37 進化した影鼠
3話目。
コドク視点スタート。
月も地平線に消え、もうすぐで夜が明ける、という時だった。
眷属である、一人の影鼠の気配を捕らえたのだが……
「……ん?この気配、なんだ?」
なんだか、影鼠にしては、違和感を覚える気配なのだ。そう、まるで人間のような……
「報告に参りました、ご主人様。」
そんな事を思っていたら、なんと俺の影から、星型の花の髪留めを頭に付けた、赤い瞳を持つ長い黒髪の少女が現れた。
え?ご主人様って、俺?いや、誰だよこいつ?俺をご主人様と呼ぶ奴なんて、眷属の影鼠くらいしかいないぞ?
ん?待て、影鼠と、星型の花の髪留め?
「もしかしてお前、星花か?」
「はい。ご主人様の眷属の、星花でございます。」
……マジか。ほぼ感で言ったのに、当たったぞ……。
「ええっと……なんというか、結構、様変わりしたな?」
「そうでございましょうか?」
そう言って首を傾げる星花だが、鼠から人型って。あ、でもよく見れば、頭には鼠の耳っぽいのが生えているし、スカートからは、鼠の尻尾がちらちらと見えている。
あれか?『影の死者』を食べて、進化したのか?でも、なんで人型になったんだか。『影の死者』だって、完全な人型では無かったのに。しかも、口調まで、ガラッと変わっているし。
ああ、分からん!
「……とりあえず、その、報告っていうのは?」
分からないものは分からないので、一旦置いて、とりあえず、報告を聞いてみる事にした。
「はい。あのゴミクズの件ですが。」
「豚からゴミクズにランクダウンしたよ!
あ、ごめん。続けて。」
「はい。そのゴミクズですが、影鼠達に最後まで食われ、完全に消滅致しました。
闇の中にいた怨霊達も、ある程度怨みは晴らせたようでしたので、そのままお帰り願い致しました。
ゴミクズに人質を取られ、ゴミクズに従っていた人間ですが……。人質は殺されていた、という事実を知らされ、ほとんどの者が、自殺したようです。」
……そう、か。
あの豚の下にいた人間は、だいたい二つの種類に分かれる。
一つは、金で雇われた人間。
もう一つは、大切な者を人質に取られ、従わなければいけなかった人間。
ただし、その人質は、女だったら強姦されて殺されたか、奴隷にされて遠くへと売り払われ、男だったら問答無用で殺されたか、同じく奴隷にされて遠くへと売り払われていたみたいだった。
奴隷にされた者も、どの道死んでいるだろう。調べた限りでは、人権など、ほとんど保障されないような、そんな所に売られたみたいだったからだ。
その後の報告も、『影の死者』が知らない部分を報告してくれたが、だいたいが似た内容だった。
「以上になります。」
星花は、丁寧なお辞儀をしながら、そう締めくくった。
俺は頷いた。
「うん、ありがとう。後は好きにしていいよ。用があったら、呼ぶから。」
「承知いたしました。」
……。
そう言った星花だが、そこから動かない。
……?まだ、何かあるのだろうか?
どこか、物欲しそうに、ちらちらと俺を見る星花。
ああ!そうか。そういえば、『影の死者』はご褒美、とか言って何かしていたな。うん、なるほど。ここの時点で、『影の死者』は結構俺から乖離していたんだな……。
「ええ、と?ご褒美は、何がいい?」
どうすればいいのか分からないので、正直に聞いてみた。
途端、ぱあっと表情を明るくする星花。
「はい!その、貰えるのでしたら、ご主人様の羽根が欲しいのですが……。」
「ん?羽根?そんなのでいいなら、幾らでもやるけど。ほら。」
とりあえず、3枚抜いて、星花に渡した。
星花は、自分の身の丈以上の俺の羽根を、そのまま、ぎゅうっと抱きしめると、羽根に顔を押し付けて、深く息を吸い込んだ。
「ふあぁぁ……。」
恍惚とした表情で、幸せそうに息を吐く星花。
……うん?なんで、俺の前世の妹と、同じ事をやっているんだろうか。妹も、何故かは分からないけど、俺の下着をわざわざ洗濯機から取り出して、今の星花みたいな事をやっていた時があったんだよね。
う~ん、女性って、皆そうなのだろうか?でも、カナンやユーナはそんな事しないしな。カナンだって、俺の毛並みを堪能している事はあるけど、わざわざ匂いを嗅いだりはしないし。
後で、ユーナにでも聞いてみるか。
星花は、俺の羽根を影の中に入れると、鼻血を出しながら、お辞儀をした。
「ありがとうございました、ご主人様。」
「ああ。……鼻血出てるけど、大丈夫か?」
「いえ、これは血ではありません。溢れ出る忠誠心でございます。」
「…?はぁ。」
なんだかよく分からない回答が返ってきたが、妹もそうやって鼻血を出した時、似たような事……確か、「愛が溢れ出しただけ」だっけかな?とにかく、そんな訳の分からない事を言っていたから、大丈夫ではあるのだろう。
星花は、最後に一言付け加えた。
「では、ご主人様。ご自身の事を、きちんと大切にしてくださいね。御身は、もう、自分一人のものではないのですから。」
星花はそう言うと、影の中へと消えていった。
俺は、溜息を吐いた。
「もう、自分一人のものではない、ね。分かっているよ。無茶する気もないし、死ぬ気も無いんだがな。
俺って、そんなに危なっかしいのか?」
首を傾げながら言ってみるが、答えてくれる者など、誰もおらず。
どんどん明るくなっていく空を眺めながら、胸の内から湧き上がってくる疲労感に、俺はもう一度溜息を吐いた。
ボツになったサブタイトル。
「変態眷属、星花爆誕!」
あんなに良い子だったのに、なんでこうなった……
来週の投稿は、2話連続投稿予定となっております。
その代わり、軽い人物紹介を入れようと思っています。




