのかしら……」
そう言って落ち込むユーナに、コドクが声をかけた。
「今までの生活が、それどころじゃなかったからだろう。聞いたら、ほとんどサバイバルのような生活をしていたみたいだしな。
カナンの成長が止まっていたのも、その過酷な環境のせいじゃないか?
まあ、なんにしても、お前のせいじゃない筈だよ。」
そう言って、身を寄せるコドクに、ユーナは「コドク……」と呟いた。コドクの慰めは、少しはましになっていた。
ユーナは、フッと笑った。
「そうよね……こうなったのも、全部コドクのせいよね!」
「……はい!?俺!?」
まさかの言葉に、目を開いて驚くコドクに、ユーナは頷いた。
「だって、そうじゃない。過酷な環境を、快適な環境に変えたのは、全部あなたよ?」
「いや、確かにそうだけどさ。それ、俺が悪いのか?」
「そうよ!だから、これからあなたは、ずっと私達に快適な環境を提供する義務があるのよ!」
そう言って胸を張るユーナに、コドクは、困ったように笑った。
「無茶苦茶だな……。でも、元々そうするつもりだし、今までとそう変わらないだろう。」
「ま、そうねー。」
そう言って、笑い合う二人。
まるで、仲のいい兄妹のようなその光景に、星花は笑みを浮かべた。
……その後。
「……むう。」
「「ご、ごめんなさい……」」
自分が苦しんでいるというのに、気楽に笑い合うコドクとユーナに、カナンが拗ねた。そして、そこには、カナンに謝りながら、同じ動作で首をすくめる二人がいた。
その光景に、星花は、思わず苦笑を浮かべたのであった。




