幕間 かつてのパーティーメンバー②
「はぁ……はぁ……はぁ……」
荒い息を吐きながら肩が揺れる。体中につけられた傷が痛む。
それでも尚、シェルドは顔を上げ、眼前に捉える敵を睨み据えた。
「リーフグリード。ここまでの強さじゃなかったはずだ……」
リーフグリードは球根のような体から伸びる無数の蔓で地面を叩いていた。その様は無邪気な子供にも、相手を煽っているようにも見える。そしてそんな姿に、疲労の影は未だ見えない。
シェルドは唇を噛んだ。
(僕の調子も悪くない。キャラットの強化も万全なはずだ。なのに何故、更に強くなった今、以前よりも苦しめられているんだ……)
何か変化があったとすればそれは……。
脳裏に過ったのとある人物の顔を振り払うようにシェルドは叫んだ。
「キャラット! 回復だ!」
「はい! ではこちらに!」
「何を言っているんだ⁉ そこから回復魔法を掛けてくれ!」
「ここから⁉ 無理ですよ! 離れ過ぎです!」
「何を言って……」
「シェルド――」
ラックルの声がシェルドの耳を劈いた。
その刹那――リーフグリードにある二本の毒触手の内の一本が、隙を晒したシェルドを打った。
「がッ……」
大きく吹き飛び、地面を転がるシェルド。
慌ててレルゥとキャラットが駆け寄る。
「シェルド!」
「シェルドさん!」
意識はあった。だが攻撃を喰らった腹部は魔力強化と防御力強化付与を施して尚、肉が削り取られていた。加えて、抉れた個所は毒に浸食され、紫色に変わっていた。
思わず息を呑む状況に一瞬。ほんの一瞬だがキャラットは固まる。
そこにレルゥの怒号が飛ぶ。
「何ぼさっとしてんのよ! 早く解毒と治癒よ!」
「は……はい!」
「こっちだ、リーフグリード!」
ラックルが石を投擲し、リーフグリードの注意を引いた。そこでラックルは体に違和感を覚える。
(強化付与が切れている?)
リーフグリードの蔓がラックルを襲った。大盾で防ぐも、ラックルは押し負け、大きく後退る。
(どういうことだ、キャラット。どうして強化付与を……)
キャラットが必死にシェルドを治癒する。
その間、ラックルは大盾でリーフグリードの蔓の鞭を防ぎ続けた。
しかし、シェルドが満身創痍であったように、ラックルもまた体力の限界が近かった。
一本の蔓が刺突の如く伸びた。
ラックルは盾を構えるが、大きく弾かれ、蔓は回復中のシェルド達へと向かう。
(しまった……っ!)
蔓を掴んで止めようにも、大きくバランスを崩し過ぎた。それに猛スピードで動く棘だらけの蔓を掴めば、たちまち手は引き裂かれ、千切れてしまうだろう。
二重の不可能。ラックルが無力に苛まれる中、レルゥがシェルドとキャラットの前に立った。
「マジックシールド!」
レルゥの持つ杖が光ると、魔法の壁を展開され、蔓は弾かれた。
「らあああああ!」
好機と見るや、体勢を整えたラックルは剣で蔓を叩き斬る。
「キャラット、まだ終わらないの⁉」
マジックシールドを展開したままレルゥが訊いた。
「解毒は終わりました! 後は回復だけです!」
「うぅ……」
「C級だからパーティーに引き入れたっていうのに……。何で解毒と治癒を一緒に出来ないのよ。これじゃアイツの方が……」
思う浮かんだ人物の影を、レルゥは頭を振って振り払った。
(そんなはずはない。あんな苛つかせるだけの無能が。F級から上がれない低脳が……)
無数ある触手がラックルを襲う中、防ぎきれなかった触手がレルゥのマジックシールドを襲う。
そんな中、レルゥもまた肉体に違和感を抱く。
(ていうかこれ強化付与切れてない⁉)
肉体の違和感だけでなく、普段は不壊のマジックシールドにひびが入ってきていることからも強化付与されていないことは明らかだった。
「ちょっとキャラット! 何で強化付与してないのよ!」
レルゥの指摘に、キャラットはまるで虚を突かれたように目を見開いた。
「……そんな無茶言わないでください! 回復魔法と付与魔法の併用なんて無理ですよ!」
「なん……ですって……」
「そんなことが出来るとしたら、それはS級の冒険者くらいです!」
「は? 何言って……。F級のアイツでも出来て――」
戸惑いからマジックシールドが弱まった。
その隙をリーフグリードは見逃さなかった。ラックルを無視して、数多の蔓がマジックシールドを攻撃――突き破った。
「!」
迫る危機。しかし――次の瞬間、数多の剣閃が舞い、蔓は全て斬り落とされる。
「すまない。迷惑を掛けたな」
「シェルド! 良かった。治ったのね!」
「ああ! ここから挽回だ! キャラット、頼むぞ!」
熱く明るい声に背を押され、キャラットはロッドを構え、叫んだ。
「はい! 攻撃力強化付与《アタックエンチャント》、防御力強化付与、速度強化付与!」
赤緑青の魔法陣がシェルド、ラックル、レルゥをすり抜ける。
「さぁリーフグリード! お前を倒して、僕達は先へ進む!」
剣を構えたシェルドは、標的目掛けて全力で駆け出した。




