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アリア

オークのおばちゃん食堂で朝飯を食べる。

弁当を包んでもらい、集落へ。

アルフレッドと練習試合を行い、それが終われば6ゴブとアルフレッドと共にナハトの森で狩り。

街でお金を得、必要な物を買い、ゴブリン達と別れる。

宿を取り、泥のように眠る。


そういう生活が1週間続いた。

あの悪魔さんの姿はあれから見なかった。

ちょっと残念と言えば残念だった。


何度か神殿を訪ね、ガルーダとも話をしたけれど、謎のゴブリン王のスキルについての情報には進展は無かった。


元の世界に戻る情報についても同様だった。

ギルドを中心に調べ、バイト君リザードマンにも協力してもらっていたけれど、馬鹿正直に異世界から来ましたとは言えず、何が調べたい訳?とあきれ顔で言われる事もしばしばだった。


調べ事の進展の無さとは対照的に、6ゴブの成長は目覚ましい。

1週間でそれぞれがファイターからジョブチェンジするまでに至った。

剣ゴブはグラディエイターとウォーリアーへ。

槍ゴブはランサーへ。

ナゴブはシーフへ。

弓ゴブはアーチャーへ。


今では何も言わなくてもナハトの森で戦い、継続して狩りを行えるまでになっていた。


成長したのは6ゴブだけじゃない。

俺も成長していた。

スキルが増えた訳では無い。

戦い方の面で成長したと感じていた。


最初は距離を見て、ただスキルを発動していただけだった。

それは格闘ゲームで、ただ必殺技を距離に応じて出しているだけの初心者プレイに他ならない。

弱攻撃、強攻撃、必殺技を織り交ぜ、時にコンボを狙う。

相手の動きを読み、先んじて動く。

アルフレッドとの練習試合で対人戦を磨き、ナハトの森で対獣戦を磨いた。


たかが1週間。

そう言われてしまえば確かにまだまだ付け焼き刃なのかもしれない。

しかし、続けていく限りそれはまだ途中なのだ。

アルフレッドの歩んできた道を知らずに彼の剣技には及ばないと悩むのはアルフレッドに失礼だろう。

彼にだって途中だった時期はあるはずなのだから。


日々成長して行く6ゴブの姿を見ていると、焦っても仕方が無いと思えた。

彼らは自分達の成長を素直に喜び、前に進んでいる。

もはや蛮族などと評されたゴブリンでは無い。

一方の進展の無さを嘆いて時を過ごすより、自分も自身の成長を素直に喜ばないと。






そういう生活が続いたある日の事。

オークのおばちゃん食堂で弁当を貰い、集落に着くと、ひとりのゴブリンがアルフレッドと話していた。


集落のゴブリンではない。

見た事のない姿からもそれは分かるが、彼女は集落のゴブリン達とは何よりも表情が違う。

そう、女性のゴブリンだ。


集落にも女性のゴブリンはいた。

しかし、集落の彼女らは自分の目にはどう間違っても魅力的とは映らなかった。

集落が活気づいていくに従って、ゴブリン達の表情に生き生きとしたものを感じるようになってきてはいたけれど、正直、集落の女性ゴブリンには今の所、全く萌えない。

おっぱいが丸出しだったとしてもぴくりとも反応しないと断言できる。


今、アルフレッドと話しているゴブリンはとても魅力的に見える。


身長はアルフレッドよりも少し高い。

最初に感じたのはアルフレッドと似ているという事だ。

集落のゴブリンよりも人間のような豊かな表情を浮かべている。


赤いフード付きのマントを羽織り、その間から覗くクセのある金髪は背中まで落ちている。

アルフレッドの銀色の髪と見比べて、初めてゴブリンの髪にも色々な色が有るのだと気が付いた。


アルフレッドや他のゴブリン達よりも鼻と耳は尖っていない。

いや、女性のゴブリンは元々そうだった。

目はつり上がり気味で強い意志を感じさせる。


装備している胸当ては漆を塗ったような黒で、アルフレッドと同じ素材なのは明白だった。

しかし、大きい胸だな。

思わずリリムを連想する。

胸当てで正確には分からないが、もしかするとリリムよりも大きいかもしれない。

リリムよりも背が低い分、余計に強調されて見える。

トランジスタグラマーという奴だろうか。


大胆にもおへそが丸出しになっている。

左手に持っているのは木、銀色の金属、革が組み合わせられた美しいコンポジットボウ(合成弓)だ。


革のパンツの上に履いている腿まで覆う黒いレッグガードは、胸当てと同じ素材だろう。


誰だろう?と思いつつ、足を止めて観察していると、その彼女がこちらに気が付いた。






アルフレッドと話していた時に浮かべていた笑顔は消え、急に彼女の表情が鋭くなる。

アルフレッドと共に俺の前まで来ると、ひざまずいた。


「ノル様、こちらにおりまするのは私と同じく先代の王に仕えておりましたアリアと申す者にございます」


本人は何も言わず、頭を下げた。

そうか。夢物語のように聞いてしまっていたけれど、アルフレッド達の最初の王様には何人もの騎士がいたって言っていたっけ。

彼女もその騎士のひとりなのだろう。


「ああ。ノル・ブリンカです。よろしく」


ここまで彼女の言葉は無い。

寡黙な人なのか。


「先代の王の騎士の中でも彼女は最も優れた弓の使い手でありました。弓以外にも鍛冶を極め、私が知る限り、武器や防具の製造においても一番の技術の持ち主にございます。金属加工だけでなく、革の加工にも精通しており、まさに才媛という言葉がふさわしい」

「その評価は言い過ぎ。そんな大したもんじゃない」


いやいや、謙遜なさるな、とアルフレッドは笑って言う。

うお。

やっとしゃべったかと思えば、なんかギャルっぽい。

アルフレッドの言葉使いが物凄く丁寧なので、驚きは倍増していた。

騎士と言っても、色々いるのか。


いや、驚くならこっちが先だ。

アルフレッドがいつも使っている鎧や剣は彼女が作ったのか!

そっちの方がさらに驚きだ。

アルフレッドの鎧も剣も、ずっとドロップアイテムでは無いだろうとは思っていた。

恐ろしく性能が高く、アルフレッドの腕もあるとは考えられるけれど、彼が何かを斬り損じるという事はこれまで一度も無かった。


謎のゴブリン王国には随分とハイスペックゴブリンが集まっていたんだな。


しかし、いつの間にそんなすごい人を呼んでいたのだろうか。

もしかして俺が知らないだけで、メッセージを送ったりする魔法やスキルがあるのだろうか。


「いつの間にそんなすごい人を呼んだの?」

「ギルドに頼み、手紙が届くように手配しておりました」


手紙。

そう言えばいつだったかアルフレッドがギルドで出していたっけ。

奥さんか?などと余計な事を考えたりもした。

このギャルが奥さんって事は無いだろう。


アリアは自分からは何も語らなかった。

いや、自分もそうと言えばそうだけど。

ちょっと苦手かもしれない。


とにもかくにもアルフレッドが言う所の、この集落の規範作り、それに彼女はこれから協力してくれるとの事だった。


ゲームだった時から、今までアイテム製作とは無縁の冒険者生活だったので、楽しみがちょっと増えたな。

そう思って見た彼女の目はどこか冷たい物が宿っているような気がした。

やっとゴブ子登場。

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