13話 真夜中の会議
「問題はパペットマスターが行う暗殺の手段と決行の時刻だ」
赤道斎は広間の奥の方に鎮座する巨大なオブジェのような機械へと歩いていく。
「この二つさえ特定出来れば大統領の暗殺をとりあえずは喰い止めることが出来る」
啓太たちは自然と彼の後を追いかける。
「今のところ2016×4056通りの暗殺手段と時刻が解析結果として存在している。それらはたとえば本日、11時14分16秒に空港スタッフを装ったパペットマスターの傀儡からナイフで刺殺されるというモノから、23時31分45秒、寝ているホワイト大統領のベッドに忍び込んできたネグリジェ姿の馬淵首相がホワイト大統領の喉にヤモリを詰め込んだ上でダチョウの羽でくすぐり殺すというやや確度の低いケースも並列して存在している」
「いや、最後のは絶対ないだろ」
啓太はツッコむが赤道斎は聞いていない。
「現在、その全ての可能性の絞り込みを行っているのがこの大殺界リブートだ」
彼は機械の前まで来ると啓太たちを振り返る。巨大な機械の上部に設置された木造式のパネルがパタパタと回転していき、
『おや、あんさんがた、久しぶりでんなあ』
そんな文字を形づくって挨拶してきた。
「覚えているだろう? 我が魔導の一大傑作、大殺界のことを。おまえたちとは少なからぬ因縁があったからな」
赤道斎が紹介する。すると、
『大傑作って……そんな、照れるで、ますた~。褒めすぎや』
巨大な機械は筐体の各所に埋め込まれた大小のライトを次々と赤く点灯させ、上部のパイプから白い蒸気をぽ~と噴き出した。
啓太と仮名史郎は複雑かつ微妙な顔をしている。両者とも赤道斎関連の発明品に良い思い出を全く持っていない。全てふざけたコンセプトで作られているが色々な意味で人の人生を終わらせる力を有しているのだ。
たとえばこの大殺界はかつてどんな願いでも叶える絶対願望充足の能力で危うく啓太が住む吉日市を滅ぼしかけた。
その二人の不安げな様子を見て取ったのか、
「安心しろ。大殺界リブートに以前のような極端な性能はもはや実装されてはいない。いや、正確にはかつての再現は望めない、と言っていいだろう」
「なんで?」
啓太が問うと、
「大殺界で世界を改変させると高確率で宇宙がついでに消滅してしまうことがある、と判明してな」
極めて物騒なことをさらりと赤道斎は言ってのけた。続けて、
「その代わり大殺界リブートは超高度な未来予測が出来るようになった。因果を辿り、算出し、起こりうるべき出来事に対して決定的な記述を行う」
目の前のパネルが回転し、赤道斎の説明を補足した。
『わい、ますたーに言われてアメリカ大統領はんの運命を予測している最中や』
「あ」
突然、仮名史郎がなにかを思いついたように声を上げた。
「それならいっそパペットマスターの所在地を直接、予測した方が良くはないか? 実行犯を捕まえればそれで事件が全て解決する気もするが」
赤道斎となぜか啓太まで似たような視線で仮名史郎をじっと見つめた。その間、ようこは話に退屈したのか、両手を広げ、ふらふらと辺りを見て回っている。
「ダメだよ、仮名さん」
啓太が首を横に振った。
「パペットマスターの特徴は暗殺に傀儡を使うことだろう? なら仮に本人を捕まえても、操られた手駒が残っている限り大統領の命を守ることが出来ない。少なくともその危険性を排除することが難しいんだ」
「む。なるほど……」
仮名史郎は呻いた。
そしてそれでもまだ諦めきれないように、
「なら、その二つを同時に解析することは出来ないのか? つまり『大統領』と『パペットマスター』に関する両方の未来を」
赤道斎に問いかけた。
赤道斎は淡々とその可能性を否定した。
「大殺界リブートは超高確度で未来を予測する分、演算に負荷が多大にかかる。その二つを追加で行うと推定で三十時間以上、時間がかかってしまう」
「ぐ」
仮名史郎は歯がみをする。啓太も質問を重ねた。
「ちなみに大統領の暗殺に関わることだけだとどれくらい時間がかかるんだ?」
「正確には分からないが」
赤道斎は告げる。
「あと十時間くらいだと心得ておけ」
啓太も仮名史郎も渋い顔つきになった。もうじき夜も明け、エアーフォースワンが空港に到着する。大統領が日本の地を踏み、幾つかの行事は計画通り遂行されてしまう。全ての解析が終わる前に大統領が襲われる可能性も充分にあるということだ。重苦しい空気が場を支配する。
啓太はその停滞した雰囲気をかき消すようにぱんと手を打ち鳴らし、
「ま、とにかく今考えていてもしかたねえな。俺たちにはこれしか手がないんだから腹くくっちまおうぜ?」
にっと笑って仮名史郎を振り返る。
「とりあえず、なんか喰って腹ごしらえでもしたいな。仮名さん、ここ鎮霊局持ちだろう? 高そうなルームサービス頼んでもいいか?」
仮名史郎はふっと笑った。
「ああ。必ず経費で落とす。好きなだけ食べてくれ」




