表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/141

35 還らぬ死者

3話連続投稿。1話目。

三人称視点スタート。

 影鼠を、頭の上にちょこんと乗せた影の死者が路地裏を歩いていると、不意に地面が盛り上がった。

 影鼠はびっくりしたように影の死者の頭の上で跳ねたが、影の死者は分かっていたのだろう。大して驚いた様子もなく、そのまま立ち止まった。

 盛り上がった地面が割れ、そこから巨大な蕾が現れる。蕾は下から生えた茎によって押し上げられ、ある程度成長すると、その蕾を開いた。


「こんばんは、お父さん!プルプルだよ~!」


 その蕾の中から現れたのは、身体の中心に窪み(多分、口なのであろう)を付けた、スライムのプルプルであった。

 いつの間にか口を作ったプルプルに、影の死者は苦笑をこぼした。


「こんばんは。プルプル、お前、それが口なのか?」

「そうだよ~。ご主人がね、「プルプル、おくちでしゃべれないの~?」って言うから、作ってみたんだ!」

「おいおい、そんな理由で作ったのか。」


 そう言いながら笑う影の死者。

 カナンのわがままで、身体を小さくしたのは、はたして誰であったのだろうか。

 プルプルは身体を震わせると、声をあげた。


「そういえば、お父さん。あの豚小屋が騒がしいけど、何かあったの~?」

「ん?それか。気にしなくてもいいよ。ちょっと豚肉を調理して、俺の眷属が食べているだけだから。」

「そっか~。なら、大丈夫だね!」


 身体を変形させながら、くねらせるようにしてそう言うプルプルに、影の死者は座らない首を傾げた。


「なぁ、さっきから気になっていたんだが。その、お父さんってなんだ?」

「ぷる?お父さんは、プルプルのお父さんだよ?

 だって、そうでしょ?姿は違うけど、魔力はお父さんのものだよ?」

「いや、そういう意味では無くてな。あれ?コドクが作り変えたから、俺も父親みたいなものなのか?」


 影の死者は腕を組みながら唸ると、反対方向へと、折れたように首を傾げた。

 しばらく唸っていたが、やがて、影の死者は溜息を吐いた。


「まぁ、どうでもいいや。それと、プルプル。一応言っておくけど、俺は『俺』であって、『コドク』とは違うからね?」

「…ぷるっ!?お父さんじゃないのー?」

「う~ん……その問いには、そうとも言えるし、違うとも言える、かな。」


 影の死者の苦笑交じりの答えに、プルプルは身体から蔦を生やし、起用に「?」を描いた。


「ぷる、ぷるるっ?どういう事なのー?」

「ああ、ううん……そう、だね……。

 今の俺は、『影の死者』であり、『コドク』の分身なんだよ。

 記憶は『コドク』と共有しているけど、そうであるだけで、身体も魂も、別物なのさ。と言ってもまぁ、俺の身体は『コドク』の羽根でできているし、記憶を共有しているから、ほとんど魂も同じだ。

 だから、ほぼ『コドク』と同じと言っても差し支えないけどね。」


 影の死者の言葉に、プルプルは理解できたのか、身体から花を咲かせると、ぷるぷると震えた。


「つまり、今のお父さんは、お父さんの一部って事だね!」

「まあ、間違ってはいないね。実際、俺の核は『コドク』の中にあったものだけど、身体と魂に『コドク』との繋がりを持たせる為に、身体の構成を魔力と魔素じゃなくて、『コドク』の羽根で構成させたからな。

そういう意味では、俺は『コドク』の一部だろうね。」


 顎を撫でながら、そう言う影の死者に、今まで両者の話を黙って聞いていた影鼠が、首を傾げた。


『あれ?じゃあ、今のご主人様は、どうするの?ご主人様の元に還るの?』


 影鼠のその問いかけに、影の死者はしれっと答えた。


「ん?勿論、死ぬよ?」


『…え?』

「…ぷる?」


 予想外の言葉に、思わず、言葉を失う影鼠とプルプル。

 そんな二人に苦笑しながら、影の死者は言葉を継いだ。


「元々、俺はあの豚の駆除用に作られた存在だからね。試験運用っていう意味もあったし。

 それに、拒絶心で変質した身体だから、寿命が短いんだよ。だから、あと持って数分って所かな。」


 死んでしまうというのに、落ち着き払ってそう言う影の死者に、プルプルは身体に生えた花を萎れさせながら言った。


「死ぬのが、怖くないの…?」

「勿論、怖いさ。でもね。」


 元気のないプルプルにそう言いながら、影の死者は指を立てた。


「生き物ってね、二回死ぬんだよ。一つは、生命の活動の停止である、肉体の死。もう一つは、人々から忘れ去られた時の、存在の死。そう言う意味ではね、ほら。お前達が、俺を覚えていてくれる。それだけで、俺はお前達の中で生き続けるのさ。

 確かに、俺は使い捨ての駒のような存在だよ。だけど、こうやって、何かを残す事だってできる。意思を、そこにいたという記憶を、繋ぐ事ができる。全ては巡り回っているのさ。命も、意思もね。

 だから、そうだな。一つだけ、我儘を言うなら……俺が死んだら、その死体は、お前達が食べて欲しいって事かな。」


 影の死者の言葉を聞いて、悲しそうにする二人に、影の死者は微笑んだ。


「そんな悲しそうにするなよ。生き物は、いずれ死ぬんだ。

 でもね、そこで終わりではないんだよ。命が消えても、意思は残る。俺の存在もまた、お前達の糧となるのだろうしね。

 だから、どうせなら、俺の命も糧にして欲しいってだけだよ。」


 そう明るく言ってから、影の死者は、不意に、困ったように笑った。


「はは、やっぱり、俺は『コドク』の一部なんだろうな。俺の意思の根底に、命を無駄にしたくないっていうのがある。

 うう~ん、分からないものだね、心って。」


 困ったようにそう言いながら、影の死者が頬を掻いた……



 途端、その手が崩れ落ちた。


 ぼろりと落ちた手は、真っ黒な羽根を散らしながら、音もなく、静かに地面に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ