↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/19

第十五話 前代未聞再チャレンジ

 大デバネズミは蜂のように女王ただ一体のみが繁殖を行う。巣から一切の移動を行わない女王大デバネズミは、肉体も他の大デバネズミとは類を見ないほどに巨体になる。

 しかし、それでもせいぜいが大型犬程度のはずだ。

 違和感はあった。だが群れに紛れ、ウルカに討伐されたと思っていた。

 別の場所に巣があったのか。危機を察して事前に移動していたのか。だがそれはこの際どうでも良かった。今目の前にその標的がいるのだから。

 シエルは大デバネズミの肉体から発される小さな《《揺らぎ》》を確認する。

 そこから推察するにこの大デバネズミは――


「魔力を帯びています。この大デバネズミは変異個体。モンスターです!」


 これで異常繁殖にも納得がいった。この女王を倒さなければ、市中はいずれ大デバネズミに占拠されてしまうだろう。


「ならアタシが!」

「いえ。ウルカさんは後ろで休んでいてください。無理をさせてしまいましたから」

「で……でも」

「安心してください。スライム討伐で見ましたよね。私、案外動けるんですよ? それに――」


 シエルは一歩前に出る。


「グレートセンチピートを倒したのは私ですよ。あんなおデブちゃん。軽く捻ってあげます」


 余裕と覚悟を感じさせるシエルの低い言葉に、ウルカは肌が粟立(あわだ)った。思わず自身を抱き締める。


「さぁてと。私だけの力がどこまで通用するのか。再確認ですね」


 シエルはストレッチついでに周囲の状況を確認する。

 中央水路の広さはおおよそ四百坪(つぼ)。25メートルプールが4つ程度。女王の巨体を置いたとしても走り回るには十分すぎる広さがある。

 場は良好。そして大デバネズミを追い立てたこともあり体は温まっている。


「準備OK! それじゃあ行きますよ!」


 シエルは全身に魔力を巡らせて地面を蹴った。衝撃で破片が宙を舞う。

 まずは一撃。シエルは女王の左わき腹側に回り込む。

 危機を感じ取ったのか、二足状態になった女王も彼女を目で追い、短い手で叩き潰しに掛かる。

 だが遅い。

 ドスンという思い音と共に、ロッドが女王のわき腹にめり込んだ。

 だが――女王は微動だにすらしなかった。

 迫る女王の張り手をシエルは飛び退って回避する。


「ま、そうですよね」


 着地しながら、シエルは予想通りというように言葉を溢した。

 毛皮という天然の鎧を着ているのだ。魔力で強化していようと、支援専門の僧侶の一撃など通るわけがない。

 加えて相性も悪かった。打撃は毛皮には通りにくい。それだけではない。大デバネズミの反応速度を見るに肉の殆どは脂肪だ。つまりは毛皮で覆われた水袋を殴っているも同然。打撃の衝撃が殺されてしまっている。

 有効打を与えるにはウルカの剣を借りるのが一番。だが、他人の手を借りてまで倒さざるを得ない強敵か?

 答は否。ロッドであろうと水袋は割れる。何より今一度、僧侶としての自身の力量を計るにはもってこいの状況だ。


「さぁ、ギアを上げますよ!」


 無我夢中だった現象を今度はしかと意思を持って再現する。

 シエルはロッドを突き出して叫ぶ。


「速度強化付与(スピードエンチャント)!」


 青い魔法陣が現れ、全身をすり抜けていく。すると途端、体が重く感じた。

 重力が増したような感覚が発生したということは――


「出来た……! 自分への強化付与(エンチャント)!」


 偶然ではなく必然。

 歓喜に胸躍らせながらも、シエルは再び地面を蹴った。

 踏み込んだ箇所が抉れて破片と土埃を巻き上げる。


(速い速い速い! 凄い! 本当に出来てるんだ! 私!)


 グレートセンチピート戦と同じように対象の周囲を旋回する。

 しかし、あの時とは状況は全く異なる。既に女王はシエルの動きについてこれていない。


「攻撃力強化付与(アタックエンチャント)!」


 駆けるシエルを赤い魔法陣がすり抜けた。

 体が膨張するような感覚と共に、底から力が漲ってくる。

 またまた成功。

 未知を踏破したという事実に思いに心弾ませ、女王の正面に戻って来たシエルは急転。ロッドを引き、真正面から女王に突っ込む。


「おらああああああああ!」


 振り上げた一撃が女王の腹に直撃した。

 威力は絶大。女王は悲鳴を上げる間もなく爆散した。

 肉片が降り注ぐ中、シエルはウルカに向いてパアッと明るい笑顔を見せる。


「どうですかウルカさん! 私もやれるでしょう!」


 悪魔としか思えぬ笑顔に、ウルカは顔を引き攣らせて「よかったね」と返すことしか出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。