第十二話 風呂!風呂!風呂!
ファーランドは水資源が豊富で水道設備が整っている。シャワー設備まであるほどに。
大浴場。そこに備え付けられたシャワー室でシエルはシャワーを浴びていた。
シャンプーで解かれた長髪にお湯を浴びると、スライムとグレートセンチピートの体液が一緒に洗い流されていく。多くの泡が胸の谷間に沿い、鼠径部を通って排水溝へと流れ落ちていく。艶やかな肢体が露わになっていく。
(たった一日。たった一日で多くのことがありました)
シャワーを浴びながら、シエルは思い出と言うには日の浅い記憶を振り返っていた。
パーティー追放。ウルカとの出会い。そして自分自身への強化付与。
これまでのどんな一日よりも濃い一日を過ごした気がした。
同時に多くの喪失感もあった。
もっと早くスライムの異変を結び付けられれば村の皆を救えた。
手から零れ落ちた砂はあまりにも多かった。掬い上げることは出来ない。出来たとしても返ってくるのは物言わぬ骸だけ。
後悔してもしきれない。
シエルはシャワーを浴びながら両手を壁につけ俯いた。
髪を伝い、雨垂れのように湯が流れていく。
もっと。もっと力が必要だ。手ではない。砂を溢さない器が。
その為に究めるべきはグレートセンチピートでの戦闘で掴んだ己への強化付与。
(もう一度。もう一度あの感覚を。そして己のものと出来れば……)
きっと紅玉竜だって倒せる。
その為の前哨戦。宝物殿攻略だ。
(宝物殿で力を磨きます。私はただの僧侶では終わるつもりはありません。前線を張れる僧侶になってみせます)
そして必ずやウルカの空を晴らしてみせると。そう誓い、シャワーの蛇口を止めた。
☆☆☆
シャワー室を出たシエルは、タオルで恥部を隠し、何十人もの人がゆったりと浸かることの出来る浴槽に足の親指から入水する。
シエルはあまり大浴場が好きではなかった。風呂が嫌いなわけではない。どちらかと言えば綺麗好きだ。しかし、浴場の性質上、嫌でも多くの人と裸体で接し合うことになる。
そう。つまりは恥ずかしがり屋なのだ。
幸いというべきか、今の浴場にはシエルを除いてもう一人しかいない。
体温よりやや高めの湯の中を進み、シエルはそのもう一人――ウルカの隣に腰を下ろした。
「お風呂はやっぱり気持ちいいですね」
畳んだタオルを頭に置きながら訊いてみると、返事はないが同意見なのだろう。とろけるような表情で顔を残して沈んでいる。
いや、この説明では語弊があった。正確には顔とあと一つ。否、二つ。浮かび上がっていた。
「ウルカさんはその……大きいんですね」
「ンあ? 大き?」
己のそれと見比べて、シエルは思わず生唾を呑み込んだ。
ウルカがスイカならば、シエルはミカン。
羨んでいるわけではない。断じて羨んでいるわけではないが、比較せずにはいられなかった。
「私だってまだまだ成長期――ブクブクブクブク」
対抗心を感じさせる目元を残して沈んでいくシエルに、隣で湯を満喫するウルカは我関せずといった様子で引き続きとろけていた。
☆☆☆
服を着替え、浴場へと連なる廊下を歩くウルカは明朗快活に声を上げる。
「いやーいい湯だった! スッキリ!」
その声は空元気ではない。本音だと、隣を歩くシエルは感じ取る。
「スッキリしたのはいいですが、遊んでいる暇はありませんよ。ダンジョンへの挑戦は三日後。それまでにやることは山積みです」
「というと?」
「まずは何より、ダンジョンについての勉強です。備えあれば憂いなし。人事を尽くして天命を待つ。石橋を叩いて渡る。です」
「え~」
あからさまに怪訝な表情をするウルカ。同じ冒険の準備でも剣を購入するとなった昨日とは大違いだ。
そんな態度にシエルはウルカの前に回り込み、人差し指をウルカの前に立てる。そして少し語気を強めて指摘する。
「いいですか? 光のダンジョンは巨万の富と力を得ることが出来る魅力的な場所です。ですが危険がないわけではありません。当たり前ですよね。キラキラと輝く財宝という名の光によって来る蛾を鬱陶しいと思わないわけがないのですから」
「蛾て」
シエルはくるりと踵を返し、後ろ手を組んで続ける。
「だから勉強&トレーニングです」
「勉強&トレーニングぅ~?」
訝しむウルカに、シエルは歩みを止める。
「そ。勉強&トレーニングです」
振りかえる少女の顔にはにししと意地悪気な笑みが浮かんでいた。




