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19 精霊界への道

3話目。

コドク視点スタート。

 俺が精霊界への行き方を知らない理由を言うと、亀さんもそれで納得してくれたみたいだ。

 まあ、正直言うと、精霊界が綺麗であろうが、豊かであろうが、どっちでもいいんだけどね。

 俺を受け入れてくれたこの世界には感謝しているけど、その世界に住む人間の事まで考えるつもりはない。

 むしろ、精霊界から無理矢理精霊を引きずり落として、奴隷扱いしている人間など、いなくなっても誰も損などしまい。


 世界を、地球を壊すのは、いつも人間のエゴだ。人間が持つ自分本位の思いやりの無い欲望は、必ず何かを傷付ける。

 人間全部がそうだとは言わないが、世の中は残酷だ。結局生き残るのは、そういう汚い大人ばかり。

 金で、数で、暴力で。人は、力を持ってして傷付け、何かを捨てる事で、何かを得る。そして、人間の最も悪い所は、自分が生きている影で、いくつもの命が散っている事を、知ろうとしない、もしくは自覚していない事。

 俺ですら、そうだったのだ。前世で生きていた頃は、まったく知らなかった。……いや、知ったように錯覚していたのだ。

 自分の生きている道の、その足元に、いったいいくつの屍が積み重なっているのかを、きちんと知っている人は、どれだけいるだろうか?

 のんびりとした平和の裏に、いくつもの暴力が蠢いている事を、産まれる命がある一方で、死んで消えてしまう命がある事を……どれだけ、感じ取れるだろうか?


 俺は、様々な「悪」を見てきた。それでも、この世界で生まれ変わるまで、そういった本当の「悪」を知らなかったのだ。

 本当の「悪」。それは、無知である事。知らない事、知ろうとしない事だ。

 俺は、あの蠱毒で、それをまざまざと感じる事となった。

 勝負では、誰かが勝てば、誰かが負けるのが当然である。なら、生きる事そのものは、どうだろうか?

 誰かが生きるのなら、その生きる糧となって、死ぬ者が必ずいるのだ。俺は、生きる為に、その命に手を掛ける事で、その本当の意味を知った。

 俺が、殺した命を喰らうと決めているのは、そういう事に繋がっているのだ。


 ……まぁ、偉そうに語ったが、これは俺が感じた私見でしか無いし、結局の所、こういうのは日常の中で平然と行われているものだ。変えようとして、変えられるものでもない。

 そう、俺もまた、同じなのだ。この、「人間がいなくなっても、どうだっていい」という考えですら、人間の持つ闇とそう変わらない。

 同じなのだ。人も、魔物も、精霊も、動物も。そこに、細かい差はあれど、大きな違いなど、ありはしないのだから。




『では、精霊界へと行く方法をお教えいたしましょう。』


 俺は、亀さんのその声で、物思いから覚めた。そうだ、当たり前でありふれた事を考えている場合ではない。


「ああ、その必要はないよ。お前が俺の魔力を使えば、その魔力の動きで俺も分かるから。」

『そうなのですか?』

「そうだね。それができないと、生きる事すらできない所にいたからさ。

 っと、そろそろお前も回復してきたんじゃないか?」


 だいぶ元気になってきた亀さんにそう言うと、亀さんは首を伸ばして自分の体を見渡し、頷いた。


『そうですね。これなら、精霊界へと帰る事ができそうです。

 コドクさん、あなたには、強制契約から解き放ってくれたばかりか、私に魔力を分けてくださり、大変お世話になりました。

 今は何もお返しできませんが、コドクさんが精霊界に来た時は、私が精霊界を案内いたしましょう。』

「いや、言っただろう?俺は俺で知りたい事があったから、もののついででお前を助けたって。」


 別に恩返しなどいらない、という事を亀さんに言うと、亀さんは首を横に振った。


『例え、そうだとしてもですよ。精霊界へと行きたいだけなら、そちらの火の精霊さんに聞けばよかったものを、わざわざ私を助けたのですから。

 ―――では、私はここで失礼します。コドクさん、いずれ精霊界で会いましょう!』


 亀さんはそう言うと、魔力を操って、何かの繋がりに触れた。すると、その繋がりのある一点に魔力を集め、なんと、膨大な魔力で空間に穴を空けた。

 う、うわぁ。結構、力技なんだな、精霊界へと渡る方法って……。

 重要なのは、精霊界への繋がり……つまりは、道か。

 だが、覚えたぞ。これで、俺ならば、何時でも精霊界へと行ける。

 俺だけではない。カナンも、ユーナも一緒に連れていく事が可能だ。

 この世で生きていくのなら、その手段は多いに越した事はない。確かに俺は強い方ではあろうが、きっと上には上がある。何時、俺より強い奴が現れるかなど、俺でも分からないのだから。

 それに、出る杭は打たれるという言葉がある。弱くても食い殺されるが、強くなったら強くなったで、俺以上の強さを持っている奴が、俺を殺しにくる可能性だってあるのだ。

 その時、万が一、二人に何かがあっては遅い。その分、世界を隔てているというのは、逃がすのには都合がいい。時間を稼いでから逃げるだけなら、守るよりも簡単だ。その後、二人と合流すれば問題ない。

 臆病だ、とも取れるが、慢心で失敗するよりは十分ましだ。俺は、この過剰とも言える慎重さで、ここまで生き残ってきたのだから。

人間がいようがいまいが、世界はその内、死ぬのでしょう。人間は、その寿命を縮めているだけ。

死なないものなど、ありはしないのです。

全ての物には、必ず終わりがあるのですから。

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