最終部 魔獣葬送の王家
お詫び。
アップ当初、前ページの「マクラメの髪飾り」の本文のままでした。お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんm(_ _)m
ヴァルオ王国。
ここでは、つい最近王位簒奪が起きた。
結果、王位についたのは――最も愚かで、才能もない男だった。
無論、事態収集に焦った面々が、傀儡とするのに丁度良いというだけの理由で選出した王だ。そしてその事情も分からない傀儡王と王太子が政権を握っている。
それ故に、誰も分からなくなったのだろう。
ヴァルオ王室の役割が、魔獣の掃討――葬送であることが。
特殊な王室だ。魔獣葬送の最高責任者である国王の座を争うなど、貧乏くじを狙って血を流すようなものである。
砦の自室に戻り、細工をしていた。
手にあるのは、マクラメのモチーフだ。
昼間、ケイオスが魔獣葬送ではなく【魔獣狩り】をしてしまったために増えまくった書類を片付けた後、土産物が並ぶ区画に向かった。
無論、ルティアナに麻薬だの怨念だのに染まったものを持ち帰るつもりはなかったからだ。最悪、原料を仕入れて自分で作るつもりで見に行った。
そこで出くわしたものが――麻薬出没で聖門の神官たちに調査されている土産街の光景だった。
勝手に人からモチーフを取っていた店は軒並み、とんでもない騒ぎになっていた。リクトロアには平和になりつつあるように見えたが。
リクトロアの感想では、神官がこれだけ多く居たのかという驚きの方が大きかった。
この辺りではマクラメ編みが一番大きな民芸だが、全店舗どこも調査中であり、手に入ったのは小さなパーツのマクラメ編みのモチーフと、色を合わせた薄い生地、糸などだった。
しかし、端切れでも専門の職人が使うような良いものが多く買えた。ボビンレースで織った手織りチュールに至っては、破格だ。
ケイオスのせいで、出発が明日の朝になってしまったので時間を活かして念入りに……と思い、ふと別のものを出す。
「リクトロア様。今から書かれても明日の夜までに届きませんが」
ルイーゼが言うのは、明日の朝早くにリクトロアが出発するので手紙よりも早く帰ってしまうということだ。
「それに前々から申しておりますが、単身騎乗で遠くに行かれるはおやめください。襲われたらどうなさいますか」
「別に。一人なら自由に対処すればいい」
「……ルティアナ様に言いつけます」
ルティアナに説教されても、一緒に居て良いなら褒美なのだ。馬鹿兄には。
【君と僕の、約束だよ】
通常、【彼】【我】そして【契約を示す結び】を以ってこの詠唱になるのだが。
リクトロアにはこれが詠唱として適していた。
特殊なインクを用いた手紙だ。これは契約に名を連ねた人間にしか読めない。姉に習った、最初の魔術だった。
今は妹の安全を確保しつつ意思疎通をする手段として活用している。
手紙を書き終え、秘匿している住所を宛名に書く。また手芸に戻ろうとすれば、
「失礼します……あの、リクトロア。オレは大丈夫ですよね!?」
手にカイアスズリアを塗りたくられたケイオスが、また塗料まみれで現れる。
「渡されたものに迂闊に触れるからだ。自力で毒ぐらい感知しろ」
あの女性は、防毒布の手袋をしていた。自分が麻薬に染まらないように手袋の上のみに麻薬を塗っていたのだ。
「そんなの疑ってたらキリが!! ……って、そうそう。また塗料出てるんすけど!? 今度は黄色と紫!」
「見れば分かる。この砦の建物の中で自動で出る。即席だが罠として良かったな」
「どんな嫌がら……あ……スンマセン……」
リクトロアが増えまくった書類を叩くと、ケイオス項垂れる。
「ところでリクトロア。予定変更で出発が明日になってますけど」
「誰のせいだ?」
「いやほんとスンマセン。……で、祝勝会は出ないんですか?」
「必要ない。皆で楽しめ」
「いや、前みたいに発破だけでも……」
リクトロアは大きく溜息をつき、
「厨房の大量の肉……ほとんどが生焼けで出るそうだ」
「あ……相変わらず生肉嫌いなんすね。レアって言いましょう、生焼けじゃなくて」
「同じだ。俺の前に出すなら、問答無用で漏れなくじっくり加熱するぞ」
「子どもみたいな脅し方……あ、スンマセン……。リクトロアもお年頃なんですから、そんな袋縫うくらいなら髪飾り本当につければいいのに。ルティアナちゃんとお揃いとか」
「髪……ああ、これか」
リクトロアは、肩から垂れた自分の髪を一房掴み、
「姉の遺言で伸ばしているだけだ。切ってしまいたい」
「うわ、重い理由で伸ばしてた……。失礼しました〜」
パタリと扉が静かに締められ――
「……ケイオス……」
握った手に力が入る。外から肉が焼ける臭いが漂ってくる。
《うわ!? 近寄っただけでホントにウェルダンになってる!?》
とりあえず、扉の向こうで肉の皿を抱えているであろう蛍光塗料まみれに【我は魔獣火鼠を狩った男】という字幕と、鼠臭を追加しておいた。
夜はルイーゼに見張られ眠り、朝。昨夜の祝勝会の余韻が残る砦の敷地を厩舎に向かう。と、また部外者のようだ。
「失礼、取材の者です。貴方がリクトロア将軍でしょうか?」
「どちらでどなたに聞かれたのでしょうか? 私の名は名簿にも載っておりません」
さらりと言い、素通りして厩舎の愛馬に流れる動作で乗る。
「あの、魔獣葬送の責任者が貴方とお聞きして……」
「消えた王女とのご関係は!?」
「失礼。どこがとは申せませんが、王室反逆罪で捕らえられるお話もございます」
二人の自称記者にそう返し、ブラセオを奔らせた。
そしてその夜。
リクトロアは王都近郊の、遮蔽結界で隠した屋敷に馬ごと入る。
「よしよし、また建物の中だがゆっくりしてくれ」
ブラセオの鬣を撫で、水と労いの人参を食べさせて上階へ行く。
この屋敷の大部分は、遮蔽結界の増強に使われている。居住区画は狭い。
馬まで建物の中で飼うのは、最初の愛馬まで殺されたからだ。
「もうお風呂に入られましたが」
イレーネが、師のルイーゼそっくりの口調で言ってくる。
どんな状態でもすぐに会う
扉を開け、
「ただいま、ルティナ。お兄ちゃんだよ」
ニコニコと笑顔で、ノコノコ近づく。
「ほら、プレゼント。外で椿が綺麗だったから、六日も寂しい思いをさせたからごめんねの十五本。赤い薔薇一本をくれる彼氏ができたら教えてね。黄色い薔薇十五本か十六本か十七本渡してくる人ができたら話し合おう」
差し出した椿は、二輪が手で握りつぶされた。
「お兄ちゃん……しちめんどくさい!!」
「ルティナ……やっぱり握りたいくらい椿の香り好き!? 良かった、椿のサシェも作って帰ったよ!!」
「あ〜もう、しちめんどくさい!うざい重い!!」
「ルティナ、ルティアナ、ティアナ〜」
「人の名前で変な三段活用作らないで!! ……イレーネ、いつもネタしかないしちめんどくさい兄に付き合わせてごめんね」
「いかがなさいますか?」
「嫌だけど、作り置きの食べさせましょ。どうせすぐに寝落ちするわよ。お兄ちゃん、寝るなら担架の上よ!!」
「は〜い、ルティ!!」
「全く、図体デカいのが寝落ちして運ぶの大変よ。しちめんどくさい……」
いつも通りの夜は深け――
――ある日。
――ル……ティ、ナ……。
声が、出ない。
喉の痛みはもはや全身を浸食している。
――無事、なのか……?
手足も拘束された中、必死に側の懐中時計びに意識を集め――冥石を探る。
ルティアナの冥石は――。




