第三部 マクラメの髪飾り
「気分転換って……どこに遊びに行きます? この時間じゃ夜の店も閉まっていますし」
「厩舎」
朝早い砦は人も少ない。ケイオスに最後まで言わせずにリクトロアはツカツカと歩く。
「まあ、ブラセオは良い馬ですよね。強そうだ」
「馬は繊細だ。変に触ったり騒ぐなら置いていくが」
「あ〜……だったらまずそうです」
ケイオスが指さした先には、女性が二人居た。疑うこともなくリクトロアに向かって来ている。
「失礼。この砦は部外者のお立ち入りは……」
断ろうとするリクトロアの腕を掴むようにして、一人が絡みつく。
瞬間、リクトロアの顔が強張る。
「すみません、その人、顔は良いですが売り切れていますよ。オレは誰でも大歓迎……」
リクトロアに絡むのをやめたのか、もう一人がケイオスの腕を取って身を寄せた。しかし、リクトロアにはその気遣いに感謝する余裕はない。
目の前の女性は、金髪に緑の瞳ではない。それは救いだ。
幼少期からリクトロアを、まさにモノとして見ていたあの目とは……。
必死にリクトロアは、攻撃しないように頭を振る。攻撃すれば即死だ。
いくら待っても目も合わせないリクトロアが不満だったのだろう。女性はもう一人と合流して立ち去った。
「ありがとう、ケイオス。助かった」
「ええとですね……お礼言われることじゃなくて……閣下をピンチに叩き落としました……」
ケイオスが、何か受け取ってしまっていた。
殴って良いだろうか? 治癒術との組み合わせで五体満足で残存すればいいだろうか?
「オレの分もありますが……リクトロア宛がおしゃれですよ。お値段違いますね」
ひとつは、小さなピン。ひとつは――
「これ、リクトロアの肌と髪と目の色見てますね。この短期間でオーダーメイドでしょうか? 怖……」
「それなら値段も知っている」
リクトロアがディース砦に来るようになって、覚えている人間は覚えている。店で女性向けを見ていた時に勧められて断った品である。
こんなことになるなら買って始末しておくべきだったと後悔しても今更だ。
ケイオスの手から化粧箱に入った髪飾りを奪い取り、女性を追いかけ、
「失礼。お嬢様」
目当てが来たと喜ぶ女性の手に、別の化粧箱を握らせる。
「大変良いものをいただきましたので、返礼です。そちらは私の大事な女性に買ったものですが……」
ルティナとリクトロアが呼んでいるルティアナは、確かに大事な女性だ。妹も漏れなく大事な女性でいいだろう。
オレンジの石が据えられた結び模様は、眩い金髪を、目立つのを不安がる兄のために赤く染めてくれていることから選んだものだ。
延々と鬱陶しさ強調の【大事な女性賛美】を垂れ流され、女性は引いた様子で逃げていった。化粧箱を落として。
「……大人気ないですね……」
「誰のせいだ?」
女性が落としていったマクラメの髪飾りを丁寧に拾い、ケイオスから奪った忌まわしい髪飾りをケイオスに返す。
「……これ……怨念籠もっていそうで怖いです」
「誰でも大歓迎だろう?」
「あ〜……ルイーゼにあげます……」
ルイーゼを押し付け先に選んだらしいケイオスがほっと一息付く横で、
「どうしても断れないなら、寄付は聖門にと投げろ」
聖門の建物を手で示しながらリクトロアは教えておく。この先、何を受け取ってしまうか分からない。
「ええ〜……宗教がゴミ箱扱い?」
「ゴミ箱ではなく、有害廃棄物処理場だ」
「言い方ひどいですよ……」
分かっていないケイオスの手元を指差し、
「カイアスズリア」
「へ!?」
「依存性の強い麻薬だ」
「なんで、オレの手を指して……!?」
「箱に付着していた」
たっぷりとケイオスは黙考し
「リクトロア閣下……解毒を……」
「聖門に証拠を取ってもらえ」
「はい……」
ケイオスのとばっちりで、厩舎に行けなくなった。
ますます不機嫌になりつつ、リクトロアは自分の手にある化粧箱に付着した麻薬を浄化した




