21 殺す事、食べる事
2話目。
三人称視点スタート。
コドクの目を見たきり、黙り込んでしまったユーナに、コドクは静かに話しかけた。
「なぁ、ユーナ。お前、なんでカナンと友達になったんだ?」
「それ、は……カナンが、私を助けてくれたから、よ。」
ユーナのその言葉に、コドクは目を細めた。
「お前の、憎い筈の人間なのに?」
コドクの、核心を突くようなその言葉に、ユーナはいやいやと首を振った。
「カナンは……カナンは、違うわ!」
「同じだよ。人間も、精霊も、魔物も。皆、一つの命を持ち、意思を持つ生き物だ。
そして、お前はそれを知っている。知っていたから、お前はカナンと友達になったんだ。
お前が、憎いのは、人間なんかじゃない。お前が憎いのは……お前自身の、弱さだよ。」
ユーナは、何も言わなかった。ただ、道に迷って泣きそうな子供のような顔で、コドクを見つめていた。
ユーナは、知っていた。分かっていたのだ。それでも、認めたくなくて、駄々をこねる子供のように、人間に、そしてコドクに当たっていただけ。
コドクは、親鳥が雛を温めるように、小さな体のユーナに優しく身を寄せた。
「ユーナ、焦らなくてもいいんだよ。素直になれ、とも言わない。
殺してみれば、分かる筈だ。こんなちっぽけな命を、それでも、皆と同じ命を奪った所で、何も変わりはしないって事が。
お前は、馬鹿じゃない。だからこそ、その事から目を逸らしても、余計虚しくなるって事が、分かる筈だ。」
コドクの優しく諭すような言葉に、ユーナは涙を流しながら、コドクの胸に顔を押し付けた。
「どう、しよう。私、変わろうとしたのに、結局、何も変われていないの。
どうしても、素直になれないのよ。弱いって事を認めたくなくて……認めなきゃ、何も変われないって分かっているのに、それでも認めたくなくて、辺りかまわず憎んでいる自分がいるのよ。
ねぇ、コドク……私は、どうすればいいの?人間に八つ当たりして、この感情が晴れないなら……私は、何をすれば、この感情から解放されるのよ…?
教えてよ。あなたなら、分かっているんでしょう!?ねぇ!!」
コドクの胸の中で、ユーナは思いの丈を叫んだ。これが、コドクにとって理不尽な押し付けなのだと、ユーナは分かっていたが、それでも、叫ばずにはいられなかった。
こんな事を、平然と受け止めてくれる相手も、ユーナには、コドクしかいなかったのだから。
こんな事を、どうする事もできない大切な友達のカナンに、押し付ける訳にはいかなかったのだから。
ユーナは不安で不安で、たまらないのだ。―――自分の力不足で、また大切な何かを失うのが。
そして、コドクは、ユーナのその思いを平然と受け止め、当たり前のように返してみせた。
「簡単な事だ。ゆっくりでいいから、強くなればいい。
お前は、一人じゃない。カナンがいる。俺もいる。
なら、カナンと一緒に強くなればいい。そして、その手段は、今、お前の目の前にいるだろう?」
おどけたように、自分を手段と言い切るコドクに、ユーナは、そのコドクを見て、なんだか悩んでいる自分が馬鹿らしくなった。
少しは慰めがうまくなったと思ったのに、コドクのその顔は、迷いに迷って、焦ったように、冷や汗を浮かべた必死の形相だったのだ。
カナンは、溜息を吐いた。
「……ばーか。コドクの、ばーか、規格外。ロリコン。」
「いや、何故に最後の方にロリコンが出てきたし。」
「あーあ、自分が馬鹿らしくなってきちゃったじゃない。あなたのせいで。
もういいわ。あなたみたいな、慰めもできないような馬鹿みたいな奴が、強くなれる世の中なんだもの。それに、その規格外な本人が、私達を強くするって言っているんだから、不安に思う事なんて、何もないのよね。」
ちょっとだけ笑みを浮かべながら、コドクに酷い事をずかずかと言うユーナ。
すっかり元通りに戻ったユーナは、コドクの胸に涙を擦り付けてから、その温かい闇から飛び立った。
重いものをコドクに押し付け、軽やかに宙を飛ぶユーナ。そんなユーナは、一直線に、苦笑を浮かべるカナンの肩にとまった。
「私、もうそんな人間なんて、どうでもいいわ。カナンも、そうでしょう?」
「……うん。私も、どうでもいい。」
「そうよね。……だから、コドク。もう、いいわよ、そいつ。そこの年寄りにでもあげちゃいなさいよ。」
そっぽを向きながらそう言うユーナに、コドクは「……そうか。」と頷いた。
コドクとユーナのやりとりを、ずっと見ていたメノゥが、溜息を吐いた。
「あんた、優しいには優しいんだろうけど、随分と偏っているねぇ。その、優しくする人の為に、他の人の命を軽々と奪わないでおくれよ。
教えるだけなら、何も口で言えばいいだけじゃないか。」
メノゥのその言葉に、コドクはちょっと目を開いた。
「おお、そうか。実感させるのが一番だと思っていたけど、そういう手段もあるんだな。なるほどね。」
コドクの、しれっと言ったその言葉に、メノゥは、ハッとすると、眉根を寄せた。
「…そうか、分かったよ。あんた、命を奪う事に関して、なんとも思っちゃいないんだね。罪悪感すら、湧かないみたいだ。
あんたの言葉を聞いていると、食ったり、寝たりする事の同列に、平然と殺す事が入っているような、そんな恐ろしいものを感じるよ。」
「……?何を、当たり前の事を言っているんだ?殺してから食うのは、当然の事だろうに。
……まぁ、いいや。俺もこんな人間いらないし。カナンとユーナがいらないって言っているから、お前に返すね。」
コドクはそう言うと、その女性にかかっていた魔術を解いた。
途端、青い顔で、膝から崩れ落ちるように座り込む女性。
コドクは、そんな女性の様子など、気にもしない様子で、こう言った。
「良かったね。死ななくて。」
どうでもいいとばかりに、抑揚のない声でそう言うコドク。
これほどまでに、まったく心のこもっていない言葉はなかっただろう。コドクにとって、カナンとユーナ以外の命とは、その程度でしかないのだ。
(注)コドクはロリコンではありません。………多分(笑)




