26 温かく照らすともしび
3話連続投稿。1話目。
カナン視点スタート。
メノゥという人が奢ってくれた、焼き鳥を頬張りながら、ふと、思った。
なんで、ユーナは、コドクを影の中に入れなかったのだろう。
この頃、ユーナの元気がないけど、それが原因なのかな。
きっと、ユーナの事だから、自分の弱さに関する事で、また悩んでいるのかもしれない。
気にしなくても、いいのに。
ユーナは、私の家族。そして、友達。
ユーナを助けたのは、確かにかわいそうだと思ったのもあるけど、他の理由もあった。
ユーナは、兄―――トカラによって無理矢理落とされた、精霊だった。
神宝によって呼び出される精霊は決まっていないし、決められないから、呼び出されたその時にしか分からない。契約さえしなければ、何回でも呼び出せる。
だから、落とされたユーナが弱いと分かると、トカラはすぐさまユーナを捨てたの。
……そんな人では無かったのに。あの、優しいお兄ちゃんは、あいつのせいで、あんな酷い人に変わってしまった。
それが、私は悲しかった。もう、優しいお兄ちゃんや、お姉ちゃんはどこにもいないんだって、言われているような気がして。
だから、私はユーナを助けた。あんな、酷い生き物と同じにはなりたくなかったから。
あいつと同じ、弱い者は切り捨てるだけの、為政者の娘という立場にも、なりたくなかったから。
あれが人間だというのなら、私は人間じゃなくてもいい。
案の定、あいつは、私を捨てた。自国の端の、辺境の地へと、私を追いやったの。
ユーナは、その事に関して責任を感じているみたいだけど、そんな事はない。むしろ、ユーナと契約したおかげで、あいつの顔を見なくて済むようになったんだから。
だけど、ユーナがいるとはいえ、頼りになる人がいない、というのは、やっぱり不安だった。
そんな日常に、コドクは現れた。
最初は、大きくて真っ黒なその姿に、恐怖を覚えた。でも、コドクは、不器用だけれども、優しかったの。
だからかな。私は、いつの間にか、コドクに、自分に優しかった頃のお兄ちゃんを、重ねて見ていた。
コドクは、なんでも受け入れてくれた。我儘も、ちょっと攻撃的な甘えも…そして、ユーナそのものも。
コドクに、人間だった前世の記憶があったのには驚いたけど、私達の為に生きてくれると言ってくれた、あの瞬間は、とても嬉しくて、何より安心した。
正直、コドクが元人間だとか、嫌われ者だったとか、異世界から来たとか、そんな事はどうだっていい。
コドクは、私の新しい家族で、そして、私のお兄ちゃん。その事実があれば、私はそれでいいのだから。
私と同じ焼き鳥を啄んでいたユーナが、不意に口を開いた。
「どうしよう、カナン。私、どうしても、コドクに素直になれないの。」
落ち込んだ様子で、そんな事を言うユーナ。これが言いたかったから、コドクを影の中に入れなかったのかな。
でも、ユーナ。その前に言いたい事があるの。
あなたが食べているそれ、鳥肉よ?共食いにならない?
「うう~、私、本当はコドクに感謝しているのに。コドクの顔を見ると、何故か素直になれないのよ。」
そう言って、溜息を吐くユーナ。そんなユーナに、私は首を傾げた。
「……別に、いいと思う。コドクも、ユーナが感謝している事は、分かっていると思うの。それに、コドクは家族だから、遠慮なんて、しなくていい。」
「でも、でも……コドク、私の事、嫌いになったりしないかしら?」
もじもじしながらそう言うユーナ。かわいい。
すると、メノゥが、鼻を鳴らした。
「あんたねぇ、さっきまでコドクがなんて言っていたか、忘れていないかい?
あれだけかわいいかわいい言っているんだ、そんなくらいで、あんたを嫌いになんてならんだろうさ。」
メノゥは、ニヤッと唇の端を持ち上げた。
「むしろ、あんたのそういう所もひっくるめて、あんたがかわいくて仕方がないんじゃないかい?
同じ鳥の精霊なんだし、きっと妹みたいに思っているんだろうよ。」
「……妹。」
メノゥのその言葉に、ユーナは思う所があったのか、微妙そうな顔になった。
そういえば、コドクの前世に、妹がいた気がする。コドクしか見ていなかったから、あまり覚えていない。
それに、そんな事なんて、気にする必要はないと思うの。だって、あれは、コドクの人間だった頃の家族であって、今は、私とユーナがコドクの家族だもの。
私が黙々と食べていると、メノゥが不意に私の方を向いた。
「遅くなっちまったけど、うちの孫が馬鹿な事を言って悪かったね。」
「……そう。」
私の返答に、メノゥは苦笑したけど、本当に、あんな人間なんてどうだっていいの。私はただ、コドクが物扱いされたのが、嫌だっただけ。
すると、メノゥは急に真剣な顔つきで、私を見つめた。
「あんた、結構危ういね。まるで、心が凍りついてしまった人形みたいだ。」
「なっ、なんですって!?」
私に向かって言ったメノゥの言葉に、ユーナが反応した。
「何が凍りついた人形よ!カナンの事なんて、なんにも知らない癖に!
カナンはね、本当は優しい子なのよ!?それを、あなた達人間がカナンに冷たく当たったせいで、カナンは色々なものを失ったんじゃない!!」
ユーナが怒鳴る度に、ユーナの体から火柱が上がる。
私の為に怒ってくれるユーナ。私が心から欲しかった、私の頼れる味方が、そこにいた。
……そうだよね。コドクだけじゃない。ユーナも、頼れる私の友達。
そんなユーナに、メノゥは優しく微笑んだ。
「若いっていうのは、いいねぇ。だけど、もう少し落ち着いて、話を最後まで聞いたらどうだい?私はまだ、半分も言っちゃいないよ。
確かにこの子は危ういけどね、それは独りだったらの話だ。この子の傍には、その凍った心を溶かしてくれる、あんたがいる。…若い者が、こんな冷たい目をしているのは、悲しい事だがね。
だからこそ、ユーナ。あんたは、カナンの傍から離れるんじゃないよ。コドクの傍からもだ。
冷たい氷を溶かせるのも、闇夜を照らせるのも、強く燃え上がる炎しか、ないからねぇ。」
目を細めてそう言うメノゥに、ユーナはそっぽを向いた。
「……そんなの、あなたに言われなくても、分かっているわよ。」
そうよ。私とユーナが一緒にいるのは、当たり前。
弱いっていう理由だけで捨てる、あいつらとは違うの。だって、私達は、家族だもの。




